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5巻

5-2

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 第2話 黒鬼くろおにの帰還


 クロガネの帰還報告を受けた俺は、クロガネに家に来るように伝えてもらった。
 それから十分ほどして、家にクロガネがやって来た。
 約二年間、修業の旅に出かけていた彼は、その体つきからして変化していた。元の体も大きかったが、更に大きくなっていて、背には大剣を二つ背負っている。

「久しぶりだな、クロガネ……何か大きくなったか?」
「主と別れてから少し成長した。主の身長は変わってないな」
「何か、言葉も流暢りゅうちょうしゃべれるようになってるな……って、おい! 人が気にしてる事をサラッと言うなよ!」

 クロガネが流暢に喋ってる事に驚いた俺は、俺の身長をからかってきたクロガネの言葉に反応が遅れた。

「旅の間、言葉を勉強して、喋れるようになった」
「へ~。まあ、クロガネは元は人間だし、喋れても不思議ではないか」

 そう納得して、クロガネにどんな旅をしてきたのか聞く。
 するとクロガネは「この大陸だけではなく、竜人国や獣人国まで旅をしていた」と教えてくれた。

「マジで行ったのか? どうやって?」
「他の大陸までは泳ぎで行った。水中で戦闘訓練もできるから」
「いやいや、大陸間を泳ぐって、何、考えてるんだよ!?」

 俺は、クロガネが泳いで大陸を渡ったと知って驚き、そう反応した。
 そんな俺に対してクロガネは、「飛んで移動できる主に驚かれても」と言ってきた。

「いや、まあそれはそうだけど……全く、この二年でお前も大概たいがいおかしくなって帰ってきたな。元々、おかしかったけど」
「一番おかしいのは主だけどな」
「口も達者たっしゃになりやがって……」

 俺はクロガネにそう言ったのだった。


 ◇ ◇ ◇


 クロガネの帰還に合わせて招集をかけていた主要奴隷を連れて、俺はパーティー会場にやって来た。

「クロガネ。大きくなった!」
「クロガネさん、凄く強くなったみたいですね! 今度、手合わせお願いします!」
「クロガネ、久しぶりだな~」

 パーティー会場には既に多くの部下達が集まっており、会場に来たクロガネを、皆は嬉しそうに出迎えた。


 それから、クロガネの帰還を祝ったパーティーが始まる。

「クロガネ。これ、お前へのプレゼントだ」

 そう言って俺は、この日のために用意させた大剣をクロガネに渡した。
 二年前の体のサイズからクロガネは大きくなってるだろうなと予想はしていた。そんなわけで、大きく作るように頼んであったのだ。
 実際にクロガネに渡してみると……体にピッタリ合っていた。

「いい剣だ。ありがとう、主」

 大剣を手に持ったクロガネは、嬉しそうにお礼を口にした。
 その後、俺以外からも大量にプレゼントをもらったクロガネは、嬉しそうな顔をして受け取っていた。


「ご主人様、結局、クロガネに渡すプレゼントは大剣だけなの?」

 クロガネが皆からプレゼントを受け取ってる姿を見ていると、クロネからそんな事を聞かれた。

「いや、俺との対戦権利も後で渡すつもりだ。まあ、本人が戦いたいと思ってないなら、プレゼントは大剣だけになるがな」
「クロガネなら絶対に戦いたいって言いそうね。だって、さっきレオンにも『後で戦おう』と言ってたもの」
「レオンはもう申し込まれたのか」
「クロガネから誘われて、レオンも嬉しそうだったわね。ご主人様が相手してくれないから、レオンも色々と溜まっていたんでしょう」

 クロガネが修業の旅に出かけていた一方で、レオンは基本的に仕事尽くめで、ずっと俺の近くにいたからな。
 そのため、何度か対戦を申し込まれたが、俺はほぼ断っていた。

「レオンもあの面倒さがなければいいんだけどな……」
「仕方ないわよ。レオンは成長に貪欲どんよくなのよ。強敵と戦うのが成長につながる事をレオンは知ってるから、強者であるご主人様に試合を申し込み続けているのよ」
「まあ、それはわかるけど」

