初期値モブの私が外堀を埋められて主人公になる話

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モブ、目まぐるしく点滅する夏を見る

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 夏休みなのでたまには……と昼からファストフード店のバイトに行く。週一、酷いとそれ以下しか出勤していないアルバイトだが、お金も欲しいし多少は恩を売っておかないとクビになりそうなので、昼間の主婦さんのシフトを代わりに入ったのだ。
「ランチセットがあるだけでそれ以外はメニュー変わらないから大丈夫」と店長は言ったが、変わらなくない。昼の方が混むじゃないか。いや、夕方も混むっちゃ混むんだけど、学生ばかりなので大抵がポテトとかを店内で食べていく感じ。それが昼間は、夏休みだからか案外主婦さんみたいな人がテイクアウトしていく。しかもテイクアウトだからドリンク無し、単品の組み合わせは頭がこんがらがりそうになる。バーガーは四つだけど、ポテトは二つ。ナゲットは三つ。これが店内ならトレーの上で確認すれば良いのだが、テイクアウトだと紙袋に入れているので「こちらの袋にポテト二つ」と言いながら果たして本当に二つ? と不安になってしまう。そうしてチラリと袋を開けて、タイムロス。やめやめ。もう絶対昼シフトは入らん。周りもみんな学生でやりやすい夕方しか勝たん。
 そんなことを思いながら貼り付けた接客用笑顔のままバックヤードを立ち去り外へ出ると、むわん、と私を強烈な熱風が襲う。
 ねえ、出勤時は初めての昼シフトに緊張し過ぎて全然気付いてなかったけどさ、暑過ぎない?
 私はスマホでスケジュールアプリを開いて、うん、エマとの花火大会の約束が明日だと改めて確認する。ちなみに明日の天気は晴れだというのは既に今朝の天気予報で確認済だ。バイトに来るだけだから、とTシャツにキャミワンピにサンダルというラフを極めた格好でこんなに暑いのだ。浴衣でこの時間から出歩いたら冗談とか抜きに熱中症で死ぬんじゃないか。少なくとも花火が打ち上がるまで持ち堪えられる気がしない。
 そうして私は慌ててエマに通話をかける。もう暑くって文字を打つのも面倒なのだ。幸いにも僅か四コールほどでエマは出てくれた。
「え、なに?」
 そりゃそうだ。休日に突然「今ひま?」とかもなしに連絡が来たら、何事かと思うだろう。
「エマさ、最近外出てる?」
「あー、夏期講習とか行ってるよ。毎日じゃないけど」
「それって車で最寄駅まで送ってもらってない?」
「送ってもらってるよ?」
「で、塾は駅近だったりしない?」
「駅近っていうか駅ビルに入ってる」
「はい。エマあのね、今私バイトでひっさしぶりにこの時間外に居るんだけど、無理です、暑いです。このあと遊ぶ予定とかもないからすんごーくラフな格好でいるけどそんなんじゃどうにもならないくらいあっついです」
「つまり?」
「明日この時間から浴衣で川後橋を歩き回っている自分たちを想像してみて……」
「あー、暑過ぎて無理じゃない? ってこと?」
「ご名答」
「それは私もちょっと思ってた。駅前でプリ撮るくらいならいけるかもしれないけど、例えば前話したカップケーキのお店まで歩くのは暑すぎるんじゃないかなあって」
 エマも同じ考えで良かった。大体くそ暑い中食べるカップケーキが美味しいとも思えない。カップケーキのためにも、もう少し涼しくなってから行くべきである。
「じゃあ明日はうちに集合して、川後橋のゲーセンまで送ってもらって、プリ撮って、花火大会行こ!」
 そうエマがあんまりすらすらと明るく言うもんだから、私もつい普通に「了解!」と返してしまったが、あれこれエマの家の車乗るの確定では? と電話を切り真夏のアスファルトを乗り越え家に着き、冷凍庫から取り出したアイスを咥え自室のベッドにダイブしたあたりで気付き、でも私の生涯年収を超えそうな高級車に乗る方が暑い思いするよりマシかも、となんだかどうでも良くなった。暑いのが一番悪。それが夏のことわりなのだ。



