99 / 116
98
しおりを挟む不意に目が覚めた。
辺りは暗く、カーテンからの明かりが薄ら漏れているのみだ。
結月はパジャマ姿に点滴を引き摺りながら、約6日ぶりに病室を出た。
どうやら、脚を捻挫しているらしく、脚を若干、引き摺りながら、ゆっくり廊下を歩いていると、廊下のベンチに拓磨と史哉の姿があった。
史哉は泣き疲れ、拓磨の肩に凭れ、眠っている。
拓磨が見上げると、結月の姿に呆然とした。
「ゆ、結月、どうして」
結月はゆっくり、2人の座るベンチの真向かいの部屋を見つめた。
「だ、駄目だ!結月、開けたら...!」
史哉が起き、叫んだ。
脚を引き摺りながら、薄闇の中、ベッドで眠る人物に向かい、ゆっくりゆっくり歩いていく。
穂高は無事だと、拓磨から聞いていた。
穂高な訳がない。
何度もそう、言い聞かせながら...。
人工呼吸器を付け、眠る、穂高の前に立ち尽くしたが、現実味がいつまでも湧かなかった。
「....人違いだよね....穂高先生に似てる」
結月の背後で拓磨と史哉は無言で結月を見守った。
「....嘘だよね、穂高先生。ずっとここで眠っていたの....?」
結月は腰を折り、穂高の長い睫毛を見守り、頬に優しく手のひらを当てた。
「....結月」
不思議と、涙が出なかった。
罪深いと思うのに、感情が欠落してしまったかのように...。
「...穂高。結月だよ。わかる?」
涙に霞む声で、史哉が穂高に声を掛ける。応答は無かった。
ただ、静かに眠り続ける、穂高の姿があった。
「...僕のせいだ....」
「....結月のせいじゃない。結月を守れて、穂高は本望だと思うよ。それに、穂高は死んではない、生きてる」
拓磨の言葉で、ようやく、結月の瞳から涙が零れた。
「...僕のせいなんだ。飛び降りた僕を先生が...」
「...結月に伝えていいか、迷うけど...」
拓磨は結月の母が穂高の病室に来た事を話した。そして、穂高の父に罵声を浴びせられた事も。精神科に入院した事も。
「結月のせいじゃない。僕もさ、好きでΩに生まれた訳じゃないんだ。両親や兄に散々、虐待を受けて育ったよ。Ωだというだけで。結月の変異も、結月が望んだ訳じゃない。運命だよ、穂高と出会う為の」
結月は涙ながらに唇を噛み締めた。
1
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる