救う毒

むみあじ

文字の大きさ
上 下
99 / 129
8月 樒

第100話

しおりを挟む
赤が揺らめく瞳から目を離せずにいると、彼は片手に待っていたバッグをフックにかけて、俺の肩に掛かっていたタオルまで剥ぎ取る。
未だ乾ききっていない白のTシャツは重く、空気に晒された事でひんやりとした感触が肌に伝わってきた。



それが一層、この絶体絶命感に拍車をかける。



どう足掻いても詰みでしかないが、やるだけやるしかない。俺は犯されたくないので。
そう決心し、身を引き締める。

俺から見て彼の左側には、若干だがスペースがある。そこに身体を滑り込ませ押し退けることができれば、どうにか外に出られるかもしれない。普通に押し退けようものなら力付くで抑えられるかもしれないが、不意をつけばどうとでも出来る。

綺麗に畳み備え付けの棚に置く瞬間、そこを見計らって、俺は彼の側をスルリと…



「逃すと思ったか?」
「ひぇっ」



目の前にあるのは彼の逞しい腕。ゆっくりと顔を彼の方へ向けて、横目で右を見てみれば同じように彼の腕が伸びている。するりと、行けませんでした。


「何もとって食う訳じゃない」
「絶対嘘です!酷いことするんでしょ!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
「…無理矢理は趣味じゃない」
「どの口が言うんですか?初対面で犯される一択の質問をした癖に」
「あれは…冗談に決まってるだろう?」
「嘘です。絶対嘘」


眉を顰め会長を睨み上げるが、なんともない所か寧ろ楽しそうにし始めた。それに殊更ムカつき、自分がどうしようもない立場だという事も忘れて、俺は腕を組みツンとすまして顔を逸らす。



「貴様は今の状況がよくわかっていない様だな?」



耳元で微かに囁かれたかと思えば、組んでいた腕を強引に解かれ、手首を頭上で一纏めにされる。驚き抵抗しようと身を捩れば、さらには股の下に彼の膝が押しつけられた。ほんの少しでも動くだけで、俺のそれは擦られるような、彼の太ももに自身のそれを擦り付けるような状態になってしまう為、身動きひとつ取れない。


「何が、したいんです?」
「…さっきの続きだ。貴様は覚えろと、そう言っただろう?」


恐る恐る疑問を問えば、彼は片眉を上げながら平然と答える。傷を触らせたアレの続きを今からするらしい。いやいやちょっと待て


「確かに覚えてとは言いましたけど…そのあと覚えました的な雰囲気だったじゃないですか」
「ちゃんと覚えたのか聞かれたが、俺はそれに対しては何も言っていないはずだが?」


ぐ、と言葉に詰まる。確かに彼はこれがヒントかと聞いてはきたが、覚えたとは一言も言ってない。なんだこの後出しは!

むっとしつつも反論出来ず、ただ唇を尖らせ眉を顰めていると、目の前の彼はくつくつ笑い始める。


「触るだけだ。それ以外は何もしない」
「…さっきから優しくしてるのはその為ですか?」
「いや、単純に俺様の責任だと思ったからな」
「ふーん、体目当てなのかと思いました」
「その言い方はやめろ…」


いやだって!体目当てだと思うじゃん!天下の会長様は恋人だって飽きたら捨てるし、責任とってって言っても取らなさそうなんだもん!
とはいえ、だ。


「……まぁ甲斐甲斐しくお世話していただきましたし、あの程度では足りないと私も思っていますから。どうぞお好きにしてください」
「ではそうさせてもらう」
「ちょ、流石に離してからにしてください!逃げませんから!」
「俺様がこのままでしたいんだ。好きにしていいんだろう?」


特大ヒントなんて言いつつもただ傷を触らせるだけにとどめたのだ。特大でもなんでもないので、他にお礼をしようと思っていたのだし丁度いい。彼がそれで満足するなら、好きに見て触れば良いのだ。別に体を見られるのに抵抗はないし。

そう思い了承を返したのだが、彼は俺を拘束した状態のままTシャツを捲り腹の傷を触り始めた。思わず反論したが、好きにしていいと言ったのは俺の方で、結局受け入れるしかない。
ため息をつきながら、せめてもの文句を呟く。



「……シャワーを浴びてからにしてください。そろそろ寒いです」
「それもそうだな………よし、かけるぞ?」
「なんでこのままでやるんですか!?」



やらないよな?とか思っていた俺が馬鹿だった!
片手でシャワーを持ちつつ、器用に温水の蛇口を捻った彼は、そのままの状態で俺に湯をかけ始める。
はぁ、と諦めてため息をつき体に当たる暖かさにそっと目を瞑る。冷えた体の芯まであったかくなる感じ、サイコー!湯船に浸かれるともっとサイコーなんだけどな~


