救う毒

むみあじ

文字の大きさ
上 下
3 / 129
4月 鈴蘭

第1話

しおりを挟む
私立桜ヶ峰学園。静かな山奥に閉ざされた全寮制の男子校で、幼稚舎から付属大学まで存在するエスカレーター式のエリート校だ。偏差値も学費も高額。企業の御曹司や名家の御令息などが多く在籍している。高額な学費に加えて在籍している生徒の親御さんがこぞって寄付をする為、設備も揃っているしもちろんセキュリティ面も抜かりない。


そんな学園に、俺は入学してしまった。


暖かい春の日差しを全身に浴びながら、ずり落ちてきたリュックを背負い直す。目の前に見えるのは俺よりもずっと高い門。装飾が凝らされたそれはどこからどう見ても豪邸の門で、学びの場にはミスマッチ…とも言えないのが度し難い。パンフレットで見た校舎は西洋風の建築で、豪華過ぎるわけでも地味すぎるわけでもない均等のとれた美しい校舎だったから、きっとこの門との相性も良いだろう。


どうしてこんな所に来てしまったのかなぁなんて頭の片隅で考えながら、門についていたインターホンを押す。


「…おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「お忙しい所すみません。桜ヶ峰学園に入学する事になりました、特待生の鏡宮かがのみや依夜いよです。本日入寮の為伺いました」
「…鏡宮様ですね。理事長からお話は聞いております。お待ちしておりました。只今迎えの者を向かわせますので少々お待ちください」


しばらくすると案内役の事務の方がやってきた。どうやら一度理事長の所へ顔を出して欲しいとの事で、理事長の元へと案内される。
西洋風な校舎は内装もまた西洋風だった。とはいえ現代的な造りが多くあり控えめなレトロさを感じさせる良い内装だ。結構好きかも。

色々と観察しながらついていくと、重厚感のある扉の前にたどり着く。ラスボスがいそうな所にラスボスがいそうな扉…うーん、ラスボスいるでしょここ。ゲームなら今セーブしてるだろうな…なんて考えていたら案内の方が扉を開き、中にいた秘書さんが俺を招き入れた。


「失礼します」


シンプルな家具で統一された部屋の中は家具が必要最低限しかなく、広々としている。その代わり部屋の壁には絵画や賞状などがならんでいて、かなり前の物も見受けられるから、譲り受けたものなのだろう。
それらを一瞥し、扉の真正面に置かれたデスクに座っている男性へと、体ごと視線を移す。


穏やかな笑みを浮かべた、青年とも呼べる彼こそがこの学園の理事長梵樹そよぎいつきだ。
名家の生まれで、20代後半という若さにも関わらず数多くの事業を成功させている敏腕経営者。今は先代から譲り受けたこの学園の運営に力を入れている。


「久しぶりだね」
「1週間ぶりを久しぶりっていうのかどうかは正直わかんないけど、久しぶりですね」


柔らかな雰囲気で挨拶をするその人はまさに好青年。実は大学生と言われても納得できる程、彼は若々しい。


「怪我はもう大丈夫かい?」
「それ1週間前も聞きましたよ。去年の夏の事だし、樹先生だってお見舞い来てくれたでしょ?あの時からピンピンしてるじゃないですか」


樹先生の過保護さに、苦笑しながら答える。
去年の夏、俺のストーカーだった女子に教室で刺され入院した時も、この人とは会っている。病室に飛び込んできた彼はそれはもうひどい取り乱しようで、怪我をした俺がドン引きする程だった。


「何度聞いても心配なんだ。あの時は本当に君が死んでしまうかと思ったんだよ。もう一生君の笑顔を見れなかったらと思うと…僕は…」
「あははっ、ほんと樹先生俺のこと大好きですね?大丈夫ですって、俺はあのくらいじゃ死なない死なない!」


先程の笑顔は消え去り、今はうっすらと眦に涙を浮かべている。
以前からそうだが、この人は俺に過保護すぎる。ほんの少し指を切っただけで取り乱して救急セットを持ってきたりするんだから、宥めるのが大変だ。


「あぁ、そうだね。君は死なない。君は僕の永遠のテーマだ。君の笑顔を最高の形で描き切るまで、僕は絶対に死ねないし、君も絶対に死なせないよ」


本当にコロコロ変わる表情だなぁ…
突然凪いだ様に真剣な顔を見せた彼は、この発言からわかる通り絵描きだ。


描くものは主に人物画。上手なのは勿論のこと、独特の世界観を持っているので画家としても生計を立てられる程には有名だ。
欠点を述べるとするなら、自分の描いた絵が好きすぎることくらいかな?
実物を目にしてもなんともないくせに、いざそれを絵画として完成させてしまうと、彼は性的に興奮してしまう。その位絵を愛していて、逆に生身の人間には興奮しない正真正銘、超ド級の変態だ。


