1人のαと2人のΩ

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
112 / 116

111

しおりを挟む

結月はソファに座り、咲夜を膝に乗せ、始めて、絵本の読み聞かせをする事にした。

「どれにしようかなあ...」

結月が手にした絵本の、『うさぎのパン屋さん』というタイトルの文字を目にし、咲夜は顔を顰め、逃げ腰になった。

「こら、落ちちゃうよ、咲夜。うさぎはとってもパンがすきです。きんじょにすむ、しかやかえる、きつねのともだちと...」

咲夜に見えるように読み聞かせを始めたが、咲夜は絵本の文字に小さな人差し指を置いた。

「ん?む?」

咲夜は絵本から文字を探し、指が移動する。

「か、つ、く、...むかつく?」

振り向きざま、咲夜がギロッと睨みつけた。

はあ、と結月はため息をついた。

「まだ怒ってるの?咲夜。いい加減、機嫌直してよ」

再び、咲夜は目を執拗に動かし、文字を探し、人差し指で文字を指差した。

「む、り、無理?」

再び、結月を振り向き、結月を見上げる強い眼差し。

「...昔の咲夜はもう少し、聞き分け良かった気するのになあ、あ、違うか。出会って暫くはこんな感じだったっけ。あの頃の僕が倒れなかったら、君とも付き合っては無かったんだろうね」

う、と咲夜の動きが止まる。

「穂高先生だって、来世の自分がしっかりしてない、て君は思うのかもしれないけど。穂高先生は頑張ってると思うよ。君も言葉が伝わらなくて、歯がゆいかもしれないけど、それは、僕や穂高先生を思う、みんな同じ。もしかしたら、穂高先生が一番、歯がゆいかもしれない。わからないけどね」

暫くの間が空いた。

「...寂しい、会いたいよ、穂高先生...僕、どうしたら...こんな時、穂高先生がいてくれたら...」

結月は咲夜を抱いたまま、泣きそうになっていた。

ぐい、と咲夜の小さな手が結月の胸元を掴む。

「...なに?まだ言い足りないの?」

咲夜が絵本から懸命に文字を探し、指で辿る。

「ご、め、ん?...ごめん?」

結月の膝の上でしゅん、とする咲夜がいた。

結月は微笑み、同じように絵本から文字を探し、指で辿る。

「あ、り、が、と、う」

微笑む小さな咲夜を結月は覗き込み、抱き締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...