1人のαと2人のΩ

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
91 / 116

90

しおりを挟む

「出産ももう間近かしら?」

浮き足立った様子の穂高の母が身を乗り出した。

「は、はい。予定では2週間後と...」

「性別はわかっているの?」

「いえ、調べていません」

「あら、何故?」

カチャ、と穂高が微かな音を立てカップをソーサーに置いた。

「母さん、一気に聞きすぎだ。それでなくても結月はまだ14で、しかも身重だって言うのに」

「本当ね、でも、やっぱり初孫だもの。しかも、穂高の遺伝子を継いだ子。気になるに決まっているじゃない」

そう声高く言うと、穂高の母はまじまじと結月の顔を見つめ、結月はたじろいだ。

「うん。結月くんも綺麗なお顔ね。穂高に似ても、結月くんに似ても、きっと可愛い子になるわ」

終始、まるで産まれたかのような、穂高の母の喜びように、結月は困惑の笑みを浮かべた。

その時だった。

無言で硬いドアが開き、堅苦しいスーツ姿の穂高の父が帰宅した。

結月の緊張がピークに達した瞬間だった。

結月を上から下まで、なぞるように見つめる。品定めされている気分だった。

「おかえりなさい、あなた」

「ああ。来てたのか、穂高」

「....はい」

「結月くんが出産を終えたら、お前も次期社長だ。社員の手前もある。何しろ、唯一の息子だからな、手腕を磨け」

「結月、1人で子育ては無理です。いえ、結月なら出来るかもわかりません。ですが、僕は結月と子供を育てたい一存です」

親子とは思えない会話に、結月は目を丸くした。

「育児休暇か?未だ、勤務を拒否している奴が」

「穂高。私に甘えていいのよ。私が結月くんの助けになるから、貴方はお父様の跡を継ぐ為に」

「母さんじゃ駄目だ。血の繋がった、いや、父親の僕でないと意味がない」

結局、話しは纏まらず、逃げるように、

「結月、行くぞ」

「話しは終わってないぞ!穂高!」

結月は深々と頭を下げ、穂高の後を追った。

「不快な思いをしただろう、結月、ごめんな」

「ううん...穂高先生、僕なら大丈夫だから」

真摯な結月の瞳を見下ろした。

「だから、穂高先生は...」

「結月は何も心配しなくていい、結月の家にもご挨拶行かないとな、手土産、買って行こう」

穂高の柔らかい笑顔に、結月も微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...