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第二章 古代の魔法編①
第20話 【古代神殿】攻略!そして……
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天井の崩壊とともに降ってきたのは、
メアリさんと二体目のケルべズスだった。
どうやら両者の間で熾烈極まる戦いが行われていたようだ……
という俺の予想は、数秒で裏切られた。
「私はですね、他にも色々な魔法を扱えるんですよ。特に好んでいるのがこの身体能力強化魔法……。見てくださいよ、この装備品を」
満面の笑みの横で、場違い感満載のアイアンナックルがキラリと煌めく。
「バフ魔法とアイアンナックル、そしてスキルによるカウンター。これらを合わせた連撃は最高にストレス発散になりましてね。いやー、受付嬢というのも中々に大変なんですよ?」
一方的に捲し立てながら、
メアリさんはケルべズスをタコ殴りにしていた。
『ぶべべべべばばばっ!!』
俺の目には追えないほどの連撃、連撃、連撃。
どうやらケルべズスは、
ちゃんとメアリさんのサンドバッグになってくれたみたいだ。
今回の件で色々と迷惑をかけたからな。
メアリさんが楽しそうで何よりだ。
さて、よそ見は程々にしないと。
俺は俺で、こっちの相手をしなければいけないのだから。
俺はカラドボルグを片手に再生を終えたケルべズスへと斬りかかった――その瞬間。
――おい、聞こえるかお前たち――
聞き覚えのある声が頭の中に響き渡った。
メアリさんも動きを止め周囲を見渡している。
「この声は、サタナさんですか?」
メアリさんが問うと、
頭の中の声は嬉しそうに嬌声を上げた。
――おー! ちゃんと聞こえておったか!
良かった良かった。
常時であれば問題なく発動できる魔法なのだが……、レインの深い深い愛を受けたのと、ちょっとお遊びが過ぎてしまったというのもあってな。中々発動が上手くいかなかったのじゃ――
「まさか、これはテレパシー!?」
メアリさんの反応から察するによほど凄い魔法なのだろう。が、それはさておきだ。
俺は高速で移動した。
そしてメアリさんの背後に立った。
「敵の背中を狙うとは卑怯が過ぎないか?」
ドゴォッ!!
『ぶべあっ!!』
俺は渾身の回し蹴りを放つ。
そして、不意打ちを仕掛けようとしていた卑怯者は超スピード吹き飛んでいった。
あれ程の巨体だというのにいとも容易く蹴飛ばせる。
5%とはいえ、これがカラドボルグの力かと感嘆せずにはいられない。
「ありがとうございます、レインさん」
「気にしなくていい。メアリさんはサタナの話を。俺は周囲を警戒する」
「分かりました」
――なにはともあれ聞こえているのならば話が早い。二人とも、今から完膚なきまでにケルべズスを叩き潰せ。魔力を感知するに二人は同じフロアにいるのだろう? タイミングを合わせトドメを刺すのじゃ――
「貴女はどうするのですか?」
――妾の方は問題ない。0.01秒に一回のペースで奴を殺し続けているからな。そっちでタイミングを合わせてくれれば万事解決ということじゃ。分かったな!――
「レインさん、聞きました?」
「ああ、聞いたよ」
どうやらサタナは俺たちの想像を遥かに凌駕する化け物らしい。
俺が勝てたのは偶然か、
はたまた手加減されていたのか。
「全く、あの方には驚かされますね」
「逆に言えば、それくらいでなければ魔王は名乗れないのかもしれない」
「確かにそうですね」
「じゃあメアリさん、そろそろ終わらせよう。好き勝手に動いてくれて構わない。こっちで合わせるから」
「えっ、いいんですかあ?」
「色々と迷惑かけたからな。たまにはストレス発散しないとやってられないだろう?」
「あらら、よく分かってるじゃありませんか。それじゃあ行きます……よっ!」
ドッ!
と地盤を抉り、メアリさんが飛び出した。
それを尻目に、俺は先ほど蹴飛ばしたケルべズスの方へと駆けてゆく。
もはや戦闘と呼べる代物ではなかった。
俺たちは一方的にケルべズスを蹂躙した。
『ひぃえあああぁぁあああああああッ!!』
『やめっ! ぐっほぁああああッ!!!!』
そしてついに二匹のケルべズスは、
ザフンッ!
