もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
131 / 155

涼太side

しおりを挟む
樹の部屋で二人きりで夏休みの宿題をこなしながら。

樹の表情、たまに大丈夫?てくらい、ぽわん、としてもいるけど、どことなくアンニュイな物思いにふける感じもある。

「....で。樹の頼りがいある優しい王子様も来るんでしょ?」

「え。んー」

昼前から樹の家で食事をご馳走になり宿題したり、夜からは近所での夏祭り。

俺と樹や豊は幼馴染でわりと家も近いけど、俊也は違う。

「....昼頃はね、俊也、顔合わせなんだって。なんか、ほら、婚約者と...その、両親もいらっしゃるとかで、はっきり断る、て言ってた、けど。ちょっと不安」

「ああ...なるほどね...」

樹がなるべくポジティブでいたいから、二人きりの夜を、多分、情熱的で甘い夜に現実逃避したい、て気持ちもわかる気がする。

「....まあ、なんとなく。俊也なら大丈夫かな、て気がするけどな」

「うん....。あ、でも豊は?」

「あー...。彰人に勉強、教えてやって、て言われたみたいで。後で来るとは思うよ」

不安そうな樹に敢えて微笑んでみせた。

「....もしかしたら、俊也、豊には話してる、かな....」

「....なんのこと?」

「んー....。俊也、海外の大学に進学とかどうって話してくれて。俊也はピアノやりたいみたい。だけど、こう海外で世界観?視野が広がるかな、とか、語学も学べるし、て。それで、涼太たちもどうかな、て言ってて」

「....海外?」

「うん。俊也と豊、なんだろ。馬が合ってる感じするし、豊には話してるかな、....涼太は聞いてない?」

しばらく、思考を巡らせた。

「....どうしよ。俺、進路とか全然、考えてなかった。....俊也、て凄いよね。まだ高1なのに、将来とか未来だとか考えててさ」

「ね、俺もびっくりした。でも、俊也の言う通り、もしかしたら、二人にもいい機会なのかも...とか思う。豊から聞いてはないんだね、涼太」

「うん...」

「焦らなくていいと思うけど、豊は涼太を引っ張っていってるな、て見ていて伝わるし、凄く。大切にしてるんだなぁ、て。涼太のこと」

くすぐったい...な。

確かに最近の豊、凄く優しいし、笑顔を向けてくれる。

俺を見守る温かい眼差し、愛おしい、みたいな瞳。

「....俺、自分に自信がなかった、ずっと」

樹の視線を感じながら、テーブルの上の参考書に目線を落とす。

ふふ、と可愛らしく樹が笑う。

「でも、幸せなんでしょ?伝わってくる。最近の涼太を見ると」

「....まあ、でも豊からはさ。樹や俊也と比較しなくていい。お前はお前だし、代わりは居ないし、て...」

「....そりゃそうだよ。涼太には涼太の良さがあるもん」

「....俺のいいとこ?」

目を丸くする俺に樹は無邪気な笑顔を見せた。

「うん。涼太の照れてるのにキレる感じ?俺には真似できないし」

「....なにそれ。喜べない、けど、俺」

プブッ、て樹がまた笑う。

「それ。照れてる感じするのにキレる涼太さ。なんて言うか...ツンデレ?俺、涼太のそういうとこ、嫌いじゃないよ。なんかほのぼのするというか」

....そう言われたら、嫌な気分、じゃないな...。

でも...。

「....俺、ツンデレ?」

「うん。涼太は自覚ないかもだけど。豊もそういうところが好きになったんだろうなぁ、て感じする。俺も涼太のツンデレ、好きだし」

「....ありがとう?て言っていいのかわからない....」

「まぁ、二人だけの秘密、てことで」

「う、うん...。でも、海外とか考えたことなかったけど...」

「そこは。豊がいずれ話してくれるんじゃないかな...。もちろん、無理強いはしないし、したくないけど。
ゆっくり二人で話し合って考えたらいいよ」

樹の可愛らしい笑顔。
でも、なんだろ。

無邪気な笑顔なのに、説得力もある。

....俊也の影響、かな。

「....夏祭り、楽しみだね」

「うん。あ、そうそう。涼太は浴衣とか着る?
うちの母さんがさ、涼太くんもどうか、て話してた。俺の以前、着てたのがあるから」

「...樹はどうするの?」

「うーん、俊也も浴衣、着てくるみたいだし。
それにせっかくの夏祭りだし。
形から入るのもいいかな、て思うから、俺も着ようかな、とか...」

「...なに?」

「んー...俊也の浴衣姿、きっと素敵だろうな、て。
だから、俺も俊也と並んでさ、俊也に釣り合えるようになれたらいいな。
どんなのが似合うかなぁ、とか模索しちゃう...」

はにかんだ樹の笑顔が...眩しい。

四人揃っての夏祭り。楽しみだな...。

....俊也も婚約者やその両親との顔合わせ、上手くいけばいいな。

はっきり断る、て樹には力強くそう言ったらしいけど。

樹の為なら体を開く俊也のことだし、樹も感情表現が本当に豊かにもなった。

「....きっと。俊也なら大丈夫、そんな気もする。
まぁ...俺は豊とは安心はするんだけど。
二人みたいに逐一、ドキドキやイチャイチャ、出来ないのは父親の件だけじゃなく、小学校の低学年から知ってる間柄だから、てのも多分、あるかも...。
もしかしたら」

「...そっか、なるほど。...確かに幼馴染の二人と違って、俺と俊也は知り合って、出会って間もないし...
そういうのもあるのかな。
でも涼太が自然に豊に笑顔を向けてるのを見るとね、なんだかほのぼのするんだよね」

嬉しそうに微笑む樹に、伝えたい、な。

勇気を出して、伝えたい...。

「....ありがと。樹」

樹は俺を見つめ、微笑んだ。

ああ...俺、樹を好きになって良かったな。

一時期、樹の優しさや怒らない樹に甘えてたりもしたけど。

ううん。

樹だけじゃない。

豊だけでもなく、俊也とも出逢え、本当に、本当に、良かったな...。

思うず、俺も自然と笑みが溢れた。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか

柚ノ木 碧/柚木 彗
BL
夏休み中に家族で田舎の祖母の家に帰省中、突如Ωになりヒートをおこした僕。 そして豹変したように僕に暴言を吐き、荒れ狂う祖母。 呆然とする父。 何も言わなくなった母。 そして、僕は今、田舎の小さな無人駅で一人立ち尽くしている。 こんな僕だけど、ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか。 初BL&オメガバース連載で、オメガバースは三ヶ月前に知った、超が付く初心者です。 そのため、ふんわり設定です。

処理中です...