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2巻

2-3

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  ◇


 次の日、早朝から朝食の支度をして、そろそろ完成というタイミングでまだ寝ていたグロレさん達を起こした。
 事前に作っておいた土の椅子に座ってもらい、野菜の旨みが染み込んだスープを振る舞う。朝から温かいスープを飲んだグロレさんは「旅の間で、こんな風に普通の食事ができるのは珍しい体験だ」と感心していた。
 朝食を食べ終えた俺達は、王都を目指し進み始める。

「あっ、ラルク君。王都に行く前に、近くにあるディバラっていう街にちょっとだけ寄ってもいいかな? その街は僕の故郷なんだけど、たまには帰ってあげないと両親が心配するんだ」

 しばらく進んでいると、仲良くなったことで敬語が取れたラバルさんが、そう言ってきた。

「もちろんいいですよ。というか、俺の許可なんて取らなくても、ラバルさんの馬車なんですから」
「いやいや、ラルク君には色々とお世話になってるし、こちらの都合で振り回すのは悪いからね。でも、ありがとう。僕が実家に帰ってる間は、街を見ていたらいいよ。まあ、これといった名物や名所があるわけではないけどね」

 ということで、少しだけ寄り道してディバラの街へ向かうことに。王都以外の街に行くのは初めてだな。どんな雰囲気なんだろう?
 三十分ほどで街に到着。門をくぐったところで、俺とグロレさん達はラバルさんと別れた。ラバルさんとは昼過ぎに街の一角にある食堂で合流することに決めたから、それまでどうやって時間を潰そうかな?

「どうしましょうか、グロレさん、ニックさん」

 俺が二人に尋ねると、ニックさんが考え込んで口を開く。

「そうっすね……あっ、そうだ。ラルク君、この街にも冒険者ギルドがあるから、王都のギルド宛てに手紙を出したらどうっすか? ギルドに頼めば早く届けられるし、先に知らせておいたほうがいいと思うっすよ」

 なるほど、確かにそうしたほうがいいかも。よし、二人を連れ回しちゃ悪いから、俺一人で行ってこよう。

「あ~、そうですね。それじゃ、俺はギルドに行ってきます。お二人は観光を楽しんでください。食堂で落ち合いましょう」

 そう言って歩きだしたら、グロレさんが呆れたように声をかけてくる。

「ラルク……お前、この街のギルドがどこにあるか知ってるのか?」
「……あっ」

 よく考えたら、場所が分からないじゃん。

「……ラルクってやっぱり少し抜けてるよな。俺達は道を知ってるから、案内してやるよ」
「アハハハ、こっちっすよ、ラルク君」

 やれやれといった顔のグロレさんと、大笑いするニックさんにギルドまで案内してもらう。
 大通りに面する大きな建物の中に入ると、すぐにここがディバラのギルドだと分かった。たくさんの冒険者がいるし、王都のギルドと建物の造りがほとんど一緒だったからね。
 グロレさん達と空いているテーブル席に座り、『便利ボックス』から紙を取り出す。
 さて、誰に書こうかな。俺の考えが正しければ、多分義父さんは王都にいない。過保護すぎる義父さんのことだから、きっと今は俺を探すために旅に出ているはずだ。
 ということは、王都に確実にいる相手に書かないといけない……
 考えた末に、王都のギルドの副マスターであるララさんに手紙を書くことにした。
 俺はペンを走らせ、ルブラン国に飛ばされて、そこで偶然商人のラバルさん達と出会ったこと、ラバルさんの馬車に乗せてもらって今はディバラにいること、もうすぐ王都に帰るから心配いらないということを書いておく。

「書き終わったら受付に持っていきな」

 グロレさんの言葉に頷き、受付の列に並ぶ。
 列はどんどん進み、すぐに俺の番になった。受付のお姉さんが、「次の方どうぞ」と声をかけてきたので、俺は前に出る。

「本日はどういったご用件でしょうか?」
「はい、この国の王都に手紙を届けてほしいんですけど、頼めますか?」
「お手紙の配達ですね。銅貨十枚になります」

 受付のお姉さんに言われて、俺はあらかじめポケットに入れておいた銅貨を取り出して渡す。

「……確かに十枚頂戴しました。明日にはお手紙がお相手に届きますよ」
「ありがとうございます」

 お姉さんに頭を下げて、グロレさんのところに戻ろうと歩いていると――

「あのッ! すみません、そこの銀髪の男の子ッ!」

 上方から、女の子の叫び声が聞こえた。
 上を向くと、華奢な女の子が階段の踊り場に立って、こちらを見下ろしているのが見えた。今声をかけてきたのはあの子かな? いったいなんの用だろう?
 すると、女の子がいきなり踊り場から飛び降り、俺のもとへダイブしてきた。


