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第27話 記録
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テント内に入ると、そこにはさらに多くの人が存在していた。
中にいた奴らの殆どが俺に一瞥をくれる。
だが、すぐに興味を無くしたように視線が外れる。
初めて来たダンジョンだからな。もちろん全員俺の顔は知らないだろう。
他国の者と判断され、興味本位の見物だと思われたのかもしれない。
俺はそんな彼らの反応に気付く素振りも見せず、一直線にテント内にあるカウンターに向かって行く。
そして座っていた男に声をかける。
「ここで、ダンジョン攻略の時間を競えると聞いてきたんだが……」
「ええ、できますよ」
「是非参加したい」
「わかりました。では手続きに入る前に、簡単な説明をさせて頂きます」
「ああ、構わない」
「まず、参加には参加費がかかります。ですが、仮に歴代1位の記録を出した方には今まで集めた参加費を総取りできるというメリットがあります」
聞いてた通りだな。
まあ、金銭的な意味だと最近女の子が、記録更新したらしいからあまり期待はできないかもしれない。
さらに男は続ける。
「それだけではありません。希望者にはご自身で出した記録の証明書を発行いたします。そこには自分の順位も記載されておりますので、自分の力を見極める良い機会と言えるでしょう」
なるほど。
他国の者も一緒に賑わっていた理由がこれだな。
記念参加の者と本気で記録を狙っている者とに別れているのだろう。
俺は周りの連中には完全に前者と思われている事だろう。
だからといっても記録狙いで来てますと、訂正する必要もないしな。
その周りの空気に俺はさらに追い打ちをかける。
「ダンジョン内の地図はあるか?」
「え? ええ、ありますとも! こちらをどうぞ! 出現する魔物の情報も載ってますのでじっくりご覧ください」
そう言って男は俺に地図を渡してくれる。
今のやりとりで俺が本気で記録を狙ってると思った奴は一人もいなくなっただろうな。
さすがに今から地図を見るような奴が真面目に短時間攻略を考えているとは思えないだろう。
周囲でも俺を気にしている奴は見受けられない。
俺は受け取った地図を広げ、早速チェックする。
リピーター連中が相手なら、マップを知らなくても丁度いいハンデとなっただろうが、懸念はさっきの男が言っていた女の子だ。
油断があろうが無かろうが、タイムアタックと分かった上で参加して負けることは、俺の矜持に反する。
たとえ女の子であろうと負けることは許されない。
俺は十秒ほど地図を眺め受付の男に返す。
「助かったよ」
「え? もういいんですか?」
「ああ、もう覚えた」
「覚えた?」
男は信じられないとばかりに俺に視線を向けるが、しつこく聞いてくる事はなかった。
引き続き、手続きを済ませる。
「では、レベルとお名前の証明にステータスカードを確認させて貰ってもよろしいでしょうか?」
まあ、当然か。口でレベルを言って手続き終了なら、不正し放題だ。
あまり見せたくは無いが、俺はステータスカードのレベルと名前が表示されている部分を見せる。
「はい。確認しました。カイト様ですね。ではダンジョンへこれをお持ち下さい」
何かのカードを渡される。
「これは?」
「ギルドカードだと、累計の時間しか記録できませんので、何度も時間を計測するには不向きなんです。ですので、このカードには計測した時間をリセットする機能が備わっています。もちろん参加費さえ頂ければどなたでも何度でも挑戦して頂く事が可能です。ただし補足として歴代1位の記録を持つ方の再挑戦は、その記録が抜かれるまでできない規則となっております」
おそらく、不正対策だろう。歴代一位が何度も挑戦できたら、何回も金を稼ぐ事ができる可能性があるからな。
俺は、参加費を支払いダンジョンへ向かう。
俺は称号の補正を、スピード特化に切り替え、早速内部に突入にする。
先程俺が地図で覚えたのは、全階層の階段位置だ。
その以外の事は一切調べてはいない。
あえてリピーターの連中や、女の子がどのくらいの攻略時間なのかもあえて調べなかった。
楽しみはとっておきたいしな。
俺はいつも初級ダンジョンを攻略する時と同じように、階段へ向けて一直線に進んで行く。
――――数分後。
俺は初級ダンジョンをあっさりと攻略し、テントに戻る。受付に行く前に、称号のチェックを行う。
ちゃんと、エレノア初級ダンジョン最速の称号を手に入れていた。
とりあえず、当初の目的は達成できたな。
「おや? なにかありましたか? 参加費は返せませんが、攻略を断念することはできますよ」
受付の男が、目ざとく俺を見つけ、さらには的外れな事を言いだすが、俺は気にせず淡々と告げる。
「これは、記録になるか?」
そう言いながら受付にカードを渡す。
男はカードを受け取り。その内容を見つめたと思ったら、わなわなと震え出した。
なにか言われるかと思ったが、こちらはきちんと正規の手順で攻略し、カードも提出している。
不正と疑う余地はないだろう。
「き、記録になります!! それもいままでの記録を大幅に更新しての歴代一位です!!」
その言葉に、周りはざわめき出す。
俺は気にせず、受付に問いかける。
「その記録は歴代二位とどのくらい差が有るんだ?」
「およそ十分です」
まあそんなもんだろうな。
俺は二位との差に満足し、頷く。
十分という言葉を聞いた周りの連中は素直に驚き、俺を祝福さえしてくれそうな雰囲気だが、一部の連中は一斉にヒソヒソと話し出す。
奴らが例のリピーターか?
初めてこの世界でタイムアタックで勝負したからな。
自分自身、歯止めが効かなかった自覚はある。
彼らにはかわいそうな事をしてしまったかもしれない。
まあ気にしてもしょうがないので、要件をさっさと済ませよう。
「じゃあ、早速お金をもらえるか?」
「……え、ええ!! お待ちください」
俺に話しかけられた事で正気に戻ったのか、ようやく受付の男が自分の仕事を始める。
お金を受け取った俺は早速金額をチェックする。
思ってたよりは多いな。リピーター連中が、頑張って積立ててくれたのかもしれない。
それでも称号で貰えるお金の方がよっぽど多い。
まあ、何かの足しにはなるだろう。
俺は懐に受け取った金をしまい、テントから出ようとする。
「あ、あの!! 証明書の発行は?」
何故か焦った様子で受付の男が話しかけてくる。
「あれは、希望者のみと言ってなかったか?」
「はい、それはそうなんですけど、なにせ歴代一位ですし……もしかしていらないんですか?」
「ああ」
俺がそういうと男は心底驚いた表情を見せる。
いや、そんな顔されても……。
所詮初級だしな。
「そういえば一つ聞きたい」
「はい? なんでしょうか?」
「攻略時間を競えるのはここだけなのか?」
「いえ、中級ダンジョンでも開催されてますよ。もちろん一人で中級を攻略できる人などまずいないでしょうからPT限定になりますが……」
「……なるほどな。よくわかったよ」
俺は受付への礼もそこそこに、そそくさとその場を後にする。
俺に話しかけたくて、うずうずしている様子の連中がいたからな。
さすがに相手にはしたくない。もう時間も遅いしな。
テントから出て歩いていくと、先程タイムアタックが開催されている事を教えてくれた男がまだ外でうろついていた。
「おう、あんちゃん。やっぱり女の子の攻略時間にびびって、やめたクチかい?」
俺は笑いを堪えながらも、適当に受け流す。
「……まあそんなところだ」
少し気になった事があったので、ついでに聞いてみる。
「仮に、その女の子の記録が破られたとしたら、再挑戦しに来ると思うか?」
「さあな。来るかもしれないし、来ないかもしれない……さすがにわからんよ」
「まあ。あんたにわかるはずもないか……とにかくありがとう」
俺は適当に礼を言って、男から離れる。
しかし、なんか不完全燃焼だな。
やはり、差が有りすぎる勝負はつまらない。
熱い勝負がしたい。
そういえば、中級ダンジョンはPT限定と言っていたな。
……続けて挑戦するのも悪くないかもな。
俺はそんな事を考えながら、城へと帰って行った。
中にいた奴らの殆どが俺に一瞥をくれる。
だが、すぐに興味を無くしたように視線が外れる。
初めて来たダンジョンだからな。もちろん全員俺の顔は知らないだろう。
他国の者と判断され、興味本位の見物だと思われたのかもしれない。
俺はそんな彼らの反応に気付く素振りも見せず、一直線にテント内にあるカウンターに向かって行く。
そして座っていた男に声をかける。
「ここで、ダンジョン攻略の時間を競えると聞いてきたんだが……」
「ええ、できますよ」
「是非参加したい」
「わかりました。では手続きに入る前に、簡単な説明をさせて頂きます」
「ああ、構わない」
「まず、参加には参加費がかかります。ですが、仮に歴代1位の記録を出した方には今まで集めた参加費を総取りできるというメリットがあります」
聞いてた通りだな。
まあ、金銭的な意味だと最近女の子が、記録更新したらしいからあまり期待はできないかもしれない。
さらに男は続ける。
「それだけではありません。希望者にはご自身で出した記録の証明書を発行いたします。そこには自分の順位も記載されておりますので、自分の力を見極める良い機会と言えるでしょう」
なるほど。
他国の者も一緒に賑わっていた理由がこれだな。
記念参加の者と本気で記録を狙っている者とに別れているのだろう。
俺は周りの連中には完全に前者と思われている事だろう。
だからといっても記録狙いで来てますと、訂正する必要もないしな。
その周りの空気に俺はさらに追い打ちをかける。
「ダンジョン内の地図はあるか?」
「え? ええ、ありますとも! こちらをどうぞ! 出現する魔物の情報も載ってますのでじっくりご覧ください」
そう言って男は俺に地図を渡してくれる。
今のやりとりで俺が本気で記録を狙ってると思った奴は一人もいなくなっただろうな。
さすがに今から地図を見るような奴が真面目に短時間攻略を考えているとは思えないだろう。
周囲でも俺を気にしている奴は見受けられない。
俺は受け取った地図を広げ、早速チェックする。
リピーター連中が相手なら、マップを知らなくても丁度いいハンデとなっただろうが、懸念はさっきの男が言っていた女の子だ。
油断があろうが無かろうが、タイムアタックと分かった上で参加して負けることは、俺の矜持に反する。
たとえ女の子であろうと負けることは許されない。
俺は十秒ほど地図を眺め受付の男に返す。
「助かったよ」
「え? もういいんですか?」
「ああ、もう覚えた」
「覚えた?」
男は信じられないとばかりに俺に視線を向けるが、しつこく聞いてくる事はなかった。
引き続き、手続きを済ませる。
「では、レベルとお名前の証明にステータスカードを確認させて貰ってもよろしいでしょうか?」
まあ、当然か。口でレベルを言って手続き終了なら、不正し放題だ。
あまり見せたくは無いが、俺はステータスカードのレベルと名前が表示されている部分を見せる。
「はい。確認しました。カイト様ですね。ではダンジョンへこれをお持ち下さい」
何かのカードを渡される。
「これは?」
「ギルドカードだと、累計の時間しか記録できませんので、何度も時間を計測するには不向きなんです。ですので、このカードには計測した時間をリセットする機能が備わっています。もちろん参加費さえ頂ければどなたでも何度でも挑戦して頂く事が可能です。ただし補足として歴代1位の記録を持つ方の再挑戦は、その記録が抜かれるまでできない規則となっております」
おそらく、不正対策だろう。歴代一位が何度も挑戦できたら、何回も金を稼ぐ事ができる可能性があるからな。
俺は、参加費を支払いダンジョンへ向かう。
俺は称号の補正を、スピード特化に切り替え、早速内部に突入にする。
先程俺が地図で覚えたのは、全階層の階段位置だ。
その以外の事は一切調べてはいない。
あえてリピーターの連中や、女の子がどのくらいの攻略時間なのかもあえて調べなかった。
楽しみはとっておきたいしな。
俺はいつも初級ダンジョンを攻略する時と同じように、階段へ向けて一直線に進んで行く。
――――数分後。
俺は初級ダンジョンをあっさりと攻略し、テントに戻る。受付に行く前に、称号のチェックを行う。
ちゃんと、エレノア初級ダンジョン最速の称号を手に入れていた。
とりあえず、当初の目的は達成できたな。
「おや? なにかありましたか? 参加費は返せませんが、攻略を断念することはできますよ」
受付の男が、目ざとく俺を見つけ、さらには的外れな事を言いだすが、俺は気にせず淡々と告げる。
「これは、記録になるか?」
そう言いながら受付にカードを渡す。
男はカードを受け取り。その内容を見つめたと思ったら、わなわなと震え出した。
なにか言われるかと思ったが、こちらはきちんと正規の手順で攻略し、カードも提出している。
不正と疑う余地はないだろう。
「き、記録になります!! それもいままでの記録を大幅に更新しての歴代一位です!!」
その言葉に、周りはざわめき出す。
俺は気にせず、受付に問いかける。
「その記録は歴代二位とどのくらい差が有るんだ?」
「およそ十分です」
まあそんなもんだろうな。
俺は二位との差に満足し、頷く。
十分という言葉を聞いた周りの連中は素直に驚き、俺を祝福さえしてくれそうな雰囲気だが、一部の連中は一斉にヒソヒソと話し出す。
奴らが例のリピーターか?
初めてこの世界でタイムアタックで勝負したからな。
自分自身、歯止めが効かなかった自覚はある。
彼らにはかわいそうな事をしてしまったかもしれない。
まあ気にしてもしょうがないので、要件をさっさと済ませよう。
「じゃあ、早速お金をもらえるか?」
「……え、ええ!! お待ちください」
俺に話しかけられた事で正気に戻ったのか、ようやく受付の男が自分の仕事を始める。
お金を受け取った俺は早速金額をチェックする。
思ってたよりは多いな。リピーター連中が、頑張って積立ててくれたのかもしれない。
それでも称号で貰えるお金の方がよっぽど多い。
まあ、何かの足しにはなるだろう。
俺は懐に受け取った金をしまい、テントから出ようとする。
「あ、あの!! 証明書の発行は?」
何故か焦った様子で受付の男が話しかけてくる。
「あれは、希望者のみと言ってなかったか?」
「はい、それはそうなんですけど、なにせ歴代一位ですし……もしかしていらないんですか?」
「ああ」
俺がそういうと男は心底驚いた表情を見せる。
いや、そんな顔されても……。
所詮初級だしな。
「そういえば一つ聞きたい」
「はい? なんでしょうか?」
「攻略時間を競えるのはここだけなのか?」
「いえ、中級ダンジョンでも開催されてますよ。もちろん一人で中級を攻略できる人などまずいないでしょうからPT限定になりますが……」
「……なるほどな。よくわかったよ」
俺は受付への礼もそこそこに、そそくさとその場を後にする。
俺に話しかけたくて、うずうずしている様子の連中がいたからな。
さすがに相手にはしたくない。もう時間も遅いしな。
テントから出て歩いていくと、先程タイムアタックが開催されている事を教えてくれた男がまだ外でうろついていた。
「おう、あんちゃん。やっぱり女の子の攻略時間にびびって、やめたクチかい?」
俺は笑いを堪えながらも、適当に受け流す。
「……まあそんなところだ」
少し気になった事があったので、ついでに聞いてみる。
「仮に、その女の子の記録が破られたとしたら、再挑戦しに来ると思うか?」
「さあな。来るかもしれないし、来ないかもしれない……さすがにわからんよ」
「まあ。あんたにわかるはずもないか……とにかくありがとう」
俺は適当に礼を言って、男から離れる。
しかし、なんか不完全燃焼だな。
やはり、差が有りすぎる勝負はつまらない。
熱い勝負がしたい。
そういえば、中級ダンジョンはPT限定と言っていたな。
……続けて挑戦するのも悪くないかもな。
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