と消滅したのだった。
「これにてダンジョン攻略ってことですね」
「ああ。それにしても驚いたよ。まさかメアリさんがこんなに強いだなんて」
「……それはまあ、色々と理由がありますから」
メアリさんはふいに目を伏した。
なにか後ろめたい事でもあるのだろうか?
しばし、形容しがたい沈黙が舞い降りて、そして。
ギュ……。
メアリさんはおもむろに、
俺のコートの袖を弱々しく握った。
「ん、メアリさん?」
「レインさん。実は、お願いがあるんです」
「お願い? 俺にできることであれば是非協力させて欲しいけど……。それで、お願いというのは?」
メアリさんは、囁くような声で言った。
静謐なこの空間でなければ聞き逃してしまいそうな、そんな声だった。
「それは、ここでは言えません。だから今日の夜……是非、家に来てください」
「……」
は?
「も、もちろん嫌だったらいいんです! でも、どうしてもレインさんにお願いしたいことが……伝えたいことがあるんですっ!!」
「そ、うか。ま、まぁ……アレだな。この後は特に用事もないし? メアリさんがどうしてもって言うなら」
そう返すと、メアリさんの表情がぱあっと明るくなった。
まるで絵画の中の登場人物のように美しい笑顔だった。
#
その後。
少しして、サタナがやってきた。
「今から少し乱暴するが、ダンジョンを壊すような真似はしないから許してくれよ?」
サタナは壁面に触れながら前置きした。
そして、
「初級魔法・ブラックアイス!」
詠唱とほぼ同時に、
フロア一帯が見る見るうちに凍結していったのだった。
「なっ、なにをしたんですか!」
それには応じずに。
サタナは「見つけたぞ」とだけ答えた。
「何をだ?」
「何をって。レインよ、今回の目的はケルベロスを倒すことではなかっただろう? そんなことも忘れてしまったのか?」
「「あっ!」」
俺たちは思い出したかのように目を見合わせた。
そうだった。
本来の目的はこのダンジョンに眠るお宝、それだった。
古代魔法に関係する何かが得られれば。
そう思ってやって来たのではないか。
「ついてこい。案内してやる」
かくして俺たちは【古代神殿】に眠るお宝を手に入れた。
だが、それはただの錆びついた鍵だった。
「これがお宝?」
「うむ、とてもそうは見えぬな」
「どうやらここは外れだったようですね」
俺たちは落胆した。
遠路はるばるやってきた結果が錆びた鍵だなんて、あんまりじゃないか。
「せめて装備品かゴールドだったら有難かったんだがな」
無意味だとは分かっているのだが。
それでも、愚痴らずにはいられなかった。
#
そして、その日の夜。
俺はメアリさん宅へと訪れていた。
メアリさんは俺に伝えたいことがあると言っていたが、一体それは何なのだろう?
不安と期待が綯い交ぜになった奇妙な感情が俺の胸中で渦巻く。
「すみません、こんな夜中に呼び出して」
「いや、構わないよ。それで……話って言うのは?」
しばし、気まずい空気が流れた。
俺は押し黙ることしか出来ないでいた。
メアリさんの気持ちが固まるまでは、余計な口出しは失礼に値すると思ったから。
そんなふうにして黙っていると。
ダァン!
と大きな音が俺の耳を貫いた。
メアリさんが木机に両手を突き、勢いよく立ち上がったのだ。
「あーと、メアリ、さん……?」
「やっと決心がつきました!!」
「は、はあ」
「レインさん!!」
俺を見据える双眼は力強く。
思わず、気圧されそうになる程だった。
「な、なんで、しょう?」
思わず丁寧語になってしまった。
そんなことを気にする様子もなく。
メアリさんは意を決したように言うのだった。
「どうか、私のことを弟子にして下さいッ!!!」
俺は机上のお茶を一口啜り。
それから、大きく深呼吸した。
「フー……。今度は弟子、ときたか」
こうなる要素など、今度こそどこにもなかったはずなのだが。
そもそも、メアリさんは滅茶苦茶に強かったじゃないか。
どうしてこうなったんだろうな?
