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しおりを挟む日が暮れ始め、冷えてきた。
どうにかして、暖を取らないと、何より、穂高は自分にコートを貸してしまい、そのコートは風で飛んだのか見当たらず、穂高に掛けることが出来ない。
せめて、横たわる穂高に何か掛けたいと見渡したが、...これといって、何も無い。
あるのは折れた木の葉と草木ばかりだ。
自身の体温で穂高を暖めようと、穂高が自分を包み込んでくれていたように、穂高に抱きついた。
もし、このまま、穂高が亡くなるのならば、自分もそれでいい、と瞼を閉じると涙が溢れた。
死ぬのが怖いんじゃない。
穂高との思い出が次々と手に取るように浮かび上がり、穂高の優しい笑顔が蘇り、涙が止まらなかった。
前世で昔の自分、和樹が息を引き取るのを看取った、当時の穂高、咲夜もこんなに苦しい思いをしたのか、と痛感した。
和樹が亡くなり、1人になり、暫くは1人で頑張って耐えたであろう咲夜が、遂には自分も和樹の後を追うように命を絶ったのも、わかる気がした。
今世になり、結月と穂高は全く逆の立場に立っている。
「いたぞ!こっちだ!」
草木を掻き分け、救助隊の1人が2人を発見した。
結月は穂高を守るようにしがみつき、眠っていた。そして、穂高も。
「結月、結月、起きたか?」
薄ら瞼を開けた結月に拓磨が声を掛けた。
「...ここは....?」
「病院だよ。穂高と一緒に崖の下で発見されたんだ。穂高の車が手がかりになって」
拓磨の話しをぼんやり、聞いていたが、はっと我に返り、結月は勢いよく起き上がったが、腹の痛みで顔を顰めた。
「いきなり起き上がるな。お腹の子は奇跡的にも無事だったんだ。ただ、あばらにヒビが入ってるらしい」
「そんなのどうだっていい。穂高先生を...」
「....穂高も無事だ。しばらく安静にしてろ。....穂高に怒られるぞ」
「....穂高先生、大丈夫だったの....?」
「....ああ」
「....そうか...良かった、奇跡ってあるんだね」
「....だな、悪い、ちょっとトイレ行ってくる、さっきから腹痛くてさ」
「うん」
頭の軽い傷にガーゼを当て、点滴をした結月が拓磨に微笑むと安心したように眠った。
そんな結月の寝顔を見下ろし、拓磨は涙ぐむ瞼を擦った。拓磨は結月の為に一時的な嘘をついた。
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