 そして花火大会当日、程よく冷房の効いた冴羽家で浴衣を着付けられ、ヘアセットに取り掛かられていた私たちは、お人形のように顔は真正面を向きながらも延々とお喋りを続ける。
「そういえば今日お母さま、また帰ってくるらしいの」
 とエマがまるで今思い出したかのように言い、私の心臓は止まりそうになる。だって、今この浴衣を冴羽家で着付けて貰っているということは、夏祭りが終わった後着替えるためにここに帰ってくるということだ。ということはつまり、私はまたエマのお母さんに会うということではないだろうか?
「待て待て、そもそもエマ、お母さんが居るとき門限八時って言ってなかった? 花火大会七時半からだよ?」
「あっ」
 おいおい、エマ、なにも考えて居なかったのか。どうするんだ今日。
 そう思っていると、エマのヘアセットをしてくれているお姉さんが「あれ、それでしたら確か……」と何かを言いかける。言いかける、に留まったのは、私たちの居る部屋がノックされたからだった。
「エマさま、ひかるさま、奥様がお帰りになられまして、ご挨拶したいと」
 低い男の人の声がして、部屋中の空気が一気にピンと張り詰める。そうだよな、ここのお姉さま方からしたって、エマのお母さんは普段はなかなか会うことのない一番偉い人だ。私に例えるのなら、バイト先に社長の視察が来た、みたいなもんだろうか。ひええ、無理。
 全員の視線がエマに集中して、エマの顔付きも変わる。覚悟を決めた、みたいな。
「どうぞ、私もひかるもヘアセットの途中ですけど着替えは終わっているので」
 と言ったエマの口調は、私をなんだか洋画の日本語吹き替え版を見ているような気持ちにさせて、やっぱり冴羽家は世界が違うんだな、と突きつけられたような感じがした。別に、それがどうしたってわけじゃないけれど。一般女子高生の私とお嬢様女子高生エマの世界が違うのは出会ったときからで、別になんら問題はないのだ。それでも私たちは友達になったんだから。
 現実逃避みたいにそんなことを考えていると、ぼーっとしている間にもやり取りがあったのだろう、扉が開く音がして、私は慌ててドレッサーの前の椅子から立ち上がった。

「エマ、ひかるさん、どうも」
「お母さまおかえりなさい」
「度々お邪魔しております」
 と三者三様の挨拶をして、私はお辞儀をしたあと気持ちスッと一歩下がる。多分だけれどエマとお母さんは、この前私が浴衣の試着にお邪魔したぶりの再会だ。っていうか毎回毎回親子の少ない交流の日に私が居て、エマは気にしないだろうけどエマのお母さんになんだか申し訳なくなる。
「エマ、今日はひかるさんと川後橋の花火大会に行くって言ってたわよね」
「はい」
「花火大会って言ったら町も混むだろうし八時に帰ってくるのは多分難しいでしょう? だから門限は今日に関しては気にしなくて良いわ。ただ女の子二人じゃ危ないし、五央も連れて行きなさい」
 私は「えーっ⁉︎」と言いたくなるのを懸命に飲み込み、エマとお母さんの話の行く末を見守る。いや、別に五央が居るのは良い……いや女子二人で行く方が絶対楽しいけど、まあ居ても良い。でも多分、五央はすっごく嫌だろう。何が楽しくてきゃっきゃはしゃぐ浴衣女子二人に男一人でついていかなければならないのか。なんなら花火なんか、五央の部屋のベランダからギリ見えるかもしれないのに。
「お母さま、五央にも用事があるんじゃないですか? 学校のこととか……あっ、学校の友人と行くかもしれないでしょう?」
「五央にはちゃんと今日の夜空いているか確認したわよ。家に来てちょうだいって言ってある」
 あー……それ、五央はいつもの呼び出しだと思っている。五央にも花火大会の日ちゃんと教えとくんだった。来週来週、みたいな軽いノリで話していたし、そもそも五央、全然興味がなさそうだったしで多分思い至りもしなかったのだろう。
 エマは一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をしたけれど、エマのお母さんも気付かなかったんじゃないかというくらい秒速でいつもの整った顔に戻り、
「わかりました。ありがとうございます」
 と微笑んだ。
 まあ花火大会、最後まで楽しめるんなら五央が居るくらいしょうがないと思ったのだろう。五央にブーブー文句を言われたって、「お母さまが」と言えば黙るだろうし。
「それじゃあまた後で、浴衣だから流石に車で行くでしょう? 川後橋なら車で十分もしないで着くだろうし」
「はい、そのつもりです。直線距離だとすぐなのに、わざわざ電車で堀宮まで回るのも大変なので」
 エマの言う通り、路線の関係で電車だと川後橋まではかなり迂回しないといけない。まあここから歩いて三十分くらいなので、真夏でなく且つ浴衣でなければ徒歩で行くのもありな距離だが、普通はバスか自転車で行くかだろう。でも大混雑しているであろうバスに乗るくらいなら、車に乗せてもらった方がありがたい。高級車に乗る覚悟は決めてきた。
「わかったわ。五央もまだ土地勘がないだろうし、その方が良いでしょう。じゃあ私は何件か電話をかけてくるから、五央が来たらまた声をかけて頂戴」
 そう言って笑顔で去っていったエマのお母さんを私も笑顔で見送りながら額に脂汗が浮いている気がして、前髪セットしてもらう前で良かった~、と心底思ったのだった。

 私は後ろ髪をリボンと共に編み込まれながら、エマはくるりとお団子を作られながら、共に「五央来るのかー」となんとも言えない顔をする。
「五央さ、プリ撮ってる間どうする?」
 とエマが言うので、私は思わず「懸念事項そこ?」と返す。
「だって、外に待たせとくのも一緒に撮るのも違くない?」
「うーん、あれだ、UFOキャッチャーでもやらせときゃ良いんじゃない? 何回か行ったことあるけど、五央結構上手だったよ」
「おー、じゃあなんか可愛いぬいぐるみでも取っておいてもらおうか」
「それで花火大会で出店回る間持っててもらうんでしょ? 流石の五央もキレるぞ」
「でもお母さまレディーファースト気質というか、こういうとき男が荷物持ってなかったら怒るタイプだから、お母さまの名前出せば多分持つよ」
「うっわ、かわいそ」
 そんな話をしていると、私とエマのスマホが両方ほぼ同時に振動する。これは私、エマ、五央のグループに五央が何か送ってきたに違いない。
「お、ひかる、ライン見てみて」
 楽しそうにエマが言うのでスマホを開いてみると、「ぐぬぬ」と握り拳を握っているくまのスタンプがただ一つ、送られてきていた。五央、もうすっかり日本の男子高校生だな。

 そんな「ぐぬぬ」の主は恐らく隣に立つ“お母さま”の手前機嫌の良さそうな外面スマイル全開で私たちの前に現れ、「浴衣似合ってるじゃん」まで言わされ本当にいよいよ可哀想だった。しかも完全に面白がっているエマに、「今日の私たちの一番のポイント、わかる?」と詰め寄られている。
 ちなみに正解は、双方の頭に付いているお揃いのすずらんのバレッタである。私のヘアアレンジが後ろ三つ編みでお揃いのかんざしが付けられない代わりに、普段も使えるし良いよね! とお揃いのバレッタを買ったのだ。しかし簪と違い全く前から見えないためわかりようがなく、つまり今の五央は詰んでいる。でもごめん、この雰囲気の中何かを言うことは出来ないし、何より楽しんでいるエマの邪魔は出来ない。
 結局五央は自分では当てられず、五央が「小坂さん」と呼んだエマのヘアアレンジをしていたお姉さまがネタバラシをすることとなったのであった。そんな一連の流れが終わり、
「じゃあ五央、頼んだわね」
 とエマのお母さんはサラッと、でも重い一言を残し、この場を去っていく。部屋の扉が閉まりその背が見えなくなると、面白いくらい部屋の空気が緩んで、みんながふふっと笑い出した。
「お前らさ、こんなんわかるわけないだろ。小坂さんたちも意地悪ですよ」
 と五央が急に悪態をつき始め、それにエマが
「浴衣は前に写真で送ったんだからそれ以外ってわかるでしょう、もう消去法で髪一択じゃん」
 と結構理不尽な返しをする。
「っていうかひかるはずっと黙ってるじゃん」
 とエマに言い返せないからと今度は私に突っかかってくる五央に、
「そりゃあ急にエマのお母さまいらしたら緊張で黙りもするよ! 私がいっちばん部外者なんだから!」
 と半ば八つ当たりをする。
「そうだよ! ひかるは関係ないでしょ! ほら、そろそろ行くよ!」
 となぜかエマも私の勢いに乗ってきて、いよいよ五央が可哀想だが、まあ確かにそろそろ良い時間である。一度私と五央はお邪魔しました、エマは行ってきますを言い、慣れない浴衣と下駄で小さくなってしまう歩幅で、ゆっくりゆっくりと家が何軒か建ちそうな広い庭を通過していくのだった。

 車に乗り込み開口一番、エマが、
「ねえ五央って今日断るために、急遽一緒に花火大会行ける友達居ないの?」
 と凄いことを言ってくる。これは流石にフォローしてあげよう、と私は
「うちの学校だとそもそも今日空いてる人で川後橋まで出てこれる人は、もう先に花火大会行く約束してると思うよ」
 と言う。
「五央は誘われんかったの? 花火大会」
 とエマが更に追い打ちをかけるが、幸いにも五央にもそういうお誘いがあったようで、
「日延神社って言う俺の家の近くで学校からもすぐの神社の祭は友達と行くよ。そもそも家から川後橋はまあまあ遠いだろ」
 とサラリと返していた。エマは「ふーん」といった感じだが、私からしたら転入二ヶ月ちょいで学校に馴染み、夏休みの予定まであるのって凄いと思う。
 私は一応二人の顔をチラリと盗み見るが、気にしてもいない。なんだろう、自分に例えるのならば兄妹の間合い、だろうか。
 やっぱりこの二人、仲良しなことに違いないんだよな、と思って、そうなるとつまり私とお兄ちゃんも仲良しみたいになるじゃん、と私は心の中でブンブンと小さく頭を振った。

 そうして流石文明の力、あっという間に車は川後橋に到着したのだった。

「え、人、もうすごくない? 花火大会って七時半からなんでしょう?」
 とエマ。
「お前ら七時半からなのにもう出発したのか……まだ六時前だぞ」
 と呆れ顔なのは五央。
「川後橋って名前の通り大きい橋があるんだけど、その両側とかあとその奥にある運動場までずーっと出店が並ぶんだよ。だから混んでるの。まあ場所取り勢も居るだろうけど」
 と恐らく五央よりはこの花火大会に詳しい私が解説をする。川後橋、家から近くはないが、私の使っている路線の駅なので乗り換えなしで気軽に来れることもあり、この花火大会にも中三のとき一度来たことがあるのだ。
「この感じだとゲーセンもやばそう」
 とエマが既に視界に入るゲーセンの看板の方を指差しながら言う。
「まあみんな浴衣でプリ、撮りたいもんね」
 そしてエマの予言通りというか、当たり前のようにゲーセンのプリコーナーは混んでいた。ただ知らぬ間に地下一階が全面プリのフロアになっているし、五人組の女の子が居たり、この機種が良い! と順番を譲る子たちも居たりして、並んでいる人数の割には回転が早そうな気がする。でもあくまで、並んでいる人の割には、である。
「あのさ、五央も一緒に撮らない? よく考えたらプリって何枚も撮るじゃん。私とエマ二人のも何枚か撮って、折角だし五央が居るのも撮ろうよ」
 私がそう提案すると、五央は眉間に皺を寄せて、
「ひかるそれ、プリ加工かかった俺の写真見たいだけじゃない?」
 と不満げに言う。
「だけじゃない。それもある」
 と私が正直に返すと、エマも
「え~! 確かに見たい! 加工バリバリでお目目きらきらっみたいな五央、見たーい!」
 とノリノリだ。
「ね、お金は出すから! ってか一階カップルばっかだったじゃん、あの空気で一人でUFOキャッチャーするの地獄だよ? ここで私らとプリ撮ってたほうが絶対良いって」
 ね? と私とエマが挟んで追い詰めると、五央はすぐ諦めたような顔になる。五央はエマにも弱いし、私や夢にも弱い。女の子に弱いのだろうか? ……いや、ひーわにも弱いので基本的にただのお人好しなのだろう。五央がいい奴で良かった。
「わかったよ……。実はプリって撮ったことないし、これも人生経験……」
 と呟き、五央はいつもの姿勢の良さを失ってへたりと前に折れた。

 そして出来上がったプリを見て、「誰だこれ? 全員知らないやつが写ってる、やっべえ!」と一番テンションが上がっているのも五央で、「知らないやつってなによ」とこれまた怒ったふりをしたいから笑いを堪えているけど完全に口角が上がってしまっているエマとコントみたいなやり取りをしているのを横目で見ながら、私は一人黙々とスマホを弄り、プリ機有料会員の強みを活かし、今日撮った全データをしっかり保存する作業に勤んでいたのだった。



