もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

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不安の始まり

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日曜日だったから、授業が無かったことは幸い。

食堂も、実家に戻っている生徒がいるせいか、いつもより生徒は少ない。

涼太と豊も含め、4人で食堂で夕飯を摂ることにした。

「ほら、樹」

隣に座る俊也がおかずを少し俺の皿に移してくれる、恒例行事。

「古閑じゃん、お前、ずっと何処、行ってたの?」

数人の生徒が俊也に近づいてきた。

「あの女優が亡くなった病院、お前の父親の病院だろ?」

「なんか訳ありで逃げてたとか?」

「てか、当初、自殺って報道してたのに、なんで事故になってんだよ、絶対、他殺だろ」

暫く俊也は瞬きもせず、野次馬たちを眺めていたけど、無視して食事を始めた。

「なに逃げてんだよ、教えろよ」

思わず、俺が立ち上がった、とその時。

「もうやめたら?古閑くんが知ってる訳がないと思うんだけど。そんなに気になるなら、あの女優さんの所属事務所にでも聞いたらどう?」

助け舟を出したのは見知らぬ生徒だった。

スラリとした肢体は華奢ながら、凛とした表情は風格を感じた。

「あ、あと、古閑くん。古閑くんがリクエストしてた本、届いてるみたいだから、早めに図書室にね」

そう俊也に笑顔で言い残すと、その場を去った。

「....誰だろ」

「図書委員じゃない?本の話しもしてたし...でも、どっかで見た顔だな....」

涼太が箸を持ったまま、難しい顔で思い起こしてる。

「アレだろ、首席だった双子の弟の方」

「ああ!入学式の!一卵性とは聞いてたけど、やっぱり似てるね」

俊也はひたすら無言だった。

「....大丈夫?俊也」

こくん、と咀嚼していた物を飲み込んでから、

「ああ」

俊也からようやく笑顔が垣間見え、ほっとした。

翌日。

下校時に俊也の姿を探したが、見当たらなかった。

ふと、昨日の食堂での会話を思い出し、俺は自然と図書室に足を向けた。

「いつの間にお前が図書委員になってんだよ」

「お父様から婚約破棄したい、て申し出があった、て聞いたよ。なるべく、俊也くんの傍にいて欲しい、て頼まれたんだ。わかってるよね?僕たち、子供を作る為に番にならなきゃならない、て」

険しい顔の俊也と笑顔の昨日、助け舟を出した生徒。

涼太から、松永遥斗、という生徒だと昨日、聞いた。

静かな図書室の中は、俊也と遥斗の睨み合いのように見えた。

「....俊也の....婚約者....?子供....?」

二人のやり取りに居合わせた俺は愕然とした。
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