異世界ダンジョンでRTA

ユウリ

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第1話 RTA

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RTAとはリアルタイムアタック(Real Time Attack)の略で、ゲームのプレイスタイルの一種である。

たとえば、あなたがRPGで50Gと安物の剣と鎧を王様から託されたとしよう。
おそらくあなたは、王様のくせにしけてんなーと言いつつもその剣と鎧を装備して冒険に出かけるだろう。

これはそんな当たり前の事をしない男の物語である。


一条海斗は異世界にいた――

「はあ、座学はもう飽きた」

俺が異世界に来てからもう1ヵ月になる。
八方手を尽くして元の世界に帰ろうとしたが、すべて無駄に終わった。

とりあえず、一旦元の世界に帰る事を諦めた俺は、異世界で生活する為に、金策を決意する。

俺は数ある金策方法の中からダンジョンに潜ってお金を稼ぐ事を選んだ。
個人的にすごく興味を惹かれたからだ。

強くもなれるし、難しいダンジョンを攻略すれば一攫千金も狙える。
そんな理由でこの世界ではダンジョン攻略はわりと一般的らしい。

だが俺は未だにダンジョンに入れていない。

異世界に来たばかりの時おせっかいを焼いてくれた恩人のススメも有り
ギルド主催のダンジョン初心者講習に参加しているからだ。


期間は8日間。
最初の1週間は座学とギルドでの戦闘訓練。
最後の1日は初心者用のダンジョンに行きパーティーを組んでクリアを目指す。
まあ仮に最後までクリアできなくても講習は終わりとなるらしいが……。


今日で講習は7日目、つまり明日にはダンジョンに入れるという事だ。
座学のおかげで今回入るダンジョンのデータはすべて頭に入っている。
頭の中ではすでに何パターンかのチャートも出来上がっている。
チャートか……こんな事考えながら講習を受けてるのなんて俺くらいだろうな。

しかし、明日はどこまでやれるんだろうな。
まさか初心者用のダンジョンをクリアできないなんて事は……。

「はは、まさかな……」

その時、講習の途中で席を立っていた教官らが何やら荷物を抱え戻ってきた。

「では、今から明日ダンジョンへ行く為の装備を配る。各自、名前を呼ばれたら取りに来るように」

教官が装備を配るようだ。貰えるんだろうか? まあ聞いてみればいいか。

「教官! その装備は頂けるのでしょうか?それとも終わったら返却ですか?」

お金の無い俺にとっては死活問題だ。

「いや、これはギルドからのプレゼントになる、大事に使えよ!」

おお、太っ腹だな。
まあたいした装備じゃないだろうけどな。

「カイト! 次はお前だ」

お、俺の番か……。
さて、何がもらえるのかな?
受け取った装備を並べてみる。

ブロンズソード:攻撃力E+
ブロンズアーマ:守備力E+

うん……まあわかってた。

ちなみに武器防具のランクはEからS+まで有り、もちろんEが最弱だ。
アイテム鑑定というスキルがあれば細かい武器の性能値までわかるらしい。

だが教官がくれたのはそれだけではなかった。

身代わりの指輪:C 装備対象に致死のダメージが与えられた場合、1度だけその身を守ってくれる。

かなり良い装備だな。大事に使おう。うん、大事に……。

装備を受け取って解散となった。
明日、教官はダンジョンへは一緒に行かない。ギルドでクリア報告を待つらしい。

同じ講習を受けた何人からかパーティーに誘われたが、適当な理由をつけてすべて断った。

俺は、ギルドからの帰りにそのまま武具屋に直行した。

「いらっしゃい。何かお探しで?」

店に入ると店主が、早速話しかけてくる。

「買い取りをお願いします。この3点で」
「はい、ありがとうございます。ブロンズソードとブロンズアーマと身代わりの指輪の3点で金貨1枚と銀貨2枚になりますがよろしいですか?」

相場通りだな。金額の内訳はブロンズ系の装備が銀貨1枚づつで身代わりの指輪が金貨1枚といったところだろう。

「はい。それとこの店で筋力値Eで装備できる剣の中で一番良い物はなんですか?」
「筋力値がEですとこちらのミスリルソードになりますね」
「いくらでしょうかね?」
「金貨1枚になります」

お金を渡して商品を受け取る。

早速性能を確認してみる事にする。

ミスリルソード:攻撃力 C-

C-か、これで武器は大丈夫だな。

武具屋を出て今度は道具屋へ向かう。

道具屋では余った残りのお金すべてでポーションを買った。まあ準備はこんなところだろう。


次の日の朝、ダンジョンの入り口まで行ってみると、何やら騒がしい。
何か揉めている様だ。
話を聞いてみると、どのパーティーが先に入るかでケンカになっているらしい……。