 咄嗟とっさに女の子を受け止めたが、支えきれず後ろに倒れてしまう。なんとか俺のお尻が少し痛くなる程度で済んだけど、もう少しかっこよくキャッチしたかった。
 周りで見ていた冒険者の人達からは「おおすごい」「よく守ったな坊主」とはやされる。す、少し恥ずかしいんだけど……
 ともかく、この子に怪我はないかな?

「あの、大丈夫ですか?」
「は、はい。ごめんなさい……」

 女の子は俺の腕から離れて謝罪した。それから起き上がって服装を整えると、改めてこちらに向き直る。

「すみませんが、あなたはラルク・ヴォルトリスさんでしょうか?」
「はい、そうです。えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
「ああ、やっぱり……ちょっとだけ、お時間をいただいてもよろしいですか?」

 女の子は俺の質問に答えずにそう言った。なんなんだと思っていたら、騒ぎを聞きつけたグロレさん達が冒険者達の人垣から姿を現す。

「ラルク、どうしたんだ……んっ? ギルマスさんじゃないですか」

 グロレさんが女の子を見て目を丸くした。

「えっ、グロレさん達じゃないですか!? わ~、こんなところで会うなんて思いもしませんでしたよ~」

 女の子が驚いたように答える。どうやら三人は知り合いみたいだ。
 ……ていうか今、この子をギルマスって呼ばなかったか? どう見ても俺とそんなに歳が変わらないんだけど……

「あの、グロレさん……この人はディバラのギルドマスターなんですか?」
「あ~、違うぞラルク。この方は、ルブラン国の王都にある冒険者ギルドのギルドマスターだ」
「へっ? ルブラン国の?」

 ますます意味が分からない……なんでそんな人が俺のことを知ってるんだろう? というか、みんな普通に接しているし、ギルマスさんの外見のことは突っ込まないほうがいいのか?
 そのとき、俺は女の子の耳の形が尖っていることに気が付いた。
 なるほど、彼女はエルフ族なのか。エルフは寿命が長くて成長が遅いから、こんなに幼く見えるんだな。

「しかし、なんで隣国……それもディバラの街にいるんですか?」

 グロレさんがギルマスさんに質問した。

「あの、ここだと大勢の人が見てますし、受付で部屋を借りてきますね」

 ギルマスさんはすぐには答えず、そう言うと受付に行った。
 しばらくすると、ギルマスさんが受付から鍵をもらって戻ってくる。
 よく分からないけど、とりあえず付いていってみよう。
 俺、グロレさん、ニックさん、そしてルブラン国のギルマスさんの四人は、ギルドの空き部屋に移動した。



 3 ラルク帰還


 部屋に移動してきた俺達は、それぞれソファーに座った。

「あの、それで俺に何か用があったんですか?」

 俺が尋ねると、ルブラン国のギルマスさんは説明をし始める。

「実は数日ほど前に、私の友人であり、レコンメティス王国の王都でギルドマスターをしているフィアちゃんから、行方不明になった銀髪の男の子を探してほしいと頼まれたんです」
「え? そうだったんですか?」
「はい。そのため、ルブラン国のギルドでもあなたのことを捜索してたんですよ。それで昨日、銀髪の少年が乗っていた馬車が関所を通ったという情報がギルドに入ったので、急いでフィアちゃんに連絡をして、私も近くの街を探し回っていたんです」

 ギルマスさんはそう言ったあと、「本当に見つかって良かったです。フィアちゃんのあんなに焦った顔、初めて見ましたので」とため息を漏らした。
 俺はギルマスさんに頭を下げる。

