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Magic Hour
しおりを挟むマスターに優しく促されながらテラスに出ると、美しい夕陽が今まさに海に沈もうとしていた。
「きれい、、、」
自然と言葉になってしまう。
「ねぇ、そうでしょう。これを見なきゃもったいないですよ」
そう言いながらマスターはテラスのテーブルにグラスを置くと、手にしたもう一つのミニグラスからリキュールを注ぎ入れる。
「海に夕陽が溶ける瞬間。この浜で一番美しい瞬間を五感全てて味わってください」
グラスの中で静かに混ざり合う海と夕陽のグラデーション。顔を上げると目の前にまったく同じ景色が広がっていた。
「さぁ、どうぞ召し上がれ、、」
景色に見とれる私の口元にグラスを差し出してウインクしてみせるマスター。
促されるままグラスを手に取り、そっと一口飲んでみる。
甘酸っぱくて、それでいて何処か官能的な味わい。
「すごい!さっきとまた全然印象が変わりますね。甘酸っぱいけど、大人の味わいで、、香りも素敵、、」
「ふふ、、そうでしょう?二つのエレメントが混ざり合うドラマティックな瞬間を表現したくて作りました、、、お気に召していただけましたか?」
「はい、とっても!」
「ハハハッッ、、」思わず吹き出してしまった。とでも言うようにお腹を押さえて笑うマスター、、
ちょっと元気に返しすぎたかなとは思ったけれど、そんなに笑わなくてもいいじゃない、と少しむくれていると、、
「ありがとうございます。お客様ほんとに素直で可愛い、、んふふっっ、、」
私の顔を下から覗き込むように近づいたかと思うと、マスターの唇が唐突に私の唇に触れた。
(えっっ!キ、キス?!
もしかして、これキ、キス?!?!)
突然の事に何が起こったかしばし解らず、自問自答してしまう。
「ごめんなさい。お客様があんまり可愛いからつい、、悪い癖、、僕の事、嫌いになった?」
「えっっと、、少し、、びっくりしたっていうか、、でも、、嫌いじゃないですよ、、」
「え、、ほんとに??あーよかったぁ~」
(何この人。酔ってんの?それとも天然?でも可愛いから許す)などと思わず再度自問自答してしまう。
「じゃあ、、、」とマスターは今度は私の耳元に唇を近づけながら、、
「ナイショの話し。してもいい??
お客様にだけ、、秘密のシークレットメニュー、ご案内させてもらってもいいですか?」
目をパチパチさせて驚くしかない私。
そんな私の様子を見て、また悪戯っぽく笑うと、マスターは後ろから私を抱きすくめ、、
「さあ、これからがショータイムの始まり。美しいマジックアワーを存分に楽しんで、、、」と耳元で囁いた。
海辺のホテルのバーで、イケメンバーテンダーの腕に包まれながら、海に沈む夕陽を眺める。
予想だにしない展開にドギマギしつつ、意外と落ち着いてこの瞬間を楽しむ自分がいた。
(相当なプレイボーイだろうけど、これもテーマパークのアトラクションの演出のひとつと思えばいいよね。)
そんなことを思いつつうっとりと抱かれていると、マスターは、
「お店が終わったら、シークレットメニューをお届けしますね。ルームサービスで、、、」
例のごとくウインクしながらそう告げると、さっと私から離れ、それと同時に新しく入店してきたお客をまるで何事もなかったかのように「いらっしゃいませ」と笑顔で言って出迎えたのだった。
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