愛され王子の異世界ほのぼの生活

霜月雹花

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3巻

3-3

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 竜王は嬉しそうに告げると、俺に背を向ける。そして飲み食いしているリオン爺ちゃんを見つけ、爺ちゃんの首根っこを掴んで何処かへ消えていった。
 ふ~……マジで威圧いあつやべぇだろ、竜王様!
 周りに威圧がいかないよう配慮してくれてたみたいだけど、俺だけに威力を与えるよう弱めてあれってヤバすぎる!

「はぁ……強くなったと思ってたけど、まだまだ上には上がいるのか。というか、あれに勝負を挑んでる爺ちゃんは何者なんだよ。能力値の差もあるだろうに……」
 それから俺は挨拶回りを終えて気疲れしてしまい、アリスのもとに逃げた。優しく迎えてくれたアリスと一緒に祭りを見て回る。

「アキト君、あっちも見ていい?」
「うん、いいよ。アリスが好きな所を見て回ろ」

 俺は運営側の人間だし、祭りの出し物を全て把握している。だから、アリスを案内するようにして、彼女が見たい物、食べたい物の屋台を中心に巡っていった。というか、そのほうが俺も満足できるしね。
 ベンチでクラーケンのイカ焼きを食べていると、楽しそうな雰囲気に惹かれたのか、どこからともなく俺の従魔であるスライムのライムが現れて、「ぴっ!」と言いながら頭の上に乗ってきた。


 更には姉さんと兄さん、祭りに来てくれていたクラスメイトのルークとリクも合流して、皆で祭りを楽しんだ。
 こうして復興祭は大成功に終わったのだった。



 第4話 四年の月日


 俺が異世界に転生してから、十年の歳月が経った。
 そう、いきなりだが、俺は十歳になっている。
 五年前までは戦争だなんだと忙しい日々を送っていた気がするが、ここ数年は落ち着いた日々を過ごしている。最近は卒業式の練習が多い。学園生活も終わりが近づいているのが感じられて、少し寂しい気持ちだな。


「アキト君、予定が空いてるんなら、いつものメンバーで卒業旅行に行かない?」

 卒業式の練習後、帰ろうとしているとルークに誘われた。
 学園に入学して友人第一号になったルークとは、結局五年間同じクラスだった。ちなみに姉さん、アリス、リクとは今は別クラスになっている。姉さんとアリスが、俺とずっと同じクラスのルークに文句を言って、彼を困らせた事もあったっけ。

「卒業旅行か……いいね。俺は賛成だよ」
「良かった~。アキト君いつも忙しそうにしてるから、断られるかと思ってたんだ」

 ルークは俺の返事に嬉しそうな顔を見せる。

「いやいや、友人と旅行に行くとなったら予定は合わせるよ。姉さん達にもこの話はしたの?」
「うん。後はアキト君だけだったんだ。アミリスさんとアリスちゃん、リク君は、アキト君の予定に合わせてくれるって」

 ルークがそう言ったところで、タイミング良く、別クラスのアリスとアミリス姉さん、リクが教室にやって来た。
 ちなみに、このメンバー以外にも俺はたくさんの友人を作る事ができた。なんだかんだ学園生活を楽しむ事ができたなあ。
 アミリス姉さんが早速尋ねてくる。

「アキトちゃん、時間は作れそうなの?」
「うん、姉さん達との旅行は是非ぜひ行きたいし、絶対に日程を調整するよ」

 俺が言うと、アミリス姉さんとアリスは嬉しそうに笑った。リクも俺の返事を聞いて「皆で行けそうで良かったよ」と笑みを浮かべる。
 今日は卒業式の練習でもう遅いので、具体的な旅行先などは後々話し合うとして、それぞれ帰宅した。俺は姉さんと一緒に家に帰った。


 自分の部屋に入るなり、突然声をかけられる。

「遅かったな、アキト」

 そこにいたのはレオンだった。

「来てたのか。すまんな、今日は卒業式の練習で遅くなったんだよ」
「あ~、もうそんな時期なのか?」
「そうだよ。ところで何か用事か?」

 すると、レオンはふところから封筒を一つ取り出した。
 俺はそれを受け取り、中身を確認する。竜王からの手紙で、「そろそろ暇な時期になるだろ? 試合するぞ」という内容だった。

「成程ね。タイミングを見計みはからって連絡してきたのか……もうこれ以上、先延ばしは無理そうだな……」
「そうみたいだな。諦めて死んでくるんだな」
「……俺が竜王と戦う前に、レオンでウォーミングアップさせるぞ?」
「やなこった」

 四年前、クローウェン領の復興祭で竜王と初めて会ってから何度か試合を申し込まれていたが、忙しかったので断っていた。だが、それも限界のようだ。

「みんなには悪いけど、ちょうど卒業旅行をしようって話になってたし、行き先は竜人国にしてもらおうかな。竜王と対戦なんて、思い出としてはインパクトあるだろうし」
「そうだな、インパクトしかないだろうよ」

 落ち込む俺を見て、レオンはニタニタと笑っている。
 マジでこいつから先にやらせてやろうかな。

「まあいいや。とりあえず竜王には、もう少し待っててもらうように連絡しといてくれ」

 俺がそう指示すると、レオンは「了解、じゃあな」と言って転移魔法でいなくなった。
 俺は制服から着替えると、ソファーに座る。そして改めて自分の体を観察する。

「しかしエルフって凄いよな~。十歳でこれって……」

 四年前の時点でも六歳にしては成長が早かった。十歳になった今は更に体格が良くなっている。
 エルフの血が流れていると、長寿ちょうじゅかつ成長が早いという特徴がある。俺の今の身長はかなり伸び、顔立ちは大人びると同時に整っている。髪型は爺ちゃんや父さんと同じように、金髪を少し伸ばして切り揃えており、いい感じに美少年な雰囲気だ。

「姉さんも一気に身長伸びてたし、俺より薄いっていってもエルフの血は凄いんだな」

 そんなふうに自分の体の作りに感心していると、メイドから夕食の準備ができたと呼ばれた。
 食堂に着き、既に家族が待つ席に俺も着く。

「エリク兄さん、帰ってきてたんだ」

 俺の席の横に座る兄さんにそう声をかける。ちなみに兄さんも成長し、美少年から美青年へ進化を遂げていた。

「うん、さっき帰ってきたんだよ。ほら、アキトにもお土産みやげあげるよ」

 エリク兄さんからお土産を受け取ると、俺はお礼を言って異空間へ入れる。
 兄さんは学園を卒業し、今では父さんの補佐をしつつ王様の仕事を勉強している。兄さんは物覚えが良い。以前は「アキトが王様をやればいい」なんて言っていた父さんも、ここ数年はそういう事を言わなくなった。
 俺は兄さんにふわっとした話題を振る。

「兄さん、最近の調子はどう?」
「う~ん、ボチボチかな?」
「そっか。まあ兄さんの後ろには俺がいるから、いつでも頼ってくれていいからね。一応、俺は家臣として、この国に仕えてるって事になってるし」
「うん。ありがとね、アキト」

 兄さんはいつもの笑顔を見せて、俺の頭を撫でた。
 兄弟の仲が悪くなるかもと思っていた時期もあったが、そんな事は全く起きなかったな。逆に、この数年で前よりも更に仲が良くなった。男兄弟ゆえに姉さんが立ち入れない部分もあって、嫉妬しっとされる事さえある。


 食事を済ませ、風呂に入った俺は、自室に戻るとベッドに横になった。
 もうすぐ学園も卒業――そう思うと感慨深いものがあり、この五年間の思い出がよみがえってくる。入学当初、友人ができなくて苦労したり、学園祭に出場できなくて悲しんだり、色んな事があったな。

「ってか、転生してまだ十年か。でも学生終了ってあっという間だな……って、それはアリスも一緒か」

 俺と一緒に学園に通うために、転生者でもないのに持ち前の努力で俺についてきた可愛い婚約者。最近じゃ成長して綺麗きれいになってきた事で男子から人気が出ていると影から聞いた。

「アキト様、今よろしいでしょうか?」
「んっ? どうした?」

 突然、影のリーダーであるディルムが現れたので、俺は体を起こした。
 ディルムがこんな夜更よふけに来るなんて、緊急事態か?