現実逃避に耽っていれば、ふとシャワーが止まる。もう少しかけていてほしかったなんて、心の中で我儘を言いながら、彼の顔をそっと見上げた。

ゆらゆらと蠢く白い湯気の向こうで、彼の輪郭を伝い、雫が首筋へと流れていく。健康的な肌色の上を滴るそれに、どうしてか俺は生唾を飲み込んだ。は、と漏れる息は熱い。
ぐつぐつと湧き上がってきた体温は、湯水をかけられたせいなのだろうか?それとも、


「…触るぞ」


会長はいつの間にかシャワーを元の位置へと戻し、俺の肌に張り付いている白いTシャツを捲ろうと手を伸ばしていた。無意識に首を縦に振りながら、食い入るように彼の手を見つめる。

傷を這うその指は、ただただ触れるだけ。
指を置いて、傷跡をなぞるだけ。
そう、それだけのはずなのだ。それだけのはずなのに。


「っ、ふ…ぅ……ん、…っ」


くすぐったさとも違う異様な感覚に思わず鼻にかかった声が漏れる。傷跡を撫で回し続けていた手が声と同時に静止し、自然と視線を上げてしまった。
黒い瞳が先程より更に鈍く光っている。獲物を狙う猛獣のように目を細めた彼の瞳の中で、赤が揺れ動く。

静止していた指が再度動き始める。彼の指から逃げたい衝動を抑え込んで、腹にぐっと力を入れて耐え忍ぶ。けれども、撫でられるたびに力が抜けそうになり、うっすらと浮き出た腹筋がピクピクと震えてしまう。



そうやって必死に堪えている時だった。



「ぁっ、」



抑え込まれている腕から、ぞわぞわとした痺れが全身に広がる。突然の刺激によって、反射的に体が跳ねてしまった。

どうやら、俺の両腕を一纏めにしている彼の手が、僅かに手首を掠めたようだ。
若干手を動かした弊害だろうし、もうあのくすぐったさは来ないだろうと高をくくっていると、また手首から全身へ痺れが走る。目を見開いて視線を上げるが、彼は片眉をあげ不思議そうな表情をするのみで、何も言わない。しかし、その瞳は未だギラギラと輝いており、先程の行動はわざとなのだと理解する。

文句の一つでも言ってやろうと思ったが、絶えず腹の上で動く指に翻弄され、口を開くことすらできない。だって今口を開けば、霰もない気の抜けた声が出るに決まっている。



「…どうした?さっきから、変に力が入っているように見えるが…傷が痛むか?」



さも心配です、という風を装って彼はそう問いかける。しかしその瞳はニヤニヤと笑っていて、今の俺を見て心底楽しんでいるようのが見てとれた。苛立ちに飲まれた俺は、更に腹へと力を入れてから口を開く。



「…っ、く、すぐったい、ぅ…だけっ…です…っ」



意地だけで言葉を紡いで、すぐに顔を横に向ける。霰もない声は出なかった事に安堵しつつ、気を抜かないよう必死に耐える。



「そうか、なら良かった」
「ぅあっ…」



耳元で囁かれた声。耳輪に触れた柔らかな感触と吐息に、抗う術もなく声が出る。横を向いてしまったが、悪手だったかもしれない。てか絶対悪手だ。


「…どうした?痛むのか?」
「ち、が…っ、耳、…やめっ…」
「何故?好きにしていいんだろう?」
「っ、ふ、んぅ…っ、はぁ、ほんとにっ…だめッ、だから……」


尚も耳に唇をつけながら囁きかけてくる彼に必死にやめてほしいと訴える。だが勿論それが許されるはずもなく、彼は息を吹きかけ時折唇で耳を食み好き勝手弄り回す。



「それにしても、ピアスの穴が多いな。いつもはつけているのか?」
「…っ、つ、けて…る…」
「そうか。…くく、耳が真っ赤だ。輝は可愛いらしいな」
「っっ、や、め…ほんとに、むりっ…ふ、うっ、…っむり、だから…!」



可愛い、なんて言わないで。
元々敏感で、ほんの少し触られただけで身を震わせてしまっていた耳は、ここ数日で性感帯を通り越してとあるスイッチへと変わっていた。


耳を触るのと共にニィさんと秀にぃさんから与えられた暴力的なまでの快楽、そして低く甘い言葉。
これらのせいで『耳を触られる事』と『低音で囁かれる甘い言葉』の2つによって、勝手に体が昂るようになってきてしまったのだ。気持ちいい事は好きだし、気持ちよくなれるならいいか、なんて考えていた自分を殴りたい。ほんとばか!




「は、ぁっ…うぅっ…、も、…さいあく…はぁ…あ、ぅう…っんぅ…♡」




最悪すぎ。ほんと最悪!なんで都合よく俺の股間に会長の太ももがあるんだよぉ…




股の間にある会長の太ももに、いつの間にか半勃ちになっていた性器を、擦り付けるように腰が動く。こうなってはもう歯止めが効かない。





なんてったって俺は、気持ちいい事と楽しい事が大好きだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

処理中です...