もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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俊也side

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3階建ての、実家。

帰宅すると母の笑顔に出迎えられた。

「おかえりなさい。俊也」

「ただいま、母さん」

「髪...黒髪に戻したのね」

「う...ん」

「金髪もよく似合っていたけど、いいと思うわよ」

母さんの微笑に...胸がざわつく。

父さんには....。

「....なんだ、その髪は」

中2のとき。

あの子が...自殺した、その数日後、俺は自宅で自分で黒髪を金髪にした。

なにかから...逃げられる気がして。

「....全く。お前には手がやける。眞司も広樹もお前とは違って...全く今回のあの事件にしても。まさかうちの病院に運び込まれるなんてな、また厄介ごとを」

「もうやめて!あなた」

眞司、は俺の兄。広樹は弟。

二人ともいずれは医者になるんだろう。

校舎の屋上から飛び降り自殺を図ったあの女の子は偶然にも父が院長を務める病院に運び込まれた。

マスコミが...うるさく学校や病院に押しかけた。

いじめによる自殺、最初はそう、報道されていた。

それを父は権力で、金で、封じ込めた。

結局、あの子は自殺か、それとも事故なのかすら報道もなくなり、わからなくなった。

あの子の両親は...当たり前だけど、納得がいかず。

唐突にまだ中2の娘を失い、途方に暮れて、そして、学校に問い詰めて、俺は全てを、母さんに話した。あの子が俺を助けたばかりに。

俺へのあのしつこく陰湿ないじめともいえる...父の病院で有名人が死去したら、テレビにコメンテーターとして出演したら。

翌日にはいつも、俺は。

学校中の標的にされていたから。

あの子はそんな俺に同情して、俺を庇って、あの子が好きだった男子生徒まで加担し、あの子を、いじめ始めた。

....俺は当時、どうしてあの子に対してのそのいじめを止められなかったのか。

一緒に隠された上履きを探して、椅子を探して。教科書は...破かれていて。
俺はそっと自分の教科書と入れ替えて。

あの子の机に置かれた花瓶の花をあの子が登校する前に俺は片付けて。

それが精一杯だった。

あの子が自殺する前日、あの子との会話を俺は多分、忘れることができない。

「....俺なんて助けるから。助ける必要、なかった、のに...」

隣でその子は微かに笑った。

「....違うよ。古閑くんが悪いわけじゃない。私、ずっとそう言ってるじゃない」

「そう...だけど...」

「...嫌いなの、ただ。見て見ぬふりする人も加担、する人も」

加担...する人。

胸が...軋んだ。

あの子が好きだったあの男子生徒が浮かんだから。

あの子には気づかせたくなくてずっと黙ってた。

今思えば、あの子は知っていたのかもしれない。

俺が見ていないときにあの男子生徒になにかを言われたのかもしれない。

聞けなかった。
当時の俺は、どうしたらいいのか、全く検討がつかなくて。

隣のその子が俺を向いて、笑顔を見せた。
目尻には涙が、見えて。
でも、満面な輝くような、笑顔で。

「高校では、こういうのなくなるといいよね。いじめとかなくなって、恋愛とかもできたらいいよね、古閑くんもさ」

あの子は笑った。凄く、凄く明るく笑った。

「....うん」

今考えたらあの子は自分へのいじめや恋愛や、それを全て諦めて。

投げやりなんかじゃなく、何処か彼女なりに吹っ切れた、んだと思う。

...本当のことはもう聞けはしないけど、あの子はもういないけれど。
何処を探しても。絶対に見つかりはしないけど...。

そして、翌日、彼女は早朝、屋上から身を投げていた。

人だかり、救急車や警察や、たくさんの人間が彼女を。

地面でまるで眠るかのように瞼を閉じた、血だらけのその子を取り囲んで、....もう、そっとしてあげたら...いいのに。

自殺してもなお、その子は不躾な輩に取り囲まれていて。

本当なら、そこで眠るのは。地面でうつ伏せになって血だらけで横たわるのは...俺じゃなきゃいけなかった、のに。

当時の俺は涙すら出ず、ただただ息が詰まって。

俺も早く死ねたらな、て、でも俺はその日から中3まで学校にも行かせては貰えず、家庭教師をつけ、自宅にほぼ監禁された。

自宅の部屋でピアノを開く。

あの頃、がむしゃらにピアノを弾いて、書籍を読み漁って、逃げて。逃げまくって。

俺は勝手に全寮制の高校に入学させられていた。俺になんの報告もなく。

「高校で好きにしろ」

父はそう言った。

好きに...もし自殺するなら自宅だと面倒だから寮でやれ、て...?

俺はもし自殺するんなら、だったら知りたかった。

中2からあの事件から俺は殆どと言っていいくらい外を知らなかったから。

このちっぽけな俺の世界を少しだけでいい、見てみたかった。目に焼き付けたくて。匂いを、嗅ぎたくて。

風の香り、木々の囁き、眩しい太陽、綺麗なとても綺麗な既に死んだはずの星空を。

もう終わらせるつもり、だった、いずれ。

けれど入学式に俺は樹に出会って。

謝ってばかりいる、何処か儚げで辛そうで小さな樹が気になって。

恋をした。

歯車が狂いはじめた。
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