1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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「出産ももう間近かしら?」

浮き足立った様子の穂高の母が身を乗り出した。

「は、はい。予定では2週間後と...」

「性別はわかっているの?」

「いえ、調べていません」

「あら、何故?」

カチャ、と穂高が微かな音を立てカップをソーサーに置いた。

「母さん、一気に聞きすぎだ。それでなくても結月はまだ14で、しかも身重だって言うのに」

「本当ね、でも、やっぱり初孫だもの。しかも、穂高の遺伝子を継いだ子。気になるに決まっているじゃない」

そう声高く言うと、穂高の母はまじまじと結月の顔を見つめ、結月はたじろいだ。

「うん。結月くんも綺麗なお顔ね。穂高に似ても、結月くんに似ても、きっと可愛い子になるわ」

終始、まるで産まれたかのような、穂高の母の喜びように、結月は困惑の笑みを浮かべた。

その時だった。

無言で硬いドアが開き、堅苦しいスーツ姿の穂高の父が帰宅した。

結月の緊張がピークに達した瞬間だった。

結月を上から下まで、なぞるように見つめる。品定めされている気分だった。

「おかえりなさい、あなた」

「ああ。来てたのか、穂高」

「....はい」

「結月くんが出産を終えたら、お前も次期社長だ。社員の手前もある。何しろ、唯一の息子だからな、手腕を磨け」

「結月、1人で子育ては無理です。いえ、結月なら出来るかもわかりません。ですが、僕は結月と子供を育てたい一存です」

親子とは思えない会話に、結月は目を丸くした。

「育児休暇か?未だ、勤務を拒否している奴が」

「穂高。私に甘えていいのよ。私が結月くんの助けになるから、貴方はお父様の跡を継ぐ為に」

「母さんじゃ駄目だ。血の繋がった、いや、父親の僕でないと意味がない」

結局、話しは纏まらず、逃げるように、

「結月、行くぞ」

「話しは終わってないぞ!穂高!」

結月は深々と頭を下げ、穂高の後を追った。

「不快な思いをしただろう、結月、ごめんな」

「ううん...穂高先生、僕なら大丈夫だから」

真摯な結月の瞳を見下ろした。

「だから、穂高先生は...」

「結月は何も心配しなくていい、結月の家にもご挨拶行かないとな、手土産、買って行こう」

穂高の柔らかい笑顔に、結月も微笑んだ。
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