「以前から見張っていたのですが、ついに情報を掴む事ができました!」

 その報告に、ビクッと俺の体が反応する。
 ディルムには、数ヵ月前からとある人物をずっとマークさせていた。それは――元影のトップであり、俺の執事でもあるシャルルだ。シャルルがここ最近、俺や奴隷達に隠れて何かやっているのを察知した俺は、ディルムにシャルルを見張るように命じていたんだ。

「ッ! でかした! あの馬鹿、何度問いつめても『そんな事は知りません』と言ってごまかしていたからな。それで一体何をしていたんだ?」
「はい、こちらです」

 ディルムは異空間から、シャルルが隠していた物を取り出した。

「……俺の像?」
「はい。一番小さく持ち運びやすい物を持ってきたのですが、これと同じようなアキト様の像が大量に……」
「やめろ、それ以上は言うな!」

 嫌な予感がした俺は、ディルムの言葉をさえぎった。
 もしこれが普通の奴隷達のした事だったならば、別にとがめたりはしない。だがあの馬鹿に限っては、絶対に阻止しなければいけない。以前もこれと似たような事をしていて、一度やめさせたのだが、また隠れてやっていたのか。

「ディルム、とりあえずご苦労だった。もう普通の仕事に戻っていいぞ。後は俺が始末をつけておくから」
「はい、分かりました。ですが、今回報告したのが私だとはシャルルに言わないでください。後で私の所に来そうなので……」
「大丈夫だ。俺が見張っていて気付いた事にする。それに奴が詮索せんさくしてこようとしたら、酷いお仕置きをするつもりだからな」

 ディルムは安心したように部屋から出ていった。
 あの馬鹿、こんな像を作って一体何をしようとしていたんだ?

「これが持ち運びやすいって事は、これよりも大きいのがあるんだよな……もしかして奴、俺の像を教会とかに置くつもりなんじゃ……」

 俺はふと、シャルルが最近、領内で教会の整備をやっていると言っていたのを思い出した。
 つまり、整備にまぎれて、俺の像を置くつもりだったんじゃないか――そう考えるとブルッと体が震えた。

「マジでディルムが見つけてくれて良かったな……」

 明日キッチリとシャルルに話をつけなければいけないと決意し、俺はそのまま眠りについた。


 翌日、学園が終わってから、シャルルと話をした。
 最初は口を割らなかったシャルルに対し、俺はディルムが持ってきた像を見せ、像が隠してある部屋へ移動した。この部屋は更なる調査で判明していた。
 こうして俺の予想通り、シャルルが教会の整備に紛れて、俺の像を置くつもりだった事があばかれた。

「どっちがいい? つらいのと、魔力が少なくなるの?」

 俺がお仕置き用メニューを選ぶよう迫ると、シャルルはフルフルと首を横に振った。
 全力でお仕置きを嫌がるシャルルだったが、俺はこれ以上馬鹿な真似をしないよう、キツい調教をする事にした。

「両方だな」
「イヤァァァァ!!」

 シャルルの悲鳴が城中に響く。
 しかし、シャルルを助けに来る者はいなかった。


 ◇ ◇ ◇


 シャルルの調教から数日後のある日。
 今日は学園が休みなので、俺は領地の仕事をする事にした。
 最初に、不在にしていた間の資料を確認する。
 仕事は忠実にこなすシャルルと、その配下の奴隷達、そして協力的な民達のおかげで、クローウェン領は着実に発展し続けていた。

「なんだかんだいっても、シャルルは仕事が完璧なんだよな……ったく、奴はなんでこう性格だけがあれなんだ……」

 忠誠心があるのはいいんだが、ありすぎるのも困るんだよな。
 ちなみに、ディルムや他の奴隷達も俺に対しての忠誠心は厚いが、シャルル程常軌じょうきいっしてはいない。というか、そうだったら困るよ。あいつだけでも制御が大変なのに、シャルルみたいな奴が量産されたら精神衛生上良くない。
 噂をすればではないが、シャルルが声をかけてくる。

