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モブ、夏が動きだす
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蝉の声も煩い七月の終わり。身体も夏休みに慣れてきて、暑さと暇さをじんわりと纏った日々を私は享受していた。
そんなある日、浴衣が着たい、とエマが言いだしたので、私はうんうん、と適当に相槌を打つ。今は各々の部屋でスマホで通話しているわけだが、顔を合わせようが合わせまいが、私たち二人のテンションは然程変わりなかった。
「浴衣良いけどさ、私自分じゃ着付け出来ないし、そもそも浴衣自体持ってないんだわ」
正確には持ってはいるんだけど、とても今の年齢にはそぐわない色とデザインだ。絵の具を原液のまま塗りたくったような水色に、これまた原色の目に痛い黄色い星の柄。中学時代の私は一体何を考えていたんだろうか。当時はノーメイクであんな派手なものを着ていたっていうんだから、若さって恐ろしい。
「我が家でなら着付けできるし、なんなら浴衣貸すよ? ひかる好みそうなのもあるし」
「まじ?」
こう思わず若い返答をしてしまった自分に、苦笑いしそうになる。星柄の思い出に引っ張られているのだろうか、うん、恐ろしいのは若さより原色ネオンの星柄かもしれない。
「まじまじ。よし、これ決まりのテンションだね。どうしようどこ行く?」
「う~ん……家から着て行けるなら、わざわざ観光地とか行かなくても、無難に花火大会とかで良いんじゃない? 暗くなんないと浴衣って暑いし」
「確かに。じゃあどこが良いかな~、この辺で、日付あんまり遠くないといいな」
「なんで? なんかあるっけ?」
「いや、早く浴衣着て出かけたい」
「うっきうきかよ」
そんな小気味よい会話をしながら二人で色々調べた結果、件の図書館やカフェのある駅から電車で三十分程度の川後橋で行われる花火大会に目星が付いた。日付も来週で、かなり近い。
早速明日、エマの家に浴衣を見せに行かせてもらうこととなり、今日はおやすみ、と電話を切った。
それからふと気付く。エマんちって、はちゃめちゃ豪邸だったよね?
以前エマのお母さんが帰ってきていた時、エマを送り届けるのに五央と門までは行ったけれども。っていうかそもそも校門ばりのでっかい門がある家って、中身はどうなっているんだろう。デニムとかで行ったらドレスコード引っかかる? 手土産、近所のケーキ屋さんじゃまずい? デパ地下とか行かなきゃ駄目? だとして私はデパ地下で何を買えばいいの?
焦りながらベッドの中でスマホの画面をひたすらスワイプするも、打開策を見いだせないまま、気付けば私は寝落ちしてしまったようだった。
◆
次の日、目覚ましの力によりいつもよりだいぶ早く起きた私は、取り敢えず胸元のリボンタイが可愛いサックスブルーの清楚めワンピースを着て、それから髪も編み込みハーフアップにする。アップスタイルと迷ったが、時間が足りなくなっては元も子もない。これまたブルーのリボンのバレッタで髪を留め完了。アクセは大人しさを出すため付けない。これであの門を突破させてくれ、と私は心の中で手を合わせる。
デパ地下に行く時間なんてないので、近所のケーキ屋さんでケーキを何ピースか買う。お値段はお手ごろだが、たまに雑誌に載るくらいの味の保証はあるお店なのできっと大丈夫。少なくともエマは気に入ってくれるだろうとエマが食べているところを想像したら、少し落ち着いてきた。
冴羽邸、一度行ったから場所はわかるが(それが私の唯一の特技だ)、あの門を一人でくぐる勇気はないので私はエマの家の最寄り駅まで、エマに迎えに来てもらえるようお願いした。「迎え、車より歩きが良い?」に冗談じゃなく百回くらい「歩きが良い」といったおかげで、無事エマは歩きで来てくれたようで、私が駅に着いた時にはもう、彼女が一人で改札向かいの花屋さんの前に佇んでいるのが見える。こういう高級住宅地の駅は、花屋さんを利用する人が多いのだろうか、心なしか全体的に私の想像する駅の花屋さんよりも花の種類も量も多く、溢れんばかりのカラフルな色でいっぱいで、でもやっぱりエマはそれを背に立っていても様になる女で、思わず声をかけずにしばらく見つめてしまいたくなった。
そうすると視線で気付いたのか、エマはハッとしたような顔をして、こちらに視線を向ける。
「ひかる~おはよ~!」
エマはそう言いながら、花が咲くように笑う。眩しい。私やっぱりこいつのこと好きなのかな、と一瞬思わされてしまうその威力に目眩を覚えながらも、私もエマの方に駆け寄った。
「ひかる、私に声かけないで観察してたでしょ?」
観察とは人聞きの悪い。でも見惚れていただけだとはとても言えないから、
「なんか花背負ってんなあって思って」
とだけ返す。嘘はついていない。
「なんだそれどういう意味?」
「他意はございません。おはようお待たせさあ行こう」
「何よその流れるような話の逸らし方は」
私は聞こえないふりをして、エマの家の方角へと歩き出し、
「さ、早く浴衣浴衣!」
と歌うように言う。エマは諦めたのか、それとも単純に浴衣選びが楽しみだったのかわからないが、「聞いて聞いて」と浴衣に合わせたい小物の話をし始めた。
浴衣が決まったら、それに合わせて簪とかちょっとしたヘアアクセを探しに行きたい、なんて話をしていれば、あっという間に冴羽邸の威圧感すらある門が見えてきた。周りの家だって自分の家やその近所と比べれば段違いに立派だが、エマの家は群を抜いている。以前五央も一緒だったときは夜だったから、門の中までは見えなかったが、まだ明るい今日は、門の中にちょっとした公園くらいの庭があるのが見えた。意味わからなすぎるし、なんならちょっと足が震えてきたまである。あの庭に我が家何軒か建つなぁと思うと、その奥のエマの家自体はうちの何倍あるんだろう……と慄いてしまう。あれか、小さいものと比べるからいけないんだ。学校と比べたら、流石に半分くらいだよね。庭だって校庭と比べればまだ可愛いもんだ。大丈夫、おかしなことを言っている自覚は十分にある。
その立派な門に、エマは当たり前だがなんとも思っていなさそうに近付き、一秒の躊躇もなくインターホンを押す。
「ただいま戻りました」
と言うとそれだけで門はガラガラと音を立て開かれる。「ひゃー」と私は思わず口に出してしまう。これテレビで見たことあるやつ! と興奮していると、
「何してるの? 行こ?」
と心底不思議がられてしまった。
校庭よりは狭く、でも近所の公園よりは広い庭をきょろきょろ見渡す間もなく直線距離で突っ切ると、目の前に重そうな二枚扉が現れる。正直予想外、意味わかんない。でもここまで来ると語彙力も馬鹿になるし、逆にテーマパークみたいで楽しい。そんなことを考えているうちに内側から扉が開き、
「おかえりなさいませ、お嬢様。ひかる様もお待ちしておりました」
と品の良いお姉さんに言われる。これはもう、完全に中世の貴族のロールプレイングだ。
「ただいま、暑かったからいったん冷たい紅茶用意していただいても良い?」
「はい、かしこまりました」
あーいやいや駄目駄目、挨拶、手土産! と済んでのところで我に返った私は、
「今日はお邪魔いたします。これ、大したものではないのですが……」
と慌ててケーキを渡す。そしてエマの方を向き、
「うちの近所のケーキ屋さんだけど結構評判で、ちょっと遠くの人とかも買いに来るの。季節のタルトと、メロンケーキと、後定番そうなの幾つか入ってるから」
と説明する。
「やったー! 夏のフルーツケーキ、両方食べたいから半分ずつして~! ひなさんごめんなさい、ケーキの用意もお願いできます?」
とエマが流れるように指示して、一先ず午前中からお茶会、ということになった。
◆
ひゃ~……と私は口をあんぐり開けてしまう。ショートケーキがまるで最初からこう切られていたかのように、細く二等分されていて、しかもケーキスタンドの上に綺麗に鎮座している。てかケーキスタンドを出しても負けない部屋があるというのがまずすごい。
「私お店以外で初めてケーキスタンドでティータイムするよ……」
「まあ私だって誰かと一緒じゃなきゃやらないよ」
そう言われて、エマが一人でケーキスタンドと向き合っている図を想像するが、あまりに違和感がなさすぎて、じゃあ逆にいつもはどうしてるんだ、という気にさえなった。
「ていうかマスターのとこの紅茶も美味しいけど、ここの紅茶も美味しいね。なんか似てる気がする」
「お、ひかる流石ねぇ。実はおんなじ茶葉使ってるのよ」
なるほど、それは良く似ているはずである。ていうかこれは完全に興味本位、野次馬根性なんだけど、この前のマスターとエマの絡みと言い、エマがあのカフェのキッチンまで熟知してることと言い、二人は一体どういう関係なんだろうか。今なら話の流れでさらっと触れてみるチャンス? と私は、
「そういえばエマはそうやってあそこのカフェにたどり着いたの?」
と尋ねる。実際あんな見つけにくいし入りにくいカフェに、女子高生が単騎特攻したとは思いづらい。
「あー、私のパパとマスターが友達なのよ、で、小さい時からお母様に内緒でケーキとかパフェとか食べに連れてってもらってたんだよね」
「えーじゃあもう十年くらい通ってるってこと?」
「そうなるね」
「超常連じゃん……そりゃキッチンにも詳しくなるね」
「タイミングが合えばだけど、年末にパパとマスターと三人で大掃除したりするからね」
そんなの最早従業員じゃんか。なんだか楽しそうだけれど、でも自分の父親と、その友達と一緒に何かするなんて、不思議な光景である。上に兄が居るからかもしれないけど、私ときたら父と二人で出かけた思い出自体全くないし、父の友人なんて一切知らない。
「なんかそういうのちょっと憧れるかも」
と私が呟くと、「じゃあ今年の大掃除一緒にする?」とエマに誘われる。違う違う、そうじゃない。
◆
美味しいものをいっぱい摂取して、緊張も解れた私は、エマとひなさんに案内され、また別の部屋に移動する。廊下も住めそうなくらい広いが、ティールームで終盤リラックス出来ていた私からすれば、もう怖いものなしである。
「こちらです」
と通された部屋も、ぱっと見はうちのリビングくらいなので、まだなんとか正気を保っている。が、良く見るといくつものハンガーラックに浴衣がご丁寧にも大の字になってディスプレイされている。隅には帯や帯留めも綺麗に並べられていて、完全に家の中に浴衣専門店が出来上がっていた。
「ひかるが好きそうなのとか似合いそうなのとか幾つかピックアップしといたよ~」
とにっこり顔のエマとひなさん、そしていつの間にか増えていた他のお手伝いさんと思しきお姉様方が全員戦意剥き出しのショップ店員みたいに見えて、私は思わず一歩二歩と腰が引けてしまった。
そこからはもう、小さい頃私に遊ばれていたリカちゃん人形ってこういう気持ちだったんだろうな、というくらい目まぐるしく浴衣を合わせられ、これは良い、となれば着させられ、の繰り返しである。しかも「ひかる様お似合いです」「可愛らしいです」なんて褒められ動揺している間に写真まで撮られていたらしく、最後はタブレットに写った照れまくっている情けない顔の自分をみんなで眺め会議する羽目になった。
「ひかる様は身長がありますし、お嬢様との対比で暗めの色のものがお似合いかと」
「でもお顔立ちでいえば白もお似合いだと思うんですよね。エマ様と柄違いの白で揃えても素敵ではないですか?」
と最早私もエマもそっちのけで、お手伝いさんたちが楽しんでいる。もう完全にリカちゃん人形である。
しかしかくいう私も、お手伝いさん方が決勝戦で戦わせているこの二着で揺れ動いている、という感じだ。紺地に白椿の柄の浴衣と、白地に花火柄の浴衣はどちらもそれぞれ違う雰囲気で可愛らしく、甲乙つけ難い。
「エマはどう思う?」
と尋ねるが、エマも「紺の方はひかるっぽいし好きそう! 似合う! って思うし、白の方も意外性あるけど似合うし可愛い! って感じだし、どうするよこれ、って感じ」と決めあぐねている。
「こうなったら最後はもう男目線で行きましょう」
と話し合いが硬直状態になったお手伝いさん方がエマにそう提案し、エマも
「仕方ない……か……」
とおもむろに立ち上がった。
そうしてあれよあれよと私はまた着付けられ、気付けば隣でエマも白い浴衣を着付けられ、そして今度はヘアセットもされ始めている。
「ひかるは絶対下重心の髪型でお願いしますね」
「はい、ひかる様は後ろ三つ編みにリボンを編み込もうかなと」
「良いねえ、そうしたら私も編み込みにリボンも編み込んで貰えますか」
なんて全く私が関与しないところでどんどん髪型が可愛くなっていく。大体ヘアセットなんて、たまーに美容院でカット後にやってもらうくらいで初体験なので、非現実的すぎてYouTubeのヘアセット動画でも見ている気持ちになる。
「はい、完成です!」
と頭の後ろに美容院でしか見たことのない、くの字の鏡をかざされ、そこには髪だけ見ればモデルみたいに可愛くセットされた自分の後ろ姿が映っていた。
「私の髪もプロにかかればこんなこなれた風になるのね……」
と思わず感嘆の息を漏らしてしまう。
隣に居たエマも、サイドを編み上げてあるアップスタイルになっていて、いつもは見えない首周りがすっきりしていて、ちょっと大人っぽく見える。
「ではお二人並んで頂いても?」
と私たちは並ばされ、また「可愛いです」攻撃を受けながらシャッターを切られ、そしてその勢いのまま二着目の浴衣に神速で衣装チェンジされた私はまたエマと並びシャッターを切られまくった。七五三の時も、修学旅行の時だってこんなに撮られてないわ……と思いながら、私は無の境地でシャッター音を聞いていた。
「さて……後は返信を待つのみですね」
とお手伝いさんが不穏なことを言う。え、あの写真、誰かに送ったの? 私はてっきりこれからこのお家で働いているどなたかに聞きに行くものだとばかり思っていて、それですら恥ずかしいのに誰かに画像データ送られていると聞いて、発狂しそうになる。
「えっとあの……つかぬことをお聞きいたしますが、一体誰に写真を送ったんですか?」
私がそう聞くと、エマはさも当たり前のように、
「パパと五央」
と答える。
「エマのパパ、知らない女の写真送られて『どっちが良いと思う』は地獄すぎでしょ」
「パパセンスあるし、それに知ってる知らないは似合ってるかどうかわかるかっていうのに関係ないよ」
「まあそうだけど……五央よあと五央。エマ毎回洋服悩んだら五央にも聞いてるの?」
「うん」
いやあんたらついこの前までめちゃくちゃ仲悪そうな感じだしてたじゃないですか。一触即発みたいな顔して裏では洋服に悩むたびやり取りしていたのかと思うと、微笑ましいも通り越して馬鹿なんじゃないか、という気持ちになる。でもエマもお手伝いさん方もさもそれが当たり前のような顔をしているので、あれ、もしかして私がおかしいのか? と一瞬不安になる。いやでも絶対そんなことない。私が父や兄に洋服どっちが良いかな? なんて、お互い家に居たって聞きやしないのに、わざわざ写真を撮って送りつけるなんて、絶対ない。やったとしても百パーセント返信なんて来ない。
「あ、お父さまから返信です! えっと……、『どっちも似合ってるのでこれは最早自分の好みになってしまうんだけど、紺の方が大人っぽいし良いんじゃないかなと思います。エマの浴衣も菖蒲の花柄だし。』ですって」
エマパパ、めっちゃきちんと返信くれるじゃん。しかも恐らくこれが百点満点の回答であろう。エマも、
「確かに、柄まであんまり考えてなかったけど、おんなじ白地で菖蒲と花火より、白地と紺地で菖蒲と椿のがバランス良い気がする」
とご満悦である。
「パパさんがこんなに的確にアドバイスくれるんだったら、五央に聞く必要なくない?」
「そうなんだけど、パパも毎回こんなに早く連絡取れるわけじゃないのよ。平均したら五央の方が早いんだよね」
エマのパパさんもエマのお母さんみたいにお忙しい人なんだろうか。でも一応同居という体にはなっているエマのお母さんよりも、別居しているパパさんの方がよっぽどエマと親しそうで、何だかなあ、と思ってしまう。五央のお父さんもそうだけど、同じ親族同士でもエマの家には明確に上下関係があって、それでエマも五央も選べないことがたくさんあるように思える。勿論私よりもたくさんの物や機会に恵まれていることは間違い無いのだけど。エマのお母さんだって、悪い人には思えなかったし。でもなんか、歪な気がする。うーん、でもどこの家庭だって、多かれ少なかれそんなもんだろうか。そもそも大半の人って生まれた時から自分だけにしか内情が見えない家庭があって、他の家庭はと上っ面でしか比べようがないから、答えなんてわかりようもないか。
「しっかしあれね、夏休みだってのに、五央から全然連絡来ないんだけど、何やってんのあいつ?」
「あ、五央って体育祭委員だから、多分今日も学校かも。授業じゃないからスマホ開いたりしても全然大丈夫だけど、作業してたりとかしたらしばらく気付かないかもね」
「ほーう、五央めっちゃ日本の高校生活エンジョイしてるんだね」
「それはそれはもう」
私がグーサインをかざすと、エマは、
「ちょっと安心した。一応私のせいで無理矢理転校させちゃったからさ」
と笑顔で、でもちょっと悲しそうに言った。
「別にエマのせいじゃないし……エマのせいなんだとしたら、焚き付けた私とお兄ちゃんのせいでもあるね」
「そっかあ」
「そうだよ」
そんな風に話していると、ふいに私のスマホが振動する。なんの通知だろうかとスマホを取り出し確認してみると、なぜか五央から私にラインが来ている。お? 夢五央ひーわのグループ何か動いてたっけ? と開いてみると、グループラインではなく個人ラインが来ていた。
『ひかる今エマの家に居る?』
さっきの浴衣の写真を見て送って来たのだろう。居るけど、なんなんだろう?