「気付かないところで色々と迷惑をかけていたみたいですね。すみません」
「いえ……あの、一応聞いておきたいのですが、どうして行方不明になったのでしょうか?」

 そのとき、グロレさんが口を挟む。

「実は俺も気になってたんだ。ラルク、お前、どうしてあんなところにいたんだ?」

 そういえば、グロレさん達にもちゃんと話していなかったな。うーん……とりあえず、できるだけ正直に説明しよう。
 俺はみんなに、自分が何者かの転移魔法によってルブラン国に飛ばされてしまい、なんとか帰ろうと街道を歩いていたときにグロレさん達と出会ったと話す。
 流石さすがにシャファルのことは伏せておいた。伝説の竜を従魔にしたなんて言ったら色々と面倒なことになるだろうし。
 ちなみに、シャファルは俺の中に入ってから、一度も外に出てきていない。俺の中が心地よすぎて、ずっと眠っているようなのだ。気がかりになって呼びかけたこともあるが、一度だけ寝言らしき声が念話で聞こえてからは、もう心配しないことにしている。

「なるほど……転移魔法を使った者の正体と目的は気になりますが、幸運でしたね。隣国のルブラン国なら、まだ自力でも帰れる距離ですが、転移先が遥か遠くの帝国や聖国せいこくだった場合、一人で帰ってくるのは厳しかったでしょう」

 ギルマスさんが神妙な顔で言ったあと、グロレさんが同情するような表情で口を開く。

「ラルク、そんなに大変な身の上だったのか……言ってくれれば良かったのによ」
「いや~……出会ってすぐの子供が『自分は転移魔法で見知らぬ土地に飛ばされてたんだ』って言ったら、変な奴だと怪しむでしょう? それなら、黙ってたほうがまだいいかなって思いまして……」
「……まあ、言われてみればそうだな」
「でも、一緒に飯食ったときに話してくれても良かったじゃないっすか……」

 ニックさんから悲しそうに言われた俺は、「ごめんなさい」と二人に頭を下げた。
 話が一段落したところで、ギルマスさんが再び口を開く。

「それじゃ、ラルク君。王都に行きましょうか」
「はい……って、どうやって行くんですか?」
「私も転移魔法を使えるんですよ。昔フィアちゃんに教えてもらって、今では長距離の移動も楽にできるんです。まあ、フィアちゃんに比べればまだ転移できる距離は劣りますけど、ここから王都までなら一瞬で行けますよ。グロレさん、ニックさん、この件のお礼をしたいのでルブランに戻ったら一度ギルドに来てくださいね」

 ギルマスさんはそう言うなり、俺の手を取って転移魔法の詠唱を始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 俺が慌てて叫ぶと、ギルマスさんは詠唱をやめてキョトンとする。

「どうしたのですか?」
「すみません、一緒にこの街に来た商人さんも連れていってもらえませんか? その人も王都に行く予定でして、ここまで一緒に来た旅仲間なんです……」

 しかし、俺の言葉に首を横に振ったのは、グロレさんとニックさんだった。

「ラルク、ラバルさんは俺達がちゃんと王都まで護衛するから心配するな。今はみんなを安心させるために、一刻も早く王都に戻ってやれ。ラバルさんには俺達から言っておくよ」
「早くグルド様に無事であることを報告しに行ってあげてくださいっす」

 ギルマスさんも俺の背を押す。

「グロレさん達もこう言ってますし、行きましょう。それに、このあとはグルド様を探し出さないといけないので、意外と時間がないんです。グルド様は今、ラルク君を探す旅に出ていらっしゃるんですよ」
「義父さん、やっぱり旅に出てたんだ……分かりました。それじゃ、グロレさん、ニックさん、ラバルさんにありがとうございましたって伝えておいてください」
「おう、早く帰って元気な姿を見せてこい」
「また今度会ったら、うまい飯を作ってくださいっすよ」

 グロレさん達と別れの言葉を交わしたあと、ギルマスさんの転移魔法でレコンメティスの王都の門前に転移する。
 門番をしていた兵士さんは突然現れた俺達に驚いた様子だったが、俺の顔を確認すると「あぁ!」と大声を出した。
 門番さんに色々と聞かれたが、最低限の説明だけをしてギルドへ向かう。
 それにしても、こうして王都を歩いていると、数日しか経ってないのになんだか懐かしく感じるな~。

「ラルク君、どうかしましたか?」
「いえ、ただ……帰ってきたんだな~という実感が湧いてきたんです」
「ふふふ、それは良かったですね」
「あっ、そういえば今更なんですけど、ギルマスさんのお名前ってなんですか?」

