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第28話 交渉
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城への帰り道、不意に前方の空間が歪む。
「ん? なんだ?」
どうやら転移魔法だったらしく、フードを被った人物が目の前に現れる。
「……誰だ?」
知り合いか? 転移を使える知り合いと言えば、真っ先に思いつくのはエリザの顔だ。
「わからない?」
しかし、眼前の人物から発せられた声で、エリザとは別人とわかる。
だが、たしかに声は聞き覚えがある……。
ごく最近聞いた声だ。
少し考えた俺はすぐに答えに辿り着く。
「貧……襲撃してきた一味の女か」
「ご明察」
「何か用か? あんたらの希望通り、俺はエレノア所属になったぞ。満足だろう?」
その俺の言葉に何故か怒気をはらんだ声で反論される。
「満足なもんですか。あなた嘘をついたでしょう?」
「嘘?」
考えても思い当たる節が無い。
「何が中級ダンジョン攻略なのよ!! あなたのポイントを見たわ……最初は目を疑ったけどね」
なるほど。
俺自身疑問に感じている事だが、事情を知らない他人から見たらむしろ俺が虚偽の話をしたと思われているのか。
さて、どう言えばいいのかな。
まあこいつらに本当の事を言う必要はないな。
「騙される方が悪いのさ、以前おまえらと話をしていた時は笑いを堪えるので忙しかったぞ」
俺は軽く挑発したつもりだったが、相手は乗らず、悔しげな表情で再び語る。
「あなたが世界初の上級ダンジョン攻略者だと知っていれば、もっと違ったコンタクトの仕方を取ったわ。それでなんとか私の国へ……」
「それを知ったのにまた俺の前に来るとはな……たいした度胸だ」
「正直、一瞬で殺されるんじゃないかと思ったわよ。でも一言言ってやりたくてね。」
「とりあえず今殺す気はないから安心しておくんだな」
はたしてルカの力を借りずに目の前の彼女に勝てるのだろうか?
ルカも100%こちらの言い分を聞いてくれるかといったらかなり怪しい。
無用な戦いは避けたい、殺し合いなら尚更だ。
「とりあえず、今は言いたい事を言えたから退散するわ」
「できればもう会いたくないんだがな?」
「きっとまた会いに来るわ……その時は私の国へ」
そう言い残し彼女は素早く転移してしまう。
結局彼女は何がしたかったんだ?
文句が言いたかったのか、勧誘なのか難しいところだ。
まあ勧誘される気も無いが。
俺は城へ戻った後、確認したい事があったので、ステータスカードを見る。
今回新たに加わった称号であるエレノア初級ダンジョン最速記録保持者の称号を付けてみようと試してみる。
無論初級ダンジョンの称号なので、補正は無い。
ただ、付けられる称号が増えているかを確認したかった。
結論から言えばその試みは失敗に終わる。
俺の中では攻略したダンジョン数により付けられる称号の数も増えるという説が一番有力だったんだがな……。
どうやら他に条件があるらしい。
もしかすると現在付けられる四個で打ち止めの可能性もある。
今すぐに結論は出ないな。
俺は考えを一時休止させる。
さて、そろそろ食事でも取るか。
空腹を感じ、食事を取ろうとしたところ不意に大きなノックの音が鳴り響く。
来客か?
もう結構な時間だ。
だが俺は、訪ねてきそうな相手に、一人だけ心当たりがあった。
扉を開け、予想通りの人物が姿を見せる。
そして当初の予定通り城内へ招き入れる。
用件はわかっているが、相手の出方が見たい。
とりあえず俺は問いかける。
「それで……店主。なにか御用かな?」
「え、ええ。用件はあるんですが……」
店主は言いにくそうに言葉を濁す。
訪ねて来た相手は、俺に城を売ってくれた店主だ。
近いうちに来るかなとは思っていたが、予想より少しばかり早い。
わりと焦っているのかもしれない。
「今から、食事にするところだったんでな。できれば用件は手短に頼む」
俺が手短にと煽ったので、覚悟を決めたのか、顔を上げて話し始める。
「……では。失礼を承知で申し上げます。先日カイト様にお売りしましたこの城を買い戻させて欲しいのです」
予想通りの展開につい表情が崩れそうになるが、我慢して真剣な表情で聞き返す。
「……今なんと?」
「ですから……この城を買い戻させて欲しいのです!」
「俺がこの城を買ったばかりなのはそちらもご存じの筈だが? 俺に出て行けと言うのか?」
「カイト様には変わりに素晴らしい部屋を格安にてご提供する用意ができてます」
「ほう」
俺は少し興味がありそうな表情を店主に見せる。
まあ、演技だけどな。
店主はここが攻め時と考えたのか、ここぞとばかりに好条件を繰り出してくる。
「しかもそれだけではございません。なんと城の買い取り金額は、カイト様がお買いになった時の二倍に致します!!」
店主の自信満々な表情にたまらず吹き出しそうになるが、なんとかこらえて余裕たっぷりに回答する。
「すまないが……断らせてもらう」
「ええ!!」
店主が驚きの声を上げる。
だが、さすがに二倍はないだろう。
店主は俺が事情を全く把握していないと思っているらしい。
店主の強気な態度の裏にはもちろん理由が有る。
簡単に言えば、城の価値が上がったのだ。
いや、正確に言うと地価か。
エレノアは土地が安く、冒険者が少ない。そんな国がランキング五位に急浮上したものだから、まだ所属を確定させていない様々な国からの冒険者が大量にエレノアにやってくる事は想像に難くない。
俺は襲撃者に軟禁された時の会話で、世界でもトップクラスのポイントを所持している事は自分で既にわかっていた。
そもそも俺がエレノアに行くように仕向けられた理由が所持ポイントの多さによるものだからな。
俺が所属する事で最下位候補筆頭であるエレノアのランキングをかなり上の方まで押し上げてしまう事は最初から想像がついていた。さすがに最下位から五位以内に収まるとまでは予想していなかったが……。
つまり、最初から豪邸を買おうが城を買おうが、損はしないだろうと俺は考えていた。
どうやら、それは正解だったらしい。
なんかインサイダー取引みたいだな……。まあカテゴリ的には不動産の類だが。
「……十倍なら考えないでもないぞ」
俺は相手の様子を探るべく適当に吹っかけてみる。
「じゅ、十倍の額を支払うなんて、国にはとても……」
男はしまったという表情を見せる。
ん。
俺は当初、城の買い取りは店主による先見の明だと思ったが、どうやら買い被りだったようだ。
まさかすでに国が買い戻そうとしているとはな。おそらくランキング五位に入った事で国庫が潤う算段ができたのかもしれないな。
これは作戦を変えた方が良いか?
店主を相手に適当な金額を吹っかけて落とし所をみつける予定だったが、国が相手ではあまり強気に出過ぎるのもどうだろうな。
しかし、言われた通り二倍で売ってやるのも……なんか気が引けるな。
とりあえず多少の譲歩を見せるか。
「今、国と言ったな? 仕方ない……じゃあ半額の五倍でいい」
店主はしばらく考える素振りを見せる。
そして返事をする。
「五倍でも支払えるかどうか……それに今すぐの支払いは間違いなく無理でしょう」
もう店主も国の存在を俺に隠す気はないようだ。
たしかによく考えれば店主の言う通り今すぐに支払う能力はないだろう。
そんなお金があれば城を手放す事にはなっていまい。
さて、どうするかな。
やはりもっと値下げしなきゃ無理か。
いや。
良い事を思いついた。
「分割でいい。十二回のな」
どうせ俺の所属は一年間変えられない。
つまり早急に一括で払って貰う必要は無いって事だ。
「あと、俺も支払いが終わるまでこのまま城に住ませてもらう」
「そ、それは……」
「当然の権利だと思うが? 踏み倒されたらたまらないからな」
「そ、即答はできかねます……」
「そうだろうな……とりあえず話を持ち帰り、聞いてみたらどうだ?」
「……わかりました。しかし良いのですか? 私がそのまま国に伝えれば、彼らの心証が悪くなるかもしれません」
まあ、店主の言う事ももっともだ。
好きにしろと撥ねつけたいが、さすがに一人対一国の戦争になるのは避けたい。実際に起こったら敗北は必至だしな。
無駄にリスクを負うつもりはない。
むしろ国に護ってもらおう。
――俺という存在をな。
「国が俺の言い分にゴネたら、俺の事をギルドで調べろと言え。たぶんそれで解決する筈だ」
「カイト様の事をですか?」
「ああ」
「……よくわかりませんが、了解しました」
城から出て行く店主を見送る。
さて、咄嗟の思いつきで話を進めてしまったが、はたして良かったのだろうか?
もちろんその問いに答えてくれる者はいなかった――
「ん? なんだ?」
どうやら転移魔法だったらしく、フードを被った人物が目の前に現れる。
「……誰だ?」
知り合いか? 転移を使える知り合いと言えば、真っ先に思いつくのはエリザの顔だ。
「わからない?」
しかし、眼前の人物から発せられた声で、エリザとは別人とわかる。
だが、たしかに声は聞き覚えがある……。
ごく最近聞いた声だ。
少し考えた俺はすぐに答えに辿り着く。
「貧……襲撃してきた一味の女か」
「ご明察」
「何か用か? あんたらの希望通り、俺はエレノア所属になったぞ。満足だろう?」
その俺の言葉に何故か怒気をはらんだ声で反論される。
「満足なもんですか。あなた嘘をついたでしょう?」
「嘘?」
考えても思い当たる節が無い。
「何が中級ダンジョン攻略なのよ!! あなたのポイントを見たわ……最初は目を疑ったけどね」
なるほど。
俺自身疑問に感じている事だが、事情を知らない他人から見たらむしろ俺が虚偽の話をしたと思われているのか。
さて、どう言えばいいのかな。
まあこいつらに本当の事を言う必要はないな。
「騙される方が悪いのさ、以前おまえらと話をしていた時は笑いを堪えるので忙しかったぞ」
俺は軽く挑発したつもりだったが、相手は乗らず、悔しげな表情で再び語る。
「あなたが世界初の上級ダンジョン攻略者だと知っていれば、もっと違ったコンタクトの仕方を取ったわ。それでなんとか私の国へ……」
「それを知ったのにまた俺の前に来るとはな……たいした度胸だ」
「正直、一瞬で殺されるんじゃないかと思ったわよ。でも一言言ってやりたくてね。」
「とりあえず今殺す気はないから安心しておくんだな」
はたしてルカの力を借りずに目の前の彼女に勝てるのだろうか?
ルカも100%こちらの言い分を聞いてくれるかといったらかなり怪しい。
無用な戦いは避けたい、殺し合いなら尚更だ。
「とりあえず、今は言いたい事を言えたから退散するわ」
「できればもう会いたくないんだがな?」
「きっとまた会いに来るわ……その時は私の国へ」
そう言い残し彼女は素早く転移してしまう。
結局彼女は何がしたかったんだ?
文句が言いたかったのか、勧誘なのか難しいところだ。
まあ勧誘される気も無いが。
俺は城へ戻った後、確認したい事があったので、ステータスカードを見る。
今回新たに加わった称号であるエレノア初級ダンジョン最速記録保持者の称号を付けてみようと試してみる。
無論初級ダンジョンの称号なので、補正は無い。
ただ、付けられる称号が増えているかを確認したかった。
結論から言えばその試みは失敗に終わる。
俺の中では攻略したダンジョン数により付けられる称号の数も増えるという説が一番有力だったんだがな……。
どうやら他に条件があるらしい。
もしかすると現在付けられる四個で打ち止めの可能性もある。
今すぐに結論は出ないな。
俺は考えを一時休止させる。
さて、そろそろ食事でも取るか。
空腹を感じ、食事を取ろうとしたところ不意に大きなノックの音が鳴り響く。
来客か?
もう結構な時間だ。
だが俺は、訪ねてきそうな相手に、一人だけ心当たりがあった。
扉を開け、予想通りの人物が姿を見せる。
そして当初の予定通り城内へ招き入れる。
用件はわかっているが、相手の出方が見たい。
とりあえず俺は問いかける。
「それで……店主。なにか御用かな?」
「え、ええ。用件はあるんですが……」
店主は言いにくそうに言葉を濁す。
訪ねて来た相手は、俺に城を売ってくれた店主だ。
近いうちに来るかなとは思っていたが、予想より少しばかり早い。
わりと焦っているのかもしれない。
「今から、食事にするところだったんでな。できれば用件は手短に頼む」
俺が手短にと煽ったので、覚悟を決めたのか、顔を上げて話し始める。
「……では。失礼を承知で申し上げます。先日カイト様にお売りしましたこの城を買い戻させて欲しいのです」
予想通りの展開につい表情が崩れそうになるが、我慢して真剣な表情で聞き返す。
「……今なんと?」
「ですから……この城を買い戻させて欲しいのです!」
「俺がこの城を買ったばかりなのはそちらもご存じの筈だが? 俺に出て行けと言うのか?」
「カイト様には変わりに素晴らしい部屋を格安にてご提供する用意ができてます」
「ほう」
俺は少し興味がありそうな表情を店主に見せる。
まあ、演技だけどな。
店主はここが攻め時と考えたのか、ここぞとばかりに好条件を繰り出してくる。
「しかもそれだけではございません。なんと城の買い取り金額は、カイト様がお買いになった時の二倍に致します!!」
店主の自信満々な表情にたまらず吹き出しそうになるが、なんとかこらえて余裕たっぷりに回答する。
「すまないが……断らせてもらう」
「ええ!!」
店主が驚きの声を上げる。
だが、さすがに二倍はないだろう。
店主は俺が事情を全く把握していないと思っているらしい。
店主の強気な態度の裏にはもちろん理由が有る。
簡単に言えば、城の価値が上がったのだ。
いや、正確に言うと地価か。
エレノアは土地が安く、冒険者が少ない。そんな国がランキング五位に急浮上したものだから、まだ所属を確定させていない様々な国からの冒険者が大量にエレノアにやってくる事は想像に難くない。
俺は襲撃者に軟禁された時の会話で、世界でもトップクラスのポイントを所持している事は自分で既にわかっていた。
そもそも俺がエレノアに行くように仕向けられた理由が所持ポイントの多さによるものだからな。
俺が所属する事で最下位候補筆頭であるエレノアのランキングをかなり上の方まで押し上げてしまう事は最初から想像がついていた。さすがに最下位から五位以内に収まるとまでは予想していなかったが……。
つまり、最初から豪邸を買おうが城を買おうが、損はしないだろうと俺は考えていた。
どうやら、それは正解だったらしい。
なんかインサイダー取引みたいだな……。まあカテゴリ的には不動産の類だが。
「……十倍なら考えないでもないぞ」
俺は相手の様子を探るべく適当に吹っかけてみる。
「じゅ、十倍の額を支払うなんて、国にはとても……」
男はしまったという表情を見せる。
ん。
俺は当初、城の買い取りは店主による先見の明だと思ったが、どうやら買い被りだったようだ。
まさかすでに国が買い戻そうとしているとはな。おそらくランキング五位に入った事で国庫が潤う算段ができたのかもしれないな。
これは作戦を変えた方が良いか?
店主を相手に適当な金額を吹っかけて落とし所をみつける予定だったが、国が相手ではあまり強気に出過ぎるのもどうだろうな。
しかし、言われた通り二倍で売ってやるのも……なんか気が引けるな。
とりあえず多少の譲歩を見せるか。
「今、国と言ったな? 仕方ない……じゃあ半額の五倍でいい」
店主はしばらく考える素振りを見せる。
そして返事をする。
「五倍でも支払えるかどうか……それに今すぐの支払いは間違いなく無理でしょう」
もう店主も国の存在を俺に隠す気はないようだ。
たしかによく考えれば店主の言う通り今すぐに支払う能力はないだろう。
そんなお金があれば城を手放す事にはなっていまい。
さて、どうするかな。
やはりもっと値下げしなきゃ無理か。
いや。
良い事を思いついた。
「分割でいい。十二回のな」
どうせ俺の所属は一年間変えられない。
つまり早急に一括で払って貰う必要は無いって事だ。
「あと、俺も支払いが終わるまでこのまま城に住ませてもらう」
「そ、それは……」
「当然の権利だと思うが? 踏み倒されたらたまらないからな」
「そ、即答はできかねます……」
「そうだろうな……とりあえず話を持ち帰り、聞いてみたらどうだ?」
「……わかりました。しかし良いのですか? 私がそのまま国に伝えれば、彼らの心証が悪くなるかもしれません」
まあ、店主の言う事ももっともだ。
好きにしろと撥ねつけたいが、さすがに一人対一国の戦争になるのは避けたい。実際に起こったら敗北は必至だしな。
無駄にリスクを負うつもりはない。
むしろ国に護ってもらおう。
――俺という存在をな。
「国が俺の言い分にゴネたら、俺の事をギルドで調べろと言え。たぶんそれで解決する筈だ」
「カイト様の事をですか?」
「ああ」
「……よくわかりませんが、了解しました」
城から出て行く店主を見送る。
さて、咄嗟の思いつきで話を進めてしまったが、はたして良かったのだろうか?
もちろんその問いに答えてくれる者はいなかった――
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