37 / 129
6月 夾竹桃
第35話
しおりを挟む
初めて人を口説き落としたのは初等部5年の頃。父に連れられて行ったパーティーにいた、年上の女。
少年性愛者だったようで、初等部にしては大きい背丈に父似のルックスを持つ俺に目をつけたその女は、俺が父の目を盗み息抜きをしていた隙を狙い誘ってきた。
欲望に塗れた瞳で俺をしっかりと捉えて、酷く官能的な手つきで頬に触れたのを今でも覚えている。
既に思春期で、性に対して興味があった俺はその誘いに乗った。
俺の父は昔から女遊びが激しく、母がいるにも関わらず、パーティーに出席している未婚の女を口説き落とす事がしばしばあり、父について回っていた俺はその姿をよく見ていた。
父から学んだのは女の落とし方や喜ばせ方、主導権の握り方、後は大きな騒ぎになる前に問題を消すやり方などだ。
思い出しても父親らしい姿は見たことが無い気がする。
そんな最低最悪でど屑な父親だが、俺にもしっかりとその血が流れていた。
女との行為は最初こそ翻弄されていたものの、最終的には俺が主導権を握りその女を大層喜ばせた。
思いの外簡単にできた事と好意を寄せられる事に優越感を抱き、俺はその遊びにハマった。いつしか男も女も関係なく口説き落とし関係を結んでいくようになった頃、諒もまた似た経験をし同じ遊びをしている事がわかった。
元々ライバル同士だったという事もあり、経験人数で競い合ったり、時には1人をターゲットにどちらが落とせるかというゲームをしたりもした。
けれども高等部に上がる頃には飽きがやってきた。
枯れるには早すぎると2人で笑いながらも遊びはやめて、面白みもない学園生活を送って行った。そんな時、諒に風紀委員長にならないかと声がかかった。
心底嫌そうにしていたが、なんだかんだ言って受け入れてしまうだろうから、きっと諒は風紀委員長になるのだろうと直感した。
俺は心底焦った。
このままではこの俺が、何でも完璧にこなしてきた俺が負けてしまう、と。
幼稚舎から一緒に育ったが、俺たちは全てにおいて引き分けだった。学力も、運動神経も、女を口説くのも、どちらも等しく優秀だった。
しかし、諒が風紀委員長という役職を持ってしまったら、一般生徒という肩書きしかない俺の負けになってしまう。
負けたくなかった。どうしても負けたくはなかった。
だから俺は、会長の座を簒奪した。
先代生徒会の不正、暴行への関与を暴き生徒をまとめ上げ、会長になった。
「輝のこと、気に入ったかい?」
理事長席に座っているその男は、いつも通り穏やかな笑みを浮かべながら俺にそう問うた。
広報担当役員を作りたいと掛けあったはずなのに、全く関係のない人物の名を挙げる。それは先ほどまで一緒にいた紫の瞳の男の話だった。
無視をするのも忍びないと思い、率直な感想を述べる。
「…確かに、興味はあります。アレは考えている事が読めない。警戒するべきだとはわかっているのに、不思議と警戒も出来ない。アレの纏う雰囲気は…物を知らない子供のようで、それに釣られて自然と警戒を解いてしまう。今まで接してきたことのないタイプです」
気に入ったかどうかは、答えなかった。
この人に彼を気に入っていることを悟られているのは分かっているが、俺の口からいうのは負けた気がする。
今までにないタイプ。表情豊かな人間が好きではあるが、あそこまで二転三転する奴は見たことがない。我儘を言ったかと思えば、俺を尊重するような姿勢を見せたり、性格が掴めない。ただ、どこまでも親しみやすい彼は、接していて飽きる相手ではなかった。
俺の感想に満足したのか、彼は数回頷いてまたにっこりと笑った。
「広報の件だけれど、許可は出来ないかな。今でも充分支持率はあるし、これ以上上げた所でメリットも少ない。ほら、君が誑かしてきた子達が色んな手を使って支持してくれているしね。君にこっぴどく捨てられたというのに、健気な子達だね、君の親衛隊は」
おい待て、今の質問の意味は何だったんだ?アレもよくわからないが、この人も大概わからないな…
俺がなぜ生徒会長になったのかを知っているこの男は、時折俺の昔の事を抉るように言ってくる。健気だろうと何だろうと、今はもう要らないのだから仕方がない。
そんな俺を見つめながら、彼は組んでいた指を解いて片方の手を持ち上げ、口元に誘った。そっと立ち上がった人差し指を見ていると、必然的に動き始めた唇も視界に入る。
「ただ…毎週水曜日の放課後、今日と同じ時間に第三校舎に来て、輝と一緒にモデルをやってくれるというなら、許可しても構わないよ」
この男はつくづく欲望に正直だ。確かに今日だけでは完成しないからと解散したが、まさか毎週やるのか?面倒くさい事この上ない。
「大体1ヶ月位で描き終わるよ。そうすれば晴れて広報担当役員を補充できるんだから、君の目的通りあの転校生をそばに置く事ができるよ。たった1ヶ月を耐えるだけでね」
見透かされている真の目的に、言葉がぐっと詰まる。
正直な所、彼の提案はとても美味しい。少しの間耐えるだけで俺は怜央との時間を増やす事が出来るし、加えてあの興味深い男との関わりを持つ事も出来る。
押し黙り、考える素振りをしつつも、俺の心はもう決まっていた。
あんな面白そうな男と関わらなくてどうする?
