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1巻

1-3

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「アキト。すまぬが、儂にお主のステータスを見せてくれぬか? スキル関係は見せなくて良いぞ。儂だって人には見せたくないからのう」

 確かに教えてもらう立場だし、ステータスを見せるのはすじだな。
 俺は、能力値だけの表示設定にして、爺ちゃんにステータスを見せた。

「……成程のう。魔力だけが飛び抜けておるのう」
「うん。ほら、俺って子供だから剣を扱うのは危ないでしょ? 魔法は本で読んでて興味があってさ、隠れて練習してたんだ」
「ふむ。それで魔力だけが強化されたんじゃな。この数値から見て、加護も持っておるじゃろうし……うむ、分かった。アキトの訓練内容は見直しが必要じゃな。今日のところは一旦帰って、アリウスに、魔法のコントロールの仕方を習っておくんじゃ」

 それから爺ちゃんは転移魔法を唱え、一瞬で俺を家まで送り届けてくれたのだった。


 爺ちゃんがいなくなった後、言われた通り父さんの所へ向かう。
 確か、父さんは書斎にいると言っていたな。

「父さん、今いいですか?」
「んっ? アキトか。今日はリオン父さんと魔法の訓練じゃなかったのかい?」

 部屋に入ると、書類を読んでいた父さんが質問してきた。
 まあ、どうせ全部バレるだろうと思っていたから――俺が爺ちゃんが決めた合格ラインを既に超えていた事を伝える。

「成程。確かにアキトの魔法レベルは普通の子供よりも大分高いからね。父さんが見誤っていたのは分かったよ。いつもやってるコントロールの訓練をするかい?」
「うん。爺ちゃんにもそれをしておけって言われてるから。でも、父さん仕事中じゃ……」
「大丈夫だよ。仕事は終わってて、今は確認してただけなんだ」

 父さんはそう言うと、見ていた書類を机に置く。
 そうして、妙にニコニコして近づいてきた。
 ああ、やっぱり父さんは爺ちゃんの子だな。爺ちゃんが俺に魔法を教えられるとなった時と同じ顔をしてるよ。


 父さんと訓練所へ向かう途中、学園から帰ってきたアミリス姉さんと合流する。
 アミリス姉さんも訓練に参加する事になり、俺に魔法を見せてくれる運びとなった。
 正直、爺ちゃんの後だしな……と期待していなかった俺の考えを吹き飛ばす程、アミリス姉さんは美しい魔法を見せてくれた。
 氷属性魔法で氷の花を作ってくれたのだ。

「凄い。姉さんの魔法、綺麗だね!」
「アミリスは、本当に魔法のコントロールが上手だ」

 俺と父さんが称賛すると、アミリス姉さんは照れながら言う。

「お父様の教え方が良かったからですよ。私は魔力が少ないので、アキトに良い所を見せるにはこんな方法しかありませんから」

 アミリス姉さんは爺ちゃんや父さんと違って、魔力量の伸び方が少ない。
 俺が生まれて間もない頃、それを気にしてよく泣いていたイメージがある。
 だからこそ、アミリス姉さんはこういった魔法を勉強していたんだな。俺は本当に良い姉を持ったと思う。
 父さんが俺達に声をかける。

「それじゃアキト、アミリス。始めるよ」
「はい! 今日もお願いします!」
「お父様、お願いします」

 父さんの言葉に返事をした俺とアミリス姉さん。
 父さんは「それじゃ、いつも通り魔力を集めて」と言い、魔法コントロールの訓練を始めるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「アキト、これはどういう事だい?」
「ご、ごめんなさい……」

 深夜、俺は自室の床に座り、父さんに謝罪していた。
 何故、こんな事になっているのか? 
 それは、〝魔力の暴発〟を起こしてしまったからだ。
 父さんと本格的な魔法の訓練を始めた今日、近くにアミリス姉さんがいたのもあって、俺は力をセーブして訓練をしていた。
 普段は魔力をほとんど使いきってから就寝するのだが、力をセーブした事によって魔力があり余ってしまったのだ。
 それで俺は、こんなふうに思ってしまったわけだ。
 ――それなら折角だし、父さんから教わったばかりの訓練法を試そう。
 やり方を教わって間もない訓練法を一人で試したのがいけなかった。
 魔力を上手く扱えず暴発させてしまい、行き場を失った魔力は部屋の壁に飛んでいき、大穴を作ってしまったのだ。
 前世の時もあったな、調子に乗って失敗した事。
 俺って学習能力低いのかな……

「父さん以外が寝ていたから良かったけど、メイド達が起きてる時間帯だったら、騒ぎになってたよ? アキトの魔力は五歳児とは思えない程、強いんだから」
「ごめんなさい……いつもは魔力が尽きるまで使って寝てたから違和感で……」
「うん、分かってるよ。訓練が終わった時、アキトがもの足りなさそうな顔をしていたからね。それに気付いていたのに、声をかけなかった父さんの責任だ。今日はもうゆっくり休みなさい。穴は父さんが直しておくから」

 父さんはそう口にして壁に手を当てると、魔力を流して一瞬にして壁を修復してしまった。それから父さんは、床に座り続ける俺を抱き上げ、ベッドに寝かせてくれた。
 やっぱり凄いな……父さん、あの大穴を一瞬で直したよ。
 爺ちゃんは破壊するのは得意だけど、こういった繊細な魔法の使い方は苦手なのだ。魔力コントロールだけで言うと、この国で一番なのは父さんだ。

「ありがとう、父さん。ちゃんと魔法が扱えるようになるまでは一人で訓練しないでおくね」
「そうだね。危ないから、父さんか爺ちゃんがいる所で我慢するんだよ」

 父さんは、俺に掛布団を首元までかけてくれ、「おやすみ、アキト」と言った。
 それから、魔具である明かりのランプの魔力を切り、部屋を出ていく。
 その後、俺はやらかした事を改めて反省して眠りに就くのだった。


「ふむふむ。それでアキトは朝から落ち込んでおったのじゃな」
「うん、やっぱり失敗してすぐだと、どうしてもね……」

 次の日になっても、俺は昨夜の失敗を引きずっていた。
 爺ちゃんとの魔法の訓練に山へ来たが、気分が優れない。爺ちゃんが「何かあったのか?」と聞いてきたので、俺は昨夜の事を話した。

「しかし、いつも良い子にしておるアキトが部屋に大穴を作るとは。よく、アリウスは驚かなかったのう」
「実は俺、父さんの前だと結構やらかしてるんだよね」

 失敗したのは、昨夜が初めてではない。
 魔法を一人で使って庭に穴を作ったり、魔法の訓練してる時に父さんを吹き飛ばしたりした事もあったな……
 やらかした事を思い出してへこんでいると――爺ちゃんから頭を撫でられ、「まっ、これから成長していけばいいんじゃよ」と言われた。
 爺ちゃんが空気を変えるように明るく言う。

「昨日はアキトの魔法の腕が儂の思っていた以上じゃったから中断したが、今日はミッチリと訓練するぞ」
「はい! お願いします。爺ちゃん!」

 昨日の失敗は忘れ、俺は元気よく返事をする。
 爺ちゃんはそんな俺を見て笑顔になり、「うむ、それじゃまずは……」と言って訓練の内容を伝えた。
 こうして魔法の訓練の日々が始まった。
 朝から昼までは主に攻撃魔法の訓練。昼から夕方までは補助系統の魔法及び魔法コントロールの訓練を行った。前者は爺ちゃんと、後者は父さんとである。
 その際、あまりにも俺の吸収力・意欲が高かったせいで、元々決めていた座学の勉強は減らす事になり、二日だけになった。
 爺ちゃんと父さんで、俺の訓練時間を取り合うトラブルがあったりしながら、あっという間に試験日となった。


 ◇ ◇ ◇


 当日朝、俺は部屋で一人ため息を吐いていた。

「とほほ……結局、座学は【図書館EX】でやっただけだったな」

 当初はアミリス姉さんに教えてもらう予定だったが、入学試験の範囲は随分と広く、アミリス姉さんが教えられる範囲を超えていたため、結局一人で行う事になった。
 夜中、一人黙々と勉強をしていたから、若干寝不足気味だ。
 寝てない理由は他にもあって、座学の勉強日に爺ちゃんに無理やり山に連れていかれたり、父さんが部屋に突入してきたりと、色々あったわけで……

「アキト、入るよ」

 扉の外から父さんの声がしたので、「どうぞ」と返事をする。

「アキト、準備は終わってるみたいだね。緊張してるかい?」
「ちょっとね。こういう試験、受けた事ないから……」
「まあ、アキトはまだ五歳だ。落ちたとしても私達が親馬鹿だっただけだから、あまり緊張せず受けてくると良いよ」

 父さんはそう言って優しく俺の頭を撫でてくれた。
 それから、俺は試験道具を入れたバッグを持ち、父さんと一緒に部屋を出た。
 玄関の外に出ると、城で働いている者達が勢揃いしていた。

「アキト様、試験頑張ってきてください」
「アキト様なら絶対に合格できますよ」
「アキト様、応援してます」

 流石にこんな大げさな見送りされたら、試験前で緊張しているというのに、更に緊張しちゃうんだけど⁉

「ね、ねえ、父さん。今ので緊張感が限界突破したよ……」
「えっ? 良かれと思って準備したんだけど、逆効果だった?」

 父さんの仕業でしたか……
 学園に到着するまでの間、俺は馬車の中で胃の痛みと戦う事となったのだった。




 第4話 入学試験


 学園に到着した俺は、巨大な建物群に目を奪われていた。
 一つ一つの建物の大きさは城より小さいが、いくつも敷地内に建てられているというのもあって、存在感が凄かった。

「どうかな、アキト。なかなかだろう?」
「あぁ、うん。大きいね」
「この国で城の次に大きい建物だからね。敷地でいえば、城よりもあるんだ。科目別に色んな設備が必要だって事で、何度か改装を繰り返しているうちに、今のような形になったんだよ」
「そうなんだ……」

 たまに忘れるが、一応この国は大陸一の大国だ。こういった所には金をかけるんだろう。
 それにしてもこの大きさ、迷い込んだらなかなか出てこられなさそうだな。入学したら、ちゃんと道とかを覚えよう。
 そんな心配をしつつ父さんと一緒に敷地内へ入り、一番大きな建物の中に入った。
 廊下を進んでいき、学園長室という部屋の前で止まる。

「マリー先生、入ってもよろしいですか?」
「どうぞ、お入りください」

 父さんの声に返事が来る。扉を開けて、俺と父さんは部屋へ入った。中では、五十代くらいの灰色の髪に赤い瞳をした女性が待っていた。

「これはこれは、アリウス様。アミリス様の入学式以来ですね」
「ああ、久しぶりだね。アキト、こちらの方はこの学園の学園長をしているマリー先生だ。私が学生の頃にお世話になった、担任の先生なんだよ」

 父さんが俺にそう言うと、マリー学園長は俺に笑みを向けてきた。

「こんにちは、アキト様」
「こんにちは、マリーさん。今日はよろしくお願いします」

 ペコッと頭を下げる俺を見て、マリー学園長は「あらまあ、入学当初のアリウス様と違って、作法が完璧ですね」と褒めた。
 その言葉に、俺はふと違和感を覚えた。
 ……父さん、学園時代は優等生で、作法も完璧だったって言ってなかったかな?
 父さんが慌てて言う。

「ちょ、マリー先生ッ!」
「あら? もしかしてアリウス様、アキト様に嘘をついてたんですか? アキト様、アリウス様が入学した時の様子、どういったふうに聞いています?」
「誰よりも礼儀作法ができ、成績が良く、首席合格者として皆を引っ張っていたと」

 確か、そんなふうに言っていたような。
 ……って、父さん⁉ 露骨に「やっべ」みたいな顔してるけど、もしかして⁉

「礼儀作法ができて、くく、成績が良く、くくく、首席合格で皆を、くくく――」

 学園長はしばらく笑いを抑えていたが、やがて「アハハハハ」と盛大に噴き出してしまった。
 俺は真顔で、父さんの方に視線を向ける。

「父さん……」
「アキト、こっちを見るんじゃない」

 気まずそうにする父さんを横目に、学園長が告げる。

「あ~もう。久しぶりにこんなに笑ったわ。アキト様、アリウス様はですね、権力を盾に暴れ回っていたんです。父君があのリオン様ですからね。他の学生は何も言えず、ただただ従っていたんですよ」
「ちょ、マリー先生! 当時の事は言わないでくださいよ。黒歴史なんですから!」
「あら? それはいけません。真実を知るのは大事ですからね、アキト様。アリウス様の過去について詳しくお話しますよ」
「は、はぁ……」

 それから、父さんの学生時代の黒歴史について詳しく聞かされる事になった。
 一人っ子で我儘わがままに育っていた父さんは、王家の権力を振りかざし、我が物顔で過ごしていたらしい。
 成績は下から数えた方が早く、周りの人の足を引っ張っていたとの事。
 父さん、俺が聞かされていた話と正反対じゃないか……
 父さんはしょんぼりしながら言う。

「で、でもな、アキト。二年生からは真面目になったんだよ」
「えぇ、そうですね。一年生として入学してきた首席合格者のエレミア様によって、変わりましたから。好き勝手していたアリウス様を見たエレミア様は、それはそれは手厳しくアリウス様をちょう……おっと失礼しました。退学手前だったアリウス様を〝更生〟させたんです」

〝ちょう……〟って、〝調教〟って言おうとしたよね⁉
 そういえば、父さんって母さんの尻に敷かれているとは思っていたけど、まさかこんな過去があったとは……
 父さんが顔を赤くして言う。

「も、もういいでしょう、マリー先生! そんな事より今日は、アキトの試験をしに来たんですから」
「あら、いけません! そうでしたね。すみません、アキト様」
「いえ、父さんの昔を知る事ができて良かったです。ところで、この話はエリク兄さんやアミリス姉さんは知っているのですか?」
「いいえ。この感じですと、知らないのでしょうね。私からお話した方が良いですか?」
「しなくて大丈夫です……そちらの方が俺としても都合が良いので」

 俺がそう言うと、学園長は「あらあら」と笑った。その一方で、横で聞いていた父さんは顔を真っ青にしている。
 やったぜ、父さんの秘密ゲットだぜ!


