愛され王子の異世界ほのぼの生活

霜月雹花

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4巻

4-3

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「でも今は色々な問題が片付いたし、そろそろリベンジマッチしたいよな」

 そう呟きながら、俺は自分のステータスを確認してみた。


 名 前 :アキト・フォン・クローウェン
 年 齢 :10
 種 族 :クォーターエルフ
 身 分 :王族、公爵、クローウェン商会・商会長
 性 別 :男
 属 性 :全
 レベル :248
 筋 力 :25984
 魔 力 :37487
 敏 捷 :23991
  運  :78
 スキル :【鑑定:MAX】【剣術:MAX】【身体能力強化:MAX】
        【気配察知:MAX】【全属性魔法:MAX】【魔法強化:MAX】
        【無詠唱:MAX】【念力:MAX】【魔力探知:MAX】
        【瞑想:MAX】【威圧:MAX】【指揮:MAX】
        【付与術:MAX】【偽装:MAX】【信仰心:MAX】
        【錬金術:MAX】【調理:MAX】【手芸:MAX】
        【使役術:MAX】【技能譲渡:MAX】【念話:MAX】
        【木材加工:MAX】【並列思考:MAX】【縮地:MAX】
        【予知:MAX】【咆哮:MAX】【幻術:MAX】
        【防御の構え:MAX】【精神耐性:MAX】【直感:MAX】
        【忍耐力:MAX】【魔法耐性:MAX】【千里眼:MAX】
        【限界突破:MAX】【棒術:MAX】【短剣術:MAX】 
        【槍術:MAX】【大剣術:MAX】【鞭術:MAX】
        【魔法剣:MAX】【サーチ:MAX】
 固有能力:【超成長】【魔導の才】【武道の才】
        【全言語】【図書館EX】【技能取得率上昇】
        【原初魔法】【心眼】【ゲート】
 称 号 :努力者 勉強家 従魔使い
          魔導士 戦士 信仰者
          料理人 妖精の友 戦神 
      挑む者
 加 護 :フィーリアの加護 アルティメシスの加護 アルナの加護
      ディーネルの加護 フィオルスの加護 ルリアナの加護
      オルムの加護


 スキルブックで覚えた【サーチ】が、いつの間にかレベルMAXになっている。
【サーチ】のスキル、想像していた以上に使い勝手がいいんだよな。アイテムを作るため、材料採取をする時に役立つんだ。
 基本的に材料採取は配下の奴隷達に任せている。だけど入手困難なものは、俺がりに行く事もある。
 そんな時【サーチ】を使えば、目的の材料がどこにあるかすぐ見つけられるんだ。
 本当に便利なスキルなので、アルティメシス様には感謝しているよ。
 ステータス確認を終え、読書をしていたら、シャルルが部屋に入ってくる。

「アキト様。今、よろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」

 俺は本にしおりを挟んで閉じ、テーブルの上に置いた。

「読書中でしたか、すみません」
「いいよ、暇だったし。それで、どうしたんだ?」
「アキト様に頼まれていたものが完成したと、魔道具開発部から連絡がありました」

 その報告を聞き、嬉しさから思わず「おっ」と声が出てしまった。

「そうか、意外と完成が早かったな~」
「簡単なものだったので、すごく簡単に作れたと申していました」
「はは、頼もしい奴等だな。それで、完成品は持ってきたのか?」
「はい。アキト様に渡してほしいと言われ、魔道具開発部から預かってきました」

 シャルルはそう言うと、異空間からベルト型の魔道具を取り出す。
 今回、魔道具開発部に頼んだもの――それは、〝筋トレに使う魔道具〟だ。
 俺は戦闘スタイルを、魔法を使うものから【魔法剣】を使うものに変更した。剣を使うようになったので、体を鍛えるのが最近の趣味なんだよな。
 だけどこの世界には、使いやすい筋トレの道具がなかった。なので、開発してみたってわけだ。
 俺にベルト型魔道具を手渡しながら、シャルルが説明する。

