異世界ダンジョンでRTA

第２６話 システム

俺はまず優しそうな雰囲気を持った女性に声をかける。

大抵の奴には断られそうだからな。なるべく断るのが苦手そうな人を選ぶのが狙いだ。
まあ相手には悪いんだけどな。

「失礼。少し大丈夫でしょうか？」

もちろん最近癖になってしまっている話し方では無く、完全なよそ行きの言葉遣いだ。

「……ん？ なにか用かい？」

年の頃は２０台後半だろうか？
肩くらいまで伸びた茶色の髪に同じ色の瞳。
背は俺と同じくらいに見える。女性では十分高い部類に入るだろう。
装備は完全に冒険者だな。

「つかぬ事を、聞きますが……ここ数日前から始まったギルドの説明会ってもう行きましたか？」

俺の言葉を聞いた女性は変な話じゃない事を知って安心したのか、聞いてくれる体勢に入る。

「なんだかまどろっこしい話し方だねえ。普通でいいよ。冒険者に年齢は関係なし。そうだろ？」
「……そういう事なら遠慮なく。……それで、質問の答えは？」
「ああ。もう行ったよ」

どうやら１人目で当たりを掴んだようだ。
ついてるな。

「ぶしつけなお願いで申し訳ないが、説明会の内容を教えてくれないか？」
「なんでだい？ ギルドでちゃんと聞いた方が良いと思うけど……」
「今ギルドに行って来たんだが……予約しかできないんでな。できればすぐ知りたい」
「今は混雑してるからね。まだ制度そのものが始まったばっかりだから仕方ないけど……。そんなに急いでるのかい？」
「まあ、何度もギルドを往復するのが面倒っていうのもある」

俺がそう言うと。女性は笑顔を見せる。

「正直な子だね。名前は？」
「カイトだ。そちらは？」
「私はマリス。じゃあカイト、ここじゃなんだから場所を変えましょ」
「つまり引き受けてくれるという事か？」
「ええ、まあついでみたいなものね」
「ついで？」
「気にしなくていいわよ」

良く分からないが、とりあえず人物的には信用できそうなのでついて行く事に決める。

連れてこられたのは近くの宿屋だ。

「ここに泊まっているのか？」
「そうよ。この国には来たばかりだからね」

てっきりここに長らく住んでいるのかと思ったら、どうやら俺と同じみたいだ。

「俺も最近来たばっかりなんだ」
「へえーそうなんだ？ どこに泊まってるの？ ここの宿屋は結構おすすめよ」
「城で寝泊まりしてるよ」
「あはは。面白い子ね」

嘘は言わなかったんだが、どうやら信じてもらえなかったようだ。
まあどうでもいい事だけどな。

宿に入り２階へ上がる。
奥の部屋に案内される。どうやらここが目的地のようだ。

部屋の中に通されるが、予想に反してそこには一人の男がいた。
年はマリスと同じくらいか少し上に見える。

「戻ったか、結構遅かったな……」

そう言いながら男はこちらを向き俺の姿に気がつく。

「ん？ 誰だそいつ？」
「カイトって言うんだって。あんたみたいな事言ってるから連れて来たわ」
「俺みたいな事？」
「ギルドで講習聞くのが面倒なんだってさ。だから内容を教えてくれって」

その話を聞いた瞬間男は声を上げて笑いだす。

「ハハハ、なるほどな。そいつはたしかに俺と同じだ」
「紹介するわカイト、この人は私の旦那でルイよ」

なるほど、旦那だったか。
俺は一応旦那であるルイに改めて挨拶をしておく。

「カイトだ。世話になる」

マリスの性格だ。きっと旦那も普通に話して大丈夫だろう。

案の定、年下から普通に話しかけられても全く気にした様子は無い。

「ああ、汚い所だけどゆっくりしていってくれ」
「最近この国に来たらしいが？」

とりあえず世間話をしておく。

「ああ。まだ１０日くらいかな」
「こっちも似たようなもんだ。まだ２、３日しか経って無いけどな」
「カイトもこっちに来たばかりか。冒険者なんだろう？ まあ仲良くやろうぜ」
「ああ、こちらからもお願いしたいくらいだ。俺もこの国には知り合いがいなくてな……。まあ近々人を雇うかもしれないが……」
「人を雇う？」
「いや……こっちの話だ」

こんな事をわざわざ説明する必要も無いな。
俺は話題を変える事にする。

「そういえば、いきなり変な制度が始まってびっくりしたんじゃないか？」
「ああ、いきなりだったからな。しかもこの国は１番の最下位候補らしいじゃないか？ 正直少しこの国に来た事を後悔してるんだよ」

そこで飲み物を運んできてくれたマリスが会話に参加してくる。

「それがそうでもないらしいのよ」
「ん？ どういう事だ？」

ルイは問い返すが、俺はマリスの言おうとしてる事は大体理解できる。

「実は……今日講習会で、実際に新制度の説明を受けた時に、ランキングの見方も詳しく説明されたんだけど……なんと驚き、個人の世界ランキング１位がエレノアにいるのよ！」
「ホントかよ！？」
「その人のポイント１人分でエレノアを上位に押し上げてるのよ。なんと５位よ！５位！」

興奮気味に話すマリスに対して、俺は少し居心地の悪さを感じる。
まあ俺の事だろうからな。
俺自身あんなにポイントを取得しているとは思っていなかったからな。

しかしエレノアは５位だったのか。そういえば個人のランキングは見たが国毎のランキングは見ていなかった事を思い出す。最下位から５位はやっぱり大躍進なのだろうな。

「世界のトップがこの国にいるのか、何とか師事できないもんかな？」
「会えたら頼んでみたら？ まあ運次第かもね」

俺はルイにやめておけと言いたかったが、心の中で留めておいた。
ついでに強引に話題を変える。

「マリス。そろそろいいか？」
「ああ、そういえば、説明会の件だったわね。じゃあ２度手間は嫌だからあんたも聞いといてね」
「おう」

マリスは旦那にも了解を取り説明会での内容を話出す。

俺はマリスの話を聞き、制度について新しい情報をいくつか入手できた。
ダンジョン攻略時のポイントだが初級、中級、上級、共に難易度によって貰えるポイントが５段階に分かれているらしい。
初級は簡単な方から１０、２０、３０、４０、５０ポイントの５段階。
中級は１０００、２０００、３０００、４０００、５０００ポイントの５段階。
上級は１００００、２００００、３００００、４００００、５００００ポイントの５段階にそれぞれ別れているそうだ。

そう考えるとポイント的に俺は上級ダンジョンの最難関を攻略したという事になっているみたいだ。
誰かに説明してほしいが、答えてくれる奴もいないだろう。

その他にも講習では、俺がギルドで受付に聞いたランキングによって名前が呼ばれるシステム等、色々な事が説明されたようだ。

この制度が始まった理由についても述べられたらしく、簡単に言えば、近頃中級以上のダンジョン攻略がちっとも進んでないかららしい。
まあ競争心を煽って効果を出そうという事だろうな。

国ごとのランキングにおける特典の内容も簡単に説明されたらしく、５位以内に入れば３ヶ月後に帝都で行われる世界の方針を占うトップ会談に参加できるらしい。まあこの辺は国のトップ達が参加するんだろうから俺に直接関係はしないだろう。
だが、会談でどのような内容が話されるのかといった情報はどうやら教えてもらえなかったようだ。まあ末端の冒険者には必要の無い情報ということだろう。


俺に関係があるのは個人ランキングによる報酬だ。月に１回決められた日に報酬が貰えるらしい。もちろん順位毎に報酬は違うそうだ。つまりこのまま順位を維持できれば１位の報酬をゲットできるということだろうな。

俺は自分に関係のありそうな部分はしっかりと聞き。
その他の部分に関しては適当に聞き流した。
途中マリスに、聞いてるのかと怒られたけどな。

俺は話を聞き終えた後、二人と食事をしてから宿を後にする。
別れ際にルイにこっちの宿に来いよと誘われるが、城を持ってるからと返事したら軽く聞き流されてしまった。まあ無理もないのかもしれない。

しかし、金策に出たはずが遅くなったな。
俺はギルドでもらったダンジョンへの地図を確認する。

行けない距離じゃないな。
さっさと済ませてしまうか……。
そう決めると俺は地図を片手にダンジョンへと向かって行った。



初級ダンジョンの入口付近まで来ると何やら人が大勢集まっていた。

俺は少し気になったので、話を聞いてみる事にする。

「なんで入口にみんな集まってるんだ？」
「ん？ あんたよそ者か？」
「出身はここじゃないが、所属のギルドはこの国だ」
「……じゃあお仲間か、全然見ない顔だったからポイント狙いの他国の奴かと思ったよ」

マリスから聞いた話じゃ、個人ランキングによる恩恵もあるらしいからな。
自国のクリアできるダンジョンを攻略してしまった者は他国のダンジョンへ行くしかない。

どうやら早速ポイント制度を始めた効果が出ているらしい。
これによりたしかに人や物の流れは増えそうだ。
良い事ばかりではないだろうがな……。

「ということは、ここにいる奴らはほとんど他国の者なのか？」
「いや……オレの見立てだと半分といったところだろうな」
「じゃあ他の者は？ 初級ダンジョンのわりに人が多過ぎないか？」
「今、この国じゃダンジョンの攻略時間を競うのが流行ってるんだよ」

おいおい。
まさかこんな場所でタイムアタックがされているとは……。

俺は嬉しくなって自然と身体が前のめりになる。

「１番速く攻略すると何かあるのか？」
「今までの参加費から運営費を除いた分を総取りできるぞ」
「ジャックポットみたいなもんか……」
「ん？ 何か言ったか？」
「いや……なんでもない」

運営費か。どうやらきちんと組織が管理しているらしい。ギルド等の関係者だろうか？

しかし、どうやら最速記録を出すとお金が貰えるみたいだ。うまくいけば称号取得の分と合わせて二重取りができるかもしれない。
これに参加しない手はない。

「参加に条件はあるのか？」
「初級ダンジョンの参加条件はレベル１０以下である事だけだ。参加費はかかるけどな。ほら、あそこが受付だ」

そう言って男はテントのような場所を指差す。

ふむ。
これはますます好都合だ。是非とも参加しよう。
俺は興奮を抑えきれず。男に礼を言い素早くテントに向かう事にした。

「おいあんちゃん。まさか参加する気かよ？」
「ん？ ああそのつもりだ。……貴重な情報感謝する」
「悪い事は言わないからやめておけ」
「理由は？」

無用な心配だとは思うが、一応親切心で言ってくれているらしく邪険に扱うのもためらわれたので、とりあえず話を聞いてみる事にする。

「……参加できるのは一度じゃないからな。リピーターがいるんだ。奴らはもう幾度となく挑戦して、ダンジョンの構造はもちろん、出てくる敵の弱点も知り尽くしている」

彼の話した内容は俺の予想を裏切る事はなかった。
そんな事か、そもそも初級ダンジョンでのタイムアタックには敵の弱点は必要ないだろう。
まああえて情報を入れておくならボスの事だけで良い。
道中の敵と戦おうとする時点でそいつらはアホなだけだ。
たとえ一撃で倒せるとしてもだ。

俺は多少なりともリピーター連中と競い合う事ができるかもしれないと思ったが、とんだ期待外れだったようだ。
そう結論づけたが、男の話にはまだ続きがあった。

「……そんな奴らでも少し前に来た女の子の記録を抜かせないでいる」
「女の子？」
「ああ、どこの誰だかは知らないが、しばらく前に挑戦しに来てな……なんと今までの記録を見事ごぼう抜きさ」

先程までは男など無視して早く受付に行きたかったが、彼の言葉を聞いて多少の興味が沸く。

「リピーター達とその女の子にはどれくらいの時間差があるんだ？」
「今でもまだ１分はある筈だ。詳細に知りたいなら受付で詳しい時間が見れるぞ」
「……なるほどな。ありがとう」

俺は真っすぐ受付に向かって歩き出す。
俺がまだ受付に向かうのに男は納得できないらしく、背中越しにしつこく声をかけられる。

「おい？ 今の話聞いてなかったのかよ？ 参加費の無駄だぞ！！」

俺は男の言葉になんら反応を示す事無く。テントの中に入っていった。