私が「その通り!」とうさぎがグーサインを掲げているスタンプをただ送ると、すぐに既読がつき、「りょうかーい」とだるそうな顔のくまから吹き出しが出ているスタンプが返ってきた。
「エマ、今日五央と会う用事あるの?」
「え? そんな予定ないけど、どうかした?」
「あ、すいませんエマさま、さっき奥さまから連絡がありまして、夏休みも五央さまイギリスに帰らないそうで、心配だから一度今日にでも朝井に顔見せるように言ってある、とおっしゃってましたので、もしかしたらこれから五央さまから連絡が……あ、今ちょうど……」
そう言うとお手伝いさんはタブレットを操作し、また画面を読み上げる。
「五央さまは、『どちらでも良いと思いますが、ひかるは紺の方が普段から着ていそうなイメージがあります。それと叔母さまから連絡がありまして、今日にでも一度顔見せるようにと言われましたので、学校での用事が終わり次第お伺いさせていただきます』だそうです」
「ええと、奥さまはエマのお母さん? で朝井さんは……」
「朝井はうちの執事長みたいな人なの。お母さまが居ない時のこの家の責任者みたいな感じ」
「執事長っていよいよ西洋の長編小説みたいになってきたね」
「何言ってんの?」
「でも五央、わざわざ私にエマのとこ居るか聞いてきたくらいだから、なんか用事あるのかな?」
私がふと話の舵をそちらの方向へ切ると、エマは「五央からなんか来たの?」と首をかしげる。
「エマの家に居るのかってライン来たのよね。まあ用事なんて、あったとしても大したことじゃないとは思うけど」
「ほう……ねえ、もしひかるが良ければ一緒にうちで夜ご飯食べて行かない? うちどうせお手伝いさんたちのとか大勢の分用意するから、一人くらい急に増えても誤差みたいな感じだし」
それはエマと長い時間話していたい私にとって非常に嬉しい申し出だが、こういう家で食べるご飯って、やっぱり格式高いものなのだろうか、と不安になる。
「私コース料理とか食べたことないんだけど大丈夫? ファミレス式ナイスフォークで通用する?」
「そんなただの夕飯でコース料理なんて出さないから大丈夫だよ。岩井さん、今日のご飯ってなんですか?」
エマがそうドアの近くに居た、若そうなお手伝いさんに声をかけると、
「少々お待ちくださいね、確認してまいります。」
とその人は決して走らず、でも急いでいる様子でどこかへと消えていった、と思ってからほんの数十秒、いや十数秒後だろうか、瞬間移動でもしたかのようにその人はまたこの部屋に戻ってきて、
「お待たせいたしました。本日の夕ご飯は、マグロとアボカドの和え物、ピーマンと茄子の和風肉詰め、しめじとほうれん草のおひたし、豆腐とネギの味噌汁とご飯、後は漬物各種だそうです」
と疲れを全く見せずにこりと微笑んだ。私と十も歳が変わらなそうな方なのに、しっかりとプロである。もしかしたら本当に瞬間移動が出来るのかもしれないけど。
「ありがとうございます。ねえひかる、一緒にご飯食べようよ! 箸なら使えるでしょ」
とエマはそんな超能力者お手伝いさんに驚きもせずお礼を述べ、そしてキラキラした瞳で私を見つめる。
「流石に箸ならいける、しかも魚とか煮豆みたいな技術力も求められてないし」
と私がつぶやくと、「やった~!」とエマは初めて見かけた時みたいに高さのないジャンプを繰り出しはじめたので、「いやこれから親に聞いてみる」とはとても言い出しにくい感じになってしまった。でも我が家では兄の力でエマの名前を出せば大抵のことは大丈夫になっているので、聞くまでもない、みたいなところはあるけれど。
「エマさま、五央さまも学校をお出になられて、もうすぐバスに乗られるそうですよ」
とまたタブレットを持ったお手伝いさんがエマに声をかけたので、
「じゃあこの部屋、そろそろ撤収しましょうか」
とエマの鶴の一声がかかり、舞台の転換みたいな早さでお店みたいになっていた部屋から浴衣も小物も消え、ただの鏡台のある部屋へと変貌したのだった。
それから今度はまた応接室のような別の部屋に移動し、その部屋のソファに二人腰掛けながら、花火大会が始まる前にどこかに少し出かけるか、なんて算段を立てる。エマ自身も一応着付けが出来るそうで、多少の着崩れなら直せるから、せっかくなら浴衣でプリとか撮ってから行かない? と提案されたのだ。
「いつもの駅……あー堀宮ね、にも一応プリ機二台くらいあるはずだけど、川後橋も栄えてて、ゲーセンとかもあったはずだよ」
と私が言うと、じゃあとエマが浮かれた声で、
「そしたら早々に川後橋まで行くのも良いねぇ。確か結構色んなお店あった気がするし」
と言う。それから、ほらほらとエマがスマホの画面を私に向けると、そこには可愛いカップケーキ屋さんのホームページが映し出されている。
「ここ気になってたんだよね、駅から徒歩八分らしいから、一人で行くのちょっと不安だったんだけど」
「つまり私がカーナビ代わりってことじゃん」
「まあまあ。ひかるもこういうの好きでしょ?」
「うん」
全くもって否定出来ない。それにこんな言い方をしているけど、エマが本当に私がこういう可愛くて甘いものが好きで、喜ぶって知っていて、でも照れ隠しでこういう誘い方をしているのがわかっているので、なんだか私も照れてしまったのだった。
そうして二人でちょっと照れあって無言で見つめあっていると、
「お前ら何やってるの」
と突然、五央の声がした。
「デートの計画立ててんのよ、ところで五央は何の用?」
とエマが聞くと、
「いや叔母さまに呼ばれたんだよ」
と五央が言う。
「それはそうだけど、わざわざひかるも必要な方の用事よ。ご丁寧に人払いまでしちゃってさ、おかげでびっくりしたよ」
そういえば、お手伝いさんから五央が到着した、と聞いた覚えがない。だから急に背後に五央が居て、びっくりという風になったのだ。
「あー、前のさ、カフェからかっぱらってきた、目覚まし時計の話。エマが俺の部屋で見ても何にもなかったって言ってたじゃん。だからひかるが居る時ならどうかなって思って」
そう五央に言われて思い出した、目覚まし時計の話。何故かいつものカフェのライトと連動してしまっていたそれを、もしかしたらこの家の五央の部屋と関係あるかも、とエマがこっそり持ち帰っていたのだが、「何も起きない」とあの後言われてから、すっかり存在を忘れていた。
「確かにひかるが居ればまた話が変わるかも。行ってみようか」
と私は立ち上がったエマと五央に連れられ、迷宮のようなこの屋敷を歩くことになったのだった。
◆
玄関からティータイムの部屋、浴衣の部屋、応接室、と移動して、結構屋敷中を歩き回った気で居たけれど、それでも私はまだまだ知らない道を延々と歩いている。なんでも五央の部屋は、少し離れたところにあるらしかった。とはいえ、少しの限度を超えている気がする。学校より冴羽家の方が広かったらどうしよう、と脳内の地図を更新し続けながらも、流石に不安になって来る。
しかしそれから程なくして、「ここだよ」とエマが立ち止まる。良かった。多分学校よりは狭いはずだ。この先にどれくらい部屋があるかにもよるけど、離れっていう言葉を信じればきっと、この辺りで行き止まりなはずである。そうであってほしい。
「っていうかエマ、時計自体はあるの?」
と五央が聞くと、
「何か変化するかな? って思ってこの部屋に置いておいたんだけど、確認するのすっかり忘れてた」
とエマは両手を広げておどけてみせた。
「というわけで五央の部屋になるかもしれなかったとこ~のルームツアー、スタート!」
と意気揚々とエマがドアノブを掴むが、ん? そこでエマはフリーズしてしまった。
「どうしたの?」
と私が尋ねると、
「開かない」
と一言。開かないってどういうこと? と思いつつ、
「開けていい?」
と私がドアノブをバトンタッチする。洋室によくあるハンドル型の、下に押してから動かすタイプだが、そもそも下に押すことが出来ない。体重を結構乗せてみてもびくともせず、むしろこのハンドル部分が折れてしまいそうなくらいだ。
「開かない」
と結局私もエマと全く同じことを言う羽目になったのだった。
その後五央も試すも、やっぱり開かない。
「五央で駄目なら力加減じゃないよね」
と私が言うと、エマは、
「普通にこの部屋も掃除に入ってるはずだし、やっぱりなんかあるんだと思う……けど、フリクションで何か描いたらどうにかなると思う?」
と首をかしげる。
外から見た限り、特に何かのせいで開かないような雰囲気はない。
「窓とかから入ってみる? 流石に五央の部屋にする予定だったってことは、窓の一つや二つあるよね」
と私が提案すると、
「この奥におっきい窓二つ付いてるし、開け閉めも出来るはず。行ってみよう。ここだと庭のどこから回れば良いかな」
とエマは早速考え始めた。
ここが一階で良かった。もし二階とかだったら、清楚ワンピースでアスレチックをしなくちゃならないところだった。それに私と五央は梯子があれば良いけれど、多分エマは階段でも設置しないと上がれなさそうである。
「あ、皆さま、こんなところに! 五央さまが持ってきてくださったお菓子用意致しました。まだお夕飯までもうしばらくありますので先にどうぞ、と朝井が」
五央の部屋の前で計画を立てていた私たちに、パタパタと駆け寄って来て声をかけて来たのは、ひなさんだった。
「ありがとうございます、ねえひなさん、この部屋ってどれくらいの頻度でお掃除してます?」
「五央さまのお部屋ですよね、こちらも一応使われているお部屋と同じように、毎日掃除に入っておりますよ。ただ他の部屋より使われていませんから、本当にちょっと埃をはたくくらいですけど」
「そうなんですね。そりゃあ何年も誰も使っていないのに、めちゃくちゃ綺麗だったわけだ……取り敢えず、おやつ、食べよっか」
確かに折角用意してくれたのに、それを無下には出来ない。それに毎日掃除に入っているのに今開かないということは、窓へ回ったとて開かない可能性が高い。一旦また作戦会議が必要だろう。そうして私たちは、また元居た応接室に戻るのだった。
五央が持ってきてくれたのは和菓子屋さんのゼリーで、夜空を模した色の小さなドーム型の中にそれぞれ金魚、満天の星、花火が入っている。
「これって日延神社のとこの、で気付いたけど、五央一回家帰ったのね」
「見りゃわかるだろ、私服じゃん」
確かに。五央の格好のことなんて全然気にしていなかったから、全く気付いていなかった。
「五央こんな映えそうなお店知ってるのね……ちょっと対抗心」
とエマが言うので、
「違うよ、ここ、学校の帰りに通るとこで、桜森生には有名なの。五央も私たちが連れてっただけ」
とネタばらしをする。
「味、全部ベースはソーダ風味で変わらないから、まあ見た目で、エマから好きなのどーぞ。ひかるは別にどれでも良いだろ?」
「うん。私これ、去年と今年で全種制覇したし。でも全部可愛いから悩んじゃうよね」
「うーん……じゃあ花火大会行く話してたから、花火にする。こういう時は延々悩んじゃうから、パッと決めないとね」
「じゃあ私もお祭りってことで金魚にしよっかな。五央は星で良い?」
「うん。じゃあそういうことで」
と三人でお皿を移動して、エマが撮影会をするのをしばし待って、それではいただきます、と私たちは各々のゼリーを口に運んだ。
「おお、さっぱりしてて美味しい!和菓子屋さんのだからすんごい甘いのかなって思ってたけど、全然そんなことないね」
と無事エマのお墨付きももらえて、なんだか私まで嬉しくなった。
その時、エマのスマホが振動する。ラインの通知とかじゃなくって、これは絶対着信の長さだ。
「あ、パパからだ。さっき写真送ったからかな? ごめんちょっとだけ電話して来て良い?
