初期値モブの私が外堀を埋められて主人公になる話

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モブ、長い雨と長い一日を過ごす

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 雨雨雨。寝ても覚めてもずっと雨。これが梅雨だと言われてしまえばその通りなんだけれど、にしたって連続降水記録を更新するんじゃないかってくらいずっと雨。いつもはアイロンでゆるく巻いている前髪も今朝はどうしようもなくて、今日は諦めてサイドに流し編み込みで留めている。おでこを出すと子供っぽくなるから嫌なんだけど、もうこの湿気じゃ四の五の言っていられないのである。
「うわっ、ひかるか。おはよ! かわいいね前髪~」
 と夢は言ってくれたが、正直全然しっくりきていない。そしてその夢自身も、いつもは内巻きボブなのに諦めて無理やりハーフアップにしている。
「おはよ、夢もハーフアップ可愛いよ、可愛いけどさ」
「ねー、落ち着かない」
 自分が好きでおでこを出したりハーフアップにする分には構わない。でもこうしてやむなし……となると気分も上がらないし、なんだかそわそわしてしまう。
「その点男子はいいよね」
 と五央とひーわを見れば、全くもって通常運転。湿気癖っ毛とは無縁で涼しい顔をしている。気温だけでいえばこの長雨で少しは低くなったし、彼らにとってはむしろ恵みの雨なのかもしれない。けれど、
「いや、良くはないから」
 とひーわはわざとらしく溜め息をつく。
「はいどーぞ」と私が雑に続きを促すと、
「だってサッカー部ってグラウンド使えないと、ずーっと筋トレとか体力づくりメニューになるんだよ! たまになら良いけど、いい加減飽きた!」
 と意外に納得のいく、まともな回答が返ってきた。なんかごめんね、ひーわ。
「五央は……」
 とひーわが言いかけて、そしてそのまま話は止まる。妙な沈黙。ん? と私と夢が五央の顔をちらりと覗き込むと、五央は心ここにあらずといった感じで、灰色の窓の外をただじっと見つめていた。



 五央が変な感じだったのは朝のその時だけで、その後の休み時間もお昼の時もなんら変わりはなかった。私たちは結局今日も一日、ずっと左耳で雨の音を聞きながら授業をやり過ごした。
 むしろ変わりがあったといえば、私が日直だったことくらいだ。でも号令はクラス委員がかけることになっているし、その他の仕事は黒板を消すのをもう一人の日直、がしくん(苗字が東だから、がしくんと呼ばれている)、そして日誌を私、と分担したので、私はぼんやりと日誌を埋めるネタを探しているくらいだったが。

 結局放課後になっても、日誌に書くことなんて雨の話以外無く、余りに余った罫線を私は恨めし気に見つめていた。これなら毎時間黒板消すほうが楽だったかもしれない。もう教室にいるのは私一人だけだし、いよいよカエルのイラストでも描くしかないかと思っていると、開けっ放しのドアから帰ったはずの五央が教室に入ってきた。
「うわひかる、まだ居んの?」
 これ幸いと、私は五央に問う。
「助けて五央、日誌、まじで書くことない。雨すごい以外に何か今日あった?」
「ない」
「だよねー、雨すごいだけで三行頑張ったんだけど、これ以上は無理」
「もう晴れたらしたいこととか書けば? 全く今日のクラスに関係ある話じゃないけど」
「おっそれ名案、私今さっきまでカエルのイラストでも描くしかないかな~って思ってたから、文章な分だけ大進歩だわ」
 晴れたら窓を開けて外の陽の光を浴び、健康的に授業を受けたいです。また、ずっと延期になっているグラウンドでの体育の授業も待ちわびています。心身の健康のためにも、梅雨明けが待ち遠しいですっと。
 字も大きく書いて、無駄に改行もしたら完璧。おおよそ埋まったので良し。
「書っけた~! 五央ありがと! なんで教室に戻ってきたのかわかんないけど」
 私がそう言うと、五央は外を指差す。
「雨、ちょっと前から物凄くって警報まで出てるらしいんだよ。昇降口でタイミング悪く親父から電話来たから話してたら、とても屋根なしのバス停では待ってられないくらいになってた」
 五央はいつもはチャリ通だが、流石に雨の日は歩きかバスだ。でもこの学校から駅までのバスは、帰りのHR終わりに四本来たらその後はしばらく来ない。部活が終わる時間まで利用する人がほとんど居ないからだ。私は完全に歩きで帰るつもりだったけど、確かにこの豪雨じゃ傘なんかあってもずぶ濡れだ。私服なら洗濯すればいいが、制服はそうもいかないのでバスで帰るしかないだろう。
「油断してた……長雨だけでもうんざりなのに、豪雨とはまずった」
「次のバスまであと四十七分」
「なっが。だったら私、紙パックの自販でなんか買ってこようかな。五央もいる? てか来る?」
「ついてくわ。俺まだその紙パックの自販? がどこにあるか知らない」
「まじか、じゃあ連れてったげる」
 五央が知らないのは意外だった、紙パックの自販機。この学校の自販機は基本ペットボトルのよくあるタイプなのだが一階の倉庫や校長室に繋がる渡り廊下の先にだけ、紙パックのいちご牛乳やコーヒー牛乳が買える自販機があるのだ。紙パック飲料は誰しもたまーに飲みたくなる、魅惑の飲み物だ。五央も知っておいて損はないだろう。

