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決別
しおりを挟む涼太のお母さんは足元が崩れ、呆然となっていた。
半裸でデニムも脱がされかけている涼太に馬乗りになっている涼太のお父さん...。
涼太は殆ど自宅に俺たちを呼ぶことはなかったし、万が一、涼太の家に集まったとしても、涼太のお父さんが不在なときばかりだった。
だから、涼太のお父さんを見るのは殆ど初めてと言っていい。
俊也がそっと優しく俺を押し、後ろに下がらせた。
「か、勘違いするな。涼太が迫って来たんだ」
体を震わせている涼太のお母さんは...
「...そんな訳がないじゃない。ある程度は豊くんから聞いているし、涼太はそんな子じゃないわ」
「...お母さん、すみません」
ずかずかと涼太の部屋へ足を踏み入れた豊は涼太の父親を勢いよく殴り飛ばし、鈍い音を立てた。
ベッドで仰向けのまま、ただただ、涼太は呆然と目を見開いている。
「警察には電話しました。早急に出て行った方が念の為かと思いますよ」
俊也はスマホを見せつける。
途端、涼太の父親は衣服の乱れを手早に直し、舌打ちを残して部屋を後にした。
「涼太...」
涼太のお母さんが涼太に歩み寄り、抱き締めたが、涼太はびく、と一瞬、体を震わせ、強ばらせている。
「大丈夫。あの人の言うことを信用してなんかないから。...どうして言わなかったの、涼太...」
涼太のお母さんが声を震わせた。
「だ、って...ようやく、母さん、再婚が出来て...。この家だって...父さんが事故に遭って、古いアパートで二人暮しで...大変だった、から...」
強く、強く、涼太のお母さんは涼太を抱き締めた。
「...馬鹿ね。あなたの幸せの方がずっと大切なのに。ごめんなさいね、涼太。あなたに気を違わせていただなんて...母親失格ね、本当に...」
「警察、は出任せです。ですけど、近いうちに家宅捜索は入ると思いますし...なるべく早く、豊が、というか、豊のご両親も力になってくれましたが、僕たちも引越しの荷造りだとか手伝わせてください」
「...ありがとう、本当に。ありがとう」
「ほら、涼太。服着な。災難だったな...」
豊が腰を折り、父親に脱がされたのだろう衣類を拾い、涼太に手渡した。
涼太は声もなく泣いていた。
「...ようやく終わるな。父親との決別。言ったろ?俺が必ず幸せにする、て。お前のことを」
涼太は微かに微笑み頷いた。
とても可愛い笑顔で...。
「...涼太。夏休みはまだあるし。引越しもそうだけど。また遊ぼう?みんなで。もちろん、涼太と豊、2人きりでも」
「ありがとう、樹。ううん、みんな、ありがとう」
爽やかな涼太の笑顔は眩しくて、そして、とても嬉しかった。
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