 その後、試験用の部屋に連れてこられた。
 父さんには学園長室で待ってもらっているので、俺と学園長しかいない。

「まずは筆記試験を行いますね。筆記用具はお持ちですか?」
「はい、大丈夫です」
「それではおかけください」

 学園長に勧められ、俺は椅子に座った。
 机には十枚程の紙が束ねられた冊子が置かれている。その表紙には、〝特別入学試験用〟と書かれていた。
 成程、これを解くというわけか。薄いから意外と早く終わりそうだ。

「そちらが今回の試験用紙になります。解答用紙は付いておりますので、私の開始の合図とともに中を開いて取り出してください。制限時間は二時間。途中退出は禁止ですので、トイレには今すぐ行ってください」
「大丈夫です。先程済ませてあります」
「では、始めさせていただきます。時間内に終わりましたらお伝えください」

 それからすぐに学園長が「始めてください」と言ったので、俺は冊子を開いて解答用紙を取り、問題文を読み始めた。
 数分後――俺は驚いていた。魔法の試験は難しくないが、筆記試験はそれなりだと聞かされていたんだが……
 いや、あの、流石にこれが難しいって事はないよね?
 まあ、歴史の問題は暗記が必要だからなかなか大変だったんだけど、数学……いやこれは算数の問題だ。足し算引き算だけだし。
 そういえば、以前アミリス姉さんとエリク兄さんの宿題を見せてもらった事があるんだが、掛け算の問題だった。
 この世界の教育レベルって、日本からしたら低いのか。

「……マジか」
「あら、どうなされましたか、アキト様?」
「あっ、いえ! 問題を見て少し驚いただけです。続けますね」

 つい口に出してしまった。
 いや、でもこのレベルなら、間違いなく筆記試験は通るな。変なミスをしなければだけど……
 以前の世界で、当時中学生だった俺は徹夜で試験に挑み、解答欄を一つずらして解答して0点を取った事がある。それ以来、試験の時は三回は見直すようにしている。

「学園長、終わりました」
「えっ、もうですか? まだ三十分程しか経っていませんよ?」
「大丈夫です。ほら、ちゃんと全ての解答欄は埋めてますから」

 俺が解答用紙を渡すと、学園長は「ほ、本当ですね。分かりました」と言って、問題用紙も回収した。
 それにしても簡単だったな。スキルとかのおかげで暗記力が上がってるのもあると思うけど、拍子抜けしてしまった。

「それでは次の試験会場に移動します。お忘れ物がないように、ついてきてください」
「はい」

 筆記用具をしまい、学園長の後について移動する。
 やって来たのは、学園の敷地内にある訓練所だった。何でも大きな学園だけど、この訓練所も大分広く作られている。
 今俺がいるのは〝第五訓練所〟なので、最低でもこれと同じような訓練所があと四つはある事になる。

「アキト様、次は魔法の実技試験です。あちらにご用意しております試験機に魔法を放つと、真ん中の板に、魔法の威力・精度の数値が表示されます。最高値は999ですが、合格ラインは200です。気を楽にして魔法を放ってください」
「分かりました。それじゃ早速やりますね」

 さ~て、修業の成果をババンッと見せてやるぞ!


 ええ、はい。意気込みすぎたのが間違いでした。
 学園長室に、父さんの怒声が響き渡る。

「アキト! 言ったでしょ。加減をしなさいって!」
「はい……」

 実技試験に臨んだ俺は、それはそれは学園長も腰を抜かすレベルの魔法を作り上げ――「アキト様、それは学生の領域を超えてます!」と叫ばれつつも調子に乗り、そのまま測定機に向けて魔法を思いっきり放ってしまった。
 結果、測定器は端微塵ぱみじんになり、第五訓練所自体がボロボロになり、他のところで授業を受けていた生徒達が驚いて集まってきて――
 学園始まって以来の大騒動となってしまった。

「まあ、アリウス様。その辺にしておきましょう。アキト様も反省しているようですし。それに、魔法の威力・コントロールを見たところ、大変優れていました。実技試験に関しては、満点合格ですよ」
「学園長さん……本当にすみませんでした」

 この数日間で二回もやらかしてしまった俺は、もう穴があったら一生引きこもりたいくらいに自分が嫌になった。
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