たしか複数パーティーでの同時攻略は禁止って言ってたしな。
それにしても……邪魔だな。

「お先に」

俺は揉める連中を無視して、先にダンジョンへ入る。

「あれ、あいつ一人でダンジョンに入って行ったぞ?」
「ただ中を覗きに行っただけだろ。ほっとけよ」
「一人じゃビビってすぐ出てくるさ」

随分好き勝手言われてるな……まあ気にしないけどな。

「ここがダンジョンか、さすがに現実だと雰囲気あるよな」

一通り見渡し、事前に貰っていたマップと目で見る地形が一致していることを確認した。

「さて……行くか」

初心者用ダンジョンは全5階層だ。さほど広くない。その分魔物は多いが……。


俺はとりあえず2階層への階段に向かってダッシュした。

追ってくる敵がいたが完全に無視した。このダンジョンの敵のデータは頭に入っている。
スピードの有る魔物は極力避けた。

無傷で2階層にたどり着いた。

2階層だがこれも同じだ。敵の種類も変わらない。ダッシュで階段を目指した。

「やっぱりスリルあるな…現実はこうじゃないと」

3階層への階段にたどりついた時には、俺はニヤニヤと緩む自分の顔を制御できず、ずっと笑っていた。人に見られたらおかしな奴だと思われるのは間違いないだろうな。

呼吸を落ちつけている間、3階層のマップを思い浮かべる。
3階層には広くなっている箇所がありそこにやや大型の魔物が控えている。いわゆる中ボスといったやつだ。

3階層は結論から言ってしまうと、今までで一番楽だった……。
中ボスがいるからか他の魔物は少なかった。
あっさりとダッシュで抜けてしまった。
中ボスにいたっては部屋が広いので大回りしたら簡単に通れた。

「まあ中ボスから逃げられるか試すのはRTAの基本だよな……」

つい元の世界にいるような気分で独り言をこぼす。

4階層はダメージ覚悟で突っ込む。
スピードの有る魔物が多いからだ。
3回ダメージを受けた。ダメージを受けたら即ポーションで回復して
常に体力は満タンを保つように心掛けた。

3個のポーションを使用したが無事5階層への階段にたどりついた。
残りのポーションは5個、後はボス戦のみ……まあいけるだろう。

ボスはタートル型の守備力重視タイプだ。
もちろんボスの事も予習済みだ。
息を整え、ミスリルソードを構えボス部屋へ突入した。
不意をつかれたボスは反応できずに俺の最初の一太刀を受けた。

よしよしダメージは通ってるな。ミスリルソードで正解だな。
ボスもすぐ反撃に出る。
避ける事ができずに当たってしまう。
すぐさまポーションを使用し体力を戻す。

ボスに再び斬りかかる。
ボスも反撃をする。

もちろんこういう展開になる事も織り込み済みだ。

「まあ、その為にポーション買い込んだんだしな」

残りポーションが1個になったところで、ボスが倒れた。

「ふう。なんとかなったな。本来ならポーションは後1個多く余る予定だったけどな……」

ボスを倒したことにより俺のギルドカードにダンジョンクリアの証が表示された。
それを確認した後、ボス部屋の後ろには必ず設置してあるという魔法陣の上に乗る。

魔法陣に乗ると1階層の入り口に出た事が確認できた。
徒歩でダンジョンの出口に向かう。

ダンジョンから出ると、まだ先程の連中が揉めている様だ。

「お先に」

俺はダンジョンに入る時と同じ挨拶をして、ギルドに報告へ向かう。
後ろの方から

「あれ、帰るのかい?講習はどうするの?」
「ダンジョンの中を見てビビったんだろ。諦めて帰ることにしたんじゃねーの?」
「あいつが入ってまだ5分も経ってないよな?さすがにもうちょっと粘れよー」

茶化す奴もいたが、疲れていたため何も言い返すことなく、その場を離れた。

「疲れた……根本的にスタミナが足りてないな」

狭いダンジョンだからよかったものの広いダンジョンならあきらかにスタミナ不足だ。体力の強化を心に決める。

ギルドに着いて教官にクリアを報告する。一緒にギルドカードも手渡す。

「おお、今回はクリアパーティーが有ったか。なかなか将来有望だな。だがパーティーの他のメンツはどうした?」

ソロじゃダメとは言ってなかったよなたしか……。

「後から来るんじゃないですかね?」

俺は適当な事を言ってごまかそうと試みるが。

「お、おい! ちょっとまて。こ、これは……」

教官の様子がおかしい。

「ど、どうしたんですか?」

教官に尋ねる。

「お前のダンジョン探索時間の合計が4分32秒になってるんだが……何かの間違いか?」



どうやら俺は、異世界で初めてのRTAに成功した様だ――
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