もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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偽りの笑顔の裏側は...

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「でも、あー、楽しかった!彰人、大きくなったね!」

床で胡座かいたまま、涼太は両手を上げ、疲れたー!と笑いながら背伸びをした。

俺に背を向けたまま。

微かに横顔しかわからない。

涼太は再び、おもちゃの片付けを再開した。

「....てかさ、豊」

「....ん?」

「....あの。布団ある?」

「....布団?」

涼太が黙りこくり、こくん、と頷いた。

「....一緒に寝れないというか。俺」 

「....なんで?なんもしないけど、別に」

「....でも、なんか怖いし、ごめんなんだけど....」

涼太は表情を見せないまま、微かな声でそう言った....。

「....怖い?俺が?」

「....豊が、ていうか...。セックスが、その、俺、嫌い、ていうか」

驚愕で目を見開いた。

....セックスが嫌い?

「...お前、俺を誘惑したのに?」

....なんだ、これ。
目の前がチカチカする、この感じ。

驚愕で目を見開いて、瞼が...閉じれない。
なんだ、この感じ....。

「....うん。震えてた、ホントは。気持ちよくなったらどうしよう、て、怖くて」

「....なんで、あ」

父親の...父親のレイプと被る、のか、俺、俺は....涼太の、精一杯の嘘に気づけなかった...。

情けない。

涼太に樹を重ねて....俺は...

涼太の父親となんにも、なんにも変わらない....。

惨めだ。

「....ごめんな、涼太」 

「なんで、豊が謝んの....?」

涼太がまた不思議そうに俺を振り向く...。

「....泣かないで、泣かせてるみたいで嫌だから...」

「....ごめん...。お前は泣けないのに、泣けなかったのに、俺、俺、安易に泣くなんて...許してくれ、涼太、ごめん、気づいてやれなくて」

涼太はきょとん、として、笑った。

涼太は自分の感情に疎い....。

多分、父親の虐待やレイプ、涼太を狂わせ、涼太は1人で必死にもがいてたんだ。

誰にも悟られまいと、きっと....。

そんな涼太を俺は...。抱いてしまった。

殴ってしまった。殴る価値もないだなんて...言ってしまった....。

「....お前の辛さ、俺には...想像がつかない、けど。父親からなんて...悔しいよ、俺。自分に腹が立つ...本当に、ムカつく、自分が....」

涼太が近づいてきて、ベッドに座る俺の隣ではなく目の前の床に座り込んで、心配そうに見上げてきた。

「....もう泣かないでよ。だから、俺、知られたくなかったのに。樹にも豊にも...二人とも優しいから...」

俺は涼太の頭を抱え込み、泣いた。

悔しくて、惨めで。

「....ごめんな、涼太。俺が必ず幸せにするから。俺。ごめん、本当に」

放心状態みたいになってた涼太がようやく微笑んだ。

「....ありがとう、豊」

向日葵みたいな笑顔で...。

その晩、涼太とは同じベッドではなく、布団を敷いてやった。

ベッドを勧めたけれど、涼太は布団の方がいい、て言うから...。

寝つくまで、樹に誘われた映画について話した。

「俊也は二人きりで行きたい、会いたいと思うんだけど。たまにはさ。二人きりで行ったら?祭りとかなら一緒に行こ。涼太も誘ってさ」

樹にそう言った。

「樹らしいね」

涼太はそうはにかんだ。

「....俺があげた、さ。アロマやカモミールティとか、どうだった?まだある?」

「ああ、あれ!?もうすぐ無くなりそうなんだよね、あれ、何処で買ったの?なんか落ち着く感じするし、買いに行きたいから」

「一緒に行くか?明日にでも。店、教える」

....コテージのあの数日後。ネットで不眠症とかの情報を調べ、店を探し、店員に尋ねながら購入した、アロマグッズのお店だ。

「....うん。なんか、デートみたい。照れるね、なんか」

ああ....。

涼太が、変わった。自然に笑えるようになった....。

どうして?

「....なに?豊」

「ごめん、なんでもない。着替え、貸すな、俺の」

「うん。ありがとう、豊」

ベッドの中から布団で自分で腕枕して眠る涼太の背中を眺めた。

....涼太を幸せにする。

二度ともう、うなされたりしないよう....。

案外、俊也に相談してもいいかもしれないな...。

一時期、医者、目指して、向いてない、て諦めた、て言ってた、けど...。

俊也もいっぱいいっぱいだろうし、な。

涼太の寝顔を見つめながら、しばらく眠れなくて、そんな夜だった。
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