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3巻

3-2

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「はぁ~、久し振りに外に出たから疲れたわ~」
「私もこんなに森の中を歩いたのは久し振りです」

 レティシアさんとリンがそう言ったとき、二人のお腹から「きゅ~」とかわいらしい音がした。二人はバッとお腹を隠し、同時に俺の方を見て「聞こえた?」と言いたげに見つめてくる。

「あはは……そろそろお昼だし、森から出て草原で弁当を食べようか」

 苦笑いしつつそう言うと、二人ともパッと明るい表情になった。
 森を出て、草原に移動する。それから周囲の安全を確認して『便利ボックス』に入れていた昼食用の弁当を取り出した。弁当の中身は、パンに肉と野菜をはさんだミートサンドだ。

「「美味しい~」」
「お代わりもあるからどんどん食べてね」

 俺は二人の喜んだ顔を見ながらミートサンドを食べ進め、最後の一切れを口に放り込んで飲み物で流し込む。「ふ~」と一息ついていたら、リンが話しかけてきた。

「ねえ、ラルク君って、どうやってそんなに料理がうまくなったの?」
「あっ、それ私も知りたい!」

 レティシアさんも身を乗り出してくる。

「どうやって、といってもなぁ……普通に料理をしながら、時々自分で思いついた料理を試してたら、かな?」
「えー、そんなの普通思いつかないよ。ラルク君の頭ってどうなってるんだろ」

 リンはめてるのかどうか分かりにくいことを言った。


 昼食後、元気を取り戻した俺達は、近場にいたゴブリンを相手に連携の訓練をしてみる。
 役割はそれぞれ、俺が後衛から魔法でサポート、レティシアさんが近接戦闘、リンが相手の撹乱かくらんとレティシアさんの支援。リンは持ち前の身軽さと相手の気配を察知する能力をうまく使って、駆け出しの冒険者とは思えないほどの動きを見せた。
 戦闘開始から五分もしないうちに、俺達は四匹のゴブリンをあっさり倒すことができた。
 レティシアさんが満足げに口を開く。

「うん、いい感じだね。リンちゃんが相手の動きをかきみだしてくれたことで、格段に戦いやすくなったよ」

 続いて、リンが言う。

「私もラルク君のサポートのおかげで、いつもより動けて楽しかったな」
「俺も後方から戦いをじっくり見ることができたから、勉強になったよ」

 全員が手応てごたえを感じている。俺達、かなり相性がいいかも。
 手早くゴブリンの素材を回収し、ギルドに戻る。薬草の採取報告とゴブリンの討伐報告を義父さんの受付で済ませ、レティシアさんと別れて俺とリンは帰宅した。
 さて、夕飯まで何をしてようかな……と思っていたら、リンがノートとペンを持ってきた。

「私、算術が苦手なの。ラルク君、良かったら教えてくれない?」
「もちろん、俺で良ければ」

 ということでリンに算術の基礎を教える。なんだか家庭教師のときを思い出すな。
 リンは授業中、驚いたように尋ねてくる。

「とっても分かりやすい! ラルク君、もしかして勉強も得意なの?」
「まあ、苦手ではないかな。俺の場合、暗記科目が得意なだけなんだ。算術も基本的な部分ならなんとか」
「暗記科目だけって……それもできない私からしてみたら、羨ましいよ」
「そうかなー」

 その後も俺は、算術の授業を続けていったのだった。



 2 召喚獣しょうかんじゅう


 リンとレティシアさんと冒険に出かけた二日後、俺は学園に登校していた。
 ちなみに、リンはあれから一人でこなせる依頼を積極的に受けている。早く一人前になりたいそうだ。今朝もリンに予定を聞いてみたら、ギルドに行って薬草採取の依頼を受けると言ってたんだよな。
 なお、シャファルは相変わらず目を覚まさない。冬眠でもしてるのか……? 今は冬じゃなくて秋だけど。

「ねぇ、ラルク君。この間の休みの日、女の子二人と王都の外に出かけてた?」

 教室に入り席に着くと、クラスメートのセーラが近付いてきてそう尋ねてきた。

「なんだ、近くにいたら声をかけてくれても良かったのに。そう、薬草採取の常設依頼を受けてたんだ。あの二人は俺のパーティメンバーだよ」
「そうだったんだ。それにしても、女の子の数が多いパーティなんて珍しいね」

 え、そうなのか?
 俺の疑問を読み取ったのか、セーラがさらに言葉を続ける。

「普通、冒険者の人達ってパーティを組んでも男の人のほうが多いよ。だけど、ラルク君のパーティには他に男の子はいないんでしょ?」

 いや、まあそうなんだけど。あくまで偶然であるということは分かってもらいたい。

「本当にたまたまだよ。別に女の子だけを選んでるってわけではないからね」

 一応釈明したら、セーラは「んー?」とこちらを見つめたあと、納得したように頷いた。

「そうなんだ。てっきり、男の子を入れたくないんだと思っちゃってた。ごめんね」

 ははは……次は男の人をパーティに誘おう。
 気を取り直して、しばらくセーラとパーティに必要な人材について議論する。

「俺達のパーティに足りてないのは、敵の攻撃を受け止める盾役たてやくとか、装備の手入れをしてくれる鍛冶師かじしみたいな人だと思うんだよね。まあ、どっちもなかなかいい人には出会えないんだけどさ……それと、後衛がもう一人欲しい気もする」
「そういう人達はどこのパーティからも引っ張りだこだからねぇ……あれ、そういえばラルク君のパーティには回復役の人っているの?」
「そこは大丈夫、俺が回復魔法を使えるから」
「あっそうか。ラルク君、聖属性魔法も使えたよね。すごいな~、いくつも属性魔法があるって便利だよね。私も聖属性の適性が欲しかったな~」

 取り留めのない話をしているうちに他のクラスメートも登校してきて、全員が揃ってからしばらくしてカール先生が教室に入ってきた。

「皆さん、おはようございます。本日は一限目から外で魔法の授業になりますので、移動しておいてくださいね。先生は教材を準備するので今から出ますが、皆さんはチャイムが鳴ってから来てください」

 カール先生はそう言い、早歩きで教室を出ていく。ずいぶん急いでたけど、いったいなんの授業なんだろう?
 チャイムが鳴ったあと、クラスの全員でカール先生の待つ訓練所に向かう。
 第一訓練所に着くと、地面に大きな円が描いてあるのが目に入った。円の周りを沿うように、難しい文字がぐるりと書かれている。あれは確か……魔術言語と呼ばれる、この世界で最も難しいとされる言葉だ。なるほど、これは魔法陣か。
 カール先生は俺達が全員集まったことを確認して、口を開く。

「皆さん、揃ったみたいですね。それでは、本日の授業内容を説明します。今から皆さんには、〝召喚獣〟を呼び出して契約してもらいます」
「えっ?」
「「ッ!」」

 聞き覚えのない単語に俺は首をかしげたが、他のクラスメート達は何やら嬉しそうな顔でソワソワし始めた。
 不思議に思い、リアに聞いてみる。

「リア、みんなはなんであんなにワクワクしてるの?」
「えっ、もちろん待ちに待った召喚獣の授業が始まるからだよ。あれ……ラルク君、もしかして知らなかった?」

 リアは意外そうな顔をしたあと、詳しく説明してくれた。
 なんでも、この学園は高等部一年の時期になると、優秀なクラスから順に〝召喚獣〟と契約する授業が行われるらしい。

「ふーん……召喚獣って何?」
「簡単に言うと、私達と契約して力を貸してくれる生き物のことだよ」
「……なるほど。従魔じゅうまみたいな感じ?」
「う~ん、まあそうだね。でも魔法で従える従魔と違って、召喚獣は普段、精霊界というところにいるんだ。契約者とはたましいつながっていて、契約者の成長によって召喚獣も強くなるんだよ」
「へぇ……一心同体って感じなのか」
「ラルク君が召喚獣について知らなかったとは意外だね」

 俺とリアの会話を聞いていたカール先生がそう言い、全員に向けて授業用の丁寧な口調で説明を始めた。

「私はすでに召喚獣と契約していますので、お手本として呼び出してみましょう……『魂で繋がりしけものよ。我の呼び声にこたえ、召喚に応じよ』!」

 カール先生が呪文じゅもんらしき言葉を詠唱えいしょうすると、魔法陣が光り輝きだす。
 光が収まると、魔法陣の上に、柴犬しばいぬみたいなかわいらしい犬が現れていた。

「この子の名前はポチ。見ての通り犬の精霊です。でも、普通の犬とは違ってこの子は土属性魔法と風属性魔法が使えます。ポチ、クリエイトゴーレムを発動してください」
「わぅ!」