やはり俺は、そう思わずにはいられなかった。
メアリさんと二体目のケルべズスだった。
どうやら両者の間で熾烈極まる戦いが行われていたようだ……
という俺の予想は、数秒で裏切られた。
「私はですね、他にも色々な魔法を扱えるんですよ。特に好んでいるのがこの身体能力強化魔法……。見てくださいよ、この装備品を」
満面の笑みの横で、場違い感満載のアイアンナックルがキラリと煌めく。
「バフ魔法とアイアンナックル、そしてスキルによるカウンター。これらを合わせた連撃は最高にストレス発散になりましてね。いやー、受付嬢というのも中々に大変なんですよ?」
一方的に捲し立てながら、
メアリさんはケルべズスをタコ殴りにしていた。
『ぶべべべべばばばっ!!』
俺の目には追えないほどの連撃、連撃、連撃。
どうやらケルべズスは、
ちゃんとメアリさんのサンドバッグになってくれたみたいだ。
今回の件で色々と迷惑をかけたからな。
メアリさんが楽しそうで何よりだ。
さて、よそ見は程々にしないと。
俺は俺で、こっちの相手をしなければいけないのだから。
俺はカラドボルグを片手に再生を終えたケルべズスへと斬りかかった――その瞬間。
――おい、聞こえるかお前たち――
聞き覚えのある声が頭の中に響き渡った。
メアリさんも動きを止め周囲を見渡している。
「この声は、サタナさんですか?」
メアリさんが問うと、
頭の中の声は嬉しそうに嬌声を上げた。
――おー! ちゃんと聞こえておったか!
良かった良かった。
常時であれば問題なく発動できる魔法なのだが……、レインの深い深い愛を受けたのと、ちょっとお遊びが過ぎてしまったというのもあってな。中々発動が上手くいかなかったのじゃ――
「まさか、これはテレパシー!?」
メアリさんの反応から察するによほど凄い魔法なのだろう。が、それはさておきだ。
俺は高速で移動した。
そしてメアリさんの背後に立った。
「敵の背中を狙うとは卑怯が過ぎないか?」
ドゴォッ!!
『ぶべあっ!!』
俺は渾身の回し蹴りを放つ。
そして、不意打ちを仕掛けようとしていた卑怯者は超スピード吹き飛んでいった。
あれ程の巨体だというのにいとも容易く蹴飛ばせる。
5%とはいえ、これがカラドボルグの力かと感嘆せずにはいられない。
「ありがとうございます、レインさん」
「気にしなくていい。メアリさんはサタナの話を。俺は周囲を警戒する」
「分かりました」
――なにはともあれ聞こえているのならば話が早い。二人とも、今から完膚なきまでにケルべズスを叩き潰せ。魔力を感知するに二人は同じフロアにいるのだろう? タイミングを合わせトドメを刺すのじゃ――
「貴女はどうするのですか?」
――妾の方は問題ない。0.01秒に一回のペースで奴を殺し続けているからな。そっちでタイミングを合わせてくれれば万事解決ということじゃ。分かったな!――
「レインさん、聞きました?」
「ああ、聞いたよ」
どうやらサタナは俺たちの想像を遥かに凌駕する化け物らしい。
俺が勝てたのは偶然か、
はたまた手加減されていたのか。
「全く、あの方には驚かされますね」
「逆に言えば、それくらいでなければ魔王は名乗れないのかもしれない」
「確かにそうですね」
「じゃあメアリさん、そろそろ終わらせよう。好き勝手に動いてくれて構わない。こっちで合わせるから」
「えっ、いいんですかあ?」
「色々と迷惑かけたからな。たまにはストレス発散しないとやってられないだろう?」
「あらら、よく分かってるじゃありませんか。それじゃあ行きます……よっ!」
ドッ!
と地盤を抉り、メアリさんが飛び出した。
それを尻目に、俺は先ほど蹴飛ばしたケルべズスの方へと駆けてゆく。
もはや戦闘と呼べる代物ではなかった。
俺たちは一方的にケルべズスを蹂躙した。
『ひぃえあああぁぁあああああああッ!!』
『やめっ! ぐっほぁああああッ!!!!』
そしてついに二匹のケルべズスは、
ザフンッ!
と消滅したのだった。
「これにてダンジョン攻略ってことですね」
「ああ。それにしても驚いたよ。まさかメアリさんがこんなに強いだなんて」
「……それはまあ、色々と理由がありますから」
メアリさんはふいに目を伏した。
なにか後ろめたい事でもあるのだろうか?
しばし、形容しがたい沈黙が舞い降りて、そして。
ギュ……。
メアリさんはおもむろに、
俺のコートの袖を弱々しく握った。
「ん、メアリさん?」
「レインさん。実は、お願いがあるんです」
「お願い? 俺にできることであれば是非協力させて欲しいけど……。それで、お願いというのは?」
メアリさんは、囁くような声で言った。
静謐なこの空間でなければ聞き逃してしまいそうな、そんな声だった。
「それは、ここでは言えません。だから今日の夜……是非、家に来てください」
「……」
は?
「も、もちろん嫌だったらいいんです! でも、どうしてもレインさんにお願いしたいことが……伝えたいことがあるんですっ!!」
「そ、うか。ま、まぁ……アレだな。この後は特に用事もないし? メアリさんがどうしてもって言うなら」
そう返すと、メアリさんの表情がぱあっと明るくなった。
まるで絵画の中の登場人物のように美しい笑顔だった。
#
その後。
少しして、サタナがやってきた。
「今から少し乱暴するが、ダンジョンを壊すような真似はしないから許してくれよ?」
サタナは壁面に触れながら前置きした。
そして、
「初級魔法・ブラックアイス!」
詠唱とほぼ同時に、
フロア一帯が見る見るうちに凍結していったのだった。
「なっ、なにをしたんですか!」
それには応じずに。
サタナは「見つけたぞ」とだけ答えた。
「何をだ?」
「何をって。レインよ、今回の目的はケルベロスを倒すことではなかっただろう? そんなことも忘れてしまったのか?」
「「あっ!」」
俺たちは思い出したかのように目を見合わせた。
そうだった。
本来の目的はこのダンジョンに眠るお宝、それだった。
古代魔法に関係する何かが得られれば。
そう思ってやって来たのではないか。
「ついてこい。案内してやる」
かくして俺たちは【古代神殿】に眠るお宝を手に入れた。
だが、それはただの錆びついた鍵だった。
「これがお宝?」
「うむ、とてもそうは見えぬな」
「どうやらここは外れだったようですね」
俺たちは落胆した。
遠路はるばるやってきた結果が錆びた鍵だなんて、あんまりじゃないか。
「せめて装備品かゴールドだったら有難かったんだがな」
無意味だとは分かっているのだが。
それでも、愚痴らずにはいられなかった。
#
そして、その日の夜。
俺はメアリさん宅へと訪れていた。
メアリさんは俺に伝えたいことがあると言っていたが、一体それは何なのだろう?
不安と期待が綯い交ぜになった奇妙な感情が俺の胸中で渦巻く。
「すみません、こんな夜中に呼び出して」
「いや、構わないよ。それで……話って言うのは?」
しばし、気まずい空気が流れた。
俺は押し黙ることしか出来ないでいた。
メアリさんの気持ちが固まるまでは、余計な口出しは失礼に値すると思ったから。
そんなふうにして黙っていると。
ダァン!
と大きな音が俺の耳を貫いた。
メアリさんが木机に両手を突き、勢いよく立ち上がったのだ。
「あーと、メアリ、さん……?」
「やっと決心がつきました!!」
「は、はあ」
「レインさん!!」
俺を見据える双眼は力強く。
思わず、気圧されそうになる程だった。
「な、なんで、しょう?」
思わず丁寧語になってしまった。
そんなことを気にする様子もなく。
メアリさんは意を決したように言うのだった。
「どうか、私のことを弟子にして下さいッ!!!」
俺は机上のお茶を一口啜り。
それから、大きく深呼吸した。
「フー……。今度は弟子、ときたか」
こうなる要素など、今度こそどこにもなかったはずなのだが。
そもそも、メアリさんは滅茶苦茶に強かったじゃないか。
どうしてこうなったんだろうな?
やはり俺は、そう思わずにはいられなかった。
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