「…わかりました。これも怜央の為です」
「ふふっ、そうかい。それなら許可をしておくよ。君の大好きな怜央とやらの為にね」
少年性愛者だったようで、初等部にしては大きい背丈に父似のルックスを持つ俺に目をつけたその女は、俺が父の目を盗み息抜きをしていた隙を狙い誘ってきた。
欲望に塗れた瞳で俺をしっかりと捉えて、酷く官能的な手つきで頬に触れたのを今でも覚えている。
既に思春期で、性に対して興味があった俺はその誘いに乗った。
俺の父は昔から女遊びが激しく、母がいるにも関わらず、パーティーに出席している未婚の女を口説き落とす事がしばしばあり、父について回っていた俺はその姿をよく見ていた。
父から学んだのは女の落とし方や喜ばせ方、主導権の握り方、後は大きな騒ぎになる前に問題を消すやり方などだ。
思い出しても父親らしい姿は見たことが無い気がする。
そんな最低最悪でど屑な父親だが、俺にもしっかりとその血が流れていた。
女との行為は最初こそ翻弄されていたものの、最終的には俺が主導権を握りその女を大層喜ばせた。
思いの外簡単にできた事と好意を寄せられる事に優越感を抱き、俺はその遊びにハマった。いつしか男も女も関係なく口説き落とし関係を結んでいくようになった頃、諒もまた似た経験をし同じ遊びをしている事がわかった。
元々ライバル同士だったという事もあり、経験人数で競い合ったり、時には1人をターゲットにどちらが落とせるかというゲームをしたりもした。
けれども高等部に上がる頃には飽きがやってきた。
枯れるには早すぎると2人で笑いながらも遊びはやめて、面白みもない学園生活を送って行った。そんな時、諒に風紀委員長にならないかと声がかかった。
心底嫌そうにしていたが、なんだかんだ言って受け入れてしまうだろうから、きっと諒は風紀委員長になるのだろうと直感した。
俺は心底焦った。
このままではこの俺が、何でも完璧にこなしてきた俺が負けてしまう、と。
幼稚舎から一緒に育ったが、俺たちは全てにおいて引き分けだった。学力も、運動神経も、女を口説くのも、どちらも等しく優秀だった。
しかし、諒が風紀委員長という役職を持ってしまったら、一般生徒という肩書きしかない俺の負けになってしまう。
負けたくなかった。どうしても負けたくはなかった。
だから俺は、会長の座を簒奪した。
先代生徒会の不正、暴行への関与を暴き生徒をまとめ上げ、会長になった。
「輝のこと、気に入ったかい?」
理事長席に座っているその男は、いつも通り穏やかな笑みを浮かべながら俺にそう問うた。
広報担当役員を作りたいと掛けあったはずなのに、全く関係のない人物の名を挙げる。それは先ほどまで一緒にいた紫の瞳の男の話だった。
無視をするのも忍びないと思い、率直な感想を述べる。
「…確かに、興味はあります。アレは考えている事が読めない。警戒するべきだとはわかっているのに、不思議と警戒も出来ない。アレの纏う雰囲気は…物を知らない子供のようで、それに釣られて自然と警戒を解いてしまう。今まで接してきたことのないタイプです」
気に入ったかどうかは、答えなかった。
この人に彼を気に入っていることを悟られているのは分かっているが、俺の口からいうのは負けた気がする。
今までにないタイプ。表情豊かな人間が好きではあるが、あそこまで二転三転する奴は見たことがない。我儘を言ったかと思えば、俺を尊重するような姿勢を見せたり、性格が掴めない。ただ、どこまでも親しみやすい彼は、接していて飽きる相手ではなかった。
俺の感想に満足したのか、彼は数回頷いてまたにっこりと笑った。
「広報の件だけれど、許可は出来ないかな。今でも充分支持率はあるし、これ以上上げた所でメリットも少ない。ほら、君が誑かしてきた子達が色んな手を使って支持してくれているしね。君にこっぴどく捨てられたというのに、健気な子達だね、君の親衛隊は」
おい待て、今の質問の意味は何だったんだ?アレもよくわからないが、この人も大概わからないな…
俺がなぜ生徒会長になったのかを知っているこの男は、時折俺の昔の事を抉るように言ってくる。健気だろうと何だろうと、今はもう要らないのだから仕方がない。
そんな俺を見つめながら、彼は組んでいた指を解いて片方の手を持ち上げ、口元に誘った。そっと立ち上がった人差し指を見ていると、必然的に動き始めた唇も視界に入る。
「ただ…毎週水曜日の放課後、今日と同じ時間に第三校舎に来て、輝と一緒にモデルをやってくれるというなら、許可しても構わないよ」
この男はつくづく欲望に正直だ。確かに今日だけでは完成しないからと解散したが、まさか毎週やるのか?面倒くさい事この上ない。
「大体1ヶ月位で描き終わるよ。そうすれば晴れて広報担当役員を補充できるんだから、君の目的通りあの転校生をそばに置く事ができるよ。たった1ヶ月を耐えるだけでね」
見透かされている真の目的に、言葉がぐっと詰まる。
正直な所、彼の提案はとても美味しい。少しの間耐えるだけで俺は怜央との時間を増やす事が出来るし、加えてあの興味深い男との関わりを持つ事も出来る。
押し黙り、考える素振りをしつつも、俺の心はもう決まっていた。
あんな面白そうな男と関わらなくてどうする?