 私たちの教室は二階なので階段を下り、一階で昇降口をスルーするとそこには渡り廊下という名の屋根のあるコンクリ打ちっぱなしの道がある。
「これ、渡り廊下なのか?」
 という五央の感想はごもっともだ。屋根こそあれど床なんて雨が吹き込んでいて最早屋外と大差ないし、むしろここ上履きで通っていいのか? と不安になりそうな道だ。しかし代々渡り廊下と言われているし、みんな上履きで通っている。
「先生も先輩もそう言ってたし、渡り廊下らしいよ。奥が職員玄関と校長室。流石に初日は通ったでしょ?」
「そういうからそういうもんなんだ、ってやつだな。言われてみたら来たかもしれないけど、渡り廊下とは認識してなかったな」
「まあでしょうね。もうちょっと広ければピロティーかなって気もするけど」
「ピロティーって柱だけで壁なしの空間のことだろ? ある意味ここもピロティーなんじゃないか?」
「そうなの? 私てっきり、コンクリ打ちっぱなしの広場のことをピロティーって言うんだと思ってた。学校でしか聞かない言葉だし」
 桜森にはピロティーと呼ばれる空間はないけど、私の通っていた小中学校にはそう呼ばれる空間があったのだ。コンクリのグレーで晴れてもどんよりとしている代わりに、雨の日でも狭いが外遊びのできる、人気のスポットだった。
 そうこうしているうちにお目当ての自販機が見えてくる。渡り廊下から吹き込む砂か何かのせいだろうか、元は白い機械だろうに、ところどころまだらに薄茶色に染まっていて、年季が入っているなという風格だ。
「これでーす! 私はいちご牛乳……いやでもいざ来てみるとココアもありだな、うーん……。五央は何にするの?」
 というのと同時に、ガコン、と間抜けな音が響く。
「俺は牛乳」
 と五央は高らかに牛乳のパッケージを見せつけてくる。
「初回なのに牛乳? この世でここにしかないような飲み物もあるのに?」
「いやだって牛乳美味いじゃん」
「わかるよ、わかるけども!私も二年もいて未だに怖くてミックスオレには手ぇ出してないけれども」
「ミックスオレが怖いの意味のがわからんわ」
「このミックスオレ、パッケージになんのフルーツも書いてないくせに、うさぎとくまのイラストだけ描いてあるのよ。いちご牛乳には苺、コーヒー牛乳にはコーヒー豆が書いてあるのに」
 つまり、ミックスされているのは……という都市伝説だが、実際なんのフルーツベースかによって味は大分変わるし、遠路はるばるここまで来てハズレを引きたくないと、つい同じようなものを買ってしまう。
「私も牛乳にしようかな。なんか見てたら飲みたくなったし、原点回帰……」
 と言っていたら、またがこん、そしてもう一度がこん、と今度は間抜けな音が二度続けて聞こえてきた。
「え……」と五央を見れば、スッと無言で牛乳を手渡される。
「案内料ってことで、奢り」
「まじ? 五央きみモテるだろ、やるじゃん」
「色々言ってやりたいけど一先ず百円で落ちる女って安すぎだろ」
「夢なんか十円でも添い遂げる勢いだから、今度やってみな」
「お前ら揃いも揃ってちょろすぎ」
 五央はそう言って笑いながら、プスッと紙パックにストローを挿す。これはもしかして、いやもしかしなくても、照れてるな。
「ねえ五央、ありがと」
 五央はストローを口に咥えたまま、ん、と首だけで返事をした。
 ちょっと行儀が悪いけど、私も五央にならって教室まで飲みながら戻ろう、と紙パックにストローを挿した。
 プスッという音が雨音の中でも妙に響く。それに気付いた五央が立ち止まり振り向いて、「行くぞ」とだけ呟いた。


 
 教室に戻ってきても、まだ次のバスまでは三十分近くあった。
 そういえば、と私は、「五央さっき、私に買ってくれた牛乳以外にも何か買ってたよね?」と尋ねる。
「あーそうそうこれ」
 机に置かれたのは、ミックスオレ。その文字の下では、うさぎとくまが仲良く微笑んでいる。
「じゃんけん負けたほうが飲もう」
 と五央は不敵に笑っていて、その顔で私は、あー多分じゃんけん勝てないんだろうな、となんだか嫌な予感が出来てしまう。

 そして案の定、負けた。
 
「うさくまミックスオレ……ひかる、いっきまーす!」
 こういう時は勢いが大事だと目をつぶってひと思いにズズズ、といけば、あれ?
「美味しい」
 なんだこれ。なんのフルーツかはさっぱりわからないが、美味しい。止まらないぞこれ、このまま飲み切ってしまいそう。
 五央はそんな私を見て、ちょっと渋い顔をした後、私の手からミックスオレを取り上げた。
「ちょっと私のミックスオレ!」
「買ったのは俺だし」
 そう言って五央はそのミックスオレを口にする。
「うわ美味っ、けどこれフルーツか? 牛乳感はあるけど」
「私より舌肥えてそうな五央でもわかんないかぁ。エマに飲ませてみる?」
「悔しいけど確かにエマならわかりそうだな。ひかる、エマに連絡してみろよ」
「今日? エマ今日塾の日だから無理だよ」
「何なのお前ら、会わない日の行動もばっちり把握してるとか、付き合ってるの? ……じゃねーか。真中? くんに怒られるな」
「ちょっと待って、私颯と別れたの知らんの?」
「えっ」
「やっぱひーわ口固いな……いや、まあ私の本命エマみたいなもんだしね」
 おどけて自分でもそう口に出してみて、その言葉の真実っぽさに少しバツが悪くなる。そうするとなんだか五央のことを直視出来なくて、視線を下ろす。五央の手元に置かれたミックスオレ。私がさっきまで飲んでいたそれ……おや、これってつまり間接キスでは?
 うーん。と一人頭を抱えたくなったが、なんだか今はもう何も考えたくなかった。全部この雨のせいだし、多分雨が流してくれるし、それにきっと、誰にとっても大したことじゃないはずだ。夢と五央が回し飲みしてたって、私とひーわが回し飲みしてたって、恐らく誰もなんとも思わないのだ。
 そうどこかの誰か――というよりは自分――に言い訳をして、私はまた五央の元からミックスオレを奪い返した。もうそろそろ、バス停に向かっても良いかもしれない。バス停は学校の目の前だけれど、信号を渡らないといけないから。
 五央からまた奪い取ったミックスオレを一口啜ってから、私は「そろそろ行くか」と立ち上がった。
 雨はまだまだ止みそうにない。



 授業が終わってからは時間が経ちすぎているし、部活が終わるには早すぎるこの時間、バス停には私たちの他、誰もいなかった。そしてついでにバスも来ない。もう十分は遅延していて、私は少しひんやりしてきたローファーに憂鬱になってきていたが、横の五央は何故かむしろ上機嫌なように思えた。
「なーんかさ、五央、朝は窓の外見て憂鬱そうだったのに、実は雨好き?」
 思わず私がそう聞くと、五央は眉間に皺を寄せて、それから少し悲しげな、寂しそうな表情をする。あ、朝見たのとおんなじ顔だ、と脳内で警鐘が鳴る。私は慌てて、
「いやいや、流石にこんなに降ってたら好きも嫌いもないか、ね」
 と話を終わらせる。きっとこれは、簡単には触れちゃいけない話だ。私は誰かのあんな苦しそうで切なそうな顔を初めて間近で見てしまったから、心臓がバクバク脈打って、このままこの大雨に溺れてしまうんじゃないかと思った。

「梅雨の長雨の時にさ、母親が死んだんだ。ってまあそれだけの話。もう何年も前の話」
 五央のその言葉に、何かを返さなきゃ、でも何が言える? と思っていると、信号の向こうにやっと待ちわびていたバスの姿が見えた。でも、このバスが来たら多分、この話は一生終わりになる。
 
 信号が青になって、バスが動き出す。

 私は気付いたら、
「もう何年も前の話かもしれないけど、それだけなんて言わないで」
 と、泣きそうな声で言ってしまった。何を言ったら正解だったのかなんてわからないけど、でも私が泣くのは、絶対に間違っているのに。
 それでも五央は、「ありがとう」と、返してくれた。

 それからすぐ来たバスに乗り込み、後ろから二番目の二人席に並んで座る。バスの中は運転手さん以外誰も居なくて空っぽだったけれど、五央が先にそこを選んだのだ。もっと広い席だってあるけれど、だからって私が敢えて違う席に座るのも訳が分からないだろう。
 バスの揺れに合わせてたまに見える、窓ガラスに映りこんだ五央の表情は、憂いを帯びてはいるけれども、決して悲しいだけなく、やっぱりどこか楽しそうな気配すら感じられた。そこで私は、ああもしかしたら、私や夢やひーわとのこの学校でのあれこれは、彼にとって私たちが思っているより楽しいものなのかもしれない、なんて思い始めた。急にイギリスから見ず知らずの学校に送られた五央だけど、せめて自分で選んだわけでないこの日々が、これはこれで良かったって思ってもらえるような、そんな日々になればな、なんて、おこがましくも思ったりしたのだった。



 こうして今日一日はゆったり終わって、私は駅まで、五央は途中で降りるから、私たちはこのバスで別れるのだろうと思っていた。途中で猛烈な睡魔に襲われたが、どうせこのバスは駅が終点だから人の気配で起きれるだろうし、そうでなくても運転手さんか誰かが起こしてくれるだろう、と私はその睡魔に飲まれることにして、雨の音と緩いモーター音に身を任せたのだ。
 しかし「おい」と私を起こしたのは五央で、しかも薄目で窓の方に目をやれば、流れる景色はまだ明らかに駅の近くではない。
「何さ……まだ駅じゃないでしょ」
「まだ駅じゃないっていうか俺見覚えのない景色だし、時間ももうすぐ十一時なんだけど、ひかる、ここどこらへんかわかる?」
 十一時と耳にし私の頭は一気に覚醒する。やばい、とスマホを開くと圏外表示。え? このバスが行く範囲で圏外になることなんてあるのだろうか? とパニックだ。一先ずここがどこか把握、とバスの行き先表示を見るも、そこには何も書かれていなかった。五央は私が目線をそちらにやったことに気付いたのだろう。
「俺が起きた時からずっと終点も次のバス停も書かれてなくて、ついでにスマホも圏外。だからせめてひかるがここがどこか知っていればなぁ……って思ったんだけど」
 と言う。
 どこか、と言われても雨のせいか霧がかっているし、うっすらと見える景色もなんの変哲もない住宅街で、ヒントになりそうなものはなかった。バスの中を見渡してもヒントになりそうなものも、なんなら人も居ない。っていうか薄々勘付いては居たが運転手さんもどうやら居なさそうである。あーもうこれは絶対にあれだ。ガサガサと鞄の中を漁って、私は底に隠すようにしまっていた細いペンポーチから、魔法のフリクションを取り出す。
「もうこういうことでしょ」
 と私はそれを五央に見せる。
「なんだひかる、持ってたのか」
「エマがこれを持ってる人の近くに不思議が湧くのかもしれないから、試してみてってさ」
「なるほどな。じゃあつまりはエマの言ってたことはビンゴだったってことか」
「そうみたい。エマが居ないときに使うことになりそうなの、初めてだもん」
 私はそう言って、フリクションを空で振る。

 一先ず行先表示のなくなった画面に、四戸駅と――……ああ終点は四戸だけど、五央の最寄りはその何個か前の日延神社前だから、そこを行先にした方が良いのかな?――そうこのフリクションで書くとして、運転手さんも何とか描いてみたほうが良いのだろうか? とそこまで考えて、あ、運転席にいるのが今回の犯人? と思い至る。それを五央に話すと、「なるほど、観に行こう」ということとなった。
 私は勝手にシンデレラに出てくるような小さいねずみさんみたいなものが運転している図を想像していたのだが(そのサイズ感故に私たちの席からは無人のように見えるのだろうと思っていた)、運転席を覗いてみても、そこには誰もおらず何もなかった。そう、本来あるはずのハンドルやサイドブレーキなんかもなかったのだ。
「運転席っていうか、これじゃあただの乗車席、だよなあ」
「そうねえ……ここに運転手が居る可能性は低いね。多分他のところで運転してるんだろうな」
 どうやらこれは長丁場になりそうである。チラリとスマホに目をやれば、もう起きてから三十分近く経っていた。うーん。もうこれから順調に解決して帰宅したとしても終電近くなってしまいそうだし、勿論終電にすら間に合わない可能性も大いにあった。かくなる上は、と私は自分のスマホを取り出し、圏外表示の部分をフリクションの後ろ側で消す。そしてそこにWi-Fiマークを書く。どうだ! とラインを開けば、ブーッブーッとスマホが震えだす。圏外だった間のメッセージを一気に受信したのだろう。私はいったんそれらを無視し、『母』という名前を探し出しトーク画面を開く。『今日エマの家に泊まらせてもらいます。連絡遅くなってごめんなさい』、と打てば既読は付かないが一先ず安心だ。こういう時親と円満な関係を気付いている友達は、電話がかかってきたりするが、我が家ではそう言ったことはまず無いので、スマホのことは一度置いておこう。
「運転席を見つけ出して運転している人……まあ人じゃないものの可能性の方が高そうだけど、そいつをどうにかしないと、このままこのバス放り出すわけにも行かないよね」
「そのフリクションを持っている人が引き寄せられやすいとは言え、そうじゃない人が遭遇する可能性もゼロじゃないからな。取り敢えず手分けしてバス中しらみつぶしに探してみるか」
「りょーかい。じゃあ私が通路から右探すから、五央が左っかわね」
「右側は運転席も俺らの座ってた席もあるから、圧倒的に左側の方が探すの大変じゃねーか」
「圧倒的は盛り過ぎだって」
 とまあそんな軽口を叩きつつ互いに持ち場を探すも、何もない。仕方なしに持ち場をチェンジしてダブルチェックするものの、やはり何もない。互いにシートの隙間も下も見たのだ。
「こうなったらこの広告全部ひっぺがして、裏見てみる?」
 と私は車内上部の路線図や近隣の施設の広告なんかが入れられている部分を指差す。
「ひかる、これ届くの?」
「下の方触るくらいなら多分出来るけど、抜くのは無理だね」
「あーーーー俺が全部やるのかよ……まあでも後はこれくらいしかないしな」
 そう言うと五央は長袖だったワイシャツを腕まくりをし、手を伸ばし始めた。細いと思っていたけれど、意外に筋肉があるようで筋張っていて、なんだか直視するのが憚られて、私は相変わらずぼやけていて流れているのかも定かではない、車窓の景色を追った。
 そうやって幾つかの広告を抜いていくが、その裏には何もなく、ただ壁があるだけだった。しかも本来はきっと揺れていない車内でやるんだろうし、なんなら脚立とか踏み台を持ってくるのかも知れない。五央は決して小柄ではないけれど、それでも段々と腕が辛そうで、途中から利き腕とは反対の腕を伸ばしていた。そしてより効率が悪くなり、首や腰に負担がかかる。ここは手伝ってみるか、と端の方のシートから身を乗り出せば届きそうな広告に腕を伸ばす。
 うー、とかおい! とか小声で奇声を上げ、自分自身を鼓舞しながらチャレンジするも、バスが揺れているのもありちっとも取れない。心なしか広告から手が滑る度、バスの揺れも激しくなっているような気がする。もしかしてペナルティ制度でもあるのだろうか。
 そんな身を乗り出し、両腕をじたばたさせていた私は、ふいに五央と目が合う。うわいつから見てたんだこいつ。そんなことを考えていたのだが、五央はただそんな私を見て、
「ネコバスだ」
 と呟いた。ネコバス? と私が言うまでもなく、五央は私の方に近付いてくる。
「ひかる、もうそれやんなくていいってか、やめてあげて」
「やめてあげて?」
「多分こいつには運転席とかいう概念はなくて、ひかるはトトロ、見たことある?」
「ジブリのだよね、勿論。むしろ五央からそのワードが出てくるとは……」
 そんな私の感想を無視して五央は、
「このバスは多分ネコバスみたいな感じで、バス自身が生き物で、意思でこれを動かしてるんだよ。さっきひかるが広告取れなくて、何度も触ってた時、揺れが増してたんだよ。多分くすぐったくて身を捩ってたんじゃないかな」
 と手近なシートを撫でる。するとバスは穏やかにクラクションを鳴らした。
「確かに、猫とか犬っぽいね、この反応」
「だろ」
 と五央は得意げに笑う。その顔が無性に眩しくて、そういえば五央ってイケメンだったんじゃん、と急に思い出して、何だか腹が立った。
「でも犬か猫か、まあこの世に実在する生き物じゃない可能性も大いにあるけど、なんにせよ五央には懐いてるみたいだし、なんとか言うこと聞かせてよ」
 その苛立ちがなんとなく言葉選びにも乗ってしまい、心なしかいつもよりも語気がキツくなってしまう。でもやっぱり五央はそんなこと気にせず「名前を付けてあげなきゃなあ」と嬉しそうに顎に手をやっている。
「なあお前、どんな名前が良い?」
 五央が進行方向の窓にそう話しかけると、ドシンッと絵本みたいな効果音がして、バスが一度大きく跳ねる。
「え、名前付けられるの嫌?」
 と焦る五央を他所に、私は運転席(があった場所)の一つ後ろの席に設けられているチラシなんかが置いてあるコーナーから一枚降ってきたチラシを拾い上げる。
『臨海交通、乗務員募集』と書かれているそれを見るも、さっぱり訳がわからない。五央に乗務員になって欲しいってことなのだろうか。
 私はとんとんと五央の肩を叩き、「ん」とそのチラシを差し出す。でも五央もやっぱり、「つまりどういうこと?」と疑問でいっぱいの顔をしている。

 二人して頭を突き合わせてもさっぱり何もわからない。私たち二人の唸り声が響くばかりである。
 そんな状況に、バスもうんざりしたのだろうか。
 私と五央の「うーん」に、もう一つ異質の声が混じったような、気がした。
「ん?」
 と五央が首を傾げたのと同時くらいにピポン、とベルが鳴り、「次、止まります」と聞き慣れた、でもずいぶんと久しぶりに聴くアナウンスが鳴る。どこに? と案内板を見れば、『臨海バスセンター前』と書かれている。もちろんそんなバスセンターに覚えはない。そもそも臨海交通自体ありそうな気はするが、そうだとしても少なくともこんな平原ベッドタウンは運行地域ではないだろう。
「五央、覚えある?」
「ある訳ねーだろ、越してきてまだ一ヶ月ちょいだぞ」
「そうだよねえ」
 そうこうしているうちにバスは止まり、ドアが開く。外を覗き込むと、そこは真っ暗な中に幾つかの光が浮かぶ、星空のような空間だった。勿論実際はそうじゃないんだろうけど、暗さに対して光源が圧倒的に不足しているので、地面がよく見えないのだ。そしてその暗さ故か、誰かがこのバスから降りたのだろうけど、それが誰かわからなかった。私は人の気配に疎いから気付かなかっただけかもしれない(よく夢に後ろから「わっ」って驚かす悪戯をされるが、毎回心底驚いてしまう)と五央にも一応確かめてみたけれど、やはり五央も誰も降りたようには思えない、と首を傾げていた。
 そうこう悩んでいると、乗車側からピピ、とSuicaで料金を払うような音がする。私と五央は同時に体を捻り、乗車口の方へ目線も意識も送った。
 すると突然、車内にぶくぶくぶく、と小さな気泡が浮かびだす。「何これ?」と言った私の口からも大きな泡がぶくぶくと。「水中?」と五央に言われ、ああ、なるほど、と小学生の時、プールの授業で水の底まで潜って宝石拾いゲームをした時の視界がパッと蘇る。確かにこんな感じだった。
「息苦しくないし、水のせいで髪の毛まとわりつく嫌な感じとかなくって、多分水で生きてる生き物はこんな感じなんだろうねって感覚だね」
 私はそう言うと、タンっと地面を蹴り上げる。そうするとグンっと勢いがついて、それからゆっくりと私の身体は浮上していく。気分はもうすっかり人魚で、五央が居なかったらアリエルの歌を歌っていたことだろう。
 プハッと水面から顔を上げると、頭の上を水流のような風のような気配がスンッと通り過ぎていく。水面から顔を出している気でいたけど、もしかしてここもまだ水中なのだろうか。それともそもそも私が水中だと思って泳いでいたところに、本当は水なんて一滴もなくて、私たちは幻でも見せられていたのだろうか。それとも全部夢で、私は今も路線バスで寝ているのだろうか。
「ひかる、立ったまま寝ないでもらえる?」
「えっ起きてたよ」
「頭完全に寝てただろ、顔が授業中のそれだった」
「発言最悪すぎん? 授業中のそれってなに?」
 っていうかさっきのあれ何、と聞こうとしていたら、また空気中、或いは水中が揺れるようなモーションが見えて、あっ、と私は指を差す。
 その指の先にはブルーの中に赤いラインがピッと引かれ光っている、小さな魚たちの群れがあった。またあっという間にスーッと通り過ぎてしまったそれらだが、あれはまるで絵本のスイミーみたいだ。本当は確か、赤と黒の小魚だっけ。色と形、それに魚たちの隊列も全然違うけれど、意思を持って列を成していそうなその光景は、小さい頃教科書で見た水彩の挿絵の記憶を呼び覚ました。そういえばあれって元はどこの国の言語で書かれていたのだろう。日本語訳されるくらいだから英語版もあるだろうけど、五央も知っているだろうか?
「ねえねえ、五央ってさ」
 と私が呼びかけたけれど、五央から返答はない。五央こそ寝てるんじゃない? とツッコもうとして五央の顔を覗き込むと、五央は私と初めて二年一組の教室で会った時くらい目を見開き、驚いた表情をしていた。
「五央、どした?」
 と私が肩を叩くと、ハッとした表情で、「ネオンテトラだ」と呟いた。
「なんだっけそれ……魚の種類だっけ?」
 水族館でそんな名前を目にしたことがあるような気がしないでもない。でも水族館の熱帯魚コーナーときたら、一日で三ヶ月分くらいのカタカナの羅列を浴びせてくるもので、何分物覚えのあんまりよろしくない私は、それをしっかりと覚えておくことは出来ないのである。でもどうやら正解だったようで、五央は「そう」とだけ短く返してくる。
 そしてその「そう」が、またひどく悲しそうで寂しそうで。でも五央がそんな顔になるようなものが今この状況でわざわざ現れるってことは、それがそもそもこの状況の原因だったり、打破するきっかけになるものに違いない。だから私は、デリカシーゼロだと思うけれど、五央に聞かなければならないのだろう。

「五央、そのネオンテトラって、お母さんに関係あるの?」
 私がそう言うと五央は唇をギュッと結び、それから悲しそうに笑いながら、
「俺、そんなわかりやすい顔してた?」
 と掠れた声で言う。こいつ、このままじゃ今度こそ泣いてしまうんじゃないだろうか。
「まあ……まあ? 私はね。だってほら、私と五央の仲じゃん?」
「きっしょ、エマとおんなじ枠に入れないでもらえますか」
「五央自分がエマと並べると思ってんの? 驕りすぎだよ」
「あーもう絶対英語の課題、今後一生お前にだけは見せないわ」
「は? え、ひどくない? 先に喧嘩売ったのそっちじゃんか」
 うちの英語の授業では度々英語で書かれた短いコラムみたいなものが渡されて、それを和訳して来なさい、という宿題を出される。先生がわざわざ英語のニュースサイトなどから探して来ているようで、機械翻訳こそ引っかかるものの、教科書の文みたいに正しい日本語での答えを見つけてきようがない。それでいつも、「これって何語⁉︎」と私と夢とひーわで泣きつくのだ(ちなみに当たり前だが「英語」とだけ返される)。
 でも英語の課題と引き換えに、今にも決壊しちゃうんじゃないか、という五央の悲しみゲージはだいぶ持ち直したような気がする。

「ネオンテトラ、昔まだ母親が入院したての頃、なんか病室の彩りに、みたいな感じで親父が買ってきてさ。あー、その時は日本の病院に居たんだよね」
「うん」
「んで、母さんはそういうの大好きだから楽しそうに世話しててさ、でも母さんのが先に死んじゃって。でもその後病院に置いとくわけにもいかないから引っ越しさせたり、まあ俺と親父も、法要とかある程度落ち着いたらイギリス戻るってなってバタバタしたりで、結局水槽にいっぱい居たネオンテトラも、俺がイギリスに戻る頃にはラスト一匹ってとこまで減っちゃってててさ」
 っていうか五央、ずっとイギリスに居たわけじゃなくて、そういうタイミングで日本に戻って来ていた時もあったのか。でもさっきの五央の話を思い返してみれば、そもそも梅雨って日本にしかないかもしれない、ということに気付く。
「そもそも俺日本に居る間ホテル住まいだったから、全然面倒とか見てなかったんだけどな」
「ちょっと待って流石にそれはわけわかんないぞ、学校とかどうしてたの?」
「親父が『母さんはすぐ退院出来る』って聞かなくて。勉強は家庭教師ついてたから、学校行ってる時よりかなりしっかりやる羽目になったし。まああれなんだよな、エマの家って言うの? あそこに俺を預けたら返して貰えなくなりそうって思ってたらしいよ。とはいえ今こうあっさり言うこと聞いて日本に送ってるからさ、なんなんだよって感じだけど」
 婚約、なんてさせられているくらいだし、やはりエマの家と五央の家の関係は複雑なんだろうか。なんて余計なお世話であろうことまで考えてしまう。二人って単純な従兄弟同士であればもっと仲良くやってそうなんだけどな、とふいに思うことがあるので、なんだか勿体無いし、もしエマと五央の親が二人を仲良くさせたがってるんだとしたら、婚約って手段は完全に逆効果だったと思う。勿論仲の良し悪しなんて全く関係なくて、血縁関係とかそういうことなのかもしれないけど。
「でも叔母さまも父さんも俺とエマの婚約は母さんの望んでたことだから、引けなくなってるんだよ。まあ実際のところ、俺とエマが嫌だって伝えれば母さんは絶対納得してくれてたと思うけどね。でももう答え合わせ出来ないからさ」
 そう言いながら五央は、いつの間にか空とも水中ともわからなくなっているこの空間に、そっと親指と人差し指で何かを摘むように――あ、餌をあげようとしているんだ。そのアクションに見覚えがあったのだろう、ネオンテトラの群れがぐおんと波を立て旋回し、再び五央の元へと向かってくる。
「五央、ネオンテトラの餌ってどんなのなの?」
 久々に会うんだもん、あげるふりじゃ可哀想だ。
「えーと、茶色いフレーク状っていうのかな」
「金魚の餌みたいなやつ?」
「そう。でもネオンテトラの方が口が小さいから、あれよりもっと細かいはず」
「詳しいね」
「じいさんとこに金魚も居たんだよ。じいさん小動物好きだったんだよな。ほら、エマのとこにだって鳥とか居るだろ、あれだって元はじいさんが飼ってたやつも居るし」
 そう言えばエマのお家にはピィちゃんみたいな鳥が居るって言っていたっけ。
「ていうか五央、ほらって言うけど、私エマんち行ったことないからね」
「まじか」
「高校生ともなると、家で遊ぶって少なくない? 大学生とかになって実家から出ればまた違うんだろうけど」
 そんなどうでもいい話をしながら、私は一生懸命記憶の糸を辿って金魚の餌を思い浮かべる。結構小さい粒々だったよね。それを更に粉々に……いやもうそれってこのペンで描くとしたら点を散らすだけになる気がする。茶色の、粉にはぎりぎりならないくらいの点々、と。
 そこに都合よく漂ってきた私の鞄に手を伸ばし、中を手探りで漁る。そして再びフリクションを出し、絵心がないなりのせめての気持ち「美味しくなあれ」を込めて点描画の授業の時のように、無心で点を打つ。するとそれはパラパラとふわふわの間の動きで緩やかに降下し始める。やっぱりここは水上と水中のちょうど間なのだろうか。
「五央、はい、受け取って」
「せっかく描くならあの餌の入れ物ごと描いてくれたら良かったのに」
「筒みたいなやつ?」
「そう」
「悪いけど私にそこまでの画力はない。円柱は描けるけど蓋の部分がどうなってるとか、パッケージとか全然覚えてないし」
 そう一蹴して、私は「早く早く、手ぇ出して」と五央の両手を広げさせ、餌をキャッチさせる。五央はその自分の目の前にあるものを、まるで遠くのものでも見るように眺めてから、ゆっくりとひとつまみ掴む。
 そしてそれをパラパラと五央が再び空間に撒くと、様子を伺っていたネオンテトラたちがまた五央の元へと集い、その名前の通りキラキラと煌めく。窓の外の宇宙にも負けず劣らずの輝きを放つ魚たちが餌を求めてバスを不規則にかき回すので、なんだかだんだんとここがバスなのか、外なのか、水中なのか、宇宙なのか、全てが混ぜこぜになってわからなくなってきた。なんだっけ、地球の生命の始まりは宇宙から来たんだっけ。でも全ての生き物は深海から始まったって授業で言っていた気もする。そう言えば宇宙と深海はよく似ているって、そう言っていたのは誰だろう。

 そんなことを考えているうちに五央は餌を全て撒き終わったようだった。ネオンテトラたちもそれを察したのか、次第に五央の元を去っていく。気付けばバスのドアはまた開いていて、そこから魚たちが降車していく。キラキラのまばゆさは変わらないけれど、私たちとの距離はどんどん遠くなり、今度こそ本当に外の星と一緒になるんだろうな、とぼんやり感じる。

 タンッ、と床を踏み出す音がして、私は反射で五央の腕を掴む。五央は無意識にネオンテトラたちを追おうとしていたのだ。
「五央は駄目だよ」
 五央が夜空の星になるには、多分まだ八十年くらいはかかるだろうか。

「元気でやれよ、後、母さんたちによろしく!」

 五央は夜空にそう叫び、そしてそれを待っていたようにバスから水がどんどん零れ落ち、そしてドアは閉じられた。



 すっかり車内は運転席がないこと以外は、見慣れたいつもの風景に戻っていて、そんなすっからかんのバスの真ん中の通路で二人立ち尽くして居るのが馬鹿みたいで、私たちはどちらからともなく元居た席へと戻った。
 私は悩んだ末何もしていなかったのに、行き先はしっかりと『日延神社前』になっていて、ああ、これで帰れるのか、と安堵する。それから間も無く、
「次は終点、日延神社前、日延神社前です」
 とアナウンスが流れ、バスは減速し始めた。

「結局今って何時? やっと帰れるけど明日寝坊する気しかしないよー」
 なんて言いながら降車口でドアが開くのを待つも、バスは停止しているのに、ドアは微動だにしない。外の景色も確かに日延神社前だし、街灯の明かりもあるし、外がさっきみたいな違う世界な気はしないのだけど。
「え? なんで開けてくれないんだ?」
 と五央も焦っている。するとまた先程のチラシコーナーの方からガタン、と音がしたので、私たちは揃ってそちらへ向かう。
「なんだこれ」
 と五央が拾い上げたを横から覗き込むと、『注文書』と書かれている。
「臨海交通から崎山五央様に……ネオンテトラの餌、なるほど」
 書面の一番下にはサインの欄もあり、臨海交通と書かれている方には何かを押し当てたような、三角のような不思議な判が押されている。
「五央があのお魚ちゃんたちの餌を用意してあげてってことみたいだね」
 私がそう言うと、「その通り」とでも言うようにバスが揺れる。
「なるほど。じゃあしかと請け負いました、ってことで俺はサインで良いのかな。ひかる、ペン貸してくれる?」
「はいよ」
 私はエマから借りているフリクションを渡す。
 別に五央の持っているボールペンだって構わないのかもしれないけれど、なんとなくこの方が良いような気がする。五央も「『ペン』貸して」ってなんて言ったくせにどうやらそう思っていたようで、躊躇することなくそれで書こうとして……、
「あ」
「そうじゃん、私じゃなきゃインク出ないんだった」
「もういいや、ひかる腕も貸して」
 どういう意味かを聞く暇も考える隙もなく、五央は私の手首を引っ掴み引き寄せる。そして私の手にペンを掴ませ、その手を五央が包む。なるほど、五央が私の腕を動かせば五央の筆跡でサイン出来る、と。
「馬鹿じゃないの? これ法的に私が書いたことにならない?」
「法律とかじゃなくって気持ちの問題だから大丈夫、な」
 そう言いながら五央はゆっくりと慎重に自分の名前を書く。なんだか五央とはいえ、後ろから気配がして、手を握られているっていうシチュエーションはなんだかむず痒い。ベッタベタの少女漫画でありそう、なんて一瞬思ったが、しかしよく考えてみれば手を動かされて文字を書くシチュエーションってかなり特殊な気がする。私の過去小学生の最初の習字の授業の時、はらいが上手く出来なくって先生が一緒に筆を持って動かしてくれた時以来だろうか。そもそもその出来事だってかなりレアだろう。もしあの時最初からはらいが上手に出来ていれば、人生で今日が初めての記念日になってしまうところだった。
 崎山五央、の字は最初の一文字が山場で、後はそう画数も多くない。
「はい出来た、と。これでオッケー?」
 と五央が問うと、返事の代わりにバスのドアが開いた。
「よっしゃー! ありがとうバス。今後とも、色々頼んだぞ、よろしくな」
 と五央は軽やかな足取りでバスを降りたので、私も「ありがとう」と言い同じくジャンプするようにバスを降りた。
 すると直後、背後からバシャン、と大きく水の跳ねる音がして私たちは「何?」と驚いて振り返る。

 なんの生き物だろうって思ってたけど、バスはイルカだった。
 ずっと昔イルカショーで見た、水で浴びて艶めいている、あの大きくて賢くって、でも愛嬌があって可愛いその生き物が、真っ直ぐ私たちを見つめている。
 そうして目が合うと、イルカはキューともキュイとも聞こえるような、日本語では上手く表すことの出来ない鳴き声を一声あげて夜の闇に飛び込み、そしてもうそのまま浮上してくることはなかった。

「あのバス、イルカだったんだね……あれイルカであってるよね? シャチとかじゃないよね?」
 と五央に尋ねると、
「合ってるよ。すんげえちっちゃい頃、野生のイルカ見にいってめっちゃ近くで見たんだよ。だから間違いない」
 とすごくキラキラした笑顔で返される。きっとその出来事は五央にとってすごく素敵で楽しかった思い出なんだろうな、と私までつられて笑顔になってしまう。
「いいな~私も水族館以外のイルカ、見てみたいな」
「じゃあ観に行くか」
「いいねぇ、ハワイとか?」
「普通に日本でも見られるよ」
「まじ? めちゃめちゃそれは現実的に計画立てよう。行こう」
 と心躍った私は早速調べようとスマホを取り出し、画面に表示されている時間を見て、もう一度そのスマホを鞄へと戻す。
「ねえ五央、五央のスマホ、今何時になってる?」
「えっと……えっ、二時四分!?」
「丑三つ時だよこれ、やばいって。丑三つ時に神社はやばい」
「ひかる焦るのそこなの? 終電とか、そもそもエマに連絡入れたか?」
「え、待ってしてないよ! いくらなんでももう寝てるよねどうしよ……」
 エマには事情を説明するのに時間がかかるから、ことが終わって落ち着いたら連絡しようと思っていたのだ。まさかこんなにかかるとは思っていなかったし……。まあいつの間にやら雨は上がっているから始発まで野宿で耐える選択肢もあるが、繁華街の方へ行ってみすみす補導されるわけにもいかないし、とすると日延神社で後三時間……?
「流石に神社は無理だって……」
 神様ごめんなさい、初詣とか何かお願い事がある時ときは頼るけれど、それとこれとは話が別なんです。この時間の神社なんて、藁人形を持参した輩か幽霊しか訪れないんですよ。ちなみに私はどっちも怖い。
 かくなる上は、である。
「五央」
「わかってるよ、っていうか別に俺は良いんだよ、ひかる大丈夫なの?」
「何大丈夫って?」
「一応その……俺一人暮らしだから、異性の家に二人っきり、みたいな感じになるじゃんか」
「あー、今彼氏居ないし大丈夫っしょ」
「ノリ軽」
「まあ五央と居て大丈夫じゃなかったことないし」
「ふーん」
 なんだその返し、と思ったけれど、今五央を怒らせたらいよいよ神社行きになってしまう。まあ五央がそんな意地悪してくるとも思えないけど、一応泊めてもらう身だしな、と私は大人しく「と言うわけでよろしくお願いします」とお辞儀をした。



 そこから先は、雨やバスに悩まされた今日一日の中では、一番スムーズに事が運んだと思う。ご飯とか買おうか、と寄ったコンビニで、シャンプーと下着も買おうとしたら、「お前風呂入るんかい」と少し動揺されたくらいである。普段なら我慢するが、だってもう乾いたとはいえバス停でかなり雨に打たれたんだもん。
「五央んちもしかしてユニットバスだったりする?」
「違うけど」
「じゃあ問題なくない? なんか適当なTシャツとか貸してよ」
「ひかるには遠慮とか恥じらいとかないの?」
「私ちなみに五央とおんなじベッドで寝るつもりだよ、五央の家客用布団とかないでしょ?」
「ないけど! それはマジで頭おかしいって!」
「いくらなんでも冗談に決まってるでしょ、なんか床とか玄関とか別のところで寝るから、お風呂は良い? お願い」
「ったく……わかったよ」
 よっしゃ、とガッツポーズをした私だが、勿論勝算があったのである。人は無理なお願いをされ断ったあと、じゃあ……とその次それより小さなお願い事をされると、罪悪感で承諾しなくてはならない気になる、とこの前ネットの記事で読んだのだ。早速使ってみたけど、こんなにあっさり通るとは心理学がすごいのか、五央がちょろいのか。大体さしもの私も、流石に五央とおんなじベッドで寝るのは躊躇する。夢もひーわも居て、とかなら良いかもしれないけど。うーん、でもエマと五央と三人だとちょっと嫌かもなあ。自分のことだけど、一体基準がどこにあるかわからない。でも、もしおんなじベッドで寝ること良いって言われてたらどうしてたんだろう。
 まあ、実際そんなことにはなってないし、まいっか。
「袋いっぱい貰うの勿体無いし泊めてもらうし、私がお会計しまーす」
 とサッと五央の手からパスタを奪い、私は自分のカゴにそれを入れる。
「あっ」と手を伸ばす五央を「下着入ってるんでカゴに近付かないで貰えますか」と制止し、外で待ってて! と追い返す。
 レジのお兄さんは名札に書かれた名前と顔付き的に、アジア圏でもなさそうな遠くの国の人で、そのおかげかこんな時間に制服で現れた私に対しても特に怪訝な顔などせず、「ありがとうございました」と淡々と接客をしてくれた。正直ちょっとドキマギしていたので、良かった、と胸を撫で下ろす。
 それから食べ物とそれ以外の二つのレジ袋を下げ、私は店を出る。
「ひかるさん、ご馳走さまっす」
 と五央はふざけながらさり気なく私の腕から重い、食べ物の方のレジ袋を掠め取る。
「それ重いほうじゃん」
「でも軽い方は下着入ってるんで触るなって言うでしょ」
 見事に今さっきの仕返しをされている。そもそもこっちの軽い方の袋には完全に私の物しか入っていないのだが、重い方の袋もパスタ以外は私の買った物だっていうのに。
 でも五央にはこういうちょっとかっこつけみたいなとこがある。さっき紙パックの自販機で私の分も買ってくれたとことか。そう考えると、あれ、今日の話か、今日一日、いや、今日の放課後、急に濃すぎない?
「ねえ五央、紙パックの自販の場所、覚えてる?」
 私がそう聞くと意図に気付いたようで、
「渡り廊下もミックスオレもさっきの話か……」
 と五央も呆然としていた。

 そうしてコンビニから五分もしないで着いた五央のマンションは、意外にも入りにくいという類のものではなかった。むしろ入り慣れているまである。簡単に言うと、ファミリータイプのマンションだったのである。だって駐輪場には、前後に後付けのキッズシートが付いたママチャリやら、三輪車から補助輪だけ外したような玩具みたいな自転車やらがズラリと並んでいるし、駐車場は地下に立駐っぽいし、これで単身者用ってことはないだろう。
「五央んちってさ、何LDK?」
 もうこちらとしても、リビングダイニングキッチン前提である。これで1Kだったら逆に驚く。
「えっとリビングとキッチンとお風呂トイレと寝る部屋、後はパソコンとか本棚とか置いてある部屋と、スーツケースとか自転車置いてる部屋……ってつまり?」
「3LDK。部屋めちゃくちゃ持て余してんじゃん。ていうか自転車置いてある部屋って何? さっきあった自転車置き場泣いてるよ」
「去年の誕生日に、結構良いロードバイク買ってもらったんだよ。流石にあんなに自転車の出入りがあるとこに置くの怖いじゃん」
「五央が怖いって思う自転車の額聞くの怖いから、絶対に言わないでね」
「大体ご」
「五千円なわけないじゃん五万ってことじゃんこわっ」
「いや五万じゃ普通の電動自転車も買えないよ」
「えっあれってそんなするの? ってか待って、五万じゃないならごじゅ……やめよう、寝れなくなる」
 普通に桜森に馴染んでいるから忘れがちだけど、五央もエマに負けず劣らずのお坊っちゃまなんだよね。家の中シャンデリアとかあったらどうしよう。やばい急に緊張してきた。
「ねえ五央、私に百万円のグラスとか出さないでね。絶対割るから」
「んなもんねえわ」
 と一蹴された私は、「こっち」と案内されるがままにエントランスを潜り、さらにしばらく中の通路を歩き、エレベーターに乗せられ五央が三階のボタンを押すのを見て少しだけ安堵した。
「最上階とかだったらどうしようかと思った」
「残念だけど、そんな都合良く空いてなかったんだよな」
「そもそもなんでこの物件縛りだったの?」
「冴羽の持ってる物件の中で、直線距離だとまあまあ白女に近いからだってよ。まあ冴羽家の近くよりはってことなんじゃない?」
 その時軽いベル音がして、エレベーターは三階へ到着したことを告げた。学校で一階から三階までの階段は、体育の後だったりしたら特に無限にあるような気がするけれど、エレベーターだと三階はあっという間だ。「こっち」と言われるがまま着いていくと、カントリー調のウェルカムプレートの吊るされたドアや、ドライフラワーのリースが吊るされたドアを見送って、五央は一番奥の殺風景なドアの前で立ち止まった。やっぱり角部屋なのか。そして鞄から取り出した鍵を差しガチャリと回せば、その殺風景なドアが開き、同じく殺風景な玄関がチラリと見えた。

「おじゃましまーす」
「どーぞ」
 と迎え入れられリビング部分へ入るものの、うん、ここも殺風景だ。
「五央、あのまじ、普段何して過ごしてるの?」
 今のところ部屋には元々備え付けてあろうカウンターキッチンやエアコンの他に、せいぜい二人がけ用の小さいソファと、テレビしか見当たらない。空き部屋に自転車なんかがしまってあるにせよ、もう少しこう生活感というか、趣味のもの、パーソナル的な部分を表すものがあっても良いんじゃないんだろうか。
「普段別に勉強したり本読んだり映画見たり、たまにゲームしたり料理してみたり……普通に暮らしてるけどね」
「なんかさ、アメコミのフィギュアとか、好きなバンドのポスターとか、そこまで行かなくてもどうでもいい雑貨とか買わないの? 本当にここで生活してる?」
「実際生活の大半は学校とその近辺で制服着て過ごしてるじゃん。それに急にイギリスからこっちに連れてこられたから、多分急にまたイギリスに帰ることになるだろうし、あんまり荷物増やしてもな……」
 そこで私は、そういえば五央はつい一月二月前に、エマとの婚約のために急に単身日本に来ただけで、生活の拠点はイギリスなのか、と思いだす。
「それもそうだわ」
 と私は明るく返したけれど、内心なんだかすっごく寂しくなった。
 今こうして過ごしているけれど、来年は一緒のクラスになれないかもしれないし、そうじゃなくとも大学は絶対五央の方が頭の良いところに行くだろうし、でもたまーにエマや夢たちとちょっとご飯食べに行ったりとか、そういうことはしていって、私たちの関係は緩やかに続いていくんだろうなって、漠然とそう思っていたから。でもそうだよね、五央にとっては多分ここは異国で、イギリスにきっと緩やかに続けていきたい関係もたくさんあるのだろう。私たちは今、たまたまこうして一瞬合わさっているだけなのだ。むしろここが偶然、寄り道の一瞬なのだ。