「アキト様、お疲れの様子ですが。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。って、もう昼時か?」

 俺は魔石で動く時計を確認する。既に昼を過ぎていた。
 ああ、だから腹の虫が鳴いていたのか。朝からずっと仕事をしていたから何も食べていなかったな。

「すまん、ちょっと飯を食べてくる。確認が終わった書類は、いつものように保管しておいてくれる?」
「はい、分かりました」

 シャルルに指示を出し、俺は食堂へ向かう。

「しかし、王都より発展しないようにするのも難しいよな……この四年間、じっくりじっくり成長させてきたが、これ以上の調整は難しいだろう……」

 王家の威厳を保つため、次期国王である兄と第二王子の俺を比べられないため、俺は意図的にクローウェン領の発展を遅くしていた。そのためこの四年間で、チルド村とラトア以外の街・村は急激な開発をしていない。変化といえば食料事情が良くなり、誰も飢える事はなくなったくらいだ。

「まっ、飢え死にする者が出なくなっただけでも民から絶大な人気を得たし、いい事か。逆にこれ以上領地に手をかけると、王都と比べられて変に目立ってしまう可能性もあったしな」

 食事を済ませた俺は仕事に戻った。その後一時間程で書類の確認は終わり、他の仕事に手をつける。
 すると突然リーフが現れ、話しかけてくる。リーフは俺と契約を結んだ妖精だ。

あるじ様~、今日はお仕事だけ~? 退屈~」
「悪いな、リーフ。今週は確認する書類がたくさんあってな。明日はアリスと魔法の特訓の日だし、我慢してくれ」
「う~、分かった~。それじゃフレムの所に遊びに行ってくる~」
「いってらっしゃい」

 火の妖精・フレムの所へ退屈で死にそうだったらしいリーフを送り出すと、俺は紙とにらめっこする仕事を続けた。
 こんなふうにして一つの仕事が片づくと、転移魔法で次の仕事場へ向かう。
 一日中仕事を続けた俺は、帰宅して夕飯を食べると風呂に入り、自室へ戻った。


「領地のほうは順調に進んでいるか……はぁ、後の問題は竜王だな……」

 暇ができたから行くと返事した手前、春休みには向かう事になるだろう。俺の命運も尽きたか……死ぬ事はないと思うが、アレと戦うのは本当に嫌だ。

「はぁ、ほんと真面目にどうにかならないかな……」

 そう願うものの、誰も竜王を止めてくれない。
 こうして竜王との戦いまで一ヵ月を切ったが、俺は逃げられないものかと色々考えていた。




 第5話 竜人の国


 結局、竜王と戦いをする心が決まらないまま学園の卒業を迎え、竜人国へ行く準備が着実に進んでいた。
 卒業旅行の行き先は、竜王との約束もあって竜人国にしたいと皆に伝えると、特に反対意見もなくすんなりと決まった。
 ……だけど、どうにか戦わない言い訳ができないものかな。
 頭を抱えていると、そこにレオンが来てこう言われる。

「アキト、もう諦めたらどうだ?」
「くっ、くそう! レオン、お前が先にやれ! そして少しでも体力を削れ!」
「やなこった! 竜王自らアキトを指名したんだんだろ? 俺なんて相手にする意味ないだろ? それに今回同行はするが、俺は休暇中の身だからな。せっかくの家族旅行だ、楽しむぞ~」
「ったく、娘に嫌われたらいいのに……」

 そう、三年前、レオンとクロネは子を授かった。性別は女の子で、名前は自分達から取り、レオーネと名づけたらしい。普段はチルド村で暮らしている。
 奴隷の子だから、勿論身分は奴隷となるわけだが、幼児に仕事をさせるのはマズい。そう考えた俺は、自分の奴隷については、十歳以下は仕事に従事させないという決まりを作った。

「ああ、そういえばレオーネからアキトに渡してほしいって言われて、手紙を預かっていたんだった」

 レオンが言いながら、俺に箱を手渡してきた。

「んっ? レオーネからか?」

 受け取って中身を確認すると、手紙と記録用魔道具が出てきた。


『アキトさま、パパがアキトさまのわるぐちをいってました』


 子供の文字でそう書かれた手紙を、レオンは俺と一緒に見る事になった。その下にはクロネの文字で『報酬:お菓子』と書かれている。
 レオンが声を上げる。

「お、おい……これはどういう事だ!?」
「んっ? ああ、レオンがたまに隠れて俺の悪口を言っていると耳にしてな。証拠がないし、どうしたものかと思っていたんだけど……一緒に暮らしてるレオーネなら証拠を掴めるんじゃないかと思ってな」

