もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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部活と遥斗くんとの時間

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見学を兼ね、涼太と演劇部の部室に出向くと三年の部長さんの小柳先輩、二年の副部長、戸田先輩にも歓迎された。

が、やっぱり部長さんたちのお目当ては涼太らしい...。

「今回の脚本に伊藤くんは大抜擢というかイメージそのものなんだよね。葉山くんも今回はメインではなくても次回はよろしくね、葉山くん」

「あ、は、はい...」

村人Aとか木や岩の役かな、と思ったら一応、人間の役柄ではあるらしい。

「じゃあ、ちょっと伊藤くんは話しがあるから」

とりあえずは台本を貰い、頭を下げ部室を後にした。

涼太というと、眉を下げ、どことなく関心がなさそうでもあるし、

「頑張ってね、涼太」

声をかけると、うん、と小さな返事が返ってきた。

台本片手に廊下をとぼとぼと歩く。

俊也は多分、ピアノの練習の為に音楽室だろう。

「...邪魔、したくないしな」

「あれ?葉山くん」

つい先日、話したばかりの遥斗くんの姿があった。

なにやら段ボールを抱えてる。

「大丈夫?手伝おうか」

「ううん、平気。俺より細くて小柄な葉山くんに手伝って貰うのも」

よっ、と声を出し、段ボールを抱え直してる。

「実家からね、色々送られてきたんだ。あ、こないだ話した紅茶、届いてるかも。来る?」

「うん!」

久しぶりに遥斗くんの部屋。

早速、遥斗くんは段ボールを開封し、

「あ、あったあった。待ってね、今、淹れるし。ストレートでいい?ミルク?」

「あ、良かったらミルクで」

「うん。了解。俺はコーヒーにしよ」

遥斗くんは段ボールの中の紅茶やコーヒーの茶葉や豆らしき袋を持ち、キッチンへ向かった。

「はい、どうぞ」

中央のテーブルに湯気を立てるマグカップが二つ置かれた。

「ありがとう。いただきます」

そっと上品なカップを持ち上げ、そっと啜る。

「あ、美味しい」

「本当?良かった。てか、古閑くんは?一人って珍しいよね」

「うん...」

伏し目がちにカップの中を見つめた。

「何かあった?」

「ううん。特には...ただ、俊也はピアノの練習で忙しくて、友達も演劇部にスカウトされて。俺ってなんにもないなあ、て思った。取り柄というか...」

しばらく無言で俺を眺めていた遥斗くんだったけど。

「そう?俺と友達になろう、て話しかけてくれたり。優しいんだなあ、真っ直ぐで、て俺は凄いなと思ったけど。葉山くんのこと」

「で、でも、そんなことくらい...」

「そんなことくらいじゃないよ?誰にでもそんな親切にできるとか。なんの見返りもなくさ。充分、葉山くんの取り柄だと思う。俺の方がないもん、本当」

そう言うと遥斗くんはカップを持ち上げコーヒーを含んだ。

「遥斗くんは、その、スタイルいいし...クールでカッコいいし美人じゃん」

「うーん...見た目の取り柄はいいかな、俺は」

遥斗くんはそう言って苦笑した。

「それ、台本でしょ?とりあえず、なにか役はもらったんじゃない?」

「え?あ、うん、一応...」

「友達と比較する必要は無くない?今回がたまたま友達の雰囲気がメインの役に合ってた、てだけでしょ」

「...俊也の婚約者だっただけあるな...なんだか遥斗くんの話し、て説得力があるもん」

「...そんなこと言われたら複雑なんだけど、俺。今度、気晴らしに図書室でも来たら?」

「そういえば、図書委員だったね、遥斗くん」

「うん」

涼太や豊との感じとは違うけど、遥斗くんとの時間もいいな。

思いがけず、自嘲気味な気持ちが和らぎ、頬が綻んでいた。
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