異世界ダンジョンでRTA

ユウリ

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第13話 講習2日目

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講習2日目の昼休憩、俺は今日もアキームに食事に誘われたが、今回は断った。
なぜなら、アキームが俺を誘った時、彼の妹が俺の事をものすごい目つきで睨んでいたからだ。
暗に来るなと言いたかったんだろう。

まあ食事中に雰囲気が悪くても、メシがマズくなるだけだからな。

そういう経緯も有り、俺は1人きりで食事を済ますと、一足先に席に戻る。
ちなみに今日も席の並びは昨日と一緒で、隣にアキーム、その脇にアーシェといった感じに並んでいる。

たしか今日もおっさんは来ると言っていた。
午後の座学が始まるまで暇だから、話し相手になってもらいたいが。

だが周囲におっさんは見当たらず、仕方なく席に座っていると、ギルド職員と共に見知った顔が現れた。
それは意外にもおっさんではなく、ロイスだった。

ロイスは目ざとく俺を見つけ、ニヤつきながら近づいてくる。

「よお、また会ったな」
「まさかロイスまで来るとはな……おっさんはまだ来てないのか?」
「奴は今日来ないぞ」
「えっ? 昨日は来るって言ってたんだが」
「俺が代わりさ。まあ当初はそんな予定も無かったんだけどな」
「代わりって講師か? この国の騎士団は暇なんだな」
「そんなことも無いんだが……昨日無理やり押しつけられたんだ」

おっさんに、お前もそろそろこういう仕事もこなせる様になれと言われ、押しつけられたらしい。
まあ俺が思うにただ面倒だからロイスに押し付けただけの気もするが。

代わりに騎士団長としての仕事はおっさんが受け持つみたいだけどな。

「それにしても……本当だったんだな。カイトが中級とはいえ、初心者講習に来ているというのは」
「まあ、免除の事を知らなかったしな」
「帝都の中級ダンジョンに入るつもりなのか?」
「ああ、一応な」
「入るのはいいが、攻略は難しいと思うぞ? なにせミルのダンジョンを攻略する前に、ライカや姫さん達と入ったが、途中でこっぴどくやられて帰ってきたからな。だから諦めて別のダンジョンを攻略しようって話になったんだよ」
「ロイス達でも諦めるほどなのか……歯ごたえがありそうだ」
「おいおい本気で攻略するつもりか?」
「まあ、その内な」

ロイスは呆れ顔だ。
俺もさすがに、今すぐに攻略できるとは思っていない。

その後もしばらく、ロイスと話をしていると、休憩に行っていた連中が戻ってくる。
そろそろ午後の座学が始まる様だ。

ロイスもそれに気付く。

「おっと、そろそろか。じゃあ戻るな」
「ああ、退屈しない話を頼む」
「あまり期待するなよ」

ロイスが俺から離れるのと入れ違いに、アキームとアーシェが戻ってくる。

「い、今のはまさかロイス様では?」

アーシェが興奮した面持ちで、聞いてくる。

「そうだ、今日はロイスが特別講師らしいぞ」
「ああ、まさかお会いできるとは……」
「あの方がロイス様か……お目にかかるのは初めてです」

アキームはロイスを見るのは初めてらしい。

「アーシェ。やっぱり僕の言うとおりだったじゃないか? 騎士団長のロイス様ともお知り合いみたいだし、カイトさんは嘘なんかつかないさ」

アキームが得意気な顔をしてアーシェの事を見る。
どうやら2人で、俺の話をしていた様だ。
大方、アーシェが俺の事が信じられないとか言ったんだとは思うが。

だがアキームも人を疑うことを覚えた方がいいな。
嘘で塗り固めた俺の事を信用してしまうとは。
全くこの世界にはお人良しが多い。

「兄さん。どうやらカイトさんは本当にロイス様と知り合いの様子でしたが、まだはっきりしたのはそれだけです。カイトさんが嘘をついていないと断定するのはまだ早いと思います。エルフのお姫様と結婚すると昨日言っていましたが、そんな事が現実に起こると思いますか? 私にはとても信じられません」

だが、アーシェはまだ俺の事を信用していないらしく、疑いの眼差しを向けてくる。
この世界の結婚事情はよく知らないがアーシェの反応を見る限り、人間とエルフが結婚する事自体が珍しい事なのかもしれない。
ましてや王族だしな。

「カイトさん。妹が失礼な事を言ってすみません。妹はまだ子供なので人を見る目が備わっていないというか……後でちゃんと言い聞かせておきますので」

妹の歯に衣着せぬ物言いに、俺が気を悪くしたんじゃないかと心配している様子のアキーム。
普通に考えたら妹の思考の方が正常な気もするが、まあ兄の方は底抜けにいいやつなんだろうな。
だが、今回の件では俺は嘘を言ったつもりは無い。きっちり言い返しておくか。

「気にするなアキーム。お前の言うとおり、子供の戯言なんか気にしてもしょうがない。だが人を見る目が無いのは問題だな……兄としてきっちり教えてやるんだな」

俺はアキームにそう返事をし、続けてアーシェにも声をかける。

「見本となる良い兄がいるんだから、学べるところは学んでおくんだな。でないといずれ変な男に引っかかるぞ」

無駄に上から目線で言う。
アーシェの様な、若いながら落ち着いた雰囲気を持つ女の子は子供扱いされる事は少ないだろうと思い、あえてそこを突く。

我ながら子供だな。これじゃあアーシェの事を言えないな。
エリザが見てたら結婚を考え直すかもしれない。

俺の発言にアーシェの反応は劇的だった。
顔を真っ赤にして怒りの表情で睨んでくる。
そのあまりの表情の変化に、俺は少し動揺する。
言いすぎたか?

だがアーシェが俺に何か言い返す前に、ギルド職員が午後の座学を始める旨を全員に伝える。
アーシェは渋々といった感じに俺に何も言わずに、自分の席に着く。
俺は、ほっと胸を撫で下ろし、
午後の座学は、昨日と一緒でまず講師の紹介から入る。

現役の騎士団長だけあって、おっさんの時よりざわめきが遥かに大きい。
現役である分、知名度がかなり違うんだろうな。それにアキームから聞いた話だと女性からの人気も高いらしいからな。

ロイスの紹介が終わり、座学がスタートする。
俺が想像してた以上に、ロイスは見事に講師役をこなす。

時折ユーモアを交えた話で参加者から笑いを取り、退屈させない様に工夫されているかの様に感じた。
まあ本人は意識してやっているのかは分からないんだけどな。
さすがに若くして、軍を束ねているだけの事はある。

俺はロイスの事を改めて高く評価する。
まあ少しだけ性格に難有りな気もするけどな。
おっさんの講習も良かったが、内容は少し堅かったからな。

俺は必要な情報は聞き漏らすまいと真剣に聞き入る。
2日間で俺の欲しかった情報はあらかた手に入れられたが、魔物の情報量に少し不満が残る。
講習を聞く限りでは、帝都の中級ダンジョンは過去に50階層まで到達した人がいるらしい。
それなのに魔物に関しては40階層までの情報しか教えられなかった。

どうせなら50階層まで教えてほしかったんだがな、初心者の集まりだから必要無いと判断されたか?
後でロイスに確認してみるか。

座学が小休憩に入った時に俺はロイスに手招きをして呼び寄せる。
さすがに昨日の二の舞はごめんだ。わざわざ大声でロイスと呼んで目立つ必要はない。
まあ、今更呼び方自体を変えるつもりも無いけどな。
それに俺がロイス様とか言い出したら、ロイスの方から却下されそうだ。

「ん? どうしたカイト」

近くまで寄ってきたロイスが呼び出された理由を尋ねる。
しかし、俺の考えとは裏腹にロイスが近くに寄ってきただけでかなりの注目を浴びる。

なんと言うべきか、さすがはロイスだ。
俺は早々に目立たずにいる事を諦めることにした。
気にせず話す事にする。

「さっきの講習だが、各階層の魔物を説明している時、40階層までしかやらなかったよな? なんでだ? 俺としては50階層まできっちりやって欲しかったんだが……」

俺の言葉使いがあまりにも普通過ぎた為、なんて失礼な!!という視線が集まってくる。
アキームは余り気にしていない様子だがアーシェも他の奴と似たような感じだ。

「ああそれはだな、40階層以上の情報は出所が不確かなものが多くてな……まだ国やギルドが裏を取れていないんだ。だから公式に信用できる情報は40階層までとなっている。流石に間違った情報を講習で教える訳にもいかんしな」
「50階層まで行った奴が情報を公開しなかったって事か?」
「そうだ。まあ強制できる事でも無いしな。無理に公開させようにも50階層まで行った奴に喧嘩を売れる奴は、そうそういるもんじゃないだろうからな」
「なるほどな……]

その時、アーシェが鋭い視線で俺の方を見ながら、目をパチパチさせている事に気が付いた。
なんだ?もしかして紹介しろとか、話をさせろって言いたいんだろうか?

まあ、さっきはちょっと言い過ぎた気がしないでもない。
ここはサービスしておくか。

「おいロイス。そこの有望な新人が何やら質問の有りそうな顔しているぞ。答えてやったらどうだ?」

俺はアーシェのいる方に顎を向け、ロイスの視線を向けさせてやる。
いきなりロイスの興味が自分に移った事でアーシェは戸惑いを見せている様に見えるが、有名人であるロイスはそういう反応には慣れているのか、アーシェにごく普通に話しかける。

「さっきの講習で何かわからないところでもあったのか? 今だったら教えてやれるが……」

ロイスの反応が好意的であった事で、アーシェは冷静さを取り戻した様だ。

「ロイス様。私の名前はアーシェと言います。以後お見知り置きを。早速質問なんですが……そこにいるカイトさんとはどの様な関係なのでしょうか?」

俺の事かよ!と内心で突っ込みを入れるが、特に口を挟まなかった。
ロイスにちゃんと答えてもらえば、アーシェも納得するだろうと踏んでの事だ。

しかし、てっきり講習に関する質問だと思っていたロイスは肩透かしをくらった様子だ。

「え、カイト? 関係と言われてもな……友人というか恩人というか」
「恩人ですか?」

アーシェも友人という答えは半ば予想していたのだろう。
だが恩人と言う言葉は予想外だったらしく反射的に聞き返す。

「ああ、少し前に中級ダンジョンの攻略を手伝ってもらったんだ。それも無償でな」
「中級ダンジョンの攻略……カイトさんはたった今、初心者講習を受けている段階の様に見えますが……」
「それは免除の申請をしなかったからみたいだ。……言っておくがカイトの実力は俺よりも上だぞ」
「なっ!?」

アーシェは信じられないといった表情で俺の方へ視線を向ける。

ロイスの言葉を聞き周りも一斉にざわつき出す。
どうやら周りの奴らも聞き耳を立てていたらしい。

タイミングが良いのか悪いのか、丁度小休憩が終わる。
未だにざわつきは収まらないが、全員が席に戻る。

周りから視線を感じる。どうやらえらく注目されてる様だ。

「ロイスめ……言いすぎだ」

俺は誰にも聞こえない様にそう呟く。
視線を気にしない様に残りの講習を受けたが、あまり頭に入らなかった。

気がついたら講習も終わる時間だ。
ロイスが明日行う講習の説明を始めている。

「明日は午前中に皆の戦闘技術を見せてもらい、俺達がアドバイスをする。そして午後に戦闘技術のテストを行う。そこで合格すれば晴れて諸君らは中級ダンジョンに入れるようになるぞ」

そこで参加者の一人が質問をする。

「俺達という言い方ですと、明日はロイス様に全員がアドバイスをもらえる訳ではないのですか?」

できれば参加者は、ロイスからアドバイスをもらいたいだろうからな。
俺もロイスから指導を受けたいくらいだ。

「ああ、さすがに俺1人でこの人数全員を見るのは厳しい。だが心配するな! そこに座っているカイトが俺と一緒にお前らに指導する事になっている」


ちょっと待て。
思い切り初耳なんだが。
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