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布石

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まさか狭いコミュニティの中とは言え、デファクトスタンダードをひっくり返す動きをすることになるとは思わなかった。これだけで十分だろうか。2、3年生は既にポケベル端末を持っている人が多いと思われるので、乗り換えコストがあるためすぐには効果が出ないはず。

やはり狙い目はまだポケベルもPHSも買っていない層だ。クラスへは十分な影響を与えられただろうが、他のクラスへも打てる手はないだろうか。って、そこまでやる必要はあるのだろうか。俺の周りだけ置き換わった場合、多少は他のクラスにも影響するだろうが、もしかしたらまだポケベルが優勢になってやはりポケベルが周りに増えるかもしれない。

そうなると、やはり動きにくくなることもあるか。打てる手は打っておこう。と言っても、7組のマサキと9組のカオリぐらいしか俺には伝手がない。2人はあまりインフルエンサーというタイプでもないが、相談を受けたりしている中で影響力は増しているだろう。

クラスでこれみよがしに宣伝をしたのと、マサキとカオリにも話したので、あとは結果を待つだけだ。

夏休み中の部活動は月水を定例として続けるが、参加は任意とした。PHSが普及してればこうやって学校に来る日を予め決めなくてもよかったんだがな。

ギリギリ夏休みに入る前に手を打てた。これで誰とも連絡を取れなくて暇な思いをすることはないだろう。最悪、家の電話番号を聞いておくという手はあるんだが、やりたくない。色々考えたが、毎日誰かと遊ぶ約束をすることは難しいだろうから、色んな部活に顔を出させてもらおうと思っている。

この時期に体験させてくれってやつはいないと思うが、だからといって受け入れないってこともないはず。躊躇してその機会を失うほうがもったいない。今しかできないんだから。ついでに相談部としてやることないか見ておけばいいなと思っている。

そして迎えた終業式の日。早くもタクミとアズサとリナはPHSを買ってきたらしい。

「おー。タクミももう買ったんやな。価格はポケベルとそんな変わらんかったやろ?」

「せやな。そんな変わらんかったからこっちのほうが便利やと思うわ。」

「そやろ。番号教えて。」

よし、初のPHS番号ゲットだ。赤外線通信とかもまだないので手打ちだ。そこにアズサとリナも入ってきた。

「2人とも、私の番号も登録しといて。」

「ウチのもね。」

2人のPHS番号を教えてもらう。

「じゃあワンコールするわな。」

「え、電話するの?」

初めて触るからわからないか。

「ちゃう。番号があってりゃかかるやろ。そんで俺の番号が着歴にも表示されるからそこから登録すりゃいいからてっとり早いやろ。」

「なるほどな!確かに。」

スマホに変わって久しいからこういうタイプの携帯を使うのは久しぶりだ。赤外線もなければBluetoothもない。ボタンが小さくて操作しづらい。

「そうや、タクミ、サッカー部って体験入部みたいなんできる?」

「知らんけどできるんちゃうか?でも結構しんどいと思うぞ?」

「夏休み暇しそうやから部活の体験で渡り歩こうと思ってな。」

アズサが不満そうだ。

「相談部はどうすんの?」

「相談部はやるけど、月水だけやし、夏休みは長いからな。暇な時間を作りたくないんよ。」

土日に休めれば十分だ。仕事もなければ人間関係の悩みもない。こんな時期にやりたいことをやらないなんて、考えられない。バイトに時間を使うのも馬鹿らしいから、とにかく時間を有効に使いたい。

「たまには一緒に遊ぼうね。」

「あぁ、いいぞ。タクミもな。」

「お、おぅ。部活がない日ならな。呼んでくれ。」

リナにも釘を差されていたし2人で遊ぶのは避けておきたい。始業式が平穏に終わり、と思いきや、期末テストの結果が返ってきて悲喜こもごもといった様相だ。俺は今回は4位。順位は一つ下がったが十分だ。

これから夏休みに入るというので終業式が終わったあとはみんな浮ついた感じだ。いいなぁ、この高揚感。楽しい夏休みにしないとな!
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