もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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夕飯どき

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「ねえ、遥斗くんも一緒に食堂で食べようよ」

笑顔で遥斗くんを誘ったものの、

「え?さすがに無理だから。古閑くんもいる訳でしょ?」

遥斗くんは気乗りはしなかったものの、

「俺は1人で食べるから平気だし」

兄の和斗くんと以前は食事しているのをよく見かけたけど...。

俊也たちには先に食堂、移動しとくね、とスマホでメッセージを送った。

食堂で並んで食事をする俺と遥斗くんの姿にさすがに俊也は唖然としてたけど...。

「...だから言ったのに。席、移動するね、ごめん、葉山くん。せっかく誘ってくれたけど、やっぱり無理だから」

「別に気にしないし、1人で食うくらいなら一緒に食えば?」

トレイを前に席を立ちかけた遥斗くんを引き止めたのは正面に立つ俊也だった。

潔い俊也の姿勢に手首を掴まれている遥斗くんが気後れしている。

「あ!樹!俊也!」

遅ればせながら涼太と豊が席に来た。

「え?なんでいんの...」

遥斗くんを目に止めるなり涼太が目を見開き、小さな驚愕の声を洩らした。

決して、遥斗くんがいることを咎めるとか言うわけじゃなく、単に戸惑っているだけ。

隣の豊はというと、

「まあ、いんじゃね?とにかく座ろうぜ、飯が冷える」

「う、うん...」

「ほら、遥斗くんも座りなよ。豊の言う通り、せっかくのご飯、冷めちゃう」

仄かに微笑みながら隣でどうしたらいいかわからず立ち竦んでいた遥斗くんに声をかけた。

「う、うん...なんか、ごめんね、邪魔して...」

「いつ誰がお前を邪魔だ、つった?」

「ちょ、俊也...」

少し強めの口調の俊也を示唆した。
案の定、遥斗くんは俯いてしまい箸を持ちすらしない。

「お前との婚約は破棄したんだし、誰が何処で飯を食べようがいちいち気にする奴なんかいないよ」

俊也は白米の注がれた茶碗を片手に、箸を進めながら淡々とそう話す。
俊也なりの思いやりなんだと感じた。

「てか、ほら。樹」

恒例行事のおかずの一品を俺の皿に移してくれる俊也。

今日のメインはポークケチャップに千切りキャベツが添えられていて、ツナサラダと小鉢には切り干し大根の煮付けと小アジの南蛮漬け、お味噌汁は豆腐と葱、わかめ。

「...いつもありがとう、俊也」

「餌付けだねえ」

と涼太が言い、さりげなく強ばった空気が和らいだ。

隣の遥斗くんもようやく、いただきます、と手を合わせ、箸を進め始めた。

「てかさ。部長からもらった台本、読んだんだけど。台詞、覚えられる自信ないの。断ろうかなあ、て思っててさ」

口をあんぐり開け、肉を頬張りかけた涼太から聞いた。

「え?せっかく役がもらえたのに...」

「だって、俺、別に演劇に興味あった訳じゃないし。映画やドラマが好きな樹を連れて行ったらちょうどいいかも、て思っただけだもん」

....そうか、涼太は俺が映画やドラマが好きなのは知ってるけど、もしかしたら俺が役をもらえるとか、喜ぶと思ってのことだったんだ....。

「...一応、俺も役はもらったし、台詞も涼太ほどじゃないだろうけどあるよ?」

「...だったら2人で台詞合わせしたら?」

不意に遥斗くんが口を開いた。

「だな。唐突に2人に断られたら演劇部も大変だろうし」

「豊も手伝ってやれば?」

「俺?」

「うん。第三者が聞いてやってた方が良くない?本当は俺が付き合いたいけど、今、課題曲の練習で手が離せない、ていうか...」

....俊也のピアノ、か。

「コンクール、いつだっけ?また聴きたい!俊也のピアノ!」

「ん?秋だけど。でも期待しない方がいいよ。コンクールなんて幼少んとき以来だから。てか、遥斗も良かったら2人に付き合ってやってよ」

不意に長テーブルの先の料理に伏せられていた瞳が正面の遥斗くんに向けられた。

遥斗くんは目をまん丸にしてる。

「うん!遥斗くんもお願い!」

「え、でも俺、演劇とかよくわかんないけど...」

「大丈夫!それは俺も同じ!」

「いや、涼太、お前が言うな。主演だろ?」

「助演ですー、いや、助助演て程度か」

「なに、じょじょえん、て」

思わず吹き出し笑うと、みんな一斉に爆笑の渦と化した。



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