1人のαと2人のΩ

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
108 / 116

107

しおりを挟む

食後。風呂も済ませ。

ダイニングテーブルでは、拓磨と兄の優磨がワインを飲み、雑談。

ソファに座った結月は咲夜を抱き、脚をプラプラさせている。

肩肘を突き、読書をしていた史哉が退屈そうな結月に気がついた。

「結月も小説でも読む?」

史哉に拓磨の父の書斎を案内された。

「たくさん、色んな本があるから、ゆっくり選ぶといいよ」

そうして、咲夜を抱き、書斎に足を踏み入れた。

入口近くのデスクにも、乱雑に幾冊もの本が折り重なり、3つの背の高い本棚には小説から専門書、あらゆる本が敷き詰められている。

咲夜もおとなしく、ゆっくり歩きながら、本の背表紙を見つめた。

最奥の本棚に辿り着いた時だった。

壁に掛けられた絵画に呆然となった。

とても美しく見事な絵画だが、そうでは無い。

満開の桜の大木に片手を添え、見上げる少年の姿。長めの黒髪が風で泳ぎ、凛とした瞳が桜を仰ぐ一枚の絵画。

「...咲夜」

昔の自分、前世の自分の和樹が描いた物だ。

桜に見蕩れる少年に、デッサンを描かせて欲しいと頼んだが、冷たくあしらわれたものの、こっそり、咲夜を描いた。

常連客が欲しがったが、絶対にこの絵は売らなかった。

手放したのは自分の余命が僅かだと知った時。

そして、売り上げこの絵も含め全て、咲夜に託した。

この絵を、この絵を、この子に見せれば...。

結月はごくり、唾を飲み込んだ。

咲夜の生まれ変わりかがわかるかもしれない...。

横抱きに抱いていた咲夜を結月は絵画が見えるよう正面を向かせた。

言葉も、息も潜め、反応を待った。

咲夜の目が丸くなった。

咲夜の小さな手が震えながら、絵画に触れようとし、結月は手伝い、絵画に近寄らせると、小さな手が絵画に触れた。

宝物でも見つけたかのように咲夜が触り...そして、静かに泣き始めたが...

瞼が閉じるくらい目を細め、涙を伝わらせて、大泣きし始めた。

あーあーあーあーっ...!

書斎に響き渡る、悲痛な咲夜の泣きじゃくる声に、結月はいたたまれなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

処理中です...