1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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住宅街に立ち塞がるような豪邸を前に、結月は変わらず、呆然と立ち尽くした。

「まだ緊張するか?」

緊張から硬直した結月に穂高は優しく微笑み掛けると、その手を握った。

「まあまあ!おかえりなさい、穂高。結月くんも」

孫が出来る、とわかってから、常に厳しく、さめていた穂高の母は常に上機嫌だ。

「ご、ご無沙汰しています!ご挨拶だというのに、こんな格好で申し訳ありません!着物でもと思ったのですが」

深々と頭を下げ、たどたどしくもしっかりとした口調で結月が挨拶をした。

隣の穂高は複雑な思いで結月を見守りつつも、

「ただいま戻りました」

小さく頭を下げた。

「結月くん、そう固くならないで。でも、やっぱりさすが、元αね、きちんと挨拶も出来るし気品もあるし」

「母さん...」

「お腹も大きい事だし、さあ、中に入って、結月くん。暖かいお茶でも煎れますから。ほら、穂高も」

未だ、緊張しいのまま、だだっ広い玄関先で2人は靴を脱ぎ、きちんと並べられたスリッパに履き替えた。

洋風のこれまた広いリビング。

促されるまま、大理石と思しき、テーブルを挟むソファに座ると、艶やかな花柄のティーカップに注がれた紅茶が音もなく置かれた。

膝に拳を置き、緊張でガチガチの結月の代わりに穂高がミルクと角砂糖を入れる。

「あ、ありがとうございます、穂高先生」

早速、穂高さん、から、穂高先生に戻っていたが、穂高は気にせず、微かに口元を綻ばせただけだ。

「そんなに緊張するな。母も鬼じゃない」

「わ、わかってますが、粗相してしまったら、と思うと」

「粗相なら俺がいつもしているよ」

穂高は穏やかに笑い、優雅に紅茶を口元に運び、釣られて、結月もティースプーンで掻き混ぜると、小さく紅茶を飲んだ。
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