 レオンの気持ちもわからなくもないため、彼が本気で申し込んできた時だけは、息抜き程度に相手をしてやっていた。

「でも、これからはクロガネがいるから、そっちにレオンは行きそうね。クロガネならいつでも相手してくれそうだし」
「そうだと嬉しいな……いや、俺の予想だと、二人して俺の所に来そうな予感がするけど」
「……否定はできないわね」

 クロネは俺の言葉を聞き、「あの二人なら一緒になってご主人様の所に来るだろう……」と呟くのだった。


 暫くして、ようやく人々から解放されたクロガネに話しかける。

「そういえば、クロガネ。ここに来る前に爺ちゃんと一緒にいたみたいだけど、その爺ちゃんはどっか行ったのか?」
「竜人国に行った。何か用事があるとか言ってた」
「竜人国に用事?」

 爺ちゃんの事が気になって聞いたのだが、竜人国にいるのか。

「爺ちゃんが行くような用事っていうと……また竜王さんに戦いを申し込みに行ったのかな? でも爺ちゃんが勝ち越したままだし、爺ちゃん側から行くのもおかしいよな?」
「何かの準備をすると言ってた。何の準備かまでは詳しく聞いてない」

 そうクロガネから聞いた俺は、「爺ちゃんは自由に生きてる人で、何かあれば連絡が来るだろうから今は気にしないでおこう」と考えたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 パーティーの翌日。
 俺は朝食を食べた後、クロガネを家に呼び出した。

「主、こんな朝早くに何だ?」
「実はお前へのプレゼントだけど、俺は悩んでたんだよ。実物を与えるだけでいいのかってな」

 俺がそう言うと、クロガネは首をかしげげた。
 更に俺は言う。

折角せっかく、俺の従魔が二年もの歳月を修業に費やしてきたのに、作ってもらったプレゼントだけ渡して終わりにするか悩んだって事さ。そこでだ。クロガネには、一部の者達が欲しがってる権利を与えようと思う」
「一部の者が欲しがってる……権利?」
「ああ。それは……俺と戦う権利だ。欲しくないか?」

 クロガネは驚いた顔をして「主、それは本当か!?」と聞いてきた。

「勿論、嘘を言う理由はないだろ? いや、俺も実際悩んだぞ? 折角、周りが大人しくなってきたから、このまま誰とも戦わない平和な生活を満喫しようかなって、本気で思ってたんだからな。それでも、クロガネが帰ってきて、お前が喜ぶのは何か考えた時――やっぱり俺と戦う事かなってな」

 俺がそう言うと、クロガネは嬉しそうな表情をした。

「まあ、別にこれは、俺がやりたいだけの気持ちだから。お前が嫌だって思うんなら、別に戦わなくてもいいぞ」
「戦う。主に、修業の成果をぶつけたいと思ってたから、絶対に戦う!」

 クロガネはすぐに言い返してきた。
 やっぱりこいつもレオン同様に、「俺と戦いたい」という気持ちが強いみたいだな。

「でも、主が戦う気になったなんて、レオン達は知ってるのか?」
「知らないぞ。というか、あいつらに知られたら一斉に来るだろうからな。だから、こうしてお前だけを朝早くに呼び出したんだろ?」
「……なるほど、俺は特別か」
「二年間修業してきたからな。どのくらい強くなってるのか、俺も気になってるよ」

 俺はそう言ってから、「今から戦う場所に行くが、準備はできているか」と聞いた。

「いつでも戦う準備はできている。早くやろう」
「はいはい。わかったよ」

 俺の気持ちが変わらないか心配しているのか、クロガネはズズズッと顔を近づけながらそう言った。
 俺はそんなクロガネに「とりあえず、落ち着け」と言って、彼の肩に手を置いて、俺が事前に用意した場所へと転移で移動したのだった。


「人の気配が感じられない……主、ここはどこなんだ?」
「無人島だ。魔帝国まていこくとジルニア国の間の島で、前に見つけていたんだよ。ここならよっぽどの事がない限りは人にバレないからな、全力で戦う事ができるぞ」

 全力、と聞いたクロガネは、ワクワクと楽しそうな表情をして準備運動を始めた。

「……あっ、やべ! クロガネ。悪い、アリスも連れてくる予定だったけど忘れてた。迎えに行ってくる」

 俺はクロガネにそう言い、一旦家に戻ってきて、アリスに「今からクロガネと戦う」と伝えて、島にアリスを連れてきた。

「すまんな、クロガネ。アリスが俺とお前の戦いを見学したいって言ってたの、すっかり忘れてた」
「俺は戦えるなら、大丈夫だ」

 クロガネがそう言ったので、俺はアリスに防御用の魔道具を渡して、俺も準備運動を始めた。


 それから数分後、互いに準備を終えて戦おうと距離を取って武器を手に持ったところで――この島に何者かがやって来た魔力を感じ取った。

「……何でここがわかったんだよ。レオン」

 何者かの魔力がレオンのものだと感じ取った俺は、魔力を感じた方へ顔を向けながら言った。

「アキトの魔力とクロガネの魔力が同時に消えたから何かしてるだろうと思って、後を追ってきたんだよ。一度目に消えた時は気づくのが遅れたが、アキトがアリスを迎えに行った時にまた気づいてな、こっそりついてきたんだよ」

 クッソ、俺の失態のせいかよ。
 ……いや、これはレオンの実力を見誤った俺の落ち度だな。
 この二年間、強くなったのはクロガネだけではない。仕事をしていたとはいえ、修業もしていたレオンもかなり強くなっている。
 二年前の時点でも魔法の力は相当高い境地に達していたというのに、更にそこから技術をみがいたレオンは、今では爺ちゃんに並ぶ魔法使いと噂されている。
 俺はレオンに言う。

「言っておくが、今回はクロガネの二年間の修業の成果を確認するために戦うだけであって、お前とは戦わないからな?」
「何でだよ。俺を避け続けたのは、仕事が忙しいからだろ? クロガネと戦うんなら、時間があるって事だろ? それにクロネからも、最近は仕事の方も大分落ち着いてきたって聞いてるんだからな?」
「チッ、余計な事を……」

 レオンの言葉に俺が舌打ちをしていると、クロガネが「邪魔するな」とレオンに対して注意をした。

「戦い終わってから主と話せ。今は俺が戦うんだ」
「はいはい、順番は守るよ」

 クロガネの言葉にレオンはそう言った。
 それからクロガネは武器を構え、「早く始めよう」と口にする。
 俺は溜息交じりに言う。

「レオンの事は後で考えるとして、今はお前との戦いに集中するか……この二年間、どれだけ強くなったのか確認させてもらうぞ、クロガネ!」
「必ず勝つ」

 俺とクロガネは互いに武器を構え、戦いを始めた。


 ◇ ◇ ◇


 戦いが始まって数分間、俺とクロガネは互いに一歩も譲らない攻防を続けた。
 クロガネの戦闘スタイルは、二年前とは変わっており、大剣一つを使う戦い方だったのが、今は大剣二つを使う双剣スタイルに変わっている。
 とはいえ、片手剣二つとは違う。大剣二つのクロガネの双剣スタイルは、普通の双剣とは力が圧倒的に違った。

「一撃一撃が本当に重たいな……」

 クロガネが武器持ちだから、俺も武器を持って戦い始めたが……これなら武器を持たずに回避で何とかすれば良かったと後悔している。

「主、昔よりも動きにキレがある。訓練してたのか?」
「ほぼしてないぞ? 多分あれだな。俺の場合は急激なレベルアップを続けていたから、二年前の時点で、体と能力値が噛み合ってなかったんだ。二年間大人しく生活していたおかげで、体と能力値が噛み合ったんだと思うぞ」
「なるほど。なら、一番強い主と一番初めに戦えてるという事になるのか……嬉しいな!」

 クロガネはそう言うと、更に力を上げて猛攻撃を仕掛けてきた。
 こんなにも純粋な戦士タイプとの戦いは初めてに近いな。
 俺は徐々に押され始める。

「流石、クロガネ。この二年で接近戦の戦い方を完全にマスターしたみたいだな」
「この魔物の体になって、強くなったのは良いけど、体の使い方を完全に理解できてなかった。だけど、この二年間で俺は自分の体の使い方を完全に理解した。今の俺は、竜王にだって力が届くはずだ」

 クロガネは自信満々にそう言うと、両手の大剣を勢いよく振り下ろしてきた。

「アリスが見ている以上、俺だって負けたくはないな!」

 俺はそう叫び、無数の魔法を同時に展開した。
 この二年間で戦闘訓練こそしていなかったが、仕事の効率化のために【並列思考】を多用していた。そのおかげで、同時に魔法を放つ数が増えたのだ。
 クロガネは俺の放った魔法の数に驚いていたが、大剣を上手く使い何とか全て回避する。