 元気がないときはご飯を食べよう。それに尽きる。
「五央お腹すいた~レンジ借りて良い?」
 と私はコンビニの袋から私の買ったカルボナーラと、五央の買ったたらこパスタを取り出した。
「五央のもあっためてきちゃって良い?」
「あ、サンキュ。レンジ奥……って見えるか」
「うん。見える」

 そうしてぼーっとテレビの深夜番組を観ながらご飯を食べ、「先どーぞ」の言葉に甘えシャワーを借り、私のものよりほんの気持ちオーバーサイズな五央のTシャツとパーカーと、それから残念ながら脚の長さが余りまくるスウェットのパンツを着て、今度は五央がシャワーに行って一人になったソファで、またぼーっとテレビの画面を眺めながらドライヤーで髪を乾かし。うん。テレビの音なんか何にも聞こえず、家のドライヤーよりちょっと高音で優しいモーター音を浴び、あったかくって、今日は本当に変な一日だ……。

「おい、座ったまま寝るなって! 後絶対髪乾いてないって! 聞いてるひかる⁉︎」
 五央の声がする、今授業中だっけ? あー違う違う、私五央の家に居るんだ。あー初めてお邪魔した家でなんたる失態って感じだが、もうどうやっても瞼が開く気配はない。
「ねえもう寝ても良い? だめだ」
「寝ても良い? じゃなくて寝てただろーが。髪ちゃんと乾かしたらな」
「無理、大丈夫この体勢のまま寝るから、ソファが濡れたりはしない、おやすみ」
「そういうことじゃなくって……はあ」
 五央の溜息が聞こえた気がしたけど、本当ごめん、明日謝ろう、と私はその場でまた意識を手放した。



 さむ、と思って重い瞼を開けると、部屋にはしっかりと重いカーテンがされていて暗く、今どんな状況かさっぱりわからない。でもとにかく、肌寒い。
「くしゅんっ」
 と私がくしゃみをすると、少し離れたところからやまびこのように「くしゅんっ」と似たようなくしゃみが返ってくる。ん? とそこで初めて私は自分がベッドで寝ていて、恐らく五央がソファで寝ていることに気付く。やばい。昨晩私ソファで寝たつもりだけど、普通に癖で結局ベッドを強奪したんだろうか。私なら大いにあり得る。大体私より五央の方が背が高いんだから、あんな小さなソファじゃ身体も痛くなってしまうだろう。くしゃみしてるくらいだし眠り浅そうだから、今からでもベッドを使ってもらおう。
 そうして私はベッドから起き上がり、床にぶん投げられていた私の着ていたパーカーを拾い上げ羽織り、ソファの五央の元へ向かう。
「五央ー、ごめんね」
 そう言いながら背もたれから五央を覗き込むと、猫やら犬みたいにまんまるになってソファにはまっている。勿論、流石に脚はいくらかはみ出してしまっているが。
「ていうか脚はみ出しちゃってるし、布団もタオルケットだけじゃ寒いよね、本当ごめん、ベッドで寝て、ね?」
 んー、と覚醒しきっていない声をあげる五央の手を取り、ベッドの方へと誘導する。カーテンの隙間からほんの少しの光とシトシトと雨音がして、結局今日も雨か、と少しうんざりする。ていうかそっか、雨が降り始めたから肌寒くなったのか。きっといつも五央ははこの時期、私に掛かっていた夏用布団と、五央に掛かっていたタオルケットを併用しているのだろう。まあ私はパーカーがあるし、五央に風邪を引かせるわけにもいかないから五央に布団もタオルケットも使ってもらおう。
「はい、五央ベッドで寝てね、おやすみ」
「んーいや、ひかるがベッドで寝ろって」
「さっきくしゃみしてたでしょ、だから私もうベッドで寝かせてもらったし、今度は五央が寝て」
「ひかるもくしゃみしてたじゃん」
 どうみても目も開いていないし意識も殆どなさそうなのに、ちゃんと状況を把握しているし受け答えもできている。なんだこいつ。普段の言い合いなら負かせるかもしれないけれど、何分私も寒くて目が覚めただけなので、まだ頭が回っているとは言い難い。むしろ半分以上寝ていると言える。どうしよう、なんて返せば良いのか全然思い浮かばなくて、私は無言になってしまう。

「もうひかるもここで寝れば良くない?」
 と突然、五央に腕を引っ張られ、私はベッドへと雪崩れ込む。
「もしかして五央も夢に少女漫画借りたりした?」
 と問うが、返事はない。
 そうして手慣れた手付きで布団を掛けられた私は、なんかもうあったかくて全部どうでも良いや、という気持ちになった。あーでも流石にパーカーは脱ごう。寝るにはフードが絡まって邪魔だし、ファスナーがちょっと痛い。
 このベッド、広いし。おんなじ部屋に居るのと広いベッドの端と端に居るの、そんなに変わらないでしょ。そんな言い訳をして、私は暖かな布団の誘惑にあっさり負けた。



 それからどれくらい寝たのか。やけに良く寝た、という気持ちで目を覚ますと、ベッドには私しか居なかった。
「あれ? 五央?」
 と思わず声に出すと、「やっと起きたんか」とキッチンの方から声がする。やけに余裕のある声色に、もしかしてこれ、やっちまった……? と私はスマホの画面を見ると、やはりビンゴ。時刻は十一時過ぎ、完全に遅刻である。
「うわ……五央ごめん……これ学校行けても午後からだよね……」
「ちなみに行く気あるの?」
「ない」
「だよな。俺なんか昨日から行く気なかったから、夜寝る前にひーわに『明日学校休むわ』って連絡してあるし」
 なんという抜け駆け。
「私も夢に今日は寝坊したからこのままサボるってラインしよ」
「クズだな~」
「そのままそっくりお返しするね」
 私はそう言った後ふわぁ、っと大欠伸をして、人の家だけどこのまま二度寝でも決め込むか、それともアマプラとかで映画でも見せてもらうか、と考える。きっと五央のことだ、なんだかんだ下校の時間になるまで私に付き合ってくれるだろう。
「ひかる、コーヒー飲む?」
 とキッチンに居る五央からそう声が聞こえてきて、この予想は多分当たったな、と私はひっそりと笑うのだった。
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