 カール先生が犬の召喚獣、ポチに命令すると、ポチは元気にえて俺達の目の前に二メートルのゴーレムを一瞬で作り出した。

「ポチ、そのゴーレムにウィンドカッターをはなってください」
「わぅ!」

 ポチは風属性魔法を放ち、たちまちにゴーレムを粉々にする。

「「おぉ~!」」

 俺達がパチパチと拍手すると、ポチは嬉しそうに「わぅ~」と鳴いた。

「ポチ、ありがとう。また、呼ぶときはよろしくお願いします」

 カール先生がポチの頭をでると、ポチは満足げにのどを鳴らしたあと姿を消した。

「このように、召喚獣は召喚者の呼び声に応え、お願いを聞いてくれる優しい生き物です。くれぐれも自分が上の立場だと誤解しないでください。召喚者と召喚獣は対等な関係であると認識することが大事ですからね」

 カール先生がそう言うと、クラスメート達は「はい!」と答えた。

「ここまでで、何か質問はありますか?」

 そう呼びかけられたので、俺は手を挙げて発言する。

「あの……召喚獣を呼び出すためには、何か特別なスキルが必要なんですか?」
「いえ、召喚に必要なスキルはありません。ただ、召喚獣と初めて契約する場合、このように魔術言語が書かれた魔法陣と、膨大ぼうだいな魔力が必要です。ただし、魔力に関しては学園にある魔石ませきで代用してますのでこの場では心配ありません」

 ふむふむ、つまり環境は整えられているから誰でも召喚が可能ということか。
 カール先生はさらに説明を続けていく。

「そして、召喚に成功した人には『召喚』の特殊能力が付与されます。神様から授かるわけですね。『召喚』が付与されたら、次から召喚するときは魔術言語も膨大な魔力も必要なくなりますよ」
「ありがとうございます。あと、召喚獣を呼び出すときに何か唱えてましたよね? あれはいったい……」
「平たく言えば、呪文の詠唱と同じようなものです。ちなみに、詠唱の言葉はなんでもいいですよ。ただし、最初に唱えた言葉は今後もずっと使うことになるので、よく考えてから詠唱するように……では、詠唱の言葉を決めた人は、私に言ってください」

 すると、隣にいたレックが真っ先に手を挙げた。すでに詠唱の言葉を決めていたらしい。

「それではレック君、魔法陣の中に入ってください」
「分かりました」

 レックは緊張した面持おももちで先生の指示に従い、魔法陣の中に入る。

「それでは、詠唱をどうぞ」
「はい……『我の呼び声に共鳴する者よ。我に姿を見せよ』!」

 レックが詠唱すると、魔法陣が光り輝いてレックの身を包んだ。
 光が徐々に収まると――レックの頭上に、白い鳥が乗っていた。

「成功のようですね。それではレック君、召喚獣に名を与えてください」

 カール先生の言葉に頷き、レックは頭に乗っていた白い鳥を手に乗せて顔の前に持っていく。

「……ハク。君の名前は、ハクだよ」
「ピュ~!」

 レックが名前を呟くと、ハクという名前を与えられた鳥は嬉しそうに鳴き、空を飛んだ。

「良かった、ちゃんと召喚できて」

 俺の隣に戻ってきたレックが安心したように呟いた。
 その後、他のクラスメートも次々と召喚を成功させていく。召喚獣の姿は様々で、たとえばカグラは赤いくまを召喚した。カグラはその熊に、ロタと嬉しそうに名付けていた。

「次は、どなたがやりますか?」
「あっ、ぼ……僕、やってもいいですか?」

 カール先生の呼びかけに、獣人じゅうじんのレオンが少しオドオドしながら挙手した。
 他に手を挙げる人がいなかったので、レオンは魔法陣の中に入る。

「『僕と魂で繋がってる獣よ。僕の召喚に応じよ』!」

 そして、普段の声音よりやや力強い声で詠唱した。
 他の生徒達と同じく詠唱に反応して魔法陣が光ったが――光が収まると、そこにはレオンだけしかいなかった。

「……」

 気まずい沈黙がその場に流れる。

「……レオン君、最初は失敗することもあります。あきらめずにもう一度――」

 カール先生がそう言いかけたときである。
 突然、地面から変な音が聞こえ、「ボォンッ!」という音とともにレオンの足元にモグラが現れた。

「えっ!? も、もしかして僕の召喚獣!?」
「ッ!」

 レオンが泣きそうな顔でモグラに話しかけると、モグラはグッと親指を立てて反応した。

「もう! 心配したんだから! 君の名前は、ガルリだ。よろしくね!」

 レオンは涙目でモグラを抱きかかえる。

「レオン君、良かったですね」
「はい! でも、ビックリしました」
「そうですね。どんな召喚獣が出てくるのかは分からないので、今のように土の中にいたりするかもしれません。些細ささいな変化を見逃さないように注意しましょう」

