勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花

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第一章 旅の始まり

第8話

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 クロム王は、汗を拭きとり一度落ち着くとソファーに座り直した。

「っと、柄にも無く興奮してしまった。すまない」

「いえ、大丈夫ですよ」

 謝罪をしたクロム王にアリサがそう言うと、俺はふと疑問に思った事をつい言ってしまった。

「えっ? クロさん、今のが素じゃないんですか? 俺達と一緒に戦ってる時は、さっきの感じでしたよね? あの時はもっと〝フハハハハハ、我に敵無し!〟とか言ってませんでしたか?」

「……ロイド。その事について余り今は触れないで欲しいな、当時は色々と精神的に壊れて国から逃げてた時だから、相当酷かったんだよ」

 クロム王は俺の指摘に対して真顔でこれ以上は言わないで欲しいと言って来たので、流石の俺もクロム王の気持ちを考えて「はい」と返事をした。

「さてと……脱線してしまったが、話を戻そうか。まず、勇者はロイドの婚約者だった女性と結婚するってのは本当なのか?」

「はい、私達は目の前で宣言されました。私達の事も伴侶してやると言われましたが、彼の事は元々嫌いでしたのでお断りしました」

「そうか……まあ、脅威であった魔王も既に討伐されて、今後は勇者と勇者の仲間でもあったアリサ達には軍に入って貰おうかと思っていたが仕方ないか……アリサ達だけでも軍に入ってもらいたいけど、アリサ達はそれは嫌だろう?」

「そうですね。私達は、ロイドさんと旅に出ると決めましたのでそれは出来ません」

「そうだよね……」

 キッパリとミキからそう言われたクロム王は、深い溜め息を吐くと何かを思いついたのか俺の方を向いた。

「どうせなら、ロイド。私の娘とも婚姻関係にならないか?」

「……何でそうなるんですか?」

「えっ? そんなのロイドの力を分かっていたら取り込みたいに決まってるだろ、当時からそう考えてたしね。丁度、私の娘もロイドと同い年位だしどうかな?」

「どうかなと言われましても、俺自身アリサ達にも返事してないんですからそんな事、無理ですよ」

 俺がそう言うと、アリサ達も「クロム王、流石にその提案は私達でも怒りますよ?」と真顔で迫るとクロム王は待ったを掛けた。

「アリサ、ミキ、モモ。考えてみるだ。君達の想い人であるロイドの力は君達も知っているだろう? 遅かれ早かれ、何処かの国はロイドに手を出そうとする。まあ、ロイドならそんな手は振り払う事は出来るがそれが国相手ならどうなる?」

「……最悪、戦争って事にもなりますね。そして、多くの人が犠牲になりますね」

「そうだ。ならば、この場で私の娘と婚姻関係を結んでおけば他の国には〝既に他国の姫が婚姻関係であるから難しい〟って判断をされるだろう。それに、アリサ達はミリアとも仲がいいだろ?」

 クロム王はアリサ達にそう問いかけた。そう言われたアリサ達は「確かに、そうだよね……」と言った風に丸め込まれそうだったので俺が口を出そうとすると、クロム王は更に追い打ちを掛けた。

「それに、私はロイドに王を継いで欲しいとも思っている。アリサ達は、ロイドが王になった姿は見たくないか?」

「クロム王、良い提案ですね!」

 最後のクロム王の切り札にアリサが折れ、更にミキとモモも賛成の様子だった。俺はそんなアリサ達に「皆がそんな提案に乗るんなら、俺は一人で消えるよ?」というと一瞬にして大人しくなった。

「チッ……まあ、仕方ないか」

「……そんな態度に出るんなら、クロの正体がクロム王と冒険者に広めますよ? 大分、冒険者組織から離れてましたけど、知り合い位は俺にも居ますからね?」

「それだけは勘弁してくれ!」

 クロム王は俺の脅しに先程までの態度とは一転して、頭を地面に付けて土下座を行った。クロム王の土下座姿を見た俺は「もういいですから、本題に戻りましょう」と大分、話がそれたのを無理矢理戻した。

「そうだな……それで、本題だけどアリサ達が勇者とパーティーを解散して旅に出るって事だよね? それなら、別に構わないよ」

「案外、潔くアリサ達は行かせるんですね」

「まあ、勇者達を国に縛り付けたい気持ちはあるにはあるが異世界へと来てもらって強敵を倒してもらった者達にこれ以上、窮屈な思いをさせたくないからね。さっきは、軍に入ってもらいたかったとか言ったけどアレもアリサ達が良いならと思って駄目元で言っただけだからね。逆にロイドは、勇者達以上に価値のある人間だからね。何が何でも私の手の内に収めたいって気持ちはあるけど、それをする事は出来そうに無いから今は手を引くよ」

 クロム王はそう言うと、ソファーから立ち上がり部屋の奥の机へと行き引き出しの中から木箱を取り出した。

「ロイド、これを渡しておくよ」

「何ですか、これは?」

「いずれ、アリサ達が旅に出ると言ってくるだろうと思って用意してた物だよ」

 クロム王からそう言われた俺は、木箱の蓋を開けて中を確認するとそこには王家が認めた物しか与えないと言われている指輪が入っていた。

「リクサムス国内なら、殆どの事が免除される物だから大事に使うんだぞ、特にロイド。お前が作る料理は私もまた食いたいと思っているから、国内に店を構えても良いからな」

「……考えておきますよ」

 俺はクロム王にそう返事を返し、用も済んだし帰ろうとするとクロム王から「昼食を食べて行くと良い、アリサ達もミリアと会いたいだろ?」と言われ、アリサ達が会いたそうにしていたので昼食を城で食べる事にした。
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