86 / 192
第86話
しおりを挟む「ヌォォォ、もう一回だ。」
「……その言葉既に10回聞いてるんですが、いつまでやらすんですか?」
「これが、最後だッ! それに、負けたまま終われん!」
ドラグノフ(「さん」付けは止めた)とのリバーシーを始めてから既に数時間が経ち、既に辺りは陽が暮れかけていた。何試合も続けてやられ10回を超えた辺りから数を数えるのをやめたが、多分50回以上は続けてやっていると思う。その50回すべての試合を俺は、勝ち星を付けていた。
前世では、暇な時に少しする程度だったから分からなかったけど俺は多分リバーシーが強かったんだと思う。思い出してみれば、正月とかに親戚が集まった時におじさん達に「今度こそ、勝つッ!」と勝負を挑まれているのを思い出した。まあ、全ての試合を勝ってお金を稼いでゲームに使ってたから、自分がリバーシーに強いのを忘れていた。
途中、心配になったのか一度父さんが来たが俺とドラグノフとの戦いを見て「あっ、まだ見たいですね」と言って、Uターンして直ぐに帰って行った。爺ちゃんは、3試合位まで見てたが「儂、暇じゃから帰るの」と言ってレドルの杖を掲げ転移して消えた。
「じゃあ、もうこれで最後ですよ? 次、また同じこと言ったら一生しませんからね」
「うむ、我は約束は守る竜だ」
「……既に何十回と破られてんだよ」
最後のは小声で言って、試合を始めた。
「ヌォォォ! 何故、勝てんのだ!!」
「はい、これで終わりです。もう、陽も落ちましたし俺は帰りますね」
試合中、何度も「待ってくれ」「今の無し」を繰り返しされ陽が暮れかけていた辺りは、完全に陽が落ち真っ暗になっていた。幸い山頂で魔物は居ない、というか目の前にいる竜が負ける度にブレスを上空に打っていたせいか森に居た魔物の気配が殆ど感じなくなっていた。
「負けたままでは――」
「さっき言いましたよね? もう最後だと、自分は「約束を守る竜」と断言しましたよね?」
「うっ……」
その後、「グヌヌ」と唸り声を出しているドラグノフを無視し、俺は下山した。そして、麓の村に戻った俺を門番さんは「村長の所でクリム様がお待ちです」と言われ村長の家に向かった。
「おかえり、クリフ」
「……ッ!」
「ちょッ!」
村長の家の中に入ると、村長、アイザックさん、父さんが居て美味しそうな山菜が煮込まれたスープを飲んでいた。俺の敏捷では近づく前に避けられると思い、無詠唱を使い一瞬で鬼人化と強化魔法を使い更に強化した俺は、父さんの背後に俊足で移動し、続けて物理攻撃力を最大に強化した俺は父さんの顔面へと殴りかかった。
「チッ、仕留めそこなったか……」
「ちょっと、仮にも父親に本気の攻撃するのは笑い事では済まないよクリフ! 今の父さんが油断してたら大怪我してる所だったよ」
「油断しとけばよかったのに、それに笑い事で済まないのはどっちだよ。子供一人を生贄にして帰った父さんのが笑い事で済まないぞ」
そう言うと、「あの時、ああするしか無かったんだから、それにさ危害を加えられた訳じゃないんだし許して」と父さんは謝って来た。
「クリフ、あの後何があったんだ? 俺、クリムに連れてかれた後、何も聞かされてないんだよ」
「ただ、暇な竜の遊び相手をさせられたんですよ」
そう言うと、アイザックさんは「何でクリフに?」と言ったが、父さんから「まあ、今回の件については終わった事だし、明日は王都に帰るから早めに寝ようか」と大きな声で遮られ、アイザックさん結局何も聞かされなかった。
そして、翌日麓の村の村長達に見送られながら王都へと向かっていると急に辺りが暗くなった。
「クリフ。我を置いて行くとは、酷いではないか」
「ドラグノフッ! 何で、着いて来てるんだよ?!」
「当り前ではないか、クリフが居ない所でリバーシーは出来ないであろう? それに心配せんでもあの村には住まわせてもらった恩もあるからのう。我の眷属を一匹置いてきたから、今後も魔物や盗賊に襲われる事は無いぞ」
と何故か誇らしげにそう言ったドラグノフに俺は「別にその事じゃねえよ……」と小声で言って少し頭の中で整理をした。ドラグノフが現れて周りに居た騎士達やアイザックさん達は慌てていたが、俺は考え事に集中した。
そして、ある事を思いついた。
「なあ、ドラグノフ。ドラグノフに乗って王都を目指したらどの位かかる?」
「王都? ああ、今リグルが居る所か、それなら数時間程度で行けるぞ?」
それを聞いた俺は、ニヤっと笑い。横で俺の事を見ていた父さんが何故か「まさか」と言ったような顔をした。俺は、直ぐに馬車から飛び出し空歩を使い空を飛んでいるドラグノフの背中に乗った。
「ドラグノフ、至急王都に向かってくれ。お礼は、今日の夜5試合リバーシーに付き合ってやる」
「ッ! よし、行くぞクリフ!」
俺は、父さん達が乗って居る馬車を見下ろし父さんと目が合うと「地獄が待ってるから、早く帰って来るんだよ」と言って、「いっけ~!」と合図を出し、ドラグノフは王都方面に向かって俺が今まで感じた事が無い程のスピードで飛んで行った。
37
お気に入りに追加
6,376
あなたにおすすめの小説
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる