1人のαと2人のΩ

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
113 / 116

112

しおりを挟む

それから、拓磨の実家から帰宅した結月はたまに無邪気すぎる咲夜に翻弄され、たまに喧嘩しながらも比較的、平穏な日々を過ごしていた。

うー、あー、あー!

突然、一緒に眠っていた咲夜に揺り起こされた。

「んー...咲夜、今、何時...」

電気を付ける事なく、寝ぼけ眼でベッド近くの置き時計を見ると朝の3時だった。

「咲夜、まだ、3時だよ、寝かせて...」

再び、ゴロン、とベッドに寝転がるが、

あーあーあー!

咲夜が懸命に結月を起こそうと遂には額をパシ!と叩いた。

「いったあ...ミルク?咲夜、ちょっと待ってて...」

瞼を擦りながら、ベッドに腰掛けた。

と、その時だった。

置時計の隣に置いていた、スマホがけたたましい音を立てた。

「...こんな時間になんだろ...」

画面を見ると、拓磨だった。

「もしもし、拓磨さん?」

「こんな時間にごめん。早く知らせたくってさ、史哉が出産したよ」

「ええっ!史哉さんが!?」

「うん、早産だったんだけど、史哉も子供も元気だよ」

「今から行きます!」

慌てて、結月は出かける準備をした。

咲夜も着替えさせ、時間が時間なだけに専属の運転手を呼ぶのも気が引ける、と、タクシーを呼んだ。

病室に着くと、赤ん坊を抱いた史哉がひらひらと笑顔で手を振った。

「来てくれたんだ、結月。ありがとう」

「おめでとうございます、史哉さん」

腕に抱いている咲夜が騒々しくなった。

「ミルクかな、ちょっと待って、咲夜」

「和樹はミルクは大丈夫か?」

拓磨が史哉が抱く子供に腰を降り、頭を撫でた。

「かずき...?」

「え?あ、うん。和樹、て付けたんだ。平和の和に樹木の樹」

史哉の笑顔の説明に、結月は呆然とした。

自分の前世の頃の名前だ。

史哉も拓磨も、穂高、結月の前世の名前を知る訳はない。

あーあーあー!

咲夜が必死に腕を伸ばすのを、和樹は指を咥え、丸い目で見つめている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...