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Club J

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彼の名は美馬祐弥。六本木のオフィスに勤める28歳、独身。




私の会社の先輩であり現在片思い中の相手。




そして、、ゲイである。




想っても想っても叶わない恋愛に終止符を打つべく、意を決して今夜、私はここに来たのだ。




中学生みたいだけどバレンタインデーの今日、想いを告げてこの恋を卒業する。そう心に決めて、、、




先輩にとっては迷惑な話かもしれないが、この膨れ上がった想いを今ここで全て燃やし尽くすしか私の気持ちの持って行き場は無いと思った。





それにしても、、、



初めて見るオフィス外での先輩の姿、、、



しかも洗い場で洗い物をしてる姿なんて、、、




時折、洗ったグラスを光にかざして曇りを確かめる。細部まで拘って仕事を怠らない、いかにも彼らしい仕草。



ワイシャツの袖を肘まで捲って露出した白い腕に浮き出た血管、ほどよい筋肉が目に眩しい、、、




(キャー!!たまらん何この私得でしかない画角!!)




そう心で絶叫し、無音カメラのシャッターを押す。



そう、しばしば私はスマホでサイトを見るふりをして、さりげなく先輩の写真を隠し撮りしていた。(先輩ごめんなさい)




マイアルバムの先輩ファイルには、そうして隠し撮った先輩の写真がもう1000枚近く溜まっている。(本当ごめんなさい)




(何してるのエリ!!この恋は今日で卒業するんでしょ!!いい加減にして!!




でも、、、卒業の記念に、、、今日で最後なんだからいいでしょう?



ほんとしょうがない子!!気は確かかしら?ほら、口からヨダレが垂れてるわよ!!




えっ、マジか⁈  )




などと、ひとりボケツッコミを脳内展開中のその時、ふと先輩が持っていたグラスから視線を逸らした。




唐突に目が合う。




「えっ!」




「えっ!」




お互い同じ表情、声こそ大音量のカラオケに掻き消されていたが、きっと声も一緒に出ていたに違いない。




「山崎さん、、どうして、、、」




聞こえなかったが読唇術で分かった。




私の存在に気付いた先輩はグラスを置き、クレオパトラの後ろを通ってカウンターからホールへ出て来たかと思うと足早に私の席まで辿り着いた。




「ごめん、外で話そう」




先輩は私の耳元でそう言うなり、私の手を取ってドアに向かった。




店から外に出て、それからしばらく歩き人通りの少ない路地を曲がった所でやっと先輩は立ち止まった。




「ごめん、いきなり連れ出しちゃって、、、
でも、、どうして、、あの店に?」



本当に困惑しているという表情で先輩は言った。




「ごめんなさい。先輩のプライバシー侵すような真似してしまって、、、」




「ううん、謝らなくていいんだ。ただ、、、どうしてって、、何故なのか、、、知りたいんだ、、」




どうしようもない気まずい空気の中で、、でも今しか無い、今でしょという声を聞いた気がした。




「バ、バレンタイン、、、だから、、、」




「へっ、、、???」



「バレンタインだからです。バレンタインのチョコ、、、先輩に渡したくて、、、だから私来たんです!!」




「、、、ん、、なんで?チョコなら会社で渡せばいいじゃない?」




先輩はひたすら驚いた様子で、棒立ちになり、全く訳が分からないといった表情を浮かべる。



そんな先輩の表情を見ていたら急に感情がどうしようもなく込み上げてきて、泣きそうになる、、、どうしよう、、、私、、、




「あの、、、義理チョコじゃなくて、本気なんです。本気の本名チョコ。入社して以来ずっと好きでした。

、、、でも、、、先輩は、、、ど、、同性の方が好きなんだって、、、つ、、つまり、、その、、ゲ、ゲ、ゲイの方だってお聞きして、、諦めなきゃとは思っていたんです、、、でも、、無理で、、

だから今日、直接お伝えして、その上で先輩にはっきりぶった斬ってもらおうと思ってきたんです!!

好きです先輩!!
でも今日で終わりにします!!!」




既に泣いていた。泣きながらバッグからゴソゴソとチョコを取り出し、震える手で先輩にチョコを差し出す。もう最悪だった。




視界は涙で曇り先輩の顔も見えない。




「、、ゲゲゲ、、、って、、、ふふっっ、、、ぶぁはははっっっ、、、はははっっっ」




いきなりの大爆笑。




なに、、なにが起こったの???なんで????



「ご、ごめん、、、山崎さん、、、ゲゲゲ、、ツボったわ、、、クックックッ、、、
ごめんホント、、泣かないで、、とりあえず、、」




涙で霞んでいても、先輩が必死で笑いを堪えようとしているのが分かった。



「あぁ、でも良かった、そうだったんだ。安心したぁ~あっははは、、、、」



それから大きく一回深呼吸して先輩は続けた。



「君の気持ちは嬉しいよ、ありがとう。
だけど、、、思い詰めてるところ申し訳ないけど、、、俺、、ゲイじゃ無いよ」




「、、、えっ、、、???」



なんだって?



なんだって?



「俺はストレート、二丁目的に言ったらノンケの男。なんなら、結構な女好きだけどね」



そう言うとポケットから取り出したハンカチで、私の涙を優しく拭ってくれたのだった。





つづく…
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