 カール先生の言葉に、全員がしっかり返事した。
 レオンの次に召喚することになったのは、セーラだった。
 セーラは魔法陣の中に入ると、目を閉じて呼吸を落ち着ける。数秒の沈黙のあと、目を開き詠唱を始めた。

「『私の声が聞こえたならば、声の届くもとへ現れよ』!」

 その声に呼応するように、また光が発せられる。
 数秒後、光が収まると、空中に水の玉が浮かんでいた。何事かと思ったら、玉の中にイルカが入っているのが見える。
 イルカは水の玉から顔を出して「きゅ~」と鳴いた。

「かわいい~、あなたの名前はスイよ!」
「きゅ~」

 セーラは優しくイルカを撫でて魔法陣から出た。
 セーラの次は、ドランの番だ。ドランが詠唱すると、大きな象が現れた。

「おぉ、なんとも強そうな獣だ。よし、決めた。お前の名は、ボラッゾだ。よろしくな」
「ぱぉ~ん」

 ボラッゾと名付けられた象は、ドランが差し出した手に握手するように長い鼻を絡めた。
 ドランが象の背中に乗って魔法陣から出ると、今度はメルリアが入れ替わりで入る。
 メルリアが召喚を行うと、白馬が召喚された。

「かわいいわね……あなたの名前は、プラノよ。よろしくね」

 白馬はメルリアに近付き、頭を低く下げる。

「頭を撫でてほしいのかしら?」

 そう言ってメルリアが頭を撫でると、尻尾しっぽをブンブン振って嬉しそうにしていた。
 さて、これでほとんどのクラスメートが召喚を終えた。あとは……

「……最後まで残ったのは、俺とリアか」
「そうだね~。ラルク君はもう詠唱の言葉を考えた?」
「一応ね。リアはどう?」

 俺が尋ねたら、リアは不安そうな表情になる。

「実は、最初から決まってたんだ。でも、本当に召喚できるのか心配で、行く勇気が出なかったの……でも、ラルク君のあとだと余計にやりづらいから行ってくるね!」

 リアは決心したように魔法陣の中に入った。そして静かに息を整え、詠唱を始める。

「『私と繋がる獣よ。その姿を現しなさい』」

 本日何度目かの光が出て、すぐに収まる。見れば、リアの足元には小さなリスが木の実を持ってちょこんと座っていた。そのリスはリアを見ると木の実を頬張ほおばり、タッタッタッとリアの体を登っていく。そのまま頭に到達すると、ふにゃっとした感じで頭の上に寝ころんだ。

「召喚されてすぐに寝るなんて、マイペースな子……君の名前は、ディノよ。よろしくね」

 リアは、寝ているリスを両手の上に移してそう言った。
 リアが戻ってきたのを見て、俺はいよいよ決意を固める。

「さてと、俺も行こうかな」
「ラルク君ならきっと、強そうな召喚獣を呼び出せるよ~」
「うん、期待して待ってて」

 はげましてくれたリアにそう言って、俺は魔法陣の中に入った。
 正直に言うと強そうな召喚獣よりも、かわいい動物のほうがいいんだけどな……犬とか猫とか。まあ、こればかりは運だよね。
 そんなことを考えながら、詠唱の言葉を発する。

「『我の声に反応する獣よ。我の前に姿を現せ』!」

 すると、魔法陣が光り輝き、目を開けていられなくなる。
 目を閉じて光が収まるのを待っていると、頭の中に異様な光景が広がった。
 熊、サイ、おおかみ……たくさんの強そうな獣達が、ものすごく争っている。
 意味が分からず呆然ぼうぜんとしていたら、一匹のチーターが戦いから抜け出してこちらに近付こうとした。しかし、そのチーターは他の動物によってすぐさま引き戻されてしまう。
 と思ったら、今度は大鷲おおわしがこちらに全速力で飛んできた。だが、近くにいたキリンが長い首を振り回して大鷲を撃墜げきついする。
 どの動物もこちらに近付こうとして、そのたびに他の動物に妨害ぼうがいされているみたいだ。
 なんだこれ……もしかして全員精霊なのか?
 そんな中、一匹の黒猫がそろりそろりとこちらに向かって歩いてきているのに気付いた。周りの動物は誰もその猫に気付いていない。
 黒猫が俺の足元にやってきた瞬間、また強い光が頭の中に広がる。
 光と一緒に脳内のイメージが消えたので目を開けると、魔法陣の光も消失していた。見れば、魔法陣の中央にちょこんとお座りの姿勢を取ったさっきの黒猫がいる。

