救う毒

むみあじ

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7月 グロリオサ

第52話

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「ねぇそういえばさ~、2人って結構仲良いけど中等部から面識でもあんの?」



楽しそうに戯れている諒先輩と千秋を見ながらポツリと呟いた。それに食いついたのは諒先輩で、悪戯な笑みを浮かべて話し出す。


「あるぜ~俺が中等部3年の頃にな、転入してきた中等部2年のコイツに喧嘩うってみたんだよなぁ~ま、若気の至りってやつ?」
「何が若気の至りだクソが。一言も交わさず殴りかかってきやがっただろうがテメェは」
「若気の至りって言うほど年重ねてなくね?」
「依夜もそっちの味方かよ」
「いやそりゃそうでしょ。いきなり殴りかかる人の味方なんてしませんよ、普通」


若気の至りで片付けていい案件じゃねーよ


「まぁ、それ以来なんとな~く、たま~に話したりしてたんだよ」
「テメェが一方的にな」
「へぇ…あれじゃん、拳を交えてから友情が芽生えるヤンキー漫画見たい。ウケる、めっちゃ見たかったなぁ」
「見てぇの?よっしゃ、やるか久道」
「やらねェし、友情も芽生えてねェ」
「え~芽生えてないの?じゃぁじゃぁ、喧嘩はどっちが勝ったんです?」


勝敗の話を振った途端、2人はきゅっと唇を閉ざした。
え、何その反応。気になるんですけど?


「何その反応…?」
「いやぁ、な?そのあと近くにいた晃が乱入してだな…」
「晃?…あー、生徒会長?」
「そうそう。で、晃が乱入して乱闘状態になって…」
「ホストが来てボコられた」
「は?」
「や、だから。まず俺らが喧嘩始めんだろ?そしたら通りすがりの晃が乱入して三つ巴になんだろ?で最後に、止めにきたはずのホスト教師が乱入してきて俺ら全員がゲンコツ一発ずつ貰って沈んだんだよ」


??????

「ホスト教師って、咲野先生?」
「おう。お前らの担任」
「咲野先生が乱入して、拳骨で3人沈んだの?」
「沈んだな」
「えっ、雑魚じゃん」

雑魚じゃん

「あ?」
「あ゛ぁ?」

雑魚の言葉にキレる2人が面白くて声を出して笑う。3人でテーブルを囲んでのお勉強会は当然のように脱線し、俺達はただペンを持ってノートやプリントを広げているだけだ。なんなら2人とも寛いじゃってるし

まぁ全員消耗してるタイミングでの拳骨だったんだろう事はわかるんだけど、うーん、鉄拳制裁すぎてオモロ。



「2人は夏休み中何してんの?」


キレ散らかしてる2人に冷蔵庫から持ってきたプリンとショートケーキで餌付けしながらしれっと話題を逸らす。
ちなみに俺はニィさんから送られてきたカラフルなマカロンを食べてまーす♡


「俺は家の用事があるけど、ま、ギリギリまでここにいるな。風紀の仕事もあるし」
「千秋は?」
「…帰んねーよ」
「依夜はどうすんだ?」
「俺もギリギリまでいる…かも?まぁ家には帰りますよ」
「補修にならなければ、だけどな~」
「なりませんって~。ねね、3人ともいるんなら夏休み遊びましょーよ。水遊びでもなんでも、夏っぽい事したい」


水鉄砲でサバゲーとかしてみたいんだよね。このクソデカ敷地なら楽しくやれそうだし。まぁ3人なんですけど。
くるくると回していたペンをしっかりと握り、まっさらなノートに夏休みにやりたいことを箇条書きで書いていく。

「ん、でーきた!」
「あーなになに?水鉄砲サバゲーに?スイカ割り?」
「そう!3人でやんの」
「3人で水鉄砲サバゲーは虚しすぎんだろ」
「俺を勝手に人数に入れてンじゃねェよ」

諒先輩ときゃいきゃいはしゃいでいると千秋からの横槍が入る。つまらなさそうに頬杖をついているが、皿に乗っていたショートケーキは綺麗さっぱり無くなっています。そういうとこやで。

ツンツンと千秋の頬をつつきながらニコニコと笑ってみせれば大きな溜息をついて俺を睨みつけてくる。

「ね、ね、おねがーい!遊んで?遊んで~?」
「……」
「ダメ?スイカ割り、甘くて美味しいスイカとか、アイス一緒に食べたいな~?」
「……分かったよクソが」


押しによわよわ!!俺の勝ち!!


「そうだ依夜」
「ん?なんですか?諒先輩も遊びに参戦したくないんですか?遊ぼーよ!楽しいですよ?」

るんるん気分でスケジュールを立てようとしていると俺たちのやりとりを眺めていた諒先輩が俺をじっと見つめる。先程よりもテンションが低いのは放っておかれたからだろうか?先輩が甘えたになるなんて珍し~!


「違ぇよ。制裁の話だ」


違った。真剣なだけだった
完全に忘れていたと思っていたのに、飛び出した制裁の話題に驚きが顔に出てしまった。
すぐに顔の表情筋を引き締めて諒先輩の方に体ごと向き直る

「いつどこに呼び出されたのか、誰に何をされたのか、具体的に言え」
「…今日の放課後中庭の温室近くに来いって。匿名の手紙が靴箱に入ってました。でもどこの親衛隊か、何をしようとしてたのかは現場に行ってないので分かんないです」
「は?また来てたのかよ。ンで黙ってやがった?あ゛?」
「まだあんのか?言え、依夜」

餌付けにより上げたテンションが急降下していくのを感じる。くっ、室内の温度氷点下なのでは!?鋭い視線に射抜かれながらもふっと肩の力を抜いて嘘を連ねる。
なるべく誠実でいたいけど、まぁ仕方ないか。

「6月の、あー、中旬くらい?に体育館倉庫に放課後呼び出されました。内容は警告のみ。俺と同じかちょい上くらいの身長の生徒が3人で、親衛隊は…千秋の非公式親衛隊でした」
「…あ?」
「だから言いたく無かったんだよ…千秋は優しいから変に責任感じちゃわないか心配で…」
「生徒3人の特徴は?厳重注意をしとくから、教えろ」
「それなんだけど、しなくていいです」
「は?」
「ンでだよ」
「だって警告位なら割と頻繁に起こるでしょ?その辺はさ、必要悪だと思うんですよね。とはいえ強姦なんかされたくないので、要注意人物として身体的な特徴とどこの親衛隊なのかを報告しますよ。そうした方が効率いいでしょ?」

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