110 / 116
109
しおりを挟む翌日。
咲夜は明らかに不機嫌だった。
穂高にも咲夜にも良く似た、奥二重の切れ長の眼差しは真っ直ぐ、前を見据え、口は真一文字に閉じている。
赤ん坊とは思えない迫力だった。
「咲夜、ほら、お腹空いてるだろう?」
哺乳瓶を口元に寄せると、咲夜は小さな手で振り払う。
「ごめん、咲夜。悪かったよ。つい、確かめたくて...君があの咲夜かどうか。機嫌直して、ほら」
口元に再度、哺乳瓶を当てるが、咲夜は変わらず振り払う。
繰り返しだった。
結月は深いため息をついた。
咲夜としては、未だ会えてはいない、昔の結月、和樹に会えていないと言うのに、思い出深い、昔の絵画を結月の思惑で見せつけられて、機嫌を損ねるのも無理はない。
「あら?どうしたの?結月くん」
起き抜けの拓磨の母が覗き込んできた。
「あ、その...咲夜が機嫌が悪くって、ミルクを飲んでくれなくって...」
「そうなの?あらあら」
拓磨の母は咲夜を抱くと、優しい眼差しで咲夜を見つめ、結月から渡された哺乳瓶を咲夜の口元に当てた。
途端、哺乳瓶に小さな手を添え、目を開き、夢中でミルクを飲み始める咲夜に、拓磨の母は笑った。
「哺乳瓶を離さない勢いね、随分、お腹が空いていたみたい」
「...僕には全然だったのに...」
肩を落とす結月に拓磨がふわり、笑った。
「子供はそんなものよ。自分の思うようにいかないこともあるわ」
「...はい」
「心配しなくても、根気をつけて、愛情を持って接し続けていれば大丈夫よ。結月くんもお腹が空いたでしょう?すぐに朝食の支度しなくちゃね」
「て、手伝います」
「結月くんはゆっくりしてて、慣れない育児は疲れるでしょう?」
「あ、ありがとうございます」
不意にリビングのドアが開いた。
「あら、あなた。朝から出かけていたの?」
「ああ、どうも、パンが食べたくなってな。結月くん、おはよう」
「お、おはようございます」
拓磨の父に結月はぺこり、頭を下げた。
1
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる