初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花

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3巻

3-1

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 ごく普通の高校生だった俺、四宮楽しのみやらくは、ある日突然トラックにねられて命を落とし、銀髪の少年ラルクとして異世界に転生した。
 神界しんかいおさであるサマディエラさんによると、俺が死んだのは神々の一柱による悪戯いたずらが原因だったらしい。で、そのおびとして三つの便利な初期スキルをさずかり、夢にまで見た転生を果たしたというわけだ。
 転生してからは義父とうさんことグルドさんと一緒に冒険者としての腕をみがいたり、学園に通って友達と一緒に勉強したりしている。最近では俺の意外な出自を知ったし、地球での知識を活かして焼きおにぎりのお店を開いてもいて……とにかく、色々楽しんでる。
 それと、ひょんなことからシャファルという伝説の銀竜と契約したんだよね。シャファルが大人になるまで俺の魔力を与え続けるという条件だったんだけど……つい先日、ニホリという里で起きたオーガの襲撃事件がきっかけとなって、一気に成長してしまった。まあ、そのおかげでオーガを倒すことができたから、シャファルには感謝している。
 そうそう、ニホリでは新しい友達と出会うこともできた。名前はリン。俺より一つ年上の女の子だ。
 リンは数年前に両親を亡くし、オーガに襲撃された際に家までも失ってしまった。元々里にいづらい事情もあったため、里長さとおさの勧めで俺と一緒に王都レコンメティスへ来ることになったのである。俺はしばらく、王都の先輩としてリンの面倒を見るつもりだ。
 リンとまた一緒に過ごせるのは嬉しいんだけど、困ってるのは義父さんにどう説明しようかということ。
 なんせ、息子が旅先から女を連れて帰ってくるわけだもんなぁ……



 1 新しい仲間


 リンと一緒に馬車でニホリの里を出発してから三日が経った。もうすぐ王都に到着する。
 帰り道も行きと同様、馬に身体強化魔法をかけながら帰っていたのだが、そこで俺は自分の魔力が高くなっているように感じた。
 ということで、『鑑定眼かんていがん』で自分自身のステータスを確認してみる。


【 名 前 】ラルク・ヴォルトリス
【 年 齢 】12
【 種 族 】ヒューマン
【 性 別 】男
【 状 態 】健康

【 レベル 】56(+15)
【 S P 】550 (+150)
【  力  】5507(+1200)
【 魔 力 】6345(+1440)
【 びん しょう 】5901(+1320)
【 器 用 】4188(+1080)

【  運  】51

【 スキル 】『調理:4』『便利ボックス:3』『生活魔法:1』『鑑定眼:3』『裁縫さいほう:2』
      『集中:5』『信仰心:5』『魔力制御:3』『無詠唱:4』『合成魔法:4』
      『気配察知:3』『身体能力強化:3』『体術:3』『剣術:3』『短剣術:3』
      『毒耐性:1』『精神耐性:3』『飢餓耐性:1』『火属性魔法:4』
      『風属性魔法:4』『水属性魔法:3』『土属性魔法:2』『光属性魔法:1』
      『闇属性魔法:1』『雷属性魔法:3』『氷属性魔法:2』『聖属性魔法:3』
      『無属性魔法:2』
【特殊 能力】『記憶能力向上』『世界言語』『経験値補正:10倍』『神のベール』
      『神技しんぎ:神秘の聖光せいこう』『神従魔魔法しんじゅうままほう
【 加 護 】『サマディエラの加護』『マジルトの加護』『ゴルドラの加護』
【 称 号 】『転生者』『神を宿し者』『加護を受けし者』『信仰者』『限界値に到達した者』
      『神者』

 オーガとの戦闘のおかげで、レベルが15も上がっている。それにともなって、能力値もそれなりに上昇していた。
 また、『集中』のスキルレベルが上限に達している。これは、オーガとの戦いで俺がかつてないほど集中していたからだろう。他にも戦いで使用した属性魔法のスキルレベルもちらほら上がっていた。
 そうこうしているうちに、王都に到着した。時刻はまだ昼前だ。
 ドルスリー商会に荷物を届けたあと、御者ぎょしゃをしてくれていたボーラスさんにお礼を言って別れ、俺はリンを連れて歩きだす。

「ねぇ、ラルク君。今、どこに向かってるの? 冒険者ギルド?」

 歩きながら、リンが尋ねてきた。

「いや、ギルドに行く前に、俺の家に寄っておこうと思ってね。里長のケントさんからリンのことを頼まれてるから、当面はうちで生活してもらいたいんだ。最初のうちは宿代を払うのも大変だろうしさ」
「えっ? ラルク君のお家で一緒に生活するの?」
「やっぱり、嫌? 女の子だし、そりゃそうだよね。だったら知り合いの宿を――」
「あっ、ううん! 全然いいよ、ありがとう。ただ、ちょっと驚いただけだから」

 リンは顔を少し赤くしてそう言った。
 その後、家に着いたので呼びりんを押してしばらく待つ。
 数十秒ほどで、義父さんが玄関のドアから顔をのぞかせた。そしてこちらを見て、安心したような表情になる。

「ラルクか、早かったな。おかえり」
「ただいま、義父さん。ちょっと紹介したい人がいるんですけど……リン、こっちに来て」

 そう言って、少し後ろで待機していたリンを呼ぶ。
 リンが俺の隣に立つと、義父さんは怪訝けげんな顔をした。

「ラルク、その子は?」
「は、初めまして! 私はリン・トーザです」
「あ、あぁ。俺はグルド・ヴォルトリスだ」

 二人は互いにぎこちなく自己紹介をした。
 義父さんは愛想笑いを浮かべたままこちらに近付き、俺に顔を寄せてくる。

「どういうことだ?」
「えーっと、少し長くなるので中で話していいですか?」

 義父さんがうなずいたので、家に入る。
 そしてリビングで、俺は里で起こった出来事について説明した。

「……オーガを一人で倒したのか!?」

 話を聞き終えた義父さんが、驚きの声を上げた。

「一人じゃないですよ。シャファルと一緒に討伐しました……というか俺は足止め程度で、実際のところ成長したシャファルが一撃で倒したんですけど」

 そのオーガ戦での一番の功労者であるシャファルだが、オーガを倒したあとに俺の体の中に戻って「疲れたからしばらく寝る」と言い残してからは、一度も目を覚ましてない。いくら声をかけてもまったく反応がないので、よほど熟睡しているのだろう。
 義父さんは「なるほど……」と言い、俺の目を見つめてくる。

「……それで、その子を家で預かりたいということか」
「はい」

 俺が頷くと、義父さんは「うーん」とうなった。そのまましばらく悩ましそうな顔をしたあと、今度はリンに視線を向ける。

「えっと、リンちゃんは、うちに住むことに賛成してるのか? 見ての通り、俺とラルクの二人暮らしで、男しかいない家だが」

 義父さんの問いに、リンは「はい」とまっすぐな目で答えた。

「まあ、断る理由もないし、本人が構わないなら別にいいか……」
「ありがとう義父さん!」
「ありがとうございます!」

 俺とリンが同時にお礼を言ったら、義父さんは少しだけほおを緩めたが、すぐに表情を引きしめる。

「ただし、家の中にずっと引きもるのは駄目だ。ちゃんと自立できるようにならないとな」
「はい! このあとラルク君と一緒にギルドに行くので、そのときに冒険者登録をしようと思っています。合格できるかどうかは、分かりませんが……」
「そうか、冒険者になるのか……冒険者は本当にキツイ仕事だ。頑張るんだぞ」

 義父さんは優しげな表情で言った。


 昼過ぎになり、俺とリンは家を出て冒険者ギルドへ向かう。
 ギルドに着き、俺は受付でケントさんから受け取った依頼書と達成報告書、討伐対象であるオーガの角を提出した。
 担当してくれた受付の方は、手早く書類をチェックしたあとに急いでカウンターの奥に引っ込む。報酬ほうしゅうを取りに行ったのかと思ったら、ギルドの副マスターであるララさんを連れて戻ってきた。

「ラルク君、ちょっとここじゃさわぎになるから部屋を移動しましょう」

 返事をする間もなく、俺達は別室に通される。
 部屋の扉を閉めたあと、ララさんはこちらに向き直った。

「それで、ラルク君。向こうで何があったのかしら?」

 俺はララさんに、義父さんに話したときと同じ説明をする。

「そうだったの……ラルク君、あなたはまだ冒険者としては駆け出しなんだから、無茶だけはしないでちょうだい」
「はい、気を付けます……」
「約束よ……そういえば、ラルク君の隣にいる女の子は、ニホリで助けた子かしら?」
「はい」