 そう言いながらギルマスさんを横目で見ると、耳の形がエルフ族にしては少しおかしいことに気が付いた。最初に見たときはなんとも思わなかったけど、よく見ればなんというか、エルフ族より耳の尖り方が小さい。
 すると、俺の視線に気付いたギルマスさんが自分の耳に軽く触れながら答える。

「あら、言ってませんでしたっけ? 私の名前はリアナです。それと、この耳が気になりますか? よく間違われますけど、私はヒューマン族ですからね」
「えっ? そうなんですか?」
「正確に言いますと、エルフ族とヒューマン族の混血だからハーフヒューマン族なんです」
「ハーフヒューマン……ハーフエルフではないんですね」
「血はヒューマン族のほうが濃いので、そう名乗ってるんですよ」

 リアナさんがクスクスと笑いながら言った。
 それからしばらく歩いて、ギルドに到着する。
 扉を開けて中に入ると、見知った冒険者の人達がこちらに注目し、全員が目を見開いて固まっていた。

「ラルクッ!」

 冒険者の一人が大声を上げたのを皮切りに、たちまちギルド内が大騒ぎになった。
 しばらくもみくちゃにされているうちに、騒ぎを聞きつけて副マスターのララさんが二階から下りてくる。
 俺と目が合った瞬間、ララさんはこちらに勢い良く走ってきて、そのままギュッと抱きしめられた。こんなに感情的になっているララさんは初めて見たので驚きだ。
 数秒後、ようやく離れてくれたララさんに連れられ、ギルドマスター室に向かう。
 部屋に入るなり、フィアさんがいきなり飛びついてきた。

「ラルク君ッ!」
「ぐぇっ!」

 後ろに倒れそうになったが、踏ん張って耐える。
 猛烈もうれつな力で抱擁ほうようしてくるフィアさんをなんとか引きがし、俺は口を開いた。

「た、ただいま帰りました。ご迷惑をおかけしてすみません」
「ええ、本当に心配したわよ。どこに行ってたの? グルドからは突然転移したと聞いたけど」
「えっと、できれば義父さんにも一緒に話したいので、説明するのは義父さんを見つけてからでもいいですか?」
「分かったわ。それじゃリアナ。ちょっときついかもしれないけど、グルドを見つけるのを手伝ってくれないかしら?」

 フィアさんの言葉にリアナさんが頷き、二人は転移魔法でその場から消える。
 部屋に残された俺とララさんは、フィアさん達が戻ってくるまでの間、俺が帰ってきたことでまだ騒いでいる下の冒険者達を抑えるために一階に下りた。


 その日の夕暮れ、フィアさんとリアナさんが義父さんを連れて戻ってきた。
 義父さんは俺を見ると、ガバッと抱きしめてくる。

「今まで、どこにいたんだ……」
「心配かけてごめんなさい……」

 俺も抱きしめ返して謝る。
 俺のことをものすごく心配していたんだろう。義父さんの顔が土気色つちけいろになっていたので、とりあえず聖属性魔法で義父さんを癒す。
 それから説明しようとしたところで、ギルドマスター室にアルスさんが転移してきた。

「やあ、ラルク君。帰ってきたって聞いて慌てて駆けつけたよ」

 アルスさんが言った。
 毎回タイミングがいいな、この人。ちょうどいいからアルスさんにも聞いてもらおう。
 俺はギルドマスター室に集まっている義父さん、アルスさん、フィアさん、ララさん、リアナさんに説明を始める。

「えっと、まず話をする前に見てほしいものがあります。シャファル、シャファル!」

 ずっと俺の中にいたシャファルに呼びかけるが、返事はない。出てきてくれないと困るんだけど……
 みんなが俺を心配そうに見つめ始めたとき、やっとシャファルが俺の体から出てきて、伸びをしながら眠そうに欠伸をした。
 アルスさんが珍しく狼狽した様子で尋ねてくる。

「ら、ラルク君。この子は?」
「見ての通り、幼体の竜種です。今回の事件を引き起こした張本人になります」

 そう答えたあと、俺はシャファルから聞いた情報をかいつまんで話した。
 まず、この竜は遥か昔から何度も転生を繰り返し、ずっと生き続けているということ。転生して幼体になったあとは、魔力をもらわなければ成長できないこと。数百年前、俺の先祖がこの竜と「幼体のときに魔力を提供する代わりに、成体になったらあらゆる危機から一族の者を守る」という内容の契約をしたこと。そして現在、転生する時期が迫ったので、その一族の子孫である俺を見つけ出して、転移魔法で自分が転生するための場所に連れてきたこと。
 全てを話し終えると、まず義父さんが口を開いた。

「つまり……数日前に転移魔法でラルクを連れていったフードの男は、その竜の関係者だったのか?」
「そう……というか、あれはシャファルの分身体だったんですよ。シャファルは人間に変身できるんです」
「なるほど……確かに高ランクの魔物の中には人間に姿を変えられる奴もいるな……それにしても、もう少しマシな連れ去り方をしてくれよ」
(仕方ないじゃろ、我だって急いでいたんじゃ)

 義父さんの言葉に、シャファルが念話で反応した。
 すると、その場にいた全員が一瞬ビクッと体を震わせる。
 義父さんが驚いたように尋ねる。

「今のは……念話か?」
「はい、転生する前は普通に話してたんですけど」
(我だって普通に話したいが、まだ声帯が成長しきっておらぬのじゃから仕方なかろう。ブレスも吐けないんじゃぞ。幼体でも意思の疎通ができるように、以前の契約者の力を借りて苦労して念話を覚えたんじゃからな)

 そう念話で言ったあと、ドヤ顔になるシャファル。

「まさか、あの伝説は本当だったんですね」
「はい、私も物語の中だけの話かと思ってました」

 そのとき、ララさんとリアナさんが気になることを言った。
 詳しく聞いてみると、なんでも俺の先祖とシャファルの話は、有名なおとぎ話として今でも語り継がれているのだそうだ。
 なんでそんな物語が広まってるの? と不思議に思い、シャファルに思い当たることがないか確認してみる。

(ふむ、そういえば前の契約者と過ごしてたとき、詩人が訪れたことがあったのう。その際にあれこれと聞かれて、我も楽しくなって色々と話した覚えがあるぞ)

 そのときに話した内容が詩人によって広められたってことか?
 シャファルは再び欠伸をすると、また俺の中に戻ってしまった。自分の仕事は終わったと思ったみたいだ。
 ララさん達はシャファルの言葉を聞いて興奮している。ララさんによれば、俺の先祖の物語は本になって今でも流通しているそうなので、今度見せてもらう約束をした。

「さて、そろそろ帰ろうかな。娘のリア達も心配してたし、ラルク君は無事だったって伝えておくね。学園で色々と聞かれると思うから、楽しみにしておくといいよ」

 アルスさんはそう言い残して、転移魔法で帰っていった。それをきっかけに、解散の雰囲気がその場に流れる。
 俺と義父さんも家に帰ることにして、フィアさん達と別れた。
 家に帰ってきたあと、数日ぶりに台所で夕食を作る。野宿しているときも料理はしていたけど、やっぱり自宅のほうが落ち着くな。
 夕食を食べて一緒に風呂に入っていると、義父さんから優しく頭を撫でられた。

「本当に無事に帰ってきてくれてありがとな、ラルク」

 義父さんはそう言ったあと、照れ臭そうに笑って先に風呂から上がった。
 義父さんが風呂場からいなくなると、シャファルが自分から出てきて湯船に入り、気持ち良さそうに体を伸ばす。

(ラルクの父はグルドと言ったか? お主のことをずいぶん心配しておったんじゃな……)
「まあ、それは嬉しいですね……それにしても、義父さんの言う通り、もう少しマシな方法があったと思いますよ」
(我だってあのときは時間がなかったんじゃよ。じゃが、我も軽率けいそつな判断であったと今では反省しておる。あとでグルドには謝罪をしておくとする)

 シャファルはそう言うと、湯船でプカプカと泳ぎ始めた。とても伝説の竜とは思えない行動なんだけど……
 しばらくして、俺が風呂から上がると言ったら、シャファルはまた俺の中に消える。この現象も仕組みがいまいちよく分からないよな。あとで義父さんに聞いてみるか。
 ……しかし風呂上がりに質問したところ、「俺は従魔を扱ったことがないから、分からない」と言われてしまった。仕方ない、今度お城の図書室に行って、従魔について書かれている本を借りて勉強しよう。第二王子のウォリス君はいつも図書室にいるから、頼んだら一緒に探してもらえるよね。


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