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好きだ。
しおりを挟む俺、葉山樹は....恋を、している。
もうあんな風に中学の頃みたいに。
豊へのあんな容易ではない、恋を、している。
ただ、目が合うとドキドキして、手が触れそうになると焦ったり、どもったり、そんな恋じゃない。
とても、嬉しくて切なくて、たまに苦しくて、大好きで、優しい唇をもっと、知りたくて、唇だけじゃ物足りない、そんな恋。
自宅のベッドで仰向けになり天井を見上げていた俺は起き上がり、傍らに置いたバッグから俊也が以前、プレゼントしてくれた二冊の本やラッピングしてあった可愛い袋やブレスレットが入っていた小さな紙袋すらも大切で、宝物で。
テーブルに置いてしばらく眺めていた。
涼太に貸したから...一緒に観たあの映画の原作、まだ読み終わってない。
不安が...過ぎる。
綺麗な挿絵しか眺めていない人魚姫の物語を、その小説を手に取ってしばらくその表紙を眺めた。
悲しい、話しだという記憶があるから、なんだか読めなくて。
あの頃の...中学時代の俺の失恋...とも呼べない、悲しい気持ちよりずっと人魚姫は多分、辛いから。
凄く、凄く大好きで、愛しくて、そばにいたくて、だからこそ追いつきたくて、人間になって。
ただ、人魚姫は本当に普通に恋をしていた、んだと思う。
泡になることを...望んでいたのか、よく覚えてはいないけれど...。
「俊也も涼太も大丈夫、かな」
俊也と出逢わなければ、多分、ううん、絶対に涼太や豊と仲直りなんて出来なかった。
仲直りともまた違う、一層、深く繋がる、友人になれはしなかった。
俺たちは単なる幼馴染でしかなくて、親友なんかじゃなかった、そのことを俊也は気づかせてくれて、背中をさりげなく、押してくれた。
俺だけではなくて、涼太や豊の背中すらも。
俊也の眩しい明るく優しいあの笑顔が...脳裏に浮かぶ。
出逢ったばかりの俊也はどことなく投げやりで、たまに見せる笑顔はどことなく儚くて。
夜空を見上げ、星を探す、その横顔、その嬉しそうな優しい笑顔が、どこか寂しげで。
俊也は、変わった。
俊也が変わったから、俺も、涼太も豊も変われた。
ぎゅっと人魚姫の物語を抱きしめた。
切ない、苦しい、でも、それ以上に、....
「愛おしい....」
人魚姫は愛おしいそんな気持ちを抱いたまま、泡になった、かな。
孤独で寂しい思いで、失恋した彼女は泡になって、恋を捨てた、のか、人魚姫にしかわからない、恋をした高揚や愛おしい気持ち、孤独な、気持ち。
「....誰も泡になって欲しくない」
好きだ。
今の涼太が豊が、そして、彼氏になった、俊也が凄く、凄く大好き。
人魚姫の物語を瞼を閉じ、抱きしめ、とくん、体が暖かくなる。鼓動が早まって、深く、深く息を吸い込んだ。
俊也が書いてくれた、あの人魚姫の切ないけれど、でも優しい幸せになるあの物語。
『一緒にずっと手を繋いで、歩いていこう。』
俊也は俺を人魚姫だと思ってた。
涼太を、一時期、魔女だと思ってた。
みんなそれぞれ色んな複雑な気持ちを抱えていただけで、人魚姫なんて、魔女なんて、いなかった。
俊也ももうわかってるだろうけれど....。
不意にスマホが音を立てた。
慌てて画面を見たら...俊也だ。
「も、もしもし!」
慌てて俺はスマホを耳に当てた。
一瞬の沈黙の後、俊也は爆笑した。
「取るの、早くない?まだワンコールもしてないよ?」
「あ、だって、その...」
「うん?」
「....声が、ね。聞きたかった、から....」
顔が、暑い。な。
恥ずかしい。照れくさい。
でもそれ以上に....嬉しい。
「ありがとう。俺、もさ。樹の声、聞きたかったから...嬉しい、すっごく」
ああ、なんだろう。
泣きそうに、なる。
体中が熱い。
ああ、これが、恋、なんだ。
声を聞くだけでこんなにも俺を、俺を癒してくれる。
声だけじゃ、足りない、て思わせる。
切なくても、それが、恋、なんだ。
人魚姫が抱いていただろう感情はきっとこんな感じなのかもしれない。
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