もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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結局、俺は図書室から覗き見みたいな感じで逃げて来た。

「親父には話した筈だから。お前との婚約破棄」

「俊也くんのお父様が物分りいい方かどうか、息子の俊也くんが一番わかってるんじゃない?」

遥斗の薄っぺらい笑顔と眉を顰める俊也との二人の静かな言い争いに俺が出る幕がわからなくて。

自室のベッドでカーペットの一部をひたすら見つめてる。

「樹、いるー?」

不意に、涼太の声がし、振り返ると、笑顔の涼太がドア越しに覗き込んできた。

「....どしたの?暗い顔して」

「....そんな暗い顔してる?」

「うん。俊也となんかあった?」

部屋に入ってきた涼太がベッドの隣に座る。

勝手に話していいものか悩んだ。

「まーた、キスしかしてくれないから拗ねてるとかー?」

「違うし!...ちょっと話しづらい」

「ふーん....。なんなら、豊に話してみる?俺だと役不足かもだし」

隣の涼太は豊にメールを始め、暫くして、豊が部屋に来た。

「何処行ったかと思ったらやっぱり樹の部屋か。ほら」

豊は何やら小さな紙袋を涼太に差し出した。

「....何これ?プレゼント?」

「まあ、そんなもん」

首を傾げながら、涼太が紙袋を開けると、カモミールティーとティーポット、アロマオイルやキャンドル。

「....何これ?」

丸い目で涼太はそれらを手に取り、眺めてる。

「あー、ほら、お前、低血圧だろ?安眠にいいかな、て調べて買ってきた」

「....安眠効果」

涼太は不思議そう。

「あ、ありがと...。で、樹、何があったか話してよ」

「うん....」

俺は図書室で見た光景を二人に話した。

「えー!何それ!」

と、涼太はかなり驚いたけど、豊はそうでも無かった。

「俺、俊也から聞いてはいたけど...コテージで。あいつがそうだったのか」

「医者にならないなら子供を作れ、て、俊也をなんだと思ってんだろ!医者以外の選択肢は俊也には無い、て訳!?」

「まあ、医者一家に産まれたらそんなもんだろ」

「俊也がもしオメガだったら違ってたのかな...?」

声を抑え、豊に尋ねてみた。

「いや、どっちにしろ、跡取りを作れ、になるだろ、多分」

はあ、と息をついた。

「お前を紹介しろ、て言われてる、てあいつ言ってたよ。樹の負担にならないか心配して」

「....俺を...お父さんに....」

初めて、記者会見で俊也のお父さんをテレビで見る機会があったけれど、何処か醒めた感じで、お世辞にも優しそう、とは思えなかった。

「俊也なら大丈夫だよ、きっと」

涼太はそう言って、俺の手を握ってくれ、俺も微かな笑顔を返した。
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