1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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不意に目が覚めた。

辺りは暗く、カーテンからの明かりが薄ら漏れているのみだ。

結月はパジャマ姿に点滴を引き摺りながら、約6日ぶりに病室を出た。

どうやら、脚を捻挫しているらしく、脚を若干、引き摺りながら、ゆっくり廊下を歩いていると、廊下のベンチに拓磨と史哉の姿があった。

史哉は泣き疲れ、拓磨の肩に凭れ、眠っている。

拓磨が見上げると、結月の姿に呆然とした。

「ゆ、結月、どうして」

結月はゆっくり、2人の座るベンチの真向かいの部屋を見つめた。

「だ、駄目だ!結月、開けたら...!」

史哉が起き、叫んだ。

脚を引き摺りながら、薄闇の中、ベッドで眠る人物に向かい、ゆっくりゆっくり歩いていく。

穂高は無事だと、拓磨から聞いていた。
穂高な訳がない。

何度もそう、言い聞かせながら...。

人工呼吸器を付け、眠る、穂高の前に立ち尽くしたが、現実味がいつまでも湧かなかった。

「....人違いだよね....穂高先生に似てる」

結月の背後で拓磨と史哉は無言で結月を見守った。

「....嘘だよね、穂高先生。ずっとここで眠っていたの....?」

結月は腰を折り、穂高の長い睫毛を見守り、頬に優しく手のひらを当てた。

「....結月」

不思議と、涙が出なかった。

罪深いと思うのに、感情が欠落してしまったかのように...。

「...穂高。結月だよ。わかる?」

涙に霞む声で、史哉が穂高に声を掛ける。応答は無かった。

ただ、静かに眠り続ける、穂高の姿があった。

「...僕のせいだ....」

「....結月のせいじゃない。結月を守れて、穂高は本望だと思うよ。それに、穂高は死んではない、生きてる」

拓磨の言葉で、ようやく、結月の瞳から涙が零れた。

「...僕のせいなんだ。飛び降りた僕を先生が...」

「...結月に伝えていいか、迷うけど...」

拓磨は結月の母が穂高の病室に来た事を話した。そして、穂高の父に罵声を浴びせられた事も。精神科に入院した事も。

「結月のせいじゃない。僕もさ、好きでΩに生まれた訳じゃないんだ。両親や兄に散々、虐待を受けて育ったよ。Ωだというだけで。結月の変異も、結月が望んだ訳じゃない。運命だよ、穂高と出会う為の」

結月は涙ながらに唇を噛み締めた。
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