1人のαと2人のΩ

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
103 / 116

102

しおりを挟む

初めて、咲夜を穂高に合わせる為、病室を3人で訪れた。

「穂高先生。産まれたよ。咲夜っていうんだ。勝手に名付けちゃったけど...良かったかな」

穂高に咲夜を寄せる。

ずっとおとなしかった咲夜が怒りを露わにしたかのように、うー、うー、と険しい顔で唸り始め、人工呼吸器を付け、眠る、穂高の頬を小さな手でパチパチと勢いよく、叩いた。

「こ、こら、駄目だよ、叩いちゃ」

結月が抑制するが、必死な形相で唸り、穂高の頬を叩き続ける。

急いで、咲夜を遠ざけたが、穂高を見つめ、今だ、うー、うー、と怒るように顔を顰めている咲夜を必死に宥めた。

「どうしたんだろ、いきなりご機嫌斜めになっちゃったね。さっきまで、あんなにおとなしかったのに」

ぷにぷにな頬を史哉が指で突くが、咲夜の怒りは収まらない様だ。

「パパがいつまでも眠ってるから、不機嫌になっちゃったのかな?」

咲夜にそう話しかけた史哉のセリフ。

結月の脳裏に思いがけず、浮かんだ疑問。

自分が、今世では最期まで明るく、元気に長生きして欲しいと名付けた、穂高の前世の名前。

もし、咲夜に、穂高の前世である咲夜の命が吹き込んだのだとしたら...自分の来世での姿に怒るだろうか。

夢では、意志が強く、気が強そうな咲夜だった。

いつまでも寝てるんだ、と来世の自分に大して、どう思うのだろう...。

そこまで考え、慌てて、被りを振った。

我が子が、産まれたばかりの子供が、あの咲夜の生まれ変わりだとはさすがに信じられる訳がない。

たまたま、咲夜が不機嫌になっただけだろう。

「看護師さんに頼んで、ミルク作ってきて貰おうか?」

「いや、鞄にりんごジュースが入っていて...」

「ちょっと、待ってて」

史哉は鞄から哺乳瓶に入ったりんごジュースを取り出し、咲夜の口元に当てた。

「ほら、咲夜。りんごジュースだよ」

咲夜は小さな手で哺乳瓶を払い除けた。

赤ん坊の力なので、弱いものだが。

「お腹は空いてないのか。オムツかな?」

「だとしたら、泣くはずじゃないか?」

拓磨の声に史哉も腕を組み、首を傾げ、うー、と怒りを露わに穂高を見つめる咲夜を眺めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

処理中です...