しかしそれにも例外がある。それは一体誰?
俺!俺!俺!ole!ole!ole!ついつい真夏のjamboreeしちゃうよネ


俺だけはリアルでも興奮するとの事。どの瞬間を切り抜いても絵のようになるから、君はもう絵画そのものなんだよと力説された時は通報しちゃダメかな?と真剣に悩んだ。
ただ彼は俺を描けないのだと言う。元が完成しすぎていて絵にすると雰囲気が損なわれると言われた。その時の落ち込み方が凄まじく、描けるようになるまでモデルとして付き合うよと思わず言ってしまった位だ。


何故あんなことを言ってしまったんだろうと悩んでも後の祭り、覆水盆に返らず、手遅れ。
それからは週4位でモデルをお願いされ、徐々に露出が増えていき、ヌードも描くようになった。なんなら今ではヌードの方が多い気がする。おい、それで良いのか敏腕経営者
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蜘蛛の糸の雫

ha-na-ko
BL
◆R-18 ショタエロです。注意必要。SM表現、鬼畜表現有り。 苦手な方は逃げてください。   「なぜか俺は親友に監禁されている~夏休み最後の3日間~」スピンオフ作品 上記作品の中の登場人物、谷垣隼人の父、谷垣弘和とその秘書手島友哉の過去のお話しになります。 ----------------------------------- 時代は1987年 バブルの真っ只中。 僕は手島友哉(てしまともや)。 10歳。 大金持ちの家の使用人の息子だ。 住み込みで働く父さんと義母さん。 ある日、お屋敷でのパーティーで皆から注目されている青年を見た。 スラッと足が長く、端正な顔立ちは絵本に出てくる王子様のようだった。 沢山の女性に囲まれて、とても楽しそう。 僕は思わず使用人用の宅舎から抜け出し、中庭の植え込みの茂みに隠れた。 姿が見えなくなった王子様。 植え込みから顔をだした僕は、誰かに羽交い締めにされた。 これが運命の出会いとも知らずに……。 ※このお話の中ではハッピーエンドとはなりません。 (あくまでもスピンオフなので「なぜか俺は親友に監禁されている~夏休み最後の3日間~」の作品の中でとなります。) ※青少年に対する性的虐待表現などが含まれます。その行為を推奨するものでは一切ございません。 ※こちらの作品、わたくしのただの妄想のはけ口です。 ……ので稚拙な文章で表現も上手くありません。 話も辻褄が合わなかったり誤字脱字もあるかもしれません。 苦情などは一切お受けいたしませんのでご了承ください。 表紙絵は南ひろむさんに描いていただきました♪

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

お互い嫌っていると思っていたのは俺だけだったらしい

おはぎ
BL
お互い嫌っていて、会えば憎まれ口を叩くわ喧嘩するわで犬猿の仲のルイスとディラン。そんな中、一緒に潜入捜査をすることになり……。

異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!

東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる! 俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。 絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、 あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。 社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、 1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。 そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には 「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」 と言うばかり。 社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、 完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。 そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」 「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、 何をか言わんや…… そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、 超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、 ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。 中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。 日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、 ……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!! 16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、 中世西洋風の異世界へ転生していた…… その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』の世界だった。 もう元の世界には戻れそうもない。 覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。 そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、 絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!  と固く決意。 素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。 カクヨム様でも連載中です!

五年越しのきみは

Sai
BL
裏社会で生きる主人公、創(はじめ)。その弟の奏(かなで)と5年ぶりに日本で再会することになった。相棒である茜(あかね)に弟の世話を頼むも、当人は面倒くさいのか断られてしまう。

幼い頃に兄弟となった創と奏。創は奏の世話をするうちに特別な感情を抱きつつも離ればなれとなってしまい、それから数年の月日が流れた。久々に会う弟の成長を楽しみにしていたが、奏へのその想いからどこかで戸惑う創であった。

【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる

ユユ
恋愛
私の婚約者と幼馴染の婚約者が浮気をしていた。 私も幼馴染も婚約破棄をして、醜聞付きの売れ残り状態に。 浮気された者同士の婚姻が決まり直ぐに夫婦に。 白い結婚という条件だったのに幼馴染が変わっていく。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

比翼連理の異世界旅

小狐丸
ファンタジー
前世で、夫婦だった2人が異世界で再び巡り合い手を取りあって気ままに旅する途中に立ち塞がる困難や試練に2人力を合わせて乗り越えて行く。

陵辱クラブ♣️

るーな
BL
R-18要素を多分に含みます。 陵辱短編ものでエロ要素満載です。 救いなんて一切ありません。 苦手な方はご注意下さい。 非合法な【陵辱クラブ♣️】にて、 月一で開かれるショー。 そこには、欲望を滾せた男たちの秘密のショーが繰り広げられる。 今宵も、哀れな生け贄が捧げられた。

処理中です...