「…わかりました。これも怜央の為です」
「ふふっ、そうかい。それなら許可をしておくよ。君の大好きな怜央とやらの為にね」
13
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
王道くんと、俺。
葉津緒
BL
偽チャラ男な腐男子の、王道観察物語。
天然タラシな美形腐男子くん(偽チャラ男)が、攻めのふりをしながら『王道転入生総受け生BL』を楽しく観察。
※あくまでも本人の願望です。
現実では無自覚に周囲を翻弄中♪
BLコメディ
王道/脇役/美形/腐男子/偽チャラ男
start→2010
修正→2018
更新再開→2023
生徒会長親衛隊長を辞めたい!
佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。
その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。
しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生
面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語!
嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。
一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。
*王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。
素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
桃野くんは色恋なんて興味ない!
新
BL
俺は桃野太郎、十七歳。平凡凡庸で、特に目立つことなく平穏学園ライフをエンジョイしていた。
だがしかし!
その平穏は、突如現れた転入生によって崩されてしまう。
王道転入生? なんだ、それは。俺は慎ましくハッピーな平穏ライフを送れたらいいんです!
マジで色恋とか興味ないので!
取り返せ、平穏!
守り抜け、貞操!
俺のハッピー平穏学園ライフを巡る争いが、今、幕を開けてしまう…………!!(涙)
----------------------------------------
王道転校生の登場によって表に晒されてしまう平凡主人公、桃野くんのお話。愛されるということに慣れていない、無自覚人たらしが総受けになります。
王道設定からかなり改変している部分があります。そこは寛大な心でお願いします。
ギャグ要素が強いです。健全です。
不定期更新です(通常は20時〜23時辺りで更新します。あまり遅い時間にはならないかと!)
誤字報告はしてもらえたら嬉しいです。
【注意】
・非王道です。
・差別的な発言はしないよう心がけますが、作品の展開上出てくる可能性があります。それらを容認する意図はありません。
・直接ではありませんが、強姦、暴力等の描写があります。各自自衛をお願いします。
・行き過ぎた暴力行為や、胸糞悪いな! と、作者が判断したページには冒頭に注意書きがされてます。
・pixivにも投稿してます。支部とアルファポリスだと若干言い回しが異なります。アルファポリスのほうが最新です。
----------------------------------------
愛されるのが怖かった。愛が呪いに変わることを、痛いほどに知っていたから。
母の手の温度が、頬を撫でたあの暖かみが、呪いのように残って離れてくれない。
勝手に期待して裏切られるのは、もう十分だ。
【R18】【Bl】R18乙女ゲームの世界に入ってしまいました。全員の好感度をあげて友情エンド目指します。
ペーパーナイフ
BL
僕の世界では異世界に転生、転移することなんてよくあることだった。
でもR18乙女ゲームの世界なんて想定外だ!!しかも登場人物は重いやつばかり…。元の世界に戻るには複数人の好感度を上げて友情エンドを目指さなければならない。え、推しがでてくるなんて聞いてないけど!
監禁、婚約を回避して無事元の世界に戻れるか?!
アホエロストーリーです。攻めは数人でできます。
主人公はクリアのために浮気しまくりクズ。嫌な方は気をつけてください。
ヤンデレ、ワンコ系でてきます。
注意
総受け 総愛され アホエロ ビッチ主人公 妊娠なし リバなし
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
百色学園高等部
shine
BL
やっほー
俺、唯利。
フランス語と英語と日本語が話せる、
チャラ男だよっ。
ま、演技に近いんだけどね~
だってさ、皆と仲良くしたいじゃん。元気に振る舞った方が、印象良いじゃん?いじめられるのとか怖くてやだしー
そんでもって、ユイリーンって何故か女の子っぽい名前でよばれちゃってるけどぉ~
俺はいじられてるの?ま、いっか。あだ名つけてもらったってことにしよ。
うんうん。あだ名つけるのは仲良くなった証拠だっていうしねー
俺は実は病気なの??
変なこというと皆に避けられそうだから、隠しとこー
ってな感じで~
物語スタート~!!
更新は不定期まじごめ。ストーリーのストックがなくなっちゃって…………涙。暫く書きだめたら、公開するね。これは質のいいストーリーを皆に提供するためなんよ!!ゆるしてぇ~R15は保険だ。
病弱、無自覚、トリリンガル、美少年が、総受けって話にしたかったんだけど、キャラが暴走しだしたから……どうやら、……うん。切ない系とかがはいりそうだなぁ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる