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しおりを挟む『気にしてないよ、そんなこと』
『でも....あの頃、すぐに寝込む僕を君は文句一つ言わずに看病してくれて....まだ10代の君の時間を....』
咲夜は桜の木に背中を置いた。
『だから、気にしてないって。好きな人の為だからかな、ちっとも苦じゃなかった』
『....もしかしたら、て最近、思うんだ』
咲夜が振り向いた。
『君が妊娠出来なかったのは僕に原因があったんじゃないかって....君は自分を責めていたけど....』
結月の真っ直ぐな眼差しを咲夜はしばらく眺め、そしてため息をついた。
『だからさ、謝りに来たんだ、俺』
『謝りに....?』
咲夜が完全に結月を向いた。
『穂高....だったかな、今の俺。本当は君がヒートを起こして最初に出逢うのは穂高だったんだ。こっちの計算とズレが生じて、ミスした』
結月は唖然となった。
『....僕が初めてのヒートで出逢う筈だったのは....穂高先生....だった....?』
『そ。こっちの完全なミス...。ごめんね』
『....だから、僕たちに前世の記憶を思い出させたの....?』
咲夜は首を傾げた。
『さあ?それは知らない。神様が帳尻合わせてくれたのかも』
桜の木の下を咲夜は離れようとはしないまま、会話は進み、結月はふと気がついた。
『....もしかして....当時のように、僕を、あの頃の僕を待ってるの....?ずっとそこで....』
咲夜が苦笑した。
『この桜の木さ、俺が偶像化したものなんだ。気づいてくれるかな?』
『....当時の僕と会うために....桜の木の下で、ずっと....?』
『俺のことはどうでもいい。謝りたかったんだ。そして、αになってる筈だけど、今の俺。ちゃんとやれてるか、ただ、それだけ』
変わっていないな、と結月は思った。
過去も今も。自分のことより結月を優先する穂高。咲夜もそうだ。
当時、年上のΩの結月よりも、しっかり者で、時に甘えん坊だった。
『....大丈夫だよ。なにも心配いらない。凄く優しくて...凄く頼りにしてる....』
『そっか、よかった』
咲夜が満面の笑みを見せた。
その無邪気な笑顔と共に不意に結月は疑念が走った。
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