1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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「ねえ、拓磨」

「ん?どうした、史哉」

拓磨の自室で史哉が切り出した。

「神社、行かない?」

「神社?」

拓磨が振り返る。

「うん。神頼み、て訳じゃないし、初詣も過ぎちゃったけど。穂高のこと、祈りたいんだ」

拓磨は真顔になり、前を見て、暫し考えた。

「...そうだな。やる事はやっておきたいかも...結月も誘うか」

静かに史哉は頷いた。

「結月が望むなら」

そうして、結月を誘い、以前、穂高も共にした、神社へ車を走らせた。

互いの左の薬指にあるペアリングを交換した場所だ。

「...懐かしい」

「だね」

結月はフードの付いたダウンジャケットにデニム、ニットキャップを被せた咲夜を抱き、境内を歩く。

その後ろを、結月を見守るように、黒のロングコートの史哉と黒とグレーのジャケットに、それぞれ、ポケットに手を入れ、歩いた。

拝殿に立つと、結月は咲夜を抱いたまま、しっかりと目を開き、暫し、祀られている仏像を眺めた。

咲夜は親指を銜えたまま、じっとおとなしく結月に抱かれ、結月の瞳を見つめている。

「...結月。咲夜を抱いたまま、参拝は難しいだろう?預かってようか?」

史哉の背後からの声に、うん、と結月は咲夜を差し出したが、

「お前だって、身重だろうが。俺が預かる」

拓磨が咲夜を抱き、そのやり取りに結月は微笑んだ。

前を向いた結月は手のひらを合わせて瞼を閉じ、静かに穂高が早く目覚めてくれる事を願った。

そして、背後の史哉も結月の後ろで手を合わせていた。

結月の為にも、一刻も早く、穂高が目を覚ましますように、と。

「うー、まだまだ冷えるね。何処か、喫茶店でも入ろうか」

「ううん。穂高先生のところに行きたい」

「穂高のところに、て、病院?」

「うん。まだ、咲夜を合わせていないから」

「...そっか」

すると、史哉は自分の首に巻いていた、タータンチェックのマフラーをふわり、結月の首に巻いた。

「...ありがとう」

結月の笑顔に、史哉も笑顔を返した。
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