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しおりを挟む結月の部屋を出ると、拓磨は廊下のベンチに座り、泣きじゃくる史哉の隣に座った。
「...結月、目覚ましたよ」
「...そう、良かった...穂高のことは...?」
「穂高のことは嘘ついた、無事だって。安心して眠ったよ」
「だよね、穂高の容態知ったら、結月...」
再び込み上げて来る涙を止める事が出来ず、拓磨は史哉の肩を抱いた。
発見された際、穂高は幾つもの骨折と意識不明の重体だった。
今も自発呼吸が薄く、人工呼吸器を付け、2日間、眠り続けている。
「大丈夫だよ、きっと。結月が目を覚ましたんだ。結月の顔が見たくて、きっと穂高も目を覚ます。きっと」
呻くように泣きながら、史哉は唇を噛み締めた。
搬送されてから、仕事人間で穂高と犬猿の仲の穂高の父が常に穂高の傍についていた。
結月の様子を見たかった史哉だったが、今の涙を結月に見せる訳にはいかず、代わりに拓磨が結月の傍にいる事になった。
目を覚ましてから、初めての朝食。
卵粥とりんご、ゼリー。
「まだ目を覚まして間もないからな。いずれは普通食になるよ」
朝食を前に呆然としている結月にそう声を掛けた。
結月が呆然となっているのは朝食のせいでは無かった。
「穂高先生は?会いたい...」
拓磨は一瞬、言葉を失った。
「穂高は、ほら。豪華な個室にいるんだ。この部屋とはまるで違う、まるでヴェルサイユ宮殿かっていうさ」
慌てて、拓磨は笑い、嘯いた。
「...そっか、そうだよね。穂高先生のおうち、お金持ちだもんね...」
「まだ早いってのに、親のリクエストで肉食ってるよ」
拓磨は自身のから笑いに泣きそうになりながら、結月の為に嘘をつくしか無かった。
穂高は人工呼吸器を付け、眠っている、もうすぐ出産も控えている、結月が愛する穂高の容体を話す訳にはいかない...。
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