と言うので、勿論私と五央はオッケー、行ってらっしゃい、とエマを見送り、そして何故かエマの家で、二人きりになった。
「五央、体育祭委員はどうよ」
「なんか最近学校はどうだ、って久々に会って言う親戚みたいになってるけど大丈夫?」
「久々っていう点では間違ってないから。いやーなんかさ……」
この話、今して良いのかわからないけど、どうしても気になってしまう。うーと唸りながら私が濁していると、
「あー、颯?」
と五央は察したようで、なんでもないように言う。
「うん。なんか普通に仲良くやってるのはわかるんだけどさ、なんかやっぱり、こう、上手く言えないけど! ごめんね! って気持ちになる。まあ一番はひーわにだけど」
「でもひーわも最近は気にしてないと思うよ。ひーわってそういうの隠すの上手いけど、でもなんか、前よりも三人で居ても気楽な感じになってる、と思う」
「本当?」
「うん。だからひかるが気にすることないんじゃん?」
「やば、五央に急に優しくされたから、涙腺にきてる」
「お前ほんっと失礼だな。俺いつも優しくないか?」
「英語の課題見せてくれたりとか」
「そうそう」
「自販機でジュース奢ってくれたりとか」
「そうそう」
そんな風に五央の優しさに感謝しつつ、お互い照れ隠しにじゃれあっていると、
「五央さま、ひかるさま、奥さまがお帰りになられて、ご挨拶がしたいと……」
とお手伝いさんが申し訳なさそうに現れ、そしてもうその隣には見知らぬ女の方が立って居た。その凛としたオーラとお手伝いさんと五央の雰囲気から察するに、この人がエマのお母さんだ、と私は瞬時に理解して、神経がピンっと張り詰める。
「五央と……ひかるさん、ですよね。前はインターホン越しでごめんなさいね、エマの母です」
やっぱりそうだった、と私は慌てて立ち上がり、
「お邪魔しております、改めまして、瀬名光と申します。エマさんにはいつもとってもお世話になっていて……あ、エマさん今電話しに行ってるんです」
と告げる。
「そうなのね。もうお客さんを置いて行くなんて」
「あーその私が、私たちが行ってらっしゃいって言ったんで、ね?」
「ええ。俺もそうですけどひかるも、そんな気を使われるような仲じゃないですから。な?」
私は五央とアイコンタクトを取りながら、何これどうしようこれ、エマ早く、と地球のどこかにいるかもしれない神に祈る。
「ところで五央とひかるさんはクラスメイトなんでしたっけ」
とエマのお母さんは完全に面談モードだ。五央、お前が喋るんだ、とばかりに私は五央に向かって、普段は絶対しないような柔らかい微笑みを浮かべる。この場では五央も私に強い態度を取れないことは、よーくわかっているんだぞ。
「そうです。元々エマを介して一度会っては居たんですけど、たまたま転入したクラスに居て、もっと言うと俺が隣の席になった子が、ひかるの親しい友人で……」
「いつも、空席だった今五央が座っている場所で、その子と一緒にお昼ご飯を食べていたんです。だから自然に一緒にご飯を食べるようになって、仲良くさせていただいてます」
面談っていうか親族顔合わせで、馴れ初め言わされてるみたいになっている気がするけど、別におかしなことは言っていない。はず。
「そうだったんですね。五央にもすぐにお友達が出来て良かったわ。日本暮らしは久しぶりだから、少し心配していたのよ」
とエマのお母さんは嬉しそうにしていたので、多分百点だ。大丈夫大丈夫。でもそろそろ口角も限界だから、早く助けが来ないだろうか。そう思っていたら、
「ディナーの支度が出来ましたのでどうぞ。今日はお客さまも居るので帰宅時間のことも考え、いつもより早くご用意しておりますが、奥さまはいかがなさいますか?」
と今まで見た中で、多分この人が一番位が上だ、というオーラを放っている、エマのお母さんとも然程歳の変わらなそうなお手伝いさんが、神の一声を放ってくれた。
「あら、でもそれもそうよね……。私は顔だけ出して、食事自体はまた後で頂くわ。何件かまだメールも返さないといけないし」
「承知いたしました。ではそのように」
おやつを食べた直後なので、正直お腹はそこまで空いていないが、多分これもエマか誰かが上手いことやってくれたのだろう。ただ冴羽家で食事を、というだけで少し緊張しているのに、いくらなんでもエマのお母さんと初対面でいきなり食卓を囲むのは無理過ぎる。五央も隣で、明らかにさっきまでより明るい顔をして微笑んでいる。露骨すぎるだろ、隠せ、と私がこっそり睨みつけると、しまった、という顔をして瞬きを何度かして、誤魔化していた。
助けが来るとわかっているとさっきよりも幾分も落ち着いた気分で話せて、なんとか私たちは場を保たせながら食堂へと向かった。
◆
エマのお母さんは宣言通り私たちと少し話した後、本格的に食事が始まる前に、「では私はこれで失礼するわね」と言って去っていった。
「緊張した……」
と私が言うと、私の隣に居る五央が、「俺も」と続く。
「いや私が一番緊張した、絶対そう」
とエマが何故か少し誇らしげに参戦してくるけれど、あんたの親でしょうが、とツッコミたくなる。実の親にそんなに緊張する状況は同情を覚えるが、でも一番ってことは絶対にない。
「でも叔母さま、なんか今日機嫌良くなかった?」
と五央が失礼百万パーセントの発言をする。この部屋に居ないからって、凄い勇気だ。
「んー? 言われてみればそうかも。それどころじゃなくってあんまり気にしてなかったけど。ってかなんか気が抜けたらお腹空いちゃった。食べよ?」
とエマは「いただきまーす」と箸を取り、食べ始める。そういえばエマだけおやつの途中で退席したから、私たちよりはまだお腹が空いているのかもしれない。
「私たちおやつ食べたばっかりだから、食べられるかな」
と五央と二人不安になりながらも、結局あまりの美味しさにそれは杞憂に済んで、毎日これを食べているエマにちょっと嫉妬した。
◆
そして最後の表情筋を振り絞り、お行儀の良い笑顔で挨拶した私と五央は、「頼む、もうちょっといてくれ」とばかりに目を見開くエマに内心で小さく手を合わせ、二人で冴羽邸を後にする。時刻は六時を回ったくらいだが、夏だからまだまだ空は明るく、「車酔いする」という前回エマが使った理由を盾に、徒歩で家を後にすることが出来た。それに本当に実際、あんまりバスとかタクシーとか得意じゃないし。
お互い精神的にかなり疲弊していて、「まじ疲れた」「それな」「まじ緊張した」「それな」みたいな知能指数ゼロみたいな会話を繰り返していると、あっという間に駅に着いた。
それから時刻的に帰宅ラッシュにモロ被りの電車はぎゅう詰めで、大して五央と喋ることもなく、私たちは乗り換え駅で解散したのだった。
そうして一人になってから「あ」と五央の部屋のことを思い出す。目覚まし時計もなんにも確認していない。それをエマと五央のグループにラインすると、二人とも「あ」と似たような反応で、まあまたいつかリベンジしよう、夏休みはまだまだあるし、ということになったのであった。
そんなある日、浴衣が着たい、とエマが言いだしたので、私はうんうん、と適当に相槌を打つ。今は各々の部屋でスマホで通話しているわけだが、顔を合わせようが合わせまいが、私たち二人のテンションは然程変わりなかった。
「浴衣良いけどさ、私自分じゃ着付け出来ないし、そもそも浴衣自体持ってないんだわ」
正確には持ってはいるんだけど、とても今の年齢にはそぐわない色とデザインだ。絵の具を原液のまま塗りたくったような水色に、これまた原色の目に痛い黄色い星の柄。中学時代の私は一体何を考えていたんだろうか。当時はノーメイクであんな派手なものを着ていたっていうんだから、若さって恐ろしい。
「我が家でなら着付けできるし、なんなら浴衣貸すよ? ひかる好みそうなのもあるし」
「まじ?」
こう思わず若い返答をしてしまった自分に、苦笑いしそうになる。星柄の思い出に引っ張られているのだろうか、うん、恐ろしいのは若さより原色ネオンの星柄かもしれない。
「まじまじ。よし、これ決まりのテンションだね。どうしようどこ行く?」
「う~ん……家から着て行けるなら、わざわざ観光地とか行かなくても、無難に花火大会とかで良いんじゃない? 暗くなんないと浴衣って暑いし」
「確かに。じゃあどこが良いかな~、この辺で、日付あんまり遠くないといいな」
「なんで? なんかあるっけ?」
「いや、早く浴衣着て出かけたい」
「うっきうきかよ」
そんな小気味よい会話をしながら二人で色々調べた結果、件の図書館やカフェのある駅から電車で三十分程度の川後橋で行われる花火大会に目星が付いた。日付も来週で、かなり近い。
早速明日、エマの家に浴衣を見せに行かせてもらうこととなり、今日はおやすみ、と電話を切った。
それからふと気付く。エマんちって、はちゃめちゃ豪邸だったよね?