「にゃ~」
「……変な光景を見た気がするけど、気のせいだろう。君の名前は、ノワールだ。よろしくね」

 俺が名付けた黒猫の召喚獣――ノワールは「にゃ~」と返事をするように鳴き、俺の体へ頭をスリスリしてきた。




 全員が召喚獣を呼び出したあと、カール先生が召喚獣と触れ合う時間を設けてくれた。なんでも、お互いのきずなを深めることで、連携を強化する目的があるらしい。
 今、ノワールは俺のひざの上に乗っている。か、かわいいな~……!
 しばらく眺めていたら、ノワールは顔をこちらに向け「にゃ~」と鳴いた。その愛らしい姿にもだえ死にしそうになったが、近くにはリア達がいるので我慢だ!
 必死にポーカーフェイスをよそおっていると、寝ているディノを頭の上に乗っけたリアが話しかけてきた。

「ラルク君が召喚した猫ちゃん、毛色が真っ黒でかわいいね~」
「うん、俺もそう思う。リアの召喚したディノもかわいいよね。ずっと寝てるけど」
「その寝顔もかわいいんだけどね」

 ふふっと笑うリア。
 ……あ、そうだ。リアにさっき見た光景について聞いてみるか。

「ねえ、リア。ディノを召喚したとき、頭の中で変な光景が見えなかった?」
「うん、ディノがこっちに走ってくる姿が見えたよ。ラルク君も猫ちゃんが近付いてくるのを見たでしょ?」
「あー……うん、一応」
「召喚獣との契約ってね、召喚者の魔力に反応した精霊が『この人となら契約を結んでもいいな』って思って近寄ってきたら成立するんだ。だから、場合によっては複数の精霊が寄ってくることもあるんだよ。まあ、そんなの、滅多にないけどね」
「へ、へー……」

 つまり、あのときは俺の魔力に反応してたくさんの精霊が集まってきたってことか?
 ちょっとインパクトのある体験だったな、と思っていたらレックが近付いてきた。

「ラルク君の召喚した猫、ちょっと触ってもいいかな?」
「え? うん、ノワールが許可してくれるならいいけど……ノワール、レックがこう言ってるけど、大丈夫?」
「にゃ」

 ノワールは短く鳴き、レックのそばに寄って腰を下ろした。
 レックが嬉しそうに撫でていると、横で見ていたリアは自分も撫でたそうにウズウズしだす。
 リアの様子に気付いたのか、ノワールはリアを見て「にゃ~」と鳴いた。
 嬉しそうにノワールを撫でだしたリアが、感心した様子で口を開く。

「召喚獣は頭が良い子が多いって聞いてたけど、この子は特に賢いね」

 言われてみれば、確かにノワールは人の気持ちを敏感びんかんに感じ取っている気がする。
 一時間ほど触れ合ったあと、カール先生の号令で教室に帰ることに。教室に収まらない大きさの召喚獣は送還したが、小さいサイズの召喚獣は送還せずに一緒に授業を受けてもいいことになった。
 この日は気難しいことで有名な先生の授業もあったのだが、かわいい召喚獣を見ていやされたのか、その授業は終始穏やかな雰囲気で行われたのだった。動物の力ってすごい。
 そして放課後。早足で帰宅して、先に帰っていた義父さんとリンにノワールを見せる。二人とも触りたそうにしているのを察知して、ノワールは自分から二人の前に進み出た。

「ねね、この子ってどこで見つけてきたの?」

 ノワールを撫でながら、リンが聞いてきた。

「見つけてきたんじゃなくて、召喚したんだよ。ノワールは召喚獣って言って、普通の猫とは違うんだ」

 俺が答えると、今度は義父さんが尋ねてくる。

「ほう、召喚獣ということは魔法が使えるはずだが、この子は何が使えるんだ?」

 その言葉の意味が分かったのか、ノワールはするりと二人の手から抜け出し、「にゃ~」と鳴いた。
 次の瞬間、ノワールの目の前に、黒い魔力の塊みたいなものが出現する。
 これは……闇属性魔法か? ある意味、黒猫という見た目通りの魔法だ。
「お~」と俺達が拍手すると、ノワールはぴょんっと跳んでリンの影に着地する。
 すると、ノワールが影の中に入り込んで消えた。
 どこ行ったんだ!? と辺りを探すと、今度は義父さんの影から姿を現す。


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