もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
18 / 155

3

しおりを挟む

いざ、豊を部屋へ招き入れたものの...何を話したらいいのかわからない。

「あ、なんか飲む?豊....」

「や、いいよ、気を遣わなくて。入学して初めて入ったな、樹の部屋」

「....あんま、まじまじ見ないで」

「作りは同じなのに、やっぱ、樹の部屋、て感じ....あ」

豊の視線を辿ると、テーブルの隅に置いたままだった映画のDVD。

「樹、買ったんだ?もう観た?」

「まだだけど...前、3人で観る約束してたよね、映画館で」

「だったな...なあ、一緒、観ない?」

「え?」

「まだ、樹、観てないんだろ?俺もまだだしさ」

豊は勝手にDVDのケースを開け、セットし始めた。

「え、ちょっと待って、豊....」

慌てて俺はリモコンで一時停止にした。

「映画観に来たの?」

「....そうじゃないけど」

長い沈黙が息苦しい。

あんなに好きだったのに、豊との時間がこんなに苦しいなんて...。

「....あの時、俺が寝つけていたら、違ってたのかな?」

豊は答えなかった。

「それとも、起きた方が良かったのかな、でも、なんて切り出せば良かったかな...どう思う?豊」

「....俺さ、ずっと樹が好きだった。小学校の頃かな、意識しだしたの。中学になって、もっと樹が好きになって...涼太に相談した」

「....うん」

それは俺も同じだ。

「最初はさ、応援してくれてた。頑張りなよってさ。でも、いざ、告白しようと思っていた前夜にさ、涼太から言われたんだ。樹、好きな人いるんだって、諦めた方がいいよ、樹の性格から、絶対、悩むと思うし、て」

俺はテーブルに視線を落としたまま、豊の話しを聞いた。

「俺、すっかり真に受けて。失恋した気分になって、勝手に落ち込んで....それで」

「もういい」

豊の話しを遮った。

「それ以上、聞きたくない。涼太を悪者にもしたくない」

「....そういうとこなんだよな」

「....なにが?」

俺が顔を上げると、久しぶりに豊と目が合った。

去年まで、あんなにドキドキした豊の瞳なはずなのに、全くドキドキしない。
寧ろ、冷静な自分がいた。

「樹を独り占めしたくなる。可愛くて、優しくて、純粋で....」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...