「アキト様の注文通り、魔力を込めた分だけ重くなるよう作ったそうです。最大で百キログラムまで重くなるとの事でした」
「おお、この短期間でよく作れたな!」

 早速魔道具に魔力を流したら、ズシリと重くなるのが分かった。

「これでちょっとした空き時間にも筋トレができるな。作ってくれた者達には感謝しないと」

 シャルルはそれを聞いて「アキト様のそのお気持ちだけで十分ですよ」と言ってきた。
 シャルルは俺を崇拝すうはいしてるから、俺への対応が激甘なんだよな……
 魔道具開発部には、あとでお礼を言っておこう。
 シャルルが出ていったあと、俺は片手に筋トレ用の魔道具、片手に本を持って、筋トレと読書を同時にこなしながら過ごした。
 筋トレ用の魔道具は、想像以上に使い心地がよかった。
 でもそのせいで筋トレをやりすぎて筋肉痛になってしまい、夕食の時は思うように食器が使えなかった。
 ちょっと情けなかったけど、アリスに「あーん」してもらえたから、結果オーライかな?


 ◇ ◇ ◇


 そして数日後。
 俺はレオンとクロガネを部屋に呼び出している。

「アキト、どうしたんだ? また模擬戦でもするのか?」

 嫌そうに聞いてきたレオンに、呼んだ理由を説明する。

「模擬戦じゃないよ。実はアルティメシス様に、新しい迷宮の場所を教えてもらったんだ。だからレオンとクロガネも、一緒に攻略しに行こう。迷宮のある場所はちょっと遠いけど、構わないよな?」

 竜王や爺ちゃんを倒すという目標のため、俺はこうやって定期的にアルティメシス様に迷宮を教えてもらい、レベリングをしているんだ。
 ちなみに爺ちゃんが修業している迷宮は、なぜか教えてもらえないんだよな。
 爺ちゃんだけズルいけど、まあそんな事を言ってても仕方ない。

「アキトが遠いって言うなんて……それってもしかして、他大陸にあるのか?」
「ホカノタイリクッテコトハ……」

 レオンとクロガネは、迷宮のある場所の見当がついているみたいだ。

「そう、迷宮は俺がまだ訪れていない獣人の住む大陸――獣人国・レンパードにあるんだ」

 それを聞いて、二人は慌てふためく。

「は!? なら、遠いなんてレベルじゃねぇだろ! 魔帝国まていこくの飛行船の技術を使っても、獣人国に行くには二週間以上掛かるんだぞ!」
「ホンキデイクノカ?」

 二人は模擬戦の時より更に嫌そうな顔をして騒ぎたてた。
 俺はそんな二人――というかレオンを見て、首を傾げる。

「あれ、レオンは獣人国に行った事ないのか? 獣人国に速く行ける手段を知ってるかと思って、ちょっと頼りにしてたんだけどな~」

 なぜならレオンは、魔帝国の元・魔法騎士団団長だからな。
 魔帝国は好戦的な国だから、獣人国にも侵攻した事があるんじゃないかと思ったんだ。
 だけどレオンは、むっとしながら言う。

「獣人国なんて、魔帝国にいた頃でも行った事ないぞ。いくら魔帝国が好戦的でも、あんなに遠い場所じゃ、わざわざ攻め込む意味がないからな」
「なるほどね……それじゃ、仕方ないな。ジルニア国から獣人国までは、時間が掛かっても飛んでいくしかなさそうだ」

 俺がそう言った途端、レオンが転移魔法で逃げようとした。
 それと同時に、クロガネは部屋の窓から飛び出そうとする。

「ガッ!」
「ウッ……」

 俺は逃走を試みた二人を魔法で捕縛し、逃げられないようにしてから説教した。
 あるじである俺がせっかくいい迷宮の情報を教えてもらったんだから、地の果てだろうとついてくるべきだろ。
 延々と説教を続けていると、レオンとクロガネは「獣人国に行く」と言ってくれた。
 まあ、行くって言わなくても無理矢理連れていくつもりだったけどさ。

「……それで、獣人国に行く手段はどうするんだ? 飛んでいくって言ってたけど、飛行船でも使うのか?」

 レオンがそう聞いてきたので、さらっと答える。

「いや、飛んでいくって言ったろ。言葉通り、魔法を使って飛んでいくんだよ」
「「……」」

 レオンとクロガネは無言で顔を見合わせた。
 そして拘束されているにもかかわらず、逃げようともがき始める。

「二人とも、行くって言っただろ!?」

 俺が叱ったら、クロガネとレオンは必死に訴えてくる。

「アルジ。サスガニソレハ、ムボウデハナイノカ……!?」
「そうだそうだ! いくら自分が化け物だからって、同じ事を普通の人間にやらせようとするなよ!」
「だってクロガネは空を飛ぶスキルを持ってるし、レオンだって魔法使って飛べるだろ? 飛行船を使うより、魔法で向かった方が速いんだよ」