以前エマのお母さんが帰ってきていた時、エマを送り届けるのに五央と門までは行ったけれども。っていうかそもそも校門ばりのでっかい門がある家って、中身はどうなっているんだろう。デニムとかで行ったらドレスコード引っかかる? 手土産、近所のケーキ屋さんじゃまずい? デパ地下とか行かなきゃ駄目? だとして私はデパ地下で何を買えばいいの?
焦りながらベッドの中でスマホの画面をひたすらスワイプするも、打開策を見いだせないまま、気付けば私は寝落ちしてしまったようだった。
◆
次の日、目覚ましの力によりいつもよりだいぶ早く起きた私は、取り敢えず胸元のリボンタイが可愛いサックスブルーの清楚めワンピースを着て、それから髪も編み込みハーフアップにする。アップスタイルと迷ったが、時間が足りなくなっては元も子もない。これまたブルーのリボンのバレッタで髪を留め完了。アクセは大人しさを出すため付けない。これであの門を突破させてくれ、と私は心の中で手を合わせる。
デパ地下に行く時間なんてないので、近所のケーキ屋さんでケーキを何ピースか買う。お値段はお手ごろだが、たまに雑誌に載るくらいの味の保証はあるお店なのできっと大丈夫。少なくともエマは気に入ってくれるだろうとエマが食べているところを想像したら、少し落ち着いてきた。
冴羽邸、一度行ったから場所はわかるが(それが私の唯一の特技だ)、あの門を一人でくぐる勇気はないので私はエマの家の最寄り駅まで、エマに迎えに来てもらえるようお願いした。「迎え、車より歩きが良い?」に冗談じゃなく百回くらい「歩きが良い」といったおかげで、無事エマは歩きで来てくれたようで、私が駅に着いた時にはもう、彼女が一人で改札向かいの花屋さんの前に佇んでいるのが見える。こういう高級住宅地の駅は、花屋さんを利用する人が多いのだろうか、心なしか全体的に私の想像する駅の花屋さんよりも花の種類も量も多く、溢れんばかりのカラフルな色でいっぱいで、でもやっぱりエマはそれを背に立っていても様になる女で、思わず声をかけずにしばらく見つめてしまいたくなった。
そうすると視線で気付いたのか、エマはハッとしたような顔をして、こちらに視線を向ける。
「ひかる~おはよ~!」
エマはそう言いながら、花が咲くように笑う。眩しい。私やっぱりこいつのこと好きなのかな、と一瞬思わされてしまうその威力に目眩を覚えながらも、私もエマの方に駆け寄った。
「ひかる、私に声かけないで観察してたでしょ?」
観察とは人聞きの悪い。でも見惚れていただけだとはとても言えないから、
「なんか花背負ってんなあって思って」
とだけ返す。嘘はついていない。
「なんだそれどういう意味?」
「他意はございません。おはようお待たせさあ行こう」
「何よその流れるような話の逸らし方は」
私は聞こえないふりをして、エマの家の方角へと歩き出し、
「さ、早く浴衣浴衣!」
と歌うように言う。エマは諦めたのか、それとも単純に浴衣選びが楽しみだったのかわからないが、「聞いて聞いて」と浴衣に合わせたい小物の話をし始めた。
浴衣が決まったら、それに合わせて簪とかちょっとしたヘアアクセを探しに行きたい、なんて話をしていれば、あっという間に冴羽邸の威圧感すらある門が見えてきた。周りの家だって自分の家やその近所と比べれば段違いに立派だが、エマの家は群を抜いている。以前五央も一緒だったときは夜だったから、門の中までは見えなかったが、まだ明るい今日は、門の中にちょっとした公園くらいの庭があるのが見えた。意味わからなすぎるし、なんならちょっと足が震えてきたまである。あの庭に我が家何軒か建つなぁと思うと、その奥のエマの家自体はうちの何倍あるんだろう……と慄いてしまう。あれか、小さいものと比べるからいけないんだ。学校と比べたら、流石に半分くらいだよね。庭だって校庭と比べればまだ可愛いもんだ。大丈夫、おかしなことを言っている自覚は十分にある。
その立派な門に、エマは当たり前だがなんとも思っていなさそうに近付き、一秒の躊躇もなくインターホンを押す。
「ただいま戻りました」
と言うとそれだけで門はガラガラと音を立て開かれる。「ひゃー」と私は思わず口に出してしまう。これテレビで見たことあるやつ! と興奮していると、
「何してるの? 行こ?」
と心底不思議がられてしまった。
校庭よりは狭く、でも近所の公園よりは広い庭をきょろきょろ見渡す間もなく直線距離で突っ切ると、目の前に重そうな二枚扉が現れる。正直予想外、意味わかんない。でもここまで来ると語彙力も馬鹿になるし、逆にテーマパークみたいで楽しい。そんなことを考えているうちに内側から扉が開き、
「おかえりなさいませ、お嬢様。ひかる様もお待ちしておりました」
と品の良いお姉さんに言われる。これはもう、完全に中世の貴族のロールプレイングだ。
「ただいま、暑かったからいったん冷たい紅茶用意していただいても良い?」
「はい、かしこまりました」
あーいやいや駄目駄目、挨拶、手土産! と済んでのところで我に返った私は、
「今日はお邪魔いたします。これ、大したものではないのですが……」
と慌ててケーキを渡す。そしてエマの方を向き、
「うちの近所のケーキ屋さんだけど結構評判で、ちょっと遠くの人とかも買いに来るの。季節のタルトと、メロンケーキと、後定番そうなの幾つか入ってるから」
と説明する。
「やったー! 夏のフルーツケーキ、両方食べたいから半分ずつして~! ひなさんごめんなさい、ケーキの用意もお願いできます?」
とエマが流れるように指示して、一先ず午前中からお茶会、ということになった。
◆
ひゃ~……と私は口をあんぐり開けてしまう。ショートケーキがまるで最初からこう切られていたかのように、細く二等分されていて、しかもケーキスタンドの上に綺麗に鎮座している。てかケーキスタンドを出しても負けない部屋があるというのがまずすごい。
「私お店以外で初めてケーキスタンドでティータイムするよ……」
「まあ私だって誰かと一緒じゃなきゃやらないよ」
そう言われて、エマが一人でケーキスタンドと向き合っている図を想像するが、あまりに違和感がなさすぎて、じゃあ逆にいつもはどうしてるんだ、という気にさえなった。
「ていうかマスターのとこの紅茶も美味しいけど、ここの紅茶も美味しいね。なんか似てる気がする」
「お、ひかる流石ねぇ。実はおんなじ茶葉使ってるのよ」
なるほど、それは良く似ているはずである。ていうかこれは完全に興味本位、野次馬根性なんだけど、この前のマスターとエマの絡みと言い、エマがあのカフェのキッチンまで熟知してることと言い、二人は一体どういう関係なんだろうか。今なら話の流れでさらっと触れてみるチャンス? と私は、
「そういえばエマはそうやってあそこのカフェにたどり着いたの?」
と尋ねる。実際あんな見つけにくいし入りにくいカフェに、女子高生が単騎特攻したとは思いづらい。
「あー、私のパパとマスターが友達なのよ、で、小さい時からお母様に内緒でケーキとかパフェとか食べに連れてってもらってたんだよね」
「えーじゃあもう十年くらい通ってるってこと?」
「そうなるね」
「超常連じゃん……そりゃキッチンにも詳しくなるね」
「タイミングが合えばだけど、年末にパパとマスターと三人で大掃除したりするからね」
そんなの最早従業員じゃんか。なんだか楽しそうだけれど、でも自分の父親と、その友達と一緒に何かするなんて、不思議な光景である。上に兄が居るからかもしれないけど、私ときたら父と二人で出かけた思い出自体全くないし、父の友人なんて一切知らない。
「なんかそういうのちょっと憧れるかも」
と私が呟くと、「じゃあ今年の大掃除一緒にする?」とエマに誘われる。違う違う、そうじゃない。
◆
美味しいものをいっぱい摂取して、緊張も解れた私は、エマとひなさんに案内され、また別の部屋に移動する。廊下も住めそうなくらい広いが、ティールームで終盤リラックス出来ていた私からすれば、もう怖いものなしである。
「こちらです」
と通された部屋も、ぱっと見はうちのリビングくらいなので、まだなんとか正気を保っている。が、良く見るといくつものハンガーラックに浴衣がご丁寧にも大の字になってディスプレイされている。隅には帯や帯留めも綺麗に並べられていて、完全に家の中に浴衣専門店が出来上がっていた。
「ひかるが好きそうなのとか似合いそうなのとか幾つかピックアップしといたよ~」
とにっこり顔のエマとひなさん、そしていつの間にか増えていた他のお手伝いさんと思しきお姉様方が全員戦意剥き出しのショップ店員みたいに見えて、私は思わず一歩二歩と腰が引けてしまった。
そこからはもう、小さい頃私に遊ばれていたリカちゃん人形ってこういう気持ちだったんだろうな、というくらい目まぐるしく浴衣を合わせられ、これは良い、となれば着させられ、の繰り返しである。しかも「ひかる様お似合いです」「可愛らしいです」なんて褒められ動揺している間に写真まで撮られていたらしく、最後はタブレットに写った照れまくっている情けない顔の自分をみんなで眺め会議する羽目になった。
「ひかる様は身長がありますし、お嬢様との対比で暗めの色のものがお似合いかと」
「でもお顔立ちでいえば白もお似合いだと思うんですよね。エマ様と柄違いの白で揃えても素敵ではないですか?」
と最早私もエマもそっちのけで、お手伝いさんたちが楽しんでいる。もう完全にリカちゃん人形である。
しかしかくいう私も、お手伝いさん方が決勝戦で戦わせているこの二着で揺れ動いている、という感じだ。紺地に白椿の柄の浴衣と、白地に花火柄の浴衣はどちらもそれぞれ違う雰囲気で可愛らしく、甲乙つけ難い。
「エマはどう思う?」
と尋ねるが、エマも「紺の方はひかるっぽいし好きそう! 似合う! って思うし、白の方も意外性あるけど似合うし可愛い! って感じだし、どうするよこれ、って感じ」と決めあぐねている。
「こうなったら最後はもう男目線で行きましょう」
と話し合いが硬直状態になったお手伝いさん方がエマにそう提案し、エマも
「仕方ない……か……」
とおもむろに立ち上がった。
そうしてあれよあれよと私はまた着付けられ、気付けば隣でエマも白い浴衣を着付けられ、そして今度はヘアセットもされ始めている。
「ひかるは絶対下重心の髪型でお願いしますね」
「はい、ひかる様は後ろ三つ編みにリボンを編み込もうかなと」
「良いねえ、そうしたら私も編み込みにリボンも編み込んで貰えますか」
なんて全く私が関与しないところでどんどん髪型が可愛くなっていく。大体ヘアセットなんて、たまーに美容院でカット後にやってもらうくらいで初体験なので、非現実的すぎてYouTubeのヘアセット動画でも見ている気持ちになる。
「はい、完成です!」
と頭の後ろに美容院でしか見たことのない、くの字の鏡をかざされ、そこには髪だけ見ればモデルみたいに可愛くセットされた自分の後ろ姿が映っていた。
「私の髪もプロにかかればこんなこなれた風になるのね……」
と思わず感嘆の息を漏らしてしまう。
隣に居たエマも、サイドを編み上げてあるアップスタイルになっていて、いつもは見えない首周りがすっきりしていて、ちょっと大人っぽく見える。
「ではお二人並んで頂いても?」
と私たちは並ばされ、また「可愛いです」攻撃を受けながらシャッターを切られ、そしてその勢いのまま二着目の浴衣に神速で衣装チェンジされた私はまたエマと並びシャッターを切られまくった。七五三の時も、修学旅行の時だってこんなに撮られてないわ……と思いながら、私は無の境地でシャッター音を聞いていた。
「さて……後は返信を待つのみですね」
とお手伝いさんが不穏なことを言う。え、あの写真、誰かに送ったの? 私はてっきりこれからこのお家で働いているどなたかに聞きに行くものだとばかり思っていて、それですら恥ずかしいのに誰かに画像データ送られていると聞いて、発狂しそうになる。
「えっとあの……つかぬことをお聞きいたしますが、一体誰に写真を送ったんですか?」
私がそう聞くと、エマはさも当たり前のように、
「パパと五央」
と答える。
「エマのパパ、知らない女の写真送られて『どっちが良いと思う』は地獄すぎでしょ」
「パパセンスあるし、それに知ってる知らないは似合ってるかどうかわかるかっていうのに関係ないよ」
「まあそうだけど……五央よあと五央。エマ毎回洋服悩んだら五央にも聞いてるの?」
「うん」
いやあんたらついこの前までめちゃくちゃ仲悪そうな感じだしてたじゃないですか。一触即発みたいな顔して裏では洋服に悩むたびやり取りしていたのかと思うと、微笑ましいも通り越して馬鹿なんじゃないか、という気持ちになる。でもエマもお手伝いさん方もさもそれが当たり前のような顔をしているので、あれ、もしかして私がおかしいのか? と一瞬不安になる。いやでも絶対そんなことない。私が父や兄に洋服どっちが良いかな? なんて、お互い家に居たって聞きやしないのに、わざわざ写真を撮って送りつけるなんて、絶対ない。やったとしても百パーセント返信なんて来ない。
「あ、お父さまから返信です! えっと……、『どっちも似合ってるのでこれは最早自分の好みになってしまうんだけど、紺の方が大人っぽいし良いんじゃないかなと思います。エマの浴衣も菖蒲の花柄だし。』ですって」
エマパパ、めっちゃきちんと返信くれるじゃん。しかも恐らくこれが百点満点の回答であろう。エマも、
「確かに、柄まであんまり考えてなかったけど、おんなじ白地で菖蒲と花火より、白地と紺地で菖蒲と椿のがバランス良い気がする」
とご満悦である。
「パパさんがこんなに的確にアドバイスくれるんだったら、五央に聞く必要なくない?」
「そうなんだけど、パパも毎回こんなに早く連絡取れるわけじゃないのよ。平均したら五央の方が早いんだよね」
エマのパパさんもエマのお母さんみたいにお忙しい人なんだろうか。でも一応同居という体にはなっているエマのお母さんよりも、別居しているパパさんの方がよっぽどエマと親しそうで、何だかなあ、と思ってしまう。五央のお父さんもそうだけど、同じ親族同士でもエマの家には明確に上下関係があって、それでエマも五央も選べないことがたくさんあるように思える。勿論私よりもたくさんの物や機会に恵まれていることは間違い無いのだけど。エマのお母さんだって、悪い人には思えなかったし。でもなんか、歪な気がする。うーん、でもどこの家庭だって、多かれ少なかれそんなもんだろうか。そもそも大半の人って生まれた時から自分だけにしか内情が見えない家庭があって、他の家庭はと上っ面でしか比べようがないから、答えなんてわかりようもないか。
「しっかしあれね、夏休みだってのに、五央から全然連絡来ないんだけど、何やってんのあいつ?」
「あ、五央って体育祭委員だから、多分今日も学校かも。授業じゃないからスマホ開いたりしても全然大丈夫だけど、作業してたりとかしたらしばらく気付かないかもね」
「ほーう、五央めっちゃ日本の高校生活エンジョイしてるんだね」
「それはそれはもう」
私がグーサインをかざすと、エマは、
「ちょっと安心した。一応私のせいで無理矢理転校させちゃったからさ」
と笑顔で、でもちょっと悲しそうに言った。
「別にエマのせいじゃないし……エマのせいなんだとしたら、焚き付けた私とお兄ちゃんのせいでもあるね」
「そっかあ」
「そうだよ」
そんな風に話していると、ふいに私のスマホが振動する。なんの通知だろうかとスマホを取り出し確認してみると、なぜか五央から私にラインが来ている。お? 夢五央ひーわのグループ何か動いてたっけ? と開いてみると、グループラインではなく個人ラインが来ていた。
『ひかる今エマの家に居る?』
さっきの浴衣の写真を見て送って来たのだろう。居るけど、なんなんだろう?
私が「その通り!」とうさぎがグーサインを掲げているスタンプをただ送ると、すぐに既読がつき、「りょうかーい」とだるそうな顔のくまから吹き出しが出ているスタンプが返ってきた。
「エマ、今日五央と会う用事あるの?」
「え? そんな予定ないけど、どうかした?」
「あ、すいませんエマさま、さっき奥さまから連絡がありまして、夏休みも五央さまイギリスに帰らないそうで、心配だから一度今日にでも朝井に顔見せるように言ってある、とおっしゃってましたので、もしかしたらこれから五央さまから連絡が……あ、今ちょうど……」
そう言うとお手伝いさんはタブレットを操作し、また画面を読み上げる。
「五央さまは、『どちらでも良いと思いますが、ひかるは紺の方が普段から着ていそうなイメージがあります。それと叔母さまから連絡がありまして、今日にでも一度顔見せるようにと言われましたので、学校での用事が終わり次第お伺いさせていただきます』だそうです」
「ええと、奥さまはエマのお母さん? で朝井さんは……」
「朝井はうちの執事長みたいな人なの。お母さまが居ない時のこの家の責任者みたいな感じ」
「執事長っていよいよ西洋の長編小説みたいになってきたね」
「何言ってんの?」
「でも五央、わざわざ私にエマのとこ居るか聞いてきたくらいだから、なんか用事あるのかな?」
私がふと話の舵をそちらの方向へ切ると、エマは「五央からなんか来たの?」と首をかしげる。
「エマの家に居るのかってライン来たのよね。まあ用事なんて、あったとしても大したことじゃないとは思うけど」
「ほう……ねえ、もしひかるが良ければ一緒にうちで夜ご飯食べて行かない? うちどうせお手伝いさんたちのとか大勢の分用意するから、一人くらい急に増えても誤差みたいな感じだし」
それはエマと長い時間話していたい私にとって非常に嬉しい申し出だが、こういう家で食べるご飯って、やっぱり格式高いものなのだろうか、と不安になる。
「私コース料理とか食べたことないんだけど大丈夫? ファミレス式ナイスフォークで通用する?」
「そんなただの夕飯でコース料理なんて出さないから大丈夫だよ。岩井さん、今日のご飯ってなんですか?」
エマがそうドアの近くに居た、若そうなお手伝いさんに声をかけると、
「少々お待ちくださいね、確認してまいります。」
とその人は決して走らず、でも急いでいる様子でどこかへと消えていった、と思ってからほんの数十秒、いや十数秒後だろうか、瞬間移動でもしたかのようにその人はまたこの部屋に戻ってきて、
「お待たせいたしました。本日の夕ご飯は、マグロとアボカドの和え物、ピーマンと茄子の和風肉詰め、しめじとほうれん草のおひたし、豆腐とネギの味噌汁とご飯、後は漬物各種だそうです」
と疲れを全く見せずにこりと微笑んだ。私と十も歳が変わらなそうな方なのに、しっかりとプロである。もしかしたら本当に瞬間移動が出来るのかもしれないけど。
「ありがとうございます。ねえひかる、一緒にご飯食べようよ! 箸なら使えるでしょ」
とエマはそんな超能力者お手伝いさんに驚きもせずお礼を述べ、そしてキラキラした瞳で私を見つめる。
「流石に箸ならいける、しかも魚とか煮豆みたいな技術力も求められてないし」
と私がつぶやくと、「やった~!」とエマは初めて見かけた時みたいに高さのないジャンプを繰り出しはじめたので、「いやこれから親に聞いてみる」とはとても言い出しにくい感じになってしまった。でも我が家では兄の力でエマの名前を出せば大抵のことは大丈夫になっているので、聞くまでもない、みたいなところはあるけれど。
「エマさま、五央さまも学校をお出になられて、もうすぐバスに乗られるそうですよ」
とまたタブレットを持ったお手伝いさんがエマに声をかけたので、
「じゃあこの部屋、そろそろ撤収しましょうか」
とエマの鶴の一声がかかり、舞台の転換みたいな早さでお店みたいになっていた部屋から浴衣も小物も消え、ただの鏡台のある部屋へと変貌したのだった。
それから今度はまた応接室のような別の部屋に移動し、その部屋のソファに二人腰掛けながら、花火大会が始まる前にどこかに少し出かけるか、なんて算段を立てる。エマ自身も一応着付けが出来るそうで、多少の着崩れなら直せるから、せっかくなら浴衣でプリとか撮ってから行かない? と提案されたのだ。
「いつもの駅……あー堀宮ね、にも一応プリ機二台くらいあるはずだけど、川後橋も栄えてて、ゲーセンとかもあったはずだよ」
と私が言うと、じゃあとエマが浮かれた声で、
「そしたら早々に川後橋まで行くのも良いねぇ。確か結構色んなお店あった気がするし」
と言う。それから、ほらほらとエマがスマホの画面を私に向けると、そこには可愛いカップケーキ屋さんのホームページが映し出されている。
「ここ気になってたんだよね、駅から徒歩八分らしいから、一人で行くのちょっと不安だったんだけど」
「つまり私がカーナビ代わりってことじゃん」
「まあまあ。ひかるもこういうの好きでしょ?」
「うん」
全くもって否定出来ない。それにこんな言い方をしているけど、エマが本当に私がこういう可愛くて甘いものが好きで、喜ぶって知っていて、でも照れ隠しでこういう誘い方をしているのがわかっているので、なんだか私も照れてしまったのだった。
そうして二人でちょっと照れあって無言で見つめあっていると、
「お前ら何やってるの」
と突然、五央の声がした。
「デートの計画立ててんのよ、ところで五央は何の用?」
とエマが聞くと、
「いや叔母さまに呼ばれたんだよ」
と五央が言う。
「それはそうだけど、わざわざひかるも必要な方の用事よ。ご丁寧に人払いまでしちゃってさ、おかげでびっくりしたよ」
そういえば、お手伝いさんから五央が到着した、と聞いた覚えがない。だから急に背後に五央が居て、びっくりという風になったのだ。
「あー、前のさ、カフェからかっぱらってきた、目覚まし時計の話。エマが俺の部屋で見ても何にもなかったって言ってたじゃん。だからひかるが居る時ならどうかなって思って」
そう五央に言われて思い出した、目覚まし時計の話。何故かいつものカフェのライトと連動してしまっていたそれを、もしかしたらこの家の五央の部屋と関係あるかも、とエマがこっそり持ち帰っていたのだが、「何も起きない」とあの後言われてから、すっかり存在を忘れていた。
「確かにひかるが居ればまた話が変わるかも。行ってみようか」
と私は立ち上がったエマと五央に連れられ、迷宮のようなこの屋敷を歩くことになったのだった。
◆
玄関からティータイムの部屋、浴衣の部屋、応接室、と移動して、結構屋敷中を歩き回った気で居たけれど、それでも私はまだまだ知らない道を延々と歩いている。なんでも五央の部屋は、少し離れたところにあるらしかった。とはいえ、少しの限度を超えている気がする。学校より冴羽家の方が広かったらどうしよう、と脳内の地図を更新し続けながらも、流石に不安になって来る。
しかしそれから程なくして、「ここだよ」とエマが立ち止まる。良かった。多分学校よりは狭いはずだ。この先にどれくらい部屋があるかにもよるけど、離れっていう言葉を信じればきっと、この辺りで行き止まりなはずである。そうであってほしい。
「っていうかエマ、時計自体はあるの?」
と五央が聞くと、
「何か変化するかな? って思ってこの部屋に置いておいたんだけど、確認するのすっかり忘れてた」
とエマは両手を広げておどけてみせた。
「というわけで五央の部屋になるかもしれなかったとこ~のルームツアー、スタート!」
と意気揚々とエマがドアノブを掴むが、ん? そこでエマはフリーズしてしまった。
「どうしたの?」
と私が尋ねると、
「開かない」
と一言。開かないってどういうこと? と思いつつ、
「開けていい?」
と私がドアノブをバトンタッチする。洋室によくあるハンドル型の、下に押してから動かすタイプだが、そもそも下に押すことが出来ない。体重を結構乗せてみてもびくともせず、むしろこのハンドル部分が折れてしまいそうなくらいだ。
「開かない」
と結局私もエマと全く同じことを言う羽目になったのだった。
その後五央も試すも、やっぱり開かない。
「五央で駄目なら力加減じゃないよね」
と私が言うと、エマは、
「普通にこの部屋も掃除に入ってるはずだし、やっぱりなんかあるんだと思う……けど、フリクションで何か描いたらどうにかなると思う?」
と首をかしげる。
外から見た限り、特に何かのせいで開かないような雰囲気はない。
「窓とかから入ってみる? 流石に五央の部屋にする予定だったってことは、窓の一つや二つあるよね」
と私が提案すると、
「この奥におっきい窓二つ付いてるし、開け閉めも出来るはず。行ってみよう。ここだと庭のどこから回れば良いかな」
とエマは早速考え始めた。
ここが一階で良かった。もし二階とかだったら、清楚ワンピースでアスレチックをしなくちゃならないところだった。それに私と五央は梯子があれば良いけれど、多分エマは階段でも設置しないと上がれなさそうである。
「あ、皆さま、こんなところに! 五央さまが持ってきてくださったお菓子用意致しました。まだお夕飯までもうしばらくありますので先にどうぞ、と朝井が」
五央の部屋の前で計画を立てていた私たちに、パタパタと駆け寄って来て声をかけて来たのは、ひなさんだった。
「ありがとうございます、ねえひなさん、この部屋ってどれくらいの頻度でお掃除してます?」
「五央さまのお部屋ですよね、こちらも一応使われているお部屋と同じように、毎日掃除に入っておりますよ。ただ他の部屋より使われていませんから、本当にちょっと埃をはたくくらいですけど」
「そうなんですね。そりゃあ何年も誰も使っていないのに、めちゃくちゃ綺麗だったわけだ……取り敢えず、おやつ、食べよっか」
確かに折角用意してくれたのに、それを無下には出来ない。それに毎日掃除に入っているのに今開かないということは、窓へ回ったとて開かない可能性が高い。一旦また作戦会議が必要だろう。そうして私たちは、また元居た応接室に戻るのだった。
五央が持ってきてくれたのは和菓子屋さんのゼリーで、夜空を模した色の小さなドーム型の中にそれぞれ金魚、満天の星、花火が入っている。
「これって日延神社のとこの、で気付いたけど、五央一回家帰ったのね」
「見りゃわかるだろ、私服じゃん」
確かに。五央の格好のことなんて全然気にしていなかったから、全く気付いていなかった。
「五央こんな映えそうなお店知ってるのね……ちょっと対抗心」
とエマが言うので、
「違うよ、ここ、学校の帰りに通るとこで、桜森生には有名なの。五央も私たちが連れてっただけ」
とネタばらしをする。
「味、全部ベースはソーダ風味で変わらないから、まあ見た目で、エマから好きなのどーぞ。ひかるは別にどれでも良いだろ?」
「うん。私これ、去年と今年で全種制覇したし。でも全部可愛いから悩んじゃうよね」
「うーん……じゃあ花火大会行く話してたから、花火にする。こういう時は延々悩んじゃうから、パッと決めないとね」
「じゃあ私もお祭りってことで金魚にしよっかな。五央は星で良い?」
「うん。じゃあそういうことで」
と三人でお皿を移動して、エマが撮影会をするのをしばし待って、それではいただきます、と私たちは各々のゼリーを口に運んだ。
「おお、さっぱりしてて美味しい!和菓子屋さんのだからすんごい甘いのかなって思ってたけど、全然そんなことないね」
と無事エマのお墨付きももらえて、なんだか私まで嬉しくなった。
その時、エマのスマホが振動する。ラインの通知とかじゃなくって、これは絶対着信の長さだ。
「あ、パパからだ。さっき写真送ったからかな? ごめんちょっとだけ電話して来て良い?