「主が化け物だと知っていたが、訓練してないのに、更に化け物力が上がってるとは思わなかった」
「仕事を頑張った副産物だよ。正直このスキルがなかったら、俺は今頃干乾ひからびてるかもしれないからな」

【並列思考】をゲットしていて本当に良かったと、俺は改めて感じた。


 その後、無数の魔法を同時に放つ俺に対し、クロガネは大剣を上手く使って――という激しい攻防が続いた。
 二年前のクロガネなら、既に体力の限界に達している筈だ。
 しかし、修業のおかげか、未だに体力が余ってる様子。

「力に加えて、持久力も上げてきたんだな」
「体力がないと化け物どもにはかなわないからな。むしろ力よりも体力の方をメインに修業していた」

 戦いながらクロガネはそう言った。
 その後、何やらクロガネの様子が徐々に変わり始めた。黒色の体に赤い線のような模様が現れ、頭のつのの先っぽも赤に変色した。

「その姿はどうしたんだ?」
「数千体の魔物を倒した時、血を浴びすぎたせいか、【狂化きょうか】が変化して【血色けっしょく狂化】というのになった。力もスピードも今までよりも更に上がるスキルだ」

 クロガネは言い終わると、一瞬にしてその場から消えて、俺の目の前に姿を現した。
 その速度は、二年前に戦った竜王を超えている。

「グッ」

 一瞬すぎて対応が遅れた俺は、初めてクロガネの攻撃を食らった。
 その攻撃の重さに、俺は立ちくらみを覚える。頭がガンガン鳴り響いていた。

「主、もう終わりか?」
「……そんな筈がないだろ? いい気になるなよ?」

 クロガネのあおりに、完全に乗ってしまった俺。
 怒りに任せて、魔力を大量にかき集める。

「クロガネ。今のお前なら、生き残れるだろ? 信じてるぞ」

 俺はそう言うと、クロガネに向かって、更に数を倍に増やした魔法で攻撃をした。
 その魔法の数に、見学しているアリスとレオンは驚いている。攻撃を仕掛けられたクロガネもまた驚いているだろうと、俺はその顔を見たのだが――
 クロガネは笑みを浮かべていた。
 俺は違和感を覚えた。

「【魔法吸収】」
「ッ!?」

 クロガネは俺の魔法に対し【魔法吸収】のスキルを使った。
 魔法が全てクロガネに集まっていき、吸収されていく。

「お前、今何をした?」
「見ての通り、魔法を食った。主の魔法は美味おいしかった。もっと魔法を撃ってきても良いぞ」


 舌をペロリと出して、美味しかったというような顔をしたクロガネに対し、俺は……

「ハハハッ! クロガネ。お前、本当に強くなったな!」

 嬉しさのあまり笑い、笑みを浮かべた。

 強くなる事に貪欲なクロガネだが、魔法への対処は苦手としていた。魔法使いへの対抗手段は、二年前の時点ではそこまでなかったのだ。
 だが、今の技は完璧な魔法使い殺しのスキルだ。

「だけど、クロガネ。もう少し上手く嘘をつかないとだめだぞ。お前、その技を今使ったって事は食えるのにも限度があるんだろ? 予想だけど、お前自身の魔力総量以上の魔法は吸収できないってところか?」

 魔法を食った事には驚いたが、クロガネの体は傷がついていた。
 魔法を食えるのであれば、全て食えば良い筈。一部だけ食らって、あとは体で受けるなんて馬鹿な事は、普通しないだろう。
 であれば、魔法が食えない何かがある。
 そしてその何かとは……「魔法を食える容量に限界がある」と予想を立てたわけだ。

「流石、主だな。一度見ただけで、そこまで見抜くなんて」
「経験則だよ。まあ、俺の魔法を食いたきゃ食って回復しても良いぞ。ただそれ以上の魔法を用意してやるけどな!」

 それから俺はクロガネを近づけないように、大量の魔法を駆使してクロガネとの戦いを続けた。


 その後、一時間ほど戦いは続いた。
 クロガネは【魔法吸収】を駆使して立ち回っていたが、徐々にその体力は失われていった。
 無限に魔法を吸収できるように見せかけて、やはり【魔法吸収】もそれなりに代償があるみたいだな。

「ハァ、ハァ……主はやはり化け物だな」
「そんな化け物相手に戦えてるんだから、お前も相当化け物寄りだよ」
「俺は魔物だから、良いんだ!」
「転生する生物って時点で、化け物だろうが!」

 そう言い合いながら、俺達は戦い続けた。
 体力が落ちてきているクロガネだが、戦いの中でも成長していた。
 俺が展開する魔法に対して、無駄な魔法や自分にとって軽傷で済む魔法に関しては、【魔法吸収】を使わないようになっていたのだ。
 そうして魔法を避けつつ、俺の近くまで接近する時があった。

「ふぅ~……やはり、主は化け物だ。二年間、戦っていなかったというのは嘘なのか?」
「本当だよ。嘘と思うならクロネに聞いてみろ。あいつはずっと俺の仕事をしてる姿を見てるからな」

 クロガネの言葉に俺はそう返した。
 既に体力限界のクロガネ。意識を保ってるのも限界の様子だ。これ以上、戦いを続ければこいつの体力が切れ、倒れるだろう。
 そうなれば俺の勝ちとなるが……

「そんな負け方じゃ、二年間修業してきたクロガネも納得いかないだろうな」

 俺はそう思い、更に魔法の威力を上げて放った。
 クロガネの対応が少し遅れる。
 俺はその瞬間を狙って、クロガネのふところへと移動。
 腹部に全力で蹴りを入れた。
 クロガネはそれを避けれず、そのまま数メートル吹き飛ぶと岩にぶつかり、気絶したのだった。


 ◇ ◇ ◇


「ふぅ~、疲れた。流石に強くなりすぎだろ……」

 気絶したクロガネを確認した俺は、その場に座り込みながらそう言った。
 二年間修業してきたとはいえ、クロガネは強くなりすぎだ。
【魔法吸収】なんて魔法使いにとって最悪な技まで身につけ、身体能力も以前から更に上げてきやがった。
 クロガネが来る数日前から、ちょっとだけ運動をしておいて良かったな。
 してなかったら、俺は確実に負けていたと思う。


「お疲れ様、アキト君。久しぶりにアキト君の戦ってる姿を見られて楽しかったよ」
「それは良かった。まあ、当分はこんな派手な戦いはしたくないけどな……」
「おいおい。それはひどいだろ? こんな面白い戦いを見せておいて、俺はお預けか?」

 アリスと話していると、同じく観戦していたレオンがそう言いながら近づいてきた。
 俺は溜息交じりに告げる。

「元々勝手に見に来たんだろ。戦いたいならクロガネと戦えよ。対魔法使いだとしたら、あいつほど厄介な奴はいないと思うぞ」
「……確かにそれはそうだな。魔法使いとして、クロガネは天敵みたいな者になったみたいだし、あいつと戦うのも面白そうではあるな」

 レオンの標的をクロガネに変えたところで、クロガネが意識を取り戻した。やっと、自分が負けた事に気づいたようだな。

「主は強いな。これでもかなり強くなったと思ってたのに……」
「クロガネも強くはなってたと思うぞ。ただ、クロガネは対魔法使いとの戦闘経験がまだ浅いと感じたな。【魔法吸収】を習得して魔法に対しての対抗策ができて、逆に無駄な動きが多くなった気がする。昔の方がまだ魔法を避けたりしていたから、以前の動きを取り戻して【魔法吸収】を上手く使えばもっと強くなると思うぞ」
「戦いながらそんなところも見てたのか……主には、まだ勝てそうにないな……」

 そう言うと、クロガネは落ち込むと思っていたが……そんな事はなく、やる気に満ちた目をしていた。

「まあ、クロガネとレオンは互いにいい訓練相手になると思うから、二人で強くなってけばいいと思うぞ。俺は暫く戦いたくはないからな」
「とか言ってるけど、アキト君って何だかんだ頼まれたらやりそうだけどね。今日も楽しそうに戦ってたし」
「……そんな事はない。現にレオンからはずっと逃げていたからな」

 俺はアリスの言葉を否定しておいた。


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