 レオンが即座に「ふざけんな!」と声を上げる。

「いくら速いって言っても、ずっと魔法で飛びっぱなしなんて無理だろ! 獣人国に行くには海を渡る必要があるんだぞ? 辿たどり着く前に魔力切れを起こしたら、海に落ちておぼれるだろ!」
「俺達の魔力なら問題ないと思うけどな。アルティメシス様も大丈夫だって言ってたし」

 すっかり忘れてたけど、そういえばアルティメシス様に質問してたんだった。
 そして俺達の魔力量なら、飛行で海を渡る事もギリギリ可能だと教えてもらったんだ。
 レオンが心底嫌そうに聞いてくる。

「……マジで魔法で飛んでいく気か?」
「ああ。既に獣人国の王族に、俺達が会いに行くという話を通してあるからな」
「はぁ? 関わりのない国にどうやって連絡を入れたんだ? 冒険者ギルドでも使ったのか?」

 まあ、レオンの反応も当然だよな。冒険者ギルドは全ての大陸に存在していて、各大陸への通信網を持っているから。
 でも今回俺が取ったのは別の手段だ。

「いや、冒険者ギルドじゃない。神様経由で獣人国の王族に連絡したんだ。アルティメシス様に獣人国で信仰されている獣神じゅうしん様を紹介してもらって、獣人国の王族への連絡を頼んだんだよ。というわけで獣人国には俺達三人が行くって伝えてあるから、すっぽかすという選択肢はないぞ」

 レオンはぽかんとしたあと、うんざりした様子でぶつくさ言い始める。

「……神を使うとか、なんでもありかよ。それならいっその事、神様の力で獣人国に移動させてもらえばいいだろ」
「それが、あまり人間に干渉かんしょうするのは駄目らしいんだよ。アルティメシス様が俺達と深く関わってるから、今更って感じはするけどさ」

 一連の話の流れを聞いて、レオンとクロガネはもう行くしかないのだと観念したみたいだった。
 というわけで、獣人国には二日後の朝に向かう事、【身体能力強化】を使って全力で飛べば十時間程で着く事などを二人に伝える。
 だけど二人とも飛んでいくのがよっぽど気にくわないようで、深い溜息を吐いていた。



 第4話 獣人国・レンパード


 それから二日経ち、俺、レオン、クロガネの三人は、いよいよ獣人国に旅立つ事にした。
 アリスには「ちょっと出掛けるので留守番をよろしく」と声を掛け、奴隷達には「何があってもアリスを守るように」と命じておいた。


 ◇ ◇ ◇


 俺達は魔法を使い、獣人国を目指して海の上を飛んでいく。
 海上には魔物がいないので、誰にも邪魔されず快適な空の旅が楽しめた。
 海中から海の魔物が襲ってくる事もあるんだけど、俺、レオン、クロガネの放つ強力な魔力の気配に怯えているのか、今は姿が見えない。
 海の魔物を倒したら、獣人国への土産みやげにしようと思ってたから、襲ってきてくれてもよかったんだけどな……
 そんな事を考えてたら、レオンが聞いてきた。

「おいアキト。今、変な事を考えてなかったか?」
「んっ? 別に変な事じゃないよ。ただちょっとくらい、遊び相手になる魔物が欲しかったなって思っただけだ」
「アキトと違って、俺とクロガネは飛ぶので精一杯なんだよ! 遊び相手が欲しいなら、一人で海中にでも潜ってろ」
「酷いな、別にそこまで言わなくてもいいじゃないか……」

 俺は軽くねつつ、レオンに言われた通り海の中へ突っ込んだ。
 するといきなり、海の魔物・シーサーペントに出くわす。
 俺と目が合った瞬間、シーサーペントがギョッとした顔で逃げようとした。

「逃げんなよ!」

 そう言ってシーサーペントの尻尾しっぽを掴み、海上にいるレオン達に向けてぶん投げる。
「ザバアッ!」と水しぶきを立てて飛んでいったシーサーペントは、見事にレオン達に命中した。
 そのせいで集中力が途切れてしまったのか、レオンとクロガネが海に落ちてきた。
 なんとか波の上に浮かび上がったレオンが、ずぶぬれのまま怒鳴ってくる。

「オイ、アキト! 何してんだよ!」
「えっ? レオンに酷い事言われたから、ちょっと悪戯いたずらしただけだろ。どうだった? いきなり魔物が飛んでくるドッキリは」
「心臓に悪いわ!」

 キレ散らかすレオン。

「オレ、ナニモイッテナイ……」

 巻き添えになった形のクロガネは、ひたすらしょんぼりしていた。


 悪戯が成功して気分がよくなったところで、空の旅を再開する。
 獣人国までは休憩なしで行くつもりだったけど、途中でレオン達に「休みたい」と泣きつかれてしまった。
 仕方ないので偶然見つけた無人島に着陸し、体力と魔力を回復させる事にする。
 皆で草の上に座ったところで、レオンが深い溜息を吐く。

「はぁ~……それで、あとどのくらいで着くんだ?」
「多分二時間くらい飛んだら着くんじゃないか? 思ってたより速く進んでるし」

 ジルニア国を発ってから、五時間程経過した。獣人国にはかなり近付いているだろう。
 しかしレオン達は、あと二時間も飛ぶと聞いてウンザリしたらしく、心底嫌そうな表情を浮かべていた。
 二人の反応はスルーして、俺は無人島を見回す。

「ってかこの島、なんとなく下りてみたけど、なかなかいい感じじゃないか?」

 俺につられたのか、レオンも周囲を眺める。

「確かにな……ある程度大きな島だし、自然も豊かだし」
「この島は多分、獣人国の領地だよな。向こうに着いたら、この島の事を聞いてみるか。もし許可が貰えたら、別荘を作ってみたい」
「……唐突な思いつきだな? まあでも、俺もその案はいいと思うぞ」
「ナニモナイトコロダカラ、ヤリガイガアリソウダ」

 俺達はそんな会話をしつつ、休憩を終えて無人島を出発した。


 ◇ ◇ ◇


 陽が暮れる少し前、獣人国の港町が見えてきた。
 いざ着くとなったら、レオン達が心配そうに聞いてくる。

「なあ、アキト。着いたのはいいが、本当に入国して問題ないのか?」
「ダイジョウブナノカ?」
「大丈夫だよ。事前に連絡はしてあるって言っただろ?」

 地面に下り立つと、獣人国の住民達がざわつき始めた。
 そして住民達の集団の向こうから、一人の少年が現れる。
 住人達が一斉に「王子!?」と叫んだ。
 少年は俺の前まで歩いてくると、片手を上げて気さくに言う。



「無事に到着したみたいだな、アキト」
「おう、レグルス。久しぶり」

 この少年の名前はレグルス。虎人とらじん族の獣人で、虎の耳と尻尾が生えている。
 レグルスと俺がなぜ知り合いなのかは、あとで説明しよう。
 レグルスは楽しそうに俺に聞いてくる。

「おっ、そっちの奴等がアキトの配下か?」
「ああ。赤い髪の男がレオン、黒いオーガがクロガネだ。俺の配下の中でも、トップクラスに強い奴等を連れてきたんだ。あとで手合わせをしてみるか?」
「いいのか! よっしゃ~!」

 戦うのが大好きなレグルスは、無邪気むじゃきにはしゃいでいる。
 そんな俺達の会話を聞いて、レオンがものすごく怪訝けげんな顔をしながら「なあ、アキト」と声を掛けてきた。

「これ、どういう事なんだ?」

 俺はレオン達に、レグルスを紹介する。

「ああ、言い忘れてたな。こいつは俺の友達で、獣人国の王子・レグルスだ。前に説明しただろ? 神様を経由して連絡した相手だよ」
「よっ、レグルスだ」

 レグルスは人懐ひとなつっこい笑みを浮かべ、レオンとクロガネに挨拶した。
 レオンとクロガネはに落ちない様子で、「んっ?」という反応をする。
 レオンは少し考え込んでから、俺の方を向いて真剣な顔で尋ねる。

「なあアキト……もしかしてだけど、前に獣人国に来た事あるのか?」
「あるよ。関わりがないとか来た事がないとか言ったけど、全部嘘だ。というか獣人国にも【ゲート】のスキルで扉を作ってあるから、本当は【ゲート】を使えば一瞬でここまで来れる」

【ゲート】っていうのは、空間と空間をつなぐ扉を作り出すスキルだ。簡単に言うと、設置型の転移魔法である。
 レオンは心底呆れた様子で、クロガネに言う。

「嘘にも限度があるだろ……なあ、クロガネ。アキトは頭のネジがぶっ飛んでなくなってるみたいだな」
「ナンデオレタチハ、ワザワザトンデキタンダ……」
「それはその……訓練だよ。レオンもクロガネも飛ぶ能力は持っているけど、普段使わないだろ?」

 俺の弁解を聞いたレオンとクロガネは、「だからって何時間も飛ばせるか?」と言いたげな表情を浮かべ、ジト目で俺をにらんできた。
 ま、まあ、ひとまず無事に獣人国へ辿り着いてよかったよかった。
 そういえば、アリスにも獣人国とは関わりがないとか無意味に嘘をついてしまったな……帰ったらお土産でも渡して謝っておこう。


 ◇ ◇ ◇


 それから俺達はレグルスが準備した馬車に乗り込み、迷宮に近い街に移動していく。
 道中で、レグルスが楽しそうに話し掛けてきた。

「アキトと会うのは久しぶりだな」
「レグルスは同い年の王子だから、会えて嬉しいよ」

 レグルスの種族は獣人族の一種、虎人族だ。
 虎人族は獣人族の中でも特に戦闘能力が高い。力が強く、動きも素早いんだ。
 ちなみに獣人族には様々な種族がある。数百年前は、どの種族が獣人国のトップとなるか決める争いがたびたび起こっていたらしい。
 その戦いで、最も力を発揮したのが虎人族だった。なので虎人族は、数百年前から獣人国の王として君臨しているそうだ。
 王家の一員であるレグルスは、幼い頃から優れた戦士だった。
 獣人族は一夫多妻いっぷたさい制なので、王家には多くの子供がいる。そして全員に王位継承権があるので、戦って世継よつぎを決めるんだ。
 レグルスは三年前にその戦いに参戦し、次々に兄弟達を倒した。
 そしてとうとう全ての兄弟を倒し、第一王位継承者となったのだという。

「そういえばレグルス、第一王位継承者になってから、家族との仲はどうなんだ? 兄弟達とは仲良くしてるか?」
「う~ん、仲良しの兄弟もいれば、そうじゃないのもいるって感じかな」
「そうか……まあ、兄弟でも相性があるんだろうな。何か困った事があれば手伝うから、なんでも言ってくれよ」
「アキトが味方ってのは心強いな。あっ、そういえばオルゼノ国を傘下さんかに入れたんだって? 親父おやじがそれを聞いて、一度アキトと戦ってみたいって言ってたぞ」

 竜王だけでなく、とうとう獣王じゅうおうにまで目をつけられたと知り、俺は「マジか」と呟いた。

「いつか目をつけられそうだとは思ってたけど、こんなに早くとは……」
「まあ、前からアキトには目をつけてたみたいだぞ? 親父――獣王・レオナードはアキトの爺ちゃんと戦った事があるらしいし」
「爺ちゃん、誰とでも戦ってんな……他大陸とあまり交流しない獣王とも戦ってるとは……」

 だけど今は竜王との戦いを控えているから、獣王との戦いは遠慮したいな。
 そう考えていたら、レグルスが残念そうに言う。

「でもまあ、親父は今戦える状態じゃないからな~」
「えっ? 何かあったのか?」

 俺が聞き返したら、レグルスは困った顔で答える。

「う~ん、ちょっとした王族内でのゴタゴタだよ」
「なるほどね……内輪うちわの話なら、俺は関わらない方がいいかな?」
「それがいいよ。俺は巻き込まれたくなかったから、王都から港町に出てきたんだ」

 レグルスはしょんぼりしている。
 どうやら、家族が揉めているので王都には帰りたくないみたいだ。

「そっか……なら、一緒に迷宮に行くか?」

 俺が尋ねた途端、レグルスは目を輝かせて「いいのか!?」と聞き返してきた。

「ああ、構わないさ。レオン達もいいだろ?」
「アキトがいいなら、いいんじゃないか?」
「オレモ、アルジガイイナラ」

 レオンとクロガネもそう言ってくれたので、もう一度レグルスに確認する。

「だ、そうだ。どうする?」

 レグルスは嬉しそうに「行く!」と返事をした。
 そんな会話をしているうちに、馬車は迷宮近くの街へ到着する。
 宿に荷物を置いて、すぐに迷宮に向かう事にした。


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