 ゲーセンを出ると橋の方へ歩こうとしなくとも人の流れが完全に出来ていて、私たちはそののろのろとした流れに乗りながら、「暑いね~」なんてどうでも良い話をする。そうするとじきに出店の列が見えてきて、その絶妙なフォントの文字を頭の中で読み上げながら何を食べようかなあ、なんて考える。
「フランクフルト食べたいけどあっついんだよなあ」
 と私が言うと、
「でもフランクフルトってさ、コンビニに売ってるじゃん」
 と五央が返す。
「うっわ出たよ、そんなこと言ったらかき氷もコンビニに売ってるし、スーパーボールも百均に売ってるわ」
 と私が五央を睨むと、
「射的の景品とかもさ、あんなに一生懸命になるものじゃないよね、大抵」
 とエマも乗ってくる。ってかエマは五央の味方なんかい! しかし、
「でもね、出店で食べるっていうのが良いんじゃん? 思い出価格だよ。というわけでラムネ飲みたいで~す」
 とドリンクを出している出店を指差す。氷水の中に沈んでいるラムネってお店の人に拭いてもらってもまだちょっと濡れていて、しかも飲み始めたら今度は外気温との差で汗をかくんだよね。それがちょっとうざったいけど最強に夏って感じで、なんか好きなのだ。あ、これが思い出価格ってわけね。まあラムネは割とスーパーと同じくらいの値段で買えるけど。
 というわけで私も「ラムネ良いね」と言い、エマの手を取る。この人の波から飛び出すのは結構大変で、エマは流されてしまいそうだからだ。本来五央が任されてる役割ってこういうことな気もするけど、でもこの二人が手を取っていたら、私はただの美男美女カップルの周りをうろつく不審な女になってしまうのでやっぱり私がエマをエスコートする役で正解だろう。五央、お前は自力で付いてこい。
 なんて脳内で言いながらも、私は横目でずっと五央のことも追う。だってこの中では圧倒的に五央がこの辺りの土地勘がないのだ。一度はぐれたら再集合するにも至難の技そう。そう考えて、私はふとあるどうでも良いことに思い至る。
「そういえば五央って、瓶ラムネ飲んだことある?」
 五央って日本に居た期間そんなに長くないだろうし、もしかしてないんじゃないか、とふと思ったのだ。
「あるけど……多分すっごい昔に何回かあるくらいだな。なんか押して開けるんだっけ? それが難しかったイメージある」
「おお、ラムネなんてキャップ閉められないサイダーじゃん、とか言われなくて良かった」
「サイダーとちょっと味違くない? 飲み口が狭いからか?」
 そうやって二人話しているとエマも、
「ね! なんか味違うよね? なんなんだろうねあれ、瓶だからかな~って私は思ってた」
 とこちらを振り向き参戦する。
 するとそのとき、エマに誰かがぶつかる。おい! と思いながら私はエマを引き寄せて――あ、私下駄じゃん、と私はバランスを崩しそうになる。最悪私は良い、でも一緒にエマまで、と思ったとき、そんな私を今度は五央が抱き止めた。

 エマが私の腕の中で私の顔を見上げる。そして、今度は私がエマを抱き寄せたまま、五央の腕の中で五央の顔を見上げる。
 なんだこれ。私たち以外の世界は動いているけれど、私たち三人の世界は息の音一つしない。まるでなにか不思議なことが起こったときのような……でも知ってる。今はそういうわけじゃない。

「ふっ……なにこれ」
 とエマがもう堪えきれないとばかりに笑い出し、そしてそれに続くように私と五央も笑い出す。
「なんかすごい、変? いや、不思議な空気だったね」
 と私が言うと、五央も頷く。そうして五央から順番に、抱き寄せていた体を解く。
「五央、ありがと。これで今日の任務完了だね」
 と茶化しながらお礼を言うと、「これで帰って良いなら良いんだけどなあ」と五央が失礼なことを言うので、「うわ、感じ悪い~」とエマと二人でこれまた茶化しながら攻撃する。
「ま、取り敢えずラムネ飲もうや」
 と五央は誤魔化すように一人歩き出す。
「ちょっと、私たち置いてっちゃ駄目でしょうが!」
 とエマが叫ぶのを、
「置いてってるんじゃない、先導してるだけだ」
 と屁理屈みたいなことを言って振り向きもせず進む五央を、私をエマは「照れてるね、あれ」と小声で笑いながら今度は転ばないよう、ゆっくり追いかける。それでも五央は追いつけるペースで歩いてくれていて、それがなんだか可愛らしく感じて早く追いつきたくなって、私は「行こ」とエマの腕を引き少し早歩きで五央の元へと向かった。

 心の中で少し、ほんの少しだけ、五央がラムネ開けるの失敗しないかなあ、なんて思っていたのだけどそんなことはなく、結果としてはエマが少し手をべとべとにしていたくらいだった。私はウェットティッシュ、一応持ってきておいて良かった~とそれを一枚エマに手渡す。
 とここであれ? とあることに気付く。
「どうでも良いっちゃどうでも良いんだけどさ、私たちなんでさっきからずっとこの並び順なの?」
 エマ、真ん中に私、そして五央。
「背の順?」
 とエマ。
「つーか大体いつもこの並びじゃない?」
 と五央。
 そうだっけ……? と過去の記憶を遡ってみるも、よくわからない。ただエマの顔も五央の顔も近くにあった気がする。それって私がずっと真ん中を陣取っていたから?
「でもなんかさ、これが一番しっくりこない?」
「わかる。だからこそ自然にこうなってるんだろうしな」
 と二人は納得しているけれど、婚約者に挟まれる一般女子高生って良いのだろうか。本人たち的には不本意な婚約者だから、むしろこれが正解なのか?
「そんなことよりさ、お腹空かない? 喉が潤ったら余計に腹減ってきたわ」
 と五央が言うので、それもそうだな、と私たちは食べ物を探しに行くことにする。そもそも私たちが立ち止まったお店は橋の序盤。目を凝らせばまださっきまで居たゲーセンが見えそうなくらいだ。この先にもまだまだ出店は並んでいて、きっと美味しいものがいっぱいあるはずだ。こんなところで立ち止まっていては勿体無い。
「それもそうだね。じゃあ気になるお店見つけたら挙手で」
 と私が真ん中らしく取り決めを決めると、エマはノリノリで「はーい」と返してくれた。
 そうしてまず腹ぺこの五央の挙手で焼きとうもろこしを買い、それを三人で交互に回し食べしながら歩く。とはいえこのペースでいけば五央が七割、私が二割、エマが一割を食すってところだろうか。
「ねえ五央、焼きそば屋さんあるよ」
 とエマが挙手、もとい指を差す。確かに出店でお腹いっぱいになれるといえば焼きそばだ。焼きそば自体私はあまりアガる食べ物ではないけれど、でもコンビニやスーパーで買ったものより出店で買ったもののほうが絶対に美味しい。大きな鉄板で一気に高温で炒めるというのは、家では出来ない芸当だからだ。
「じゃあ、焼きそば並ぼうか」
 と人波を抜けたとき、「あ」という聞き覚えのある声がした、気がした。
「ん?」
 と五央も辺りをキョロキョロ見渡して居るので恐らく当たりで、そしてエマは何も気付いていないあたり、恐らく桜森の生徒だ。うーん。これは多分……。
「やっぱ五央とひかるだ! すっご、この人の数で会えるの神がかってる!」
 はしゃぐ声の主はやはりひーわだった。
「おー! 本当、てかひーわ、よく俺らのこと見つけられたな」
「いやあ、男女三人組って珍しいなって思ってたら見知った顔だったんだよ。あ、じゃああなたが五央の従姉妹さんですよね、いつもお世話になってます。俺、クラスメイトの樋渡理央って言います」
 急に球が自分の方にも飛んできてエマはあからさまにビビる、もそこは流石エマ。
「こちらこそお世話になってます。冴羽エマです。よろしくお願いします」
 と卒なく品良く可愛らしい挨拶を返す。
「ひーわは誰と来たの? サッカー部?」
 と五央が訊ねて、そうだよなあ、やっぱりサッカー部だよなあ、と思う。サッカー部じゃなくとも少なくとも颯は居る。そんな気がする。そして案の定、
「そう、二年サッカー部で来てて、今みんなで屋台に手分けして並んでるとこ。あれ、俺颯と一緒に居たはずなんだけど」
 と全部大当たりしてしまう。だって私、ひーわとも結構長い付き合いだし。
「あ、ひーわ、居た!」
 と駆け寄ってくる聞き慣れた声に、ほんのちょっとだけ罪悪感を覚えてしまうのは今ここにエマが居て、そして五央が居るからだ。あー、こうなったら先手必勝だ。
「そーう!」
 私はそう言って颯に大きく手を振る。
「うおっ⁉︎ ひかる? と、五央も居る? え、なんで?」
 と驚く颯に、
「五央の従姉妹のエマちゃんも居るよ~」
 とひーわが何気なく添えてくれる。でも多分颯が驚いているのは私たちが夏祭りデートをしていると思ったからとかじゃなく、単純になんでここに⁉︎ ということだと思うけれど。
「おおー、はじめまして! 俺は真中颯です! えーと、エマさん?」
「はい、冴羽エマって言います」
 と再放送みたいなやり取りを見せられながら、こりゃあ夢が知ったら不貞腐れるだろうなあ、なんて思う。夢もエマに会ってみたがっていたし、なによりいつメンが自分以外集合したら私だってずるーい! と思う。でもきっとひーわが後でみんなで写真撮って夢に送るんだろうな。いや、送らないで内緒にされているほうがよりなんか嫌かも。
 そんなことを考えていたらいつの間にかエマと五央とひーわが三人前を歩いている。あれ、焼きそばは買わないのだろうか?
「だってひかる焼きそばそんな好きじゃないから、別に食べないでしょ」
 と私の心を読んだかのような返答がして横を向くと、そこには颯。
「私は食べなくても、五央とエマは食べるでしょ?」
 と取り敢えず何食わぬ顔で返すけれど、いや、一体何故私たちは二人きりになっているのだろうか。ついこの間別れたカップルだぞ。
「俺らあんまり考えず焼きそばいっぱい買ってたから、一個五央にあげたの。エマさんはお腹いっぱいでもうそんなに食べられないって言ってたし」
 私がぼーっとしている間にそんなに話が進んでいたのか。というか私、この騒がしい空間で良くそんなに自分の思考に集中出来ていたな。
「なんかひかる、ぼーっとしてない?」
 ほら、こうやって颯にも指摘されてしまう。
「してるかも。なんだろう、急に奇跡的に颯たちに遭遇して、しかもエマとひーわとかが普通に喋ってて変な気持ちなのかな」
「エマさん紹介するの嫌だった?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……。なんか不思議じゃない?」
「まあ俺もまさかエマさんに会うことがあるとは思わなかった」
「でしょ」
 颯とそんな話をしている間にも、エマと五央とひーわの背中は更に小さくなる。ていうかひーわはサッカー部と合流しようとしているのかもしれないが、エマと五央はどこへ向かっているのだろうか。
「ねえ颯、私たちももうちょい真面目に歩かないと置いてかれちゃう」
「お、あれ? ひーわどこ向かってんだ?」
「サッカー部との待ち合わせ場所とかじゃないの?」
「いやいやそんなん決まってない。買い終わったら各自報告して適当なとこで集まろうって言ってたから」
 そう言って颯はスマホを確認しているようだけれど、顔はやはり?マークのままである。
「うーん。別に誰からもまだライン来てないんだよな。ひーわも買えた報告してないし」
「じゃあひーわ、なんか他に買いたいものでもあるのかな?」
「取り敢えず追いかけるか」
「そだね」
 追いかける、と言っても人を無理やり押し退けないと進めない。そこまで焦っているわけでもないので、これ以上ひーわたちと距離が空かないように気を付けながら私たちは二人並んで歩く。手を繋いでいないのが不思議なくらい、少し前までみたいに自然に並んで歩いていて、なんだろう。昔に戻ったみたいだね、と多分颯は言いたいんだろうな、と顔を見てなんとなく思う。でも私は颯の話に相槌を打ちながら、どうしてもチラチラと前の三人を気にしてしまう。もう二人っきりになっちゃたね、なんて悪戯心半分、照れ半分で笑い合うことは出来ない。
「そういえばひかる、浴衣似合ってるね」
「ありがと。エマに貸してもらったんだ」
「去年浴衣ないって言ってたもんね」
「うん。だって浴衣ってフルセット一万とかするんだよ。年一のためには買えないよ」
「去年聞いたそれ」
「言ったっけ?」
「うん。でも去年夏祭りに着てきたワンピースも似合ってたなあ」
「よく覚えてるねえ」
 去年の夏祭りで着ていたワンピースを覚えている人が、私に振られたことを忘れているわけがない。そして「帰ってくるところが自分なら」と言ったって、傷付いていないはずもない。私は確実にこの人を傷付けたのだ。それでもこうしてなんともないような顔をして笑っていてくれる。彼のそういうところが、私は人としては確実に好きなのだ。でも浴衣を褒めてもらえて、去年のワンピースもまた褒めてもらえて、嬉しいけれど、それだけだ。今の私がまだ颯と付き合っていたとして、颯のために浴衣を着ただろうか。私が颯のためにこの浴衣を選べる女の子だったら良かったのに、なんて思うのは驕りすぎで、失礼だ。でもついそんなことを考えてしまう。
「ひかる、あのさ」
 そう颯が何か言いかけたときだった。
「おーい! 颯! ひかる! 離れすぎだって! はぐれるよ~」
 とまるでタイミングを見計らっていたかのように、ひーわがこちらに振り向いて大声を出す。
「ごめーん! 頑張って追いつくー!」
 と颯が叫び返し、それに気付いた周りの人がなんとなく道を開けてくれる。
「行こっか」
 と言う颯の顔は、もう何かを言おうとしている表情ではなく。
 それにちょっとほっとしている私が居る。ずるいな。今更か。
「うん」
 とやっぱり手を取らないことにまだ違和感を感じる二人のまま、私たちは早歩きでひーわたちのところへと向かったのだった。

「颯、ひかる、俺たち綿菓子買おうと思うんだよね、ほらあそこの屋台、もう袋詰めされてるのがあるから、回転早くて全然並んでないでしょ」
 ひーわが指差した屋台は、確かに人こそ多いものの出入りも激しいように見える。棒の綿菓子なら多少時間もかかっているようだが、袋詰めの綿菓子はお金と交換ですぐ渡されている。
「いいじゃん綿菓子。お腹もそんないっぱいにならないしね。エマ、一緒に食べよ」
 と私が言うと、「もちろんそのつもり~、いえーい!」とほんの少しひーわナイズされたテンションでエマが返してくるので、面白くって可愛くって、思わず笑顔になってしまう。
「じゃ、早く行こ!」
 とひーわに先導され、私たちは二組、それぞれ一つずつ綿菓子の大きな袋を買い、「これ持って写真撮ろ」と案の定言うひーわに乗り頑張ってインカメで五人で記念撮影をし、「あ、ライン来てる! やっば」と言い残し、嵐のように去っていくひーわと颯の背中を見送ったのだった。

「ひーわくん、まじでコミュ強、陽! って感じだったね」
 とエマが少し疲れたような、でも楽しそうに言う。
「でも今日のひーわは外面だったと思うよ。なんて言うんだろ、結構空気読みの人だから」
 と五央が返すと、
「あーそれはなんかわかる。話とかめっちゃ上手に回してくれて、普通に三人で会話出来てたもんね」
 とエマが頷く。うーん。私の今のこれ、多分後日今日のことを知った夢と同じ気持ちだ。なんか、三人だけずるい。
 そう思っていると、何回かスマホが振動する。無視しても良いけれどなんとなく開いてみると、早速ひーわが私、夢、五央、ひーわのグループラインにさっき撮った写真を貼っていて、そしてそれに夢が「三人だけずるい」と返している。
 夢は、いや、五央もひーわもさっぱりわからないだろうが、私は「それな」と頷く女の子のスタンプを一つ、グループラインに送るのだった。

 それから三人で焼きそばを食べた後、〆のデザートとばかりにかき氷を買って、私たちは花火を見るのに良さそうな落ち着ける場所を探すことにする。ちなみにかき氷の味は、私と五央はレモン、エマはイチゴだ。
 花火が上がる方角なんて調べていなかったけれど、そろそろ花火の開始時刻が近いからか、周りがみんな同じ方向を向いているので恐らくあの辺りだろう、とわかる。ちょうど良くガードレール? パイプみたいな座れそうなフェンスが一つ空いていて、お行儀が悪いけれどそこに三人座ることにする。三人だとぎゅうぎゅうだけど、エマが小柄なのと五央が脚を組んで場所を節約してくれたおかげでなんとか三人入り、そこでもう少し溶けてきているかき氷を食べながら花火を待つ。レモンのかき氷は眩しい黄色のくせにちっとも酸っぱくなくて、ただひたすらに甘い。
「なんだかんだ三人も良いね」
 と真ん中に居る私が代表して呟く。多分今、二人もそう思ってる気がしたから。でもエマはそんなこと五央には言わないだろうし、五央がそんなこと言ったらお前が言うな、となってしまう。そう考えると私が真ん中に居るのは妥当なのかもしれない。
 エマはかき氷を小動物みたいに小さく頬張りながら笑って、五央は目線をかき氷から夜空に上げる。合わせて私も目線を上げると、花火が上がらずとも十分に綺麗な空で、これから花火が上がるのが勿体無いような気さえするが、そうやって空をぼーっと見上げていると、建物の隙間の空から白い線が伸びてきた。
「始まったね」とエマは言ったのだろうか。でもその声はあっという間に花火の開く音にかき消されて、その代わりにさっきまで薄暗くてあまり良く見えていなかったエマの横顔が色とりどりに照らされた。
 その横顔を綺麗だな、と見つめて、それから反対側の横顔も見つめる。その横顔も綺麗で、でもエマの横顔によく似ていて、それに少し嫉妬のような気持ちと、でも安心のような気持ちも覚えて。やっぱり自分の心が一番わっかんないなあ、と思いながらまた顔を真上へと向ける。
 さっきまで見えていた星はまるで幻だったみたいに全て消えていたけれど、その代わりに空いっぱいに眩しいくらいの光が花開いている。やっぱり花火は綺麗だ。星だって綺麗だ。でも花火が勿体無いなんてことは決してなかった。
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