もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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俊也side

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食事を終え、久しぶりに樹の部屋で樹と二人きり。

この日、あの夏休みの夜ぶりに樹を抱いた。

「ごめん、最近、あんま構ってられなくて」

ベッドの中でくっついてる隣の樹の髪を梳きながら...。

愛しい時間、愛しい夜、愛しい樹の可愛い笑顔。

正直、ピアノに没頭した疲労が軽減するように感じた。

「平気。ちょっとは寂しいけど...ね、今度、音楽室、行ってもいい?コンクール前に聴きたいな、俊也のピアノ」

「うん」

今思えば、断っていた方が良かったんだろうか...。

数日後、音楽室でピアノを弾いていた俺に会いに来たのは和斗だった。

「...何しに来た?」

思い返せば。

この音楽室で和斗に唇を奪われ、病院を乗っ取るやら言われて口論になったりと散々だった。

遥斗は受け入れられても俺の中じゃ和斗は受け入れられはしなかった。

「...お前のせいで」

立ち上がり、和斗と視線を合わせた。

「俺のせい?なにを...」

「俊也!来たよ!遥斗くんも...か、和斗くん?」

「...兄さん...?」

樹と共に音楽室に現れた双子の弟、遥斗を和斗は睨みあげた。

「...よくもまあ、こいつらと仲良くしてられるな、遥斗」

遥斗は黙りこくったまま、和斗を見つめていたが、和斗の手元が動いたのを見逃さなかった。

「よせ!和斗!」

スラックスのポケット辺りに忍ばせた小型ナイフを遥斗に向けて振りかざすのを止めた俺は....。

「俊也!」

「こ、古閑くん....」

和斗のナイフは遥斗を庇おうと伸ばした右手の甲を刺し、床まで血まみれだった...。

咄嗟に左手で右手首を掴み、凝視した。

「秋の、コンクール...ピアノ、が...」

手元を見たままの震えた声と高らかに笑う和斗の声が交差する。

「しゅ、俊也....」

よろけそうになりながら近づいてきた樹が泣いていた。

「....兄さん」

不意に渇いた音がした。

遥斗が和斗を殴っていた。

「我儘も大概にしろよ。ずっと兄さんが暴走しないよう合わせてきたけど、うんざりだ!葉山くん、救急車!待って、俺が電話する!」

樹が動揺しているのを気遣い、遥斗がスマホで救急車を呼んでいた。

「....泣くなよ、樹」

「....だって、こんな、こんなこと...」

「秋のコンクール、間に合わないだろうけど...またピアノが弾けたらさ、いいな...」

泣きそうになりながら俺は笑ってる。

樹が悲しまないように。

....きっと、これは中学のあの頃の、あの子を助けることが出来なかった俺への天罰で戒めだ。

きっと....。
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