1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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「しっかり掴まれ!結月!」

腕がちぎれるかと思う程の痛みと時間の中、遂には穂高の力も尽き果ててくる。

穂高は腹を括った。


◇◇

ふわふわと柔らかく、暖かさの中、瞼が開いた。

雲の上?それとも、天国....?

結月が目を覚ますと穂高の腕の中に包まれていた。まるで蛹のように。

どうやら木々の中に結月の手を引き摺り上げられず、穂高共々、落ちたようだった。

「....穂高先生....?」

穂高の腕の中から顔を上げ、穂高を見上げた。

口も瞼も閉じ、穂高は眠っているかのように見える。

「...穂高...先生?」

結月は這い上がり、穂高の顔を間近で見た。

「穂高先生!穂高先生!起きて!穂高先生!」

何度、呼んでも、叫んでも、穂高は反応しなかった。

「起きて、起きてよ!穂高先生、穂高先生....!」

穂高の頭を抱え込むと、手のひらが血だらけになり、驚愕で目を見開いた。

「いやだ!穂高先生!目を覚まして、穂高先生ー!」

穂高にしがみつき、何度も声が枯れるまで泣きながら呼んだ。

『どうした?結月』

不意に、いつものようにそう起き上がって来そうなのに、と涙が止まらない。

「僕のせいだ...僕のせいで...」

その頃。

「え、あ、待って」

「どうした?史哉」

「蹴った」

「蹴ってねーよ」

「違う!お腹の子!」

「えっ、マジで!?」

慌てて、拓磨は史哉のお腹に触った。

「....動かねーじゃん」

「パパは嫌いなのかもね、そうだ!結月に報告しなきゃ、穂高にも」

史哉は浮き足立ち、早速、結月に電話したが、繋がらない。結月のスマホは崖から落ち、壊れていた。

「おっかしいなー。穂高に連絡するか」

穂高に掛けると、今度は電源が入っていない、という機械的なアナウンスだ。

「....どうなってんだ?」

「どうした?」

「繋がらないんだよ、2人とも」

「2人とも...?しょうがねーな、ちょっと待ってな」

拓磨は穂高の実家に掛けた。

「なんだって?」

「昼頃に2人で来た、て」

史哉と拓磨は顔を見合わせた。

「....嫌な予感がする....」

史哉の呟きに、

「俺も」

拓磨も同じだった。

すぐに2人は警察に連絡した。

穂高の車が見当たらない。穂高の車を探したらわかる筈だと。
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