もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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「ほら、樹」

食堂での夕飯の時間。

隣に座る俊也が変わらず、自分の皿にある、春巻きを一つ、俺の皿に移してくれた。

その変わらない、穏やかな瞳を見つめる。

「どうした?樹」

「え、う、ううん。美味しそうだね、いただきます」

俊也の笑顔に少し安堵し、箸を持った。

俊也、て、つくづく大変なんだな、て今更ながら痛感する。

たった16で、ううん、中学の時、もしかしたら、産まれた時には将来を勝手に親に決められていて、きっと自由なんてものは無くって....。

ふと、俺は箸を止めた。

俺ができること....。
俺が、俊也を自由にしたい。

この日、俺は自分に誓った。

一度、部屋に戻り、シャワーを浴びた。

「....緊張するな」

だけど、全てを俊也に任せ切りにはさせたくない。
俺、俊也の彼氏になったんだ、おんぶにだっこ、なんて、嫌だ。

覚悟を決め、廊下を歩き、一つの扉の前に立ち尽くす。

一度、深呼吸をしてから、ノックをした。

「どちら様....」

微かに開いたドアから遥斗が顔を覗かせた。

至近距離で初めて見たけれど、....整えられた黒髪と形のいい漆黒の瞳。
薄い唇。

綺麗な人だと思った。

「....なんだ。誰かと思ったら。入ったら?」

緊張が収まらない中、あっさりと室内に招かれた。

何処か無機質な部屋を見渡した。

「話しがあって来たんだよね?」

ごく、と喉を鳴らして切り出した。

「....俊也と番にはさせませんから」

一瞬、気の抜けたような顔で、真剣に言い放った俺を見つめて....

「....コーヒーでも飲む?実家から丁度、いい豆が送られてきたんだ」

「話し、聞いてました?俺、俊也と....」

バン、と遥斗は俺をドアに押しやり、背中が扉に強打された。

間近で遥斗は俺を見下ろした。

「好きで俺があいつと番になりたいと思ってんの?選ばれたんだよ、IQの高い子供が産まれる確率だとかでさ。そんなにあいつが好きならお前がどうにかしろよ」

怒りの中に切なさを感じる強い瞳....

そうか....
この人も...俊也と同じなんだ。

俊也と子供を作らないといけない、無理やりそう言い聞かせられて....

自由な恋愛は許されない....。
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