 俺が頷くと、リンは一歩進み出てララさんに自己紹介をした。

「リンはしばらくの間、俺の家に住むんです」

 一応そう報告したら、ララさんはちょっと驚いた顔をしてから悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「あら……リアちゃん、ライバルが増えちゃったわね……」
「えっ? 何か言いましたか?」
「いえ、なんでもないわよ。それより、その子の冒険者登録試験はこれからやるんでしょ? なら、私がこのまま試験監督をするわ」

 ララさんはそう言い、登録用紙を棚から一枚取り出した。そしてペンと一緒に紙をリンに渡し、必須項目を書くように伝える。なんか俺が初めて異世界に来た日を思い出すな。
 リンは用紙を受け取って、言われた通りに記入していく。
 全て書き終えたあと、ララさんは地下室に移動するように言った。せっかくなので俺も付いていくことにする。
 テストの内容は俺のときと同じく、測定案山子かかしに向かって攻撃して合格点を出すというものだった。
 リンは地下室に用意されていた武器から、最も得意とする弓を手に取り、渾身こんしんの一射を放つ。
 矢は測定案山子の眉間みけんに命中し、胴体の透明な部分に〝458〟と表示された。300点以上が合格ラインなので、余裕でクリアだ。
 ララさんは驚いたように口を開く。

「……すごいわね、リンちゃん。あなたの歳でそれだけの弓の使い手は見たことがないわ」
「ありがとうございます。両親から色々と教わったおかげです」

 リンは満面の笑みで返事した。
 テストのあと、ララさんが手続きのために一度部屋を出ていく。待ってる間に弓術きゅうじゅつのスキルレベルがいくつあるのか聞いてみたら、「えっと、つい最近4になったばかりだよ」と教えてくれた。この世界のスキルレベルの上限は5だから、4は相当高レベルなんだけど……リンはかなりの鍛錬たんれんを積んでいたみたいだ。
 その後、冒険者のあかしを受け取ったリンを連れて家に帰り、義父さんにリンが無事に冒険者になれたことを報告する。義父さんは優しく微笑ほほえんで、「頑張れよ」とリンを応援した。


 夕方頃、夕飯を作るために台所で作業をしていると、自分の部屋で荷解にほどきをしていたリンが来た。

「ラルク君、手伝うよ~」
「ありがとう、リン」

 リンと二人で夕食を作っていく。リンの家でご馳走ちそうになったときから思っていたが、リンは料理がうまい。簡単な指示だけですぐに理解してくれるので、作業がしやすかった。
 夕食が完成し、リビングに運んで三人で食べる。

「おお……このスープ、すごく美味しいな」

 義父さんがリンが作った味噌汁みそしるを一口飲んで、驚いたように感想を言った。

「お口に合ったみたいで良かったです」

 リンはすごく嬉しそうに言ったあと、笑顔になる。この共同生活もうまくいきそうだ。


     ◇


 次の日。リンのことは義父さんに任せて、俺は久し振りに学園に登校した。
 教室に入ると、先に登校していた友人のレックから話しかけられる。

「ラルク君、久し振りだね。お休み中に行ってくるって言ってた里はどうだったの?」
「学園を休んで行った甲斐かいがあったよ。米を作ってる人達の顔も見られたし」
「それは良かったね」
「それで実は、お店におろす分とは別に、ケントさんから米を分けてもらったんだ。それを使って昨日の夜に新料理の試作品を作ったんだけど、食べてみる?」

 そう言って、俺は『便利ボックス』から袋に入れてある試作品を出す。米に圧力をかけながら加熱し、一気に減圧することで出来上がる米料理――そう、ポン菓子である。作るのは非常に手間だったけど、『合成魔法』を駆使してなんとか成功したんだよね。
 レックは袋の口を開けて、しげしげと中のポン菓子を眺める。

「へぇ、コメの白いつぶが少し大きくなった感じだね」
「見た目はそうだね。でも、味も食感もだいぶ違うよ」

 レックは袋から数粒のポン菓子を取り出して口に入れ――目をカッと開けて叫ぶ。

「美味しい!」
「食感とか、そういうのに違和感とかはない?」
「まったく感じないよ! 食べやすくて、一口じゃ止まらないくらいさ!」

 よしよし、うまくいったみたいだ。うちの店で出す前に、放課後にラックさんへ持っていくか。
 ラックさんにも食べてもらうために半分は残し、もう半分を小皿に移してみんなが来る前に二人で食べて楽しんだ。


 午後、さっそくドルスリー商会に行き、ラックさんにポン菓子を紹介する。評判は上々で、「ラルク君のお店で新商品として発売してみようか」ということになった。とはいえ、言葉で説明するわりにポン菓子を作るのは恐ろしく面倒なので、どうやって量産体制を整えるかが今後の課題だ。
 それからしばらくラックさんと話し合いをし、商会をあとにする。
 ……あ、家に帰る前に俺が経営してるお店に寄っておこうかな。ここ数日顔を出してなかったし。
 そう考えてお店へ行くと、パーティメンバーのレティシアさんが売り子をしていた。
 ちょうどいいと思い、近付いて挨拶あいさつする。

「こんにちは、レティシアさん。お店の調子はどうですか?」
「あ、ラルク君! お店は相変わらず好調だよ。流石さすがにオープン当初に比べると落ち着いてきたけど、その代わり常連さんがいっぱい買ってくれるんだ」
「それは良かったです……ところでレティシアさん、明日は休日ですし、久し振りに冒険者活動をしませんか? お店を留守にして大丈夫ならの話ですけど」
「え? ……ちょっと待っててね」

 レティシアさんが奥の厨房ちゅうぼうに引っ込んだ。料理人のナラバさんに店を抜けても平気か確認しに行ったらしい。
 ややあって、レティシアさんが戻ってきた。

「大丈夫みたい。でも、なんで急に?」

 その疑問は当然なので、俺はリンのことについて説明する。明日はリンをパーティに加えて簡単な依頼を受けるつもりだから、パーティメンバーのレティシアさんも誘いたいんだよね。

「えっ、ラルク君。女の子と一緒に暮らすの!?」

 話し終えたら、まずそこに驚かれてしまった。

「ま、まあでも、義父さんもいますから」
「それはそうだけど……うーん」

 レティシアさんは少し微妙そうな顔をしていた。
 その後、レティシアさんが同行すると言ってくれたので、お礼を言って店を出る。
 帰宅したあと、部屋にいたリンに明日のことを伝えた。

「私のために色々とありがとう」
「いいって。ケントさんから頼まれたのもあるけど、それ以上に俺がリンの力になりたいって思うんだ」

 そう言うと、リンは嬉しそうに笑ったのだった。


     ◇


 翌日、朝早くから起きて朝食と昼食用の弁当を作っていたら、リンが眠たそうな顔をして台所にやってきた。

「ラルク君、いつも早いね~」
「目覚めはいいほうだからね。それよりリン、そんなにフラフラしてると危ないから、洗面所で顔を洗って目を覚ましてきなさい」
「は~い」

 なぜか母親みたいな口調でリンにそう言うと、リンはのんびりと返事をしておぼつかない足取りで洗面所に向かった。
 リンが顔を洗って戻ってくるのと同じタイミングで、義父さんも起きてリビングに来る。全員が揃ったので、席に着いて朝食を食べ始めた。

「それじゃ、義父さん。先にギルドに行きますね」
「おう、俺も少ししたら出るからあとでな」

 朝食後、身支度みじたくを整えてリンと一緒に家を出る。
 そしてギルドに着いたのだが、レティシアさんはまだ来ていない。ちょっと早く来すぎちゃったかな。
 食堂のテーブル席に座ってリンと話しながらレティシアさんが来るのを待っていると、背後から声をかけられた。

「おっ、ラルク。久し振りだな」

 振り向いたら、Aランク冒険者のドルトスさんが立っていた。ドルトスさんのパーティである『ベアーズ・ファミリー』の皆さんもいる。

「ドルトスさん、皆さん、お久し振りです。これから依頼を受けるんですか?」
「いや、俺達は今帰ってきたんだ。ちょっと遠くまで行っててよ。そういえば、ラルクもここ何日間か姿を見なかったが……どこかに行ってたのか?」
「はい、ちょっと俺の店で使ってる食材の生産地に行ってました」
「へぇ、あのコメの生産地か。ここから近いのか? ……ちょっと待てラルク、その女の子は?」

 ドルトスさんがようやくリンに気付き、怪訝な顔をした。

「ああ、この子はリンっていうんです。これから彼女とレティシアさんと一緒に、依頼を受けるんですよ」
「レティシアちゃんだけじゃなく、また女の子を連れてくるとは……お前、どれだけ贅沢ぜいたくな人生なんだ。俺なんて、こんなむさ苦しい男達に囲まれてるのに……」

 ドルトスさんが愚痴ぐちをこぼしたら、後ろにいるパーティメンバーの人達が「うっわ~自分のこと棚に上げてるよ」「ドルトスのくせに、よくそんなことが言えるな」「一番むさ苦しい奴が何言ってんだか」と口々に野次やじを飛ばす。

「うっせ! 俺だって、本当は女の子とパーティを組みたかったのに……」
「あはは……えっと、いつかきっといい出会いがありますよ」

 どうフォローしたらいいか分からなかったので、とりあえずそう言ってみる。
 ドルトスさんは「くそう、ラルクがうらやましい!」と叫んで受付へ走り去っていった。
『ベアーズ・ファミリー』の人達がドルトスさんを追いかけていなくなったあと、リンが聞いてくる。

「あの人達って、ラルク君の知り合いの冒険者?」
「ああ、あの人はこの王都でも特に有名な冒険者パーティだよ。全員優しい人達だから、すぐに仲良くなれると思う」

 それから数分後、レティシアさんが食堂にやってきた。

「おはよ~、ラルク君」
「おはようございます。レティシアさん」

 挨拶を返すと、レティシアさんはリンをじっと見つめる。

「あなたが、ラルク君の連れてきた子?」
「は、はい! リンと言います」
「リンちゃんね。私はレティシア、よろしく!」

 レティシアさんはにっこり微笑んでリンと握手した。この分だとすぐに打ち解けられそうだ。
 そのあと少しだけ話し合って、まずは常設依頼である薬草の採取をやってみることにした。冒険者になりたてのリンでも、これなら大丈夫だろう。
 さっそく王都を出て、薬草の群生地を目指して移動する。
 すると、途中で数匹のゴブリンを発見した。

「わぁ、久し振りにゴブリンを見たわ……」

 レティシアさんが独り言っぽくつぶやいた。レティシアさんとこうして冒険に出るのは久々だからなぁ……

「レティシアさんには、店の手伝いばかりしてもらってますからね。すみません」

 申し訳なく思って謝罪すると、レティシアさんはブンブンと首を横に振った。

「あ、全然気にしなくていいよ! お店のお手伝いは楽しいしね。それに、最近はナラバさんに料理を習ったりもしてるから、嬉しいことばっかりだよ」
「それなら良かったです」

 そのとき、横で俺達の会話を聞いていたリンが話しかけてくる。

「そういえば、ラルク君って自分のお店を持ってるんだよね? それってどんなお店なの?」
「えっと……味付けした米を握って焼いた〝焼きおにぎり〟という料理を売ってるんだよ。結構人気で、レティシアさんに手伝ってもらってるんだ」

 俺が答えると、リンは目を丸くした。

「焼きおにぎりが王都で人気なの?」

 あ、焼きおにぎりを知ってるのか。まあでも、よく考えてみれば、リンは米を作ってる里で暮らしてたんだから、米料理に詳しくて当然か。

「うん、まあね。こっちだと米は馴染なじみのない食材で、珍しさもあってみんな買いに来てくれるんだよ」
「へぇ~、私がいつも食べてたものが王都では人気商品って……なんだか不思議な気分~」

 のんびり会話していたら、ゴブリンがこちらを見つけて襲いかかってきた。オーガを倒した俺からしてみればどうということもないので、魔法で一瞬にして蹴散けちらす。
 ゴブリンの素材を『便利ボックス』で回収したあと、目的地である薬草の群生地に到着した。
 目標としていた数まで薬草を集めたあと、今度は森に移動する。リンに森での行動の仕方を教えようと思ったのだ。
 ……ところがリンの場合、昔から森で狩りなどをしていたおかげで、俺達が教えられるようなことは一つもなかった。というか、逆に俺とレティシアさんが獲物の見つけ方などを教えてもらった。
 ひとしきり訓練し、そろそろ帰ろうかという話になる。


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