と言うので、勿論私と五央はオッケー、行ってらっしゃい、とエマを見送り、そして何故かエマの家で、二人きりになった。
「五央、体育祭委員はどうよ」
「なんか最近学校はどうだ、って久々に会って言う親戚みたいになってるけど大丈夫?」
「久々っていう点では間違ってないから。いやーなんかさ……」
この話、今して良いのかわからないけど、どうしても気になってしまう。うーと唸りながら私が濁していると、
「あー、颯?」
と五央は察したようで、なんでもないように言う。
「うん。なんか普通に仲良くやってるのはわかるんだけどさ、なんかやっぱり、こう、上手く言えないけど! ごめんね! って気持ちになる。まあ一番はひーわにだけど」
「でもひーわも最近は気にしてないと思うよ。ひーわってそういうの隠すの上手いけど、でもなんか、前よりも三人で居ても気楽な感じになってる、と思う」
「本当?」
「うん。だからひかるが気にすることないんじゃん?」
「やば、五央に急に優しくされたから、涙腺にきてる」
「お前ほんっと失礼だな。俺いつも優しくないか?」
「英語の課題見せてくれたりとか」
「そうそう」
「自販機でジュース奢ってくれたりとか」
「そうそう」
そんな風に五央の優しさに感謝しつつ、お互い照れ隠しにじゃれあっていると、
「五央さま、ひかるさま、奥さまがお帰りになられて、ご挨拶がしたいと……」
とお手伝いさんが申し訳なさそうに現れ、そしてもうその隣には見知らぬ女の方が立って居た。その凛としたオーラとお手伝いさんと五央の雰囲気から察するに、この人がエマのお母さんだ、と私は瞬時に理解して、神経がピンっと張り詰める。
「五央と……ひかるさん、ですよね。前はインターホン越しでごめんなさいね、エマの母です」
やっぱりそうだった、と私は慌てて立ち上がり、
「お邪魔しております、改めまして、瀬名光と申します。エマさんにはいつもとってもお世話になっていて……あ、エマさん今電話しに行ってるんです」
と告げる。
「そうなのね。もうお客さんを置いて行くなんて」
「あーその私が、私たちが行ってらっしゃいって言ったんで、ね?」
「ええ。俺もそうですけどひかるも、そんな気を使われるような仲じゃないですから。な?」
私は五央とアイコンタクトを取りながら、何これどうしようこれ、エマ早く、と地球のどこかにいるかもしれない神に祈る。
「ところで五央とひかるさんはクラスメイトなんでしたっけ」
とエマのお母さんは完全に面談モードだ。五央、お前が喋るんだ、とばかりに私は五央に向かって、普段は絶対しないような柔らかい微笑みを浮かべる。この場では五央も私に強い態度を取れないことは、よーくわかっているんだぞ。
「そうです。元々エマを介して一度会っては居たんですけど、たまたま転入したクラスに居て、もっと言うと俺が隣の席になった子が、ひかるの親しい友人で……」
「いつも、空席だった今五央が座っている場所で、その子と一緒にお昼ご飯を食べていたんです。だから自然に一緒にご飯を食べるようになって、仲良くさせていただいてます」
面談っていうか親族顔合わせで、馴れ初め言わされてるみたいになっている気がするけど、別におかしなことは言っていない。はず。
「そうだったんですね。五央にもすぐにお友達が出来て良かったわ。日本暮らしは久しぶりだから、少し心配していたのよ」
とエマのお母さんは嬉しそうにしていたので、多分百点だ。大丈夫大丈夫。でもそろそろ口角も限界だから、早く助けが来ないだろうか。そう思っていたら、
「ディナーの支度が出来ましたのでどうぞ。今日はお客さまも居るので帰宅時間のことも考え、いつもより早くご用意しておりますが、奥さまはいかがなさいますか?」
と今まで見た中で、多分この人が一番位が上だ、というオーラを放っている、エマのお母さんとも然程歳の変わらなそうなお手伝いさんが、神の一声を放ってくれた。
「あら、でもそれもそうよね……。私は顔だけ出して、食事自体はまた後で頂くわ。何件かまだメールも返さないといけないし」
「承知いたしました。ではそのように」
おやつを食べた直後なので、正直お腹はそこまで空いていないが、多分これもエマか誰かが上手いことやってくれたのだろう。ただ冴羽家で食事を、というだけで少し緊張しているのに、いくらなんでもエマのお母さんと初対面でいきなり食卓を囲むのは無理過ぎる。五央も隣で、明らかにさっきまでより明るい顔をして微笑んでいる。露骨すぎるだろ、隠せ、と私がこっそり睨みつけると、しまった、という顔をして瞬きを何度かして、誤魔化していた。
助けが来るとわかっているとさっきよりも幾分も落ち着いた気分で話せて、なんとか私たちは場を保たせながら食堂へと向かった。
◆
エマのお母さんは宣言通り私たちと少し話した後、本格的に食事が始まる前に、「では私はこれで失礼するわね」と言って去っていった。
「緊張した……」
と私が言うと、私の隣に居る五央が、「俺も」と続く。
「いや私が一番緊張した、絶対そう」
とエマが何故か少し誇らしげに参戦してくるけれど、あんたの親でしょうが、とツッコミたくなる。実の親にそんなに緊張する状況は同情を覚えるが、でも一番ってことは絶対にない。
「でも叔母さま、なんか今日機嫌良くなかった?」
と五央が失礼百万パーセントの発言をする。この部屋に居ないからって、凄い勇気だ。
「んー? 言われてみればそうかも。それどころじゃなくってあんまり気にしてなかったけど。ってかなんか気が抜けたらお腹空いちゃった。食べよ?」
とエマは「いただきまーす」と箸を取り、食べ始める。そういえばエマだけおやつの途中で退席したから、私たちよりはまだお腹が空いているのかもしれない。
「私たちおやつ食べたばっかりだから、食べられるかな」
と五央と二人不安になりながらも、結局あまりの美味しさにそれは杞憂に済んで、毎日これを食べているエマにちょっと嫉妬した。
◆
そして最後の表情筋を振り絞り、お行儀の良い笑顔で挨拶した私と五央は、「頼む、もうちょっといてくれ」とばかりに目を見開くエマに内心で小さく手を合わせ、二人で冴羽邸を後にする。時刻は六時を回ったくらいだが、夏だからまだまだ空は明るく、「車酔いする」という前回エマが使った理由を盾に、徒歩で家を後にすることが出来た。それに本当に実際、あんまりバスとかタクシーとか得意じゃないし。
お互い精神的にかなり疲弊していて、「まじ疲れた」「それな」「まじ緊張した」「それな」みたいな知能指数ゼロみたいな会話を繰り返していると、あっという間に駅に着いた。
それから時刻的に帰宅ラッシュにモロ被りの電車はぎゅう詰めで、大して五央と喋ることもなく、私たちは乗り換え駅で解散したのだった。
そうして一人になってから「あ」と五央の部屋のことを思い出す。目覚まし時計もなんにも確認していない。それをエマと五央のグループにラインすると、二人とも「あ」と似たような反応で、まあまたいつかリベンジしよう、夏休みはまだまだあるし、ということになったのであった。
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