 そう言いながら、俺は証拠となるものが記録されているであろう、魔道具を起動した。
 魔道具は映像を映し出し音声が流れる。


『ったくよ~、アキトの奴、ますます凶悪になって、アレは子供にみせかけた悪魔だな!』


 映っていたのは、レオンとレオンの部下達が酒を飲んでいる姿である。レオンは酒に酔いながら、楽しそうに俺の悪口を言っていた。

「ふむふむ、これは完全に黒だな~」
「ちょっ、ちょっと待てよ、アキト!」

 レオンが焦って言うが、俺は耳を貸さない。

「諦めろ、レオン。お前は自分の娘に、お菓子の生贄いけにえにされたのだ」



 転移魔法で逃走しようとしたレオンに、俺は魔力を消す魔消弾ましょうだんを撃ち、レオンの魔法を止める。更に、俺はレオンの手足にかせめた。

「くっ、レオーネが少し前から、アキトの作るお菓子が好物になっていたのは知っていたが……まさか娘に売られる日が来るとは……」

 ガックリした様子のレオンを見て、俺はニヤニヤと笑う。

「いや~、俺がいない所だったら安全だと、油断したのがいけなかったな」
「娘を使ってくるとは思わないだろ! 卑怯ひきょうだぞ!」
「卑怯もクソもあるか。まあ、これでお前を竜王と戦わせる理由ができたな。竜王も、お仕置き代わりだったら戦いを引き受けてくれるだろうよ」

 喜ぶ俺のかげで、レオンが小声で言う。

「クソッ、子供の皮をかぶった悪魔だって事実を言っただけだろ……」
「それが悪口だろうが」

 悔しがるレオンにそう告げながら、俺はクロネに【念話】を飛ばす。

「クロネ、レオーネからの報告が届いてな。レオンを俺の前座として、竜王と戦わせる事にしたんだ。お前もレオーネと一緒に見に来るか?」
『あら、それは名案ね、ご主人様。最近、レオンったら家で酒ばっかり飲んでてうるさかったのよ。それで喧嘩したばかりだし、いい気味だからレオーネと一緒に見物させてもらうわ』
「了解。まあ試合が終わった後は、普通に休暇を楽しんでもらって構わないから。それと、レオーネに『よくやった』と伝えておいてくれ。報酬のお菓子は直ぐに準備して持っていく」

 クロネとの【念話】を切って、俺はレオンのほうを向く。
 レオンの奴、昔に比べて色々と駄目になってるんだよな……元々は軍人なのに、実戦を経験する事がなくなって平和ボケしたんだろう。定期的に訓練はさせてはいるけれど、レオンや自警団リーダーのジルといったトップ戦力の奴らは、最近目標がないせいか、体がなまり気味だ。今回の事は、レオンにとっても気を引き締めるいい機会になるだろう。
 俺は張り切って言う。

「さてと、これで俺の道連れになって墓場に行く奴ができたか。そうとなれば、気持ちを切り替えて用意を進めるぞ~!」
「さっきまで行きたくないって愚痴ってた癖に、何いきなりやる気出してんだよ!」
「えっ? だって、道連れになる奴ができたんだぞ? 俺一人だったら嫌だけど、道連れがいるなら話は変わるだろ? しかもレオンが前座だから、お前が先に死ぬ姿も見られるしな。それなら、俺が死ぬ価値もあるってもんよ!」
「な、なんなんだよ、この主は……こんな事を考える子供なんていないだろ! だから、悪魔だって言ってるのに……」

 ルンルンと準備を進める俺の横で、床にひざをついてレオンは泣いていた。


 ◇ ◇ ◇


 二日後、全ての準備が整い、ジルニア国から竜人国へ向かう飛行船に乗る。俺、アリス、ルーク、リク、アミリス姉さんは卒業旅行の目的地――竜王が治める竜人国ドラコーンへ出発した。

「……なんで、父さん達もいるの?」

 何故か飛行船には、ジルニア国王家ご一行が乗船していた。
 父さん、そして爺ちゃんが口々に言う。

「えっ? そりゃあ、アキトが竜王様と戦うって聞いたからね。父として、息子がどう戦うのか見ておきたいだろ?」
わしもじゃ」

 というわけで……いざゆかん、竜人の国へ!


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