1人のαと2人のΩ

ミヒロ

文字の大きさ
上 下
73 / 116

72

しおりを挟む

『気にしてないよ、そんなこと』

『でも....あの頃、すぐに寝込む僕を君は文句一つ言わずに看病してくれて....まだ10代の君の時間を....』

咲夜は桜の木に背中を置いた。

『だから、気にしてないって。好きな人の為だからかな、ちっとも苦じゃなかった』

『....もしかしたら、て最近、思うんだ』

咲夜が振り向いた。

『君が妊娠出来なかったのは僕に原因があったんじゃないかって....君は自分を責めていたけど....』

結月の真っ直ぐな眼差しを咲夜はしばらく眺め、そしてため息をついた。

『だからさ、謝りに来たんだ、俺』

『謝りに....?』

咲夜が完全に結月を向いた。

『穂高....だったかな、今の俺。本当は君がヒートを起こして最初に出逢うのは穂高だったんだ。こっちの計算とズレが生じて、ミスした』

結月は唖然となった。

『....僕が初めてのヒートで出逢う筈だったのは....穂高先生....だった....?』

『そ。こっちの完全なミス...。ごめんね』

『....だから、僕たちに前世の記憶を思い出させたの....?』

咲夜は首を傾げた。

『さあ?それは知らない。神様が帳尻合わせてくれたのかも』

桜の木の下を咲夜は離れようとはしないまま、会話は進み、結月はふと気がついた。

『....もしかして....当時のように、僕を、あの頃の僕を待ってるの....?ずっとそこで....』

咲夜が苦笑した。

『この桜の木さ、俺が偶像化したものなんだ。気づいてくれるかな?』

『....当時の僕と会うために....桜の木の下で、ずっと....?』

『俺のことはどうでもいい。謝りたかったんだ。そして、‪α‬になってる筈だけど、今の俺。ちゃんとやれてるか、ただ、それだけ』

変わっていないな、と結月は思った。

過去も今も。自分のことより結月を優先する穂高。咲夜もそうだ。

当時、年上のΩの結月よりも、しっかり者で、時に甘えん坊だった。

『....大丈夫だよ。なにも心配いらない。凄く優しくて...凄く頼りにしてる....』

『そっか、よかった』

咲夜が満面の笑みを見せた。

その無邪気な笑顔と共